シンドウの最高傑作   作:サイトー

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 そろそろFGOでマジカル四天王か、化け猫でもクロスオーバーして欲しい気分です。美人英語教師がいけたんですし、冬木市縛りがあるのだとしても、マジカル四天王は聖杯戦争絡みで冬木市にいたから条件も大丈夫な筈。マジカルルビーはもういますので、マジカル紙袋とか、ファンタズムーンとか、マジカルアンバーが欲しい。特に紙袋欲しい。
 一番好きなのはカレー先輩なんですけどね。


十二話 アングラータイム

 本当は違ったんだ。何時も何で、こんな筈じゃなかったと叫びたくなるんだろう。計画と大幅に違ってしまった上に、今後の予定も狂っている。何もかもが滅茶苦茶だ。とても厄介な事態になってはいるも実は私、面倒事が大好きだ。やるなら効率的な手段で実践するも、それは効率的な手段を考える事が好きで、その答えが当たりか間違いか知りたいだけ。無駄なことも非効率なことも嫌いじゃないし、それが楽しいならむしろ大歓迎。

 なので、この糞面倒臭い状況も嫌いじゃない。むしろ、良い。

 私は変わり者で、皆でワイワイ騒ぐのも、一人静かに無念無想を感じるのも同じ程度に好きである。どっちも等価な時間の使い方である。

 だから、構わないからさ……もう、静かにしてくれ。

 

「じゃじゃーん。とのことで、今からは女子会タイムだ!」

 

 寝たいんだけど。後、夜中の山で修行していた女が何を言ってるんだかと思ったが、ここは冷静に流しておこう。端から見れば、私もこの三人の同類に位置しているんだろうし。

 

「そんな事より眠りたいです。明日、朝早くから釣りしたいですし」

 

「いえ~い。釣り人は無視して、恋ばなしようよ」

 

「そうね。たまには女子っぽいことしないと」

 

「夜中の森の中で何言ってるんですか?」

 

 駄目だ、冷静に流せなかった。後、テンション高くて面倒臭い。そして、そもそも狭いテントに四人もいるので暑苦しい。しかも明りはもうないし、誰も立つ事も出来ず、寝っ転がったまま。隣を見ても姉さんの背中だったり、そのまた隣は藤沢さんの後頭部だったりで、凄まじく人体が入り組んでいる。

 結論として、出て行って欲しい。とは言えだ。一度許したからには面倒をみなくては、良識ある中学生とは呼べないだろう。

 

「……ってか、三浦さんはリア充ごっこ遊びで、普段から女子っぽい事していると思うんですが」

 

 この中で一番女子らしいのは、三浦さんだと思う。本性があれだけどリア充なのは事実だ。男に一番慣れてもいるし、可愛いと美人を両立させたモテ易い文学系美少女だ。つまるところ、外見で言えば似非文学少女である私の完成系だ。伊達眼鏡を進めてくれたのもそもそも三浦さんであり、そう考えれば父さんに眼鏡を買って貰えたのも三浦さんの御蔭でもある。

 尤も私の場合は目付きが悪いの隠す為だけであるが、彼女の場合は本性のデーモン性を偽装する為だけど。

 

「ごっこ遊び言うなし。後ね、自分的には女っぽくはあるけど、女の子っぽい遊びじゃないの。其処ら辺の感覚、まだ織乃にゃ分からないかもね」

 

「別に良いですから。恋愛感情とか青春し過ぎて枯れましたので」

 

「えぇ~、勿体無い。恋っぽい事とかしようよ」

 

「良く言いますよ。そっちこそモテるんだから、惚れさせた男でも捕まえれば良いでしょうに」

 

「居ればね!」

 

 いい加減、男作れば良いのに。いやまぁ、三浦さんに人並みの恋愛感情があるとは思えないけど、お遊び程度の火遊びだったら幾らでもし放題なリア充階級。性欲を満たすだけなら内面なんて如何でも良いだろうに……いや、今一そう言う男女関係が分からない私じゃ、何を言っても無意味か。ちゃんと好きにならないとセックスしないとか決めてるんなら、別にそれで構わないし、三浦さんの恋愛観念に口出しする権利も大義もなし。何より、自分の身は自分で大切にするのが女子の責務だろう。こんな私でも貞操観念はしっかり守っているし、体を許せると思える位に好きにならないと性交をする勇気も湧かないもの。

 等と言いつつ、私は見た目で惚れることも、中身で好きになることも一度もなかった。付き合ってみたいと思う男なんて人生に一度も見付けられず、そこから付き合ってみて相手の本性を見抜いて、更にもっと好きになって愛せるのか如何か実感してから、男女の営みに突入しないとならないと思っている。

 簡単に言うと、私は恐ろしく糞面倒臭い女なのだ。

 ぶっちゃけバドミントンしてれば良いだけの馬鹿なんで、リア充とか思考する価値も無し。男女関係なく人間として面白くて興味深い人はいたが、そう言うのは男女関係なく楽しいものだ。

 とは言え、自分で自分の人格は理解している。一度本気で好きになると愛に嵌まり、ズブズブと沼に沈むのは目に見えてる。なので今はバドミントンの為、不必要なモノとして切り捨てるのが一番だ。

 

「ほらほら~織乃ちゃん。また小難しいこと考えてるでしょ?」

 

「む。なんで分かりますか?」

 

「なんでって……ぷぷ。ねぇエレナ。この子、こんな事言ってるけど?」

 

「まぁ、仕様が無いことよ。織乃は織乃だから、基本的に全て生真面目に考えちゃう悪癖がある。のり子、アンタは逆に全部直感で処理しちゃうどね」

 

「なんでよ。でも、それなら綾乃ちゃんも直感肌でしょ?」

 

「いやー綾乃は野生の勘って感じかな。のり子のは只の脳筋思考ね」

 

「そりゃそうです。三浦さん、知的なのは見た目だけですし」

 

「おっと。例え脳筋だったしても、硝子の心の持ち主なんだけど」

 

「良く言うわ。アンタほど図太い女もいないでしょ。綾乃のテンションを無理に上げて、修行しようって言わせたのものり子だったじゃん」

 

「え~。そうだったっけ?」

 

「やっぱりですか。一番の愉快犯ですからね」

 

「織乃ちゃんが言えることじゃないよ。楽しそうって理由で面倒事を起こすのはお手の物じゃないの?」

 

「私はちゃんと、自分で自分の後始末してますので」

 

「……あぁ。まぁ、それは確かに。織乃ちゃん、責任感強いから」

 

「そうですかね。人並み程度だと思ってますけど」

 

「いやぁ……うん。でも、貴女には小学校の頃は大変お世話になったもの」

 

「いやいやいや。あれは私が提案した事が切欠の一つだったですし」

 

「―――ねぇアンタたち。それって、どう考えてもアレよね?」

 

「「あ」」

 

「やっぱり、そうだと思ってた。脳筋なのり子にしては、手際が良過ぎたから」

 

 嘗て、この付近の小学校を身震いさせたデーモン閣下事件。暴力を振っても問題なさそうな悪質ないじめッ子を男も女も平等に蝋人形に変え、犯人は分かっているのに証拠が一つもない悪夢。実力行使に出た不良は、全てボコボコの木偶人形に作り変えられ、更にまた蝋人形にされ、小学生を恐怖と畏怖させたデーモン伝説。

 正体が閣下(のり子)だと分かっているのに、誰も止められなかった。

 その暴力性も恐れられたが、正当防衛以外で一切の痕跡がない秘匿性もまた気味が悪い災厄のいじめッ子だった。教師さえも禁忌として触れられず、そもそもいじめを見て見ぬふりをして隠蔽していた先生も、職務怠慢としてデーモンの裁きが下った事さえあるほどだ。

 奴は―――頭が、異常なほど良い。

 まるで暴力団やマフィアのように力を誇示しているのに、悪行が何一つ露見しない。周りの人々は、当時の三浦さんの事をそう感じていただろう。友人がちょっとグレていて面倒になったからと、直接藤沢さんがボコボコにするまで三浦さんが止まらなかったのも、訳があったのだ。

 

「あー……うん。実は私が、色んな手段を教えていたんですよ。藤沢さんに頼られて、説得されるまで、別に私は三浦さんがデーモン閣下のままで良かった訳ですし。

 あれはあれで、生き生きしてたんで応援してました」

 

「あはははは~、そういうこと。

 エレナちゃんが綾乃ちゃんと織乃ちゃんを連れてきたあの時は、織乃ちゃんに本気で裏切られたって思って、結構本気で織乃ちゃんの(タマ)狙っちゃいました。テヘ」

 

「アンタら……はぁ、もう良いわ。過ぎた事だし、もうグレてもないし」

 

 本当に、いやはやマジで色々苦労したものだ。友人の三浦さんが弾け出したそうだったから手伝ったが、流石に私でもあのレベルだとは見抜けなかった。人がいじめらようとも、いじめが横行していようとも、別に人間の子供なんてそんな程度の動物だ。思い煩うこともなく、被害者は可哀想だろうけど、交通事故みたいに運が悪いだけの話。何かの間違いで生まれ、人並み程度の建前も出来ない糞ド低能な人外の屑に目を付けられ、糞餓鬼共の悦楽を満たす玩具にされただけなんだろう。ああ言うのは多分、あれなんだろうな、間が悪いとでも言うべきか。親が悪く、兄弟も悪く、姉妹も悪く、家族も悪く、祖父母も悪く、友人が悪く、親戚も悪く、ついでペットも悪く、周りの環境が全てが悪かった。何もかもが悪いのだから、屑な悪人になるのも必然なので、私はいじめッ子が苛めを娯楽とすることに何一つ疑問を抱かない。その塵屑が、自分が塵屑で在る事を良しと笑って他人を娯楽品にするのもまた、そいつの人格が自分の自我を正しいモノと楽しんでいるからなのだし。

 いじめ。それを私は当たり前な普通の出来事として無感情に容認していたけど、まさかあの三浦さんがそこまで潔白で義憤に駆られる子供だったとは思いもしなかった。

 そして、あそこまでのダークヒーロー体質だとも思わなかった。

 確かに胸糞悪いし、いじめッ子とか別に死ねば良いとも思うし、生きていても如何でも良い生き物だと思っている。けれども、いじめられる側は一欠片も悪くはないも、人間と言う害獣に対して危機管理が低い。隣で息をしている人間が、どうしようもない糞塵な邪悪だと仮想しながら生活しないと、人はあっさりと生活を破壊されてしまうもの。危機感はやり過ぎくらいは丁度良い。交通事故みたいなものとはそう言うことで、コミュニケーションをちゃんと取る為には、横断歩道で手を上げて右左右を見て安全を確認するくらいの慎重さがないと直ぐ人は死ぬ。人間社会も結局は自然界なので、弱ければ死ぬのである。子供だろうと、生きることはシビアで苦痛で辛くて、呼吸するだけで意味も無く息苦しいんだと理解しないとならない。

 

「ところで、姉さんはあの時………」

 

「………ぐぅ。すぴー」

 

「ね、寝ている……!」

 

「こら、織乃。綾乃が死んでるみたいに言わない」

 

「はいはい」

 

「……それで、話は戻るんだけど」

 

「ん、何のり子?」

 

「エレナって、ヤった事ある?」

 

 藪からスティック!

 

「え、別にないけど。私、男いないし」

 

 凄い。流石だ、藤沢さん。ボール球をちゃんと見極める出来た女。

 

「と、言いますか。恋バナ好きな三浦さんは最近、そう言う経験はあるので?」

 

「……………………っ―――」

 

 あ、糞。私の方が藪蛇だったか。この雰囲気、聞かない方が良かった。

 

「あ、あのー。その三浦さん……?」

 

「―――織乃ちゃん。よくぞ、聞いてくれました」

 

 ぐにゅりと身を捻った三浦さんに肩を掴まれた。痛い。

 

「ど、どどど、どうしましたか?」

 

「いやーねぇ、誰にも言えないことってあるじゃない。でもほらさ、それでも吐き出さないといけないストレッサーってのもある訳じゃない?」

 

 これ、駄目なパターンだ。三浦さん、私のストレッサーになってストレス発散するつもりだ。

 

「いえ、別に」

 

「あるじゃない?」

 

「そ、そうですね。あるかもしれない事もないかもしれませんかも」

 

 だから貴女はデーモンなんだよ。私にも猫被りして欲しい。

 

「だからね、告白すると私って今でも処女なのよ。意外に思ってるかもいれないけど」

 

「知ってる」

 

「知ってます」

 

「すぴー」

 

「でね、取り敢えず好きな人も出来て、一応は結構良いところまではいけた訳」

 

 興味ねぇー。如何でも良いよ。ほら、姉さんも五月蠅いのに寝てるし。

 

「―――マジで!?」

 

 でも、藤沢さんは良い人だった。デーモンの恋バナにちゃんと反応して、本当に楽しそうに話を聞いて上げている。まぁぶっちゃけ、性根がおばさ……じゃなく、お母さん体質なのもあるかもしれないけど。こう言う他人の色恋沙汰を楽しめる当たり、真っ当な感性の持ち主なんだろう。

 

「ほそマッチョのイケメンで、内面も良い男だったの。親の教育が行き届いてるって感じで、本人も真っ当な好青年。何だかんだで私も女だからブランド力には弱いし、こりゃ手に入れるっきゃないって思ってさ。付き合う理由はそう言う第一印象重視の下心満載な私だったけど、それでも付き合えばちゃんと好きになれそうって、ブランドとか損得抜きで直感が告げてたのもあったし、結構何時も以上にノリノリだった。

 ―――しかも彼、強かったのよ。

 そりゃ私やエレナちゃんに比べれば弱いけど、柔道部のエースでね。子供の頃、女子より弱かった自分と決別する為に強くなりたいって言う程の向上心の塊だったの。しかも勉強も出来る上に、委員会なども生真面目する人で、コミュ力も高くて女性の扱いも上品だったよ」

 

「なにそれ、ずるい。どうやって見付けたのよ?」

 

「夢見過ぎです。そんな男とか非実在少年ですよ」

 

 三浦さん、よくそんな漫画のキャラみたいなヤツを見付けて遊べるよな。やはり磁石と同じで、リア充にならないとリア充を引き寄せる事は出来ないんだろう。異性からモテる秘訣は、確か異性からモテる事だった話だし。まずはモテるようにならないと、そもそも男から興味を惹かれないとは残酷な話だ。

 いや、私が言えることじゃないけどね。

 

「良いから、織乃。で、で、で、どうなったの?」

 

「ラブホまでいけた」

 

「マ、マ、マジで!?」

 

「ホーリーシット!?」

 

 あの閣下がラブホですと!

 

「むにゃ。すぴー……にくまん……かゆうま……」

 

 嘘だ。いや、だってあのデーモン閣下だよ。もしかして、蝋人形が作れるSMクラブとかか。と言うよりも、良く中学生なのにラブホに入れる勇気があったな。でも化粧とかちゃんとすれば、年齢とか普通に偽れるから大丈夫っちゃ大丈夫だけど。

 

「いちゃいちゃ話をしてさ、まず男の方からシャワーイン。そして、またいちゃいちゃした後に私がシャワーに入ったの」

 

「うんうん、で?」

 

「寸前ですね。マジ寸前」

 

「にく……にくまん……ほえぇ」

 

「何時ものトレードマークにしてる伊達眼鏡も、この文学少女風髪型もバサッと解いて、戦闘準備は万全。避妊具も準備してあるし、これでもうオーケーってなって、裸にタオル姿になってベッドと彼が待ってる部屋に行ったのよ」

 

 なんだと。もうそれ、ヤってんのと同じでは?

 そこまで行って処女のままだとか、男の方は一体何をしてたんだ。ナニをしなかったんか?

 

「ゴクリ、と唾を飲み込む私。で?」

 

「……デーモン閣下って、バレた」

 

 あ。

 

「「「――――――」」」

 

 うわぁ……いや、うわぁそれ、アレだわ。三浦さんの心情も哀れだけど、男の立場で考えると凄まじい場面だよ。シャワー室から来るのが裸の文学系美少女だと思ったら、暗黒面代表のダース・ベイダーが入場曲と一緒に来たようなものだ。絶対その男の脳内だと、有名なデーデーデーデッデデーってBGMが流れたんじゃないだろうか。

 けれども、仕方ない。三浦さんの変装解くと分かる人には分かる。けど、やっぱりそんな時くらいは素の自分でいたいのも事実。私は三浦さんの乙女心を否定する程の信条はない。

 

「彼も頑張ったんだけどさ……どうも、私がトラウマになってるみたいで。その、あれよ……勃たなかったの」

 

 …………………。…………。……え?

 

「のり子。アンタは……―――泣いて、良いよ」

 

「OH……それは、流石の私でも何も言えません」

 

「それにさ、彼が柔道部に入ったのも、小学生だった私にボコボコにされたトラウマを克服する為だったみたい。後、私、のしたその他大勢の一人だった彼の事はまるで覚えていなかったの」

 

 マジかよ。それ、トラウマってレベルの事件じゃない。三浦さんも彼氏の男も、誰も幸せになれず不幸になっただけだ。男女関係って、もっとこう甘酸っぱい夢を見ていたけど、やはり現実はこうなんだろう。

 

「そして、童貞だった彼はそのショックでEDになった。女とエッチが、出来なくなったのよ。後、女に対して興味も失った……」

 

 デーモンの元彼氏さん。貴方は泣いても別に情けなくないよ。私だって不感症になる程のショッキングな事件だ。そして、三浦さんもまた同じ悲しみを宿している。

 

「……結局、そのまま何事もなく別れたよ。それで私の夏休み、終わっちゃった」

 

 世界とは、悲劇なのか。絶望を捧げても、何一つ幸運など手に入らない。どこぞの主人公のノーバディみたいな悲しみを背負った瞳をしながら、三浦さんは青春の一夏にあった出来事を吐き出した。

 ―――……辛い。

 こんなん聞かなきゃよかった。

 一人キャンプの夜が、凄まじい告白の所為で台無しになった。

 

「もう良い。もう良いんだよ、のり子ちゃん、もう寝よう。愚痴は後で一杯聞いて上げるから……」

 

「あ、綾乃ちゃん……!」

 

 そして姉さん、貴女は何時から起きていた。ソンビになる直前の人みたいに寝言を言ってたようだけど、肝心なところは聞いていたみたいだ。

 

「そうね。もう夜も遅いし、寝ましょうか」

 

「そうですね、藤沢さん」

 

 糞。これ、完全にもう、私のテントから出て行けって言えなくなったじゃないか……

 

「……………ふぁ。朝か」

 

 ……なんて、寝る前のことを思い出した朝一番。

 太陽が昇る丁度前で、狭くて臭って暑苦しいテントから出て、キャンプの醍醐味である早朝の朝日を存分に浴びる。意識が覚醒し、脳味噌が寝起き状態から覚醒状態に移行し、寝ぼけた視界が急激に晴れていく。無論、視覚だけじゃなくて嗅覚と聴覚も甦り、鳥が鳴く森の囁きも、焚火の跡の燃え滓の臭いも感じ取れる。

 とても良い朝だ。

 素晴しいキャンプの一日だ。

 この為に森の中で寝ていると言っても過言ではない。

 

「痛い……寝足りない……―――眠い」

 

 嘘だが。結局、あの狭いテントに四人で寝た。はぁ、押しに弱いって言うよりも、藤沢さんも、三浦さんも、姉さんも押しが強過ぎて私じゃどうにもならん。後ろを振り返るとテントがあるけど、あの中に四人もいたと思うとおぞましい。原付バイクで三人乗りするような無茶で、シングルベッドに四人寝る方がまだマシなんじゃないだろうか。

 いや、もう良いか。今日の昼には帰る準備をして、夕方前には帰るもの。

 そして、明日は家でバドミントンをしながらじっくり休まないといけない。取り敢えず、今は李搏御爺さん直伝の八極拳をするか。後は持って来たミントンラケットもあるし、素ぶりをしながらフットワークを繰り返し行って、試合時の体力も付けつつ、バドに必要な筋力も同時に付ける。全く以ってロジカルだ。その後に、濡れタオルで体を拭いて、軽食を食べて、釣り。そして、釣った川魚で朝食にし、ついでに昼飯の素材にする。完璧過ぎて自分が恐ろしい。

 

「ふぅ。朝練終わりっと」

 

 木の影に隠れて、上着を脱ぐ。汗を掻いたので、タオルを使ってさっぱり。露出趣味はないけど、隠れる場所がこんな場所しかないからな。本当はテントの中で何時もしているんだけど、まだ皆が寝ているし、挙げ句狭いし、起こすのも可哀想だから外で脱ぐしかない始末。

 ちょっとだけドキドキするも、仕様がないなら仕方がない。

 本当ならゆっくり綺麗にしているけど、外だと森の中とは言え恥ずかしいので素早く拭こう。下半身は兎も角として、上半身は綺麗にしないと気持ち悪いしな。出来ればちゃんと風呂も入りたいけど、山を下りた後の楽しみの一つであろう。

 

「さて、と。まずは夕飯の残りを」

 

「おはよう、織乃」

 

「あ、おはよー」

 

「うーん。眠い、あ。織乃ちゃん、おはよう」

 

 こいつら、飯の匂いで起きたのか?

 でも別に火も使ってないから調理の良い香りとかもしない筈なんだけど、良く飯の気配だって分かるものだ。

 

「まぁ、良いでしょう。おはようございます」

 

 ハムを挟んだパンだけど、何せそもそも一人分しか準備していない。本当ならパン二枚でハムを挟むのだけど、四人いるのでこれを四等分する。小さい。魚、釣れないと悲劇だな。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「なんですか、その不服そうな顔は。仕方ないでしょう。そもそも私一人しかいない筈でしたし、パンを平等に貰えるだけ感謝したって良いでしょうに」

 

「サンキュー」

 

「メルシー」

 

「シェイシェイ」

 

「日本語で言って下さい。好意が欠片も伝わりませんから」

 

 本当もう、藤沢さんがそっち側に回るのだけはやめて。貴女がしっかりしないとストッパーが誰もいなくなる。そろそろ戻って貰わないと、釣りを行くのも一苦労だ。

 

「藤沢さん」

 

「え。何かな?」

 

「藤沢さん?」

 

「あーもう分かってるって。今からちゃんとするから」

 

「はい。ストッパー、お願いしますね」

 

「はいはいっと。今日くらいは織乃に全部押しつけたかったんだけど」

 

「駄目です。死にますので」

 

 何でそんなに楽しそうに笑ってるか分からないけど、藤沢さんが楽しそうならそれで良いや。なのでまず最初に藤沢さんにパンを渡し、後に姉さんに、そして寝むそうな三浦さんに渡した。私は直ぐに一口で食べてしまい、釣りの準備を始める。

 この釣り竿は、良い釣り竿だ。中学生のお小遣いじゃ買えないけど、父から譲って貰った逸品なので問題ない。ルアーも素晴しく、良いシリーズを店で見付けられたと思っている。

 さて、そろそろ川辺に行って、楽しむとしよう。小型の持運びが楽な椅子と、なんちゃって焚火セットも持って……

 

「あれま、三浦さん。持ってくれるんですね?」

 

「ま、こんくらいはね」

 

「そそ。その位はする」

 

「織乃は釣り道具だけ持ってけば大丈夫だよぉ」

 

「ふぅむ……うん。じゃ、お願いしますね」

 

 で、川に到着して釣り開始。道中の会話もそこそこしたが、ぶっちゃけ釣りが楽しみなので余り覚えていない。椅子に座りながら竿を持ち、奴らが疑似餌に騙されるのを待つ。そして、魚の餌になった気分で釣り竿を操り、生きているようにルアーを揺らす。

 まず一匹、イワナか。釣り上げた魚から針を外して、手に入れた獲物を見て笑みを溢してしまう。

 

「フィッシュ成功ですね」

 

「釣れたね。じゃほら、こっちに渡して」

 

「はい。では、お願いします」

 

「おーけー」

 

 キャンプ用の小さなまな板の上に魚を置き、藤沢さんは何の躊躇いもなく魚を捌いた。うん、生きている魚を捌ける女子中学生とか、ちょっと見た雰囲気アレなんだけど、おかんスキルが高いので別に良いかな。何せ藤沢さんなので不可思議じゃないし、私も出来る事なんで中学生にでもなれば基本的には一般技術なのだろう。多分あれだな、自転車に乗るのと同じようなものだ。そう思っておこう。

 しかし、手早いな。

 内臓を排除した魚を串刺しにし、もう焼き始めてる……あ、ルアーに掛った。ふふふ。何と言う当たり日か。根が屑でも、基本的に日頃の行いが良いからだな。良し良しシめた、もう一匹フィッシュ! 二匹目ゲットだぜ!

 

「フィッシュ。二匹目、フィッシュですね」

 

「ほら。織乃」

 

「あ、はい」

 

 それもまた藤沢さんに渡した。アングラーになった私に物怖じせず、良くこんな風に平然と魚を捌けるよな。やっぱり母性の塊だからなんだろう。あ、最初の一匹が良い感じに焼けて来てるな。

 

「エレナー。私も魚、取って来たよ」

 

「え、どうやって?」

 

「素手!」

 

「アンタは熊か!?」

 

 姉さん。貴女はやはり何時まで経っても姉さんですね。素足で川に入って明鏡止水の構えで水面を静かに見詰め続ける三浦さんも……―――あ、やば。どうやってあんな事をしているんだろうか、素手で魚を川岸まで叩き飛ばしている。姉さんは素手で適当な感じに鷲掴みにしていたみたいだけど、三浦さんは野生の脳筋本能で熊式漁を行っていた。うわ、しかも連続でまた魚をベアーにしてるし。

 実に止めて欲しい。釣り人気分な今の私にとって邪道である。

 折角のアングラータイムなのに台無しだ。魚が多いのは良いけど、多過ぎても困ってしまう。精々が一人で二匹で、昼も考えれば四匹か、あるいは五匹が限界だ。

 

「私ものり子ちゃんに負けないよぉ」

 

「頑張って、綾乃。溺れないように気を付けてね」

 

「はぁい、エレナ」

 

 そんな事を言いつつ、藤沢さんは岩の上で飛び跳ねている魚を回収していた。三浦さんがベアーした魚を拾い、バケツに入れて、また調理場にした焚火の近くに戻って来た。

 

「あの野生児共、ちょっとは自重して欲しいけど。まぁ、あれはあれで生き生きしてて良いかな」

 

「そうですか……うん。そんなものですかね」

 

「そうよー織乃。折角の修行日和……あ、じゃなくキャンプ日和なんだし」

 

「今時、山岳修行とかする女子中学生とか、実際どんなもんなんでしょうね?」

 

「良いの良いの。学校の奴らにバレなきゃ別に構わないじゃん。学校生活なんて世間体だけ守っておけば、何とでもなるものなのよ。

 楽しい事は結局楽しんだから、こうやって楽しむのが生きるコツってこと」

 

 お母さんを超え、おばさんを超えて、もはや御婆ちゃんのメンタル。一体何が彼女にここまでの老婆心を植え付けたんだろう。十中八九、私達三人が馬鹿な所為なのは理解してるが。私って色々と凡愚だし、藤沢さんには結構迷惑掛けてる自覚はある。

 しかし、朝日を浴びながら悟った事を言う藤沢さんは、もう本当に中学生には見えなかった。

 

「所で藤沢さん、話は変わるのですが。便座に座った悪魔の名前って何か分かります?」

 

「はぁ、何よ突然。そんなのベルフェゴールでしょ」

 

「では、ゴリラの学名は?」

 

「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラよ。一般常識じゃない」

 

「そうですね。一般常識かもしれませんね、この神奈川県だと」

 

 可笑しいな。何でこんな悪魔の名前とか、ゴリラの学名とか知ってる人が多いんだろうか。確かに知ってて当然な一般常識なんだけど、今時の一般的な女子中学生の知識じゃないと思うんだよな。そんなの分からない~って言うのが逆に普通な反応だ。何故か芹ヶ谷さんも普通に知ってたし。日本の学生で神話知識とか、ちょっと厨二病がないと知ろうともしない筈なのに。あるいは、重度のゲーマーとか、歴史系のオタクとか。

 ま、良いか。今の私はアングラーでフィッシャーマンな釣り人さ。

 面倒な魚捌き作業は藤沢さんがしてくれているし、このまま好きなだけアングラー出来れば構わない。あ、また一匹フィッシュだぜ。全部で三匹か。純粋に嬉しいな。楽しいな。

 

「織乃。調子良いね」

 

「ですかね。何だかアッチの熊さんがいる方から、こっちの方に逃げているような気がしますし」

 

「ありゃ人間技じゃないから気にしちゃ駄目よ。獣にメンタルを戻さないと出来ない事だから」

 

「分かってますって。別にしたいとも思いませんし、釣りが好きなだけの一般枠の女子ですからね」

 

「なるほどね。確かにあんな野生の熊みたいなこと、綾乃やのり子みたいな本能と直感がないと出来ないよね~」

 

「はい。肯定しておきましょう。ロジック人間な私とか、まだ人間枠の藤沢さんには慣れないと出来ないですし、これから慣れる程にベアー漁を練習する気もないですから」

 

「まぁね」

 

「だけども、あれ動画にすると良い視聴数が稼げそうですね…………お、良し良し。今日は良いアングラー日和みたい。またまた一匹フィィィィィッシュ! 四匹目、ゲットだぜ!」

 

「アンタのリアクションも中々よ」

 

「え、何故ですか?」

 

 周りに釣り人いないし、迷惑に欠片もならないし、ならばフィッシュ出来た愉悦を抑える必要もない。だったら、雄叫びくらい上げても良いことだ。私は何一つとして間違っていない。

 

「うーん、疲れた。でも、朝食分は捌けたわ。後は焼き上がるのを待つだけね。持って来ておいた調味料は……うん。まぁ、王道で塩だけにしよう。

 まずは釣り立て捌き立てで、新鮮な素材の味そのものを楽しもうか」

 

「タレでも良いですけど、やっぱり朝食なので塩が一番ですよ。朝日を浴びながら川のせせらぎを聞いて、釣った魚を朝一番に味わう。

 ふふふ……何と言う、この世の贅沢ですか。

 やはり紅葉美しい秋の山なので、五感で季節を味わうのがイキなキャンパーってものですから」

 

「おじさんだわぁ……ホント、アンタっておじさん趣味だ」

 

「何がですか。人並み程度に成長した人間だったらこの程度の風情、しっかり感動出来ないと人間性が欠片も無い人面心獣じゃないですか。

 私、別に何も変な事は言ってないつもりですけど?」

 

「うんうん。変なことは言ってない」

 

「―――……あのー藤沢さん、貴女はちょっと私の事を誤解してますよ」

 

「そうだね。だから、ちゃんと誤解も解いて話を聞いてるから」

 

 うわぁ絶対理解してないし。これ、あれだ、子供や旦那の話を聞き流す母さんと同じ雰囲気だ。許せない。でも良いか、何時もの事と言えば何時ものの事だ。釣りしてるんだし、如何でも良い事だ。

 

「るーるるるー、るーるーるー」

 

「何。突然もののけチックな鼻歌歌ってさ?」

 

「いやぁアレですよ。主人公が呪いを受けて村から飛び出た朝日も、今日の朝みたいに綺麗なアニメ描写だったなぁ……って、そう思いました。あの作品で猪のヤバさを再認識しましたし、キャンプしてると生きてる実感とか味わえて楽しんですよ」

 

「でも、あのアニメ監督って結構な偏屈者よ」

 

「知ってます。クリエイターって基本的に重度の変態じゃないと面白くないですから」

 

 風の谷な物語も結局最後は、ニーア的人類絶滅エンドを迎えるストーリーだし。目の前の人々を救う為、人類史の未来を全て滅ぼす主人公とか、ある意味王道と言えば王道なんだろう。ハッピーエンドに見せ掛けた救い無きバッドエンドとかは、監督がどんな心情で作ったのか色々とイメージする客じゃないと分からないし、それで良いと思って監督も作っているものだ。

 そう考えると、色々と考察出来るシーンはアニメや映画には多い。

 

「多分だけどあの朝のシーンの前、絶対主人公は許嫁と夜のハッスルしてたと思う。だってさ、私が許嫁の立場だったら、あの小刀を渡すとなればその程度のイベントないと主人公に渡せる決心とか出来ないもの」

 

「あ、分かります。後、主人公がヒロインと洞窟で一緒に寝てたシーン、絶対あれも一日中ハッスルしていたと思います。主人公は怪我して消耗していたんで、ヒロインの独壇場だったと思います。だって寝た後の好感度、ちょっと不自然なくらい爆上がりしてましたし。それにヒロインの育ての親御さんも、何か意味震なことを主人公に言ってるんですよね。声を上げていたら何とかって、多分あれ、そのまんまの意味で言ってる苦情なんだと思います。自分の娘と致してるだけでも激オコなのに、挙げ句五月蠅いとマジでヤるしかないですから。

 そうじゃないとアレですよ、ケーキ入刀ならぬ生首入刀まで一緒にするとは思えないんですよね」

 

「だよね!」

 

「そうですよね!」

 

 でもそうなると、嫁の親がいる相手の実家で結構派手にハッスルしてた事になるな。でもあの監督さんなので、その位の事は作品を作る楽しみの一つとして暗喩するだろう。

 

「ねぇ織乃。私たちって、一体なんの話をしてるんだろう……」

 

「さぁ。アニメキャラの性事情じゃないんですかね?」

 

 凄く遠い目をしながら、藤沢さんは溜め息を吐いていた。自分としては、今まで考えていた映画の感想を共有出来る事が出来て結構満足してるのだが、姉さんを誘って修行している藤沢さんとしては微妙な気分なのだろう。

 

「魚、一匹焼き上がったから食べる?」

 

「頂きます。感謝しますよ、藤沢さん」

 

「いえいえ。どうぞ。あの二人も、そろそろ呼び戻すかな」

 

「良いと思いますよ。ベアーしてるのもあって、中々大量になりましたし。持って来た小さいクーラーボックスだと、昼まで保存出来る魚の漁も限りがありますから」

 

 釣りはそろそろ終わりにしよう。後は食べて、バドで遊んで、また昼に食べて、家に帰るだけだ。















 とのことで、そろそろ高校生になって修羅場編に入ろうかと思ってます。日常編も書かないと織乃や綾乃のメンタルがフルボッコ状態な描写のまま高校生になってしまいますので、それはちょっとと思ってましたが、ここからは好き放題皆にバドミントンして欲しいところです。
 いやー良い友達にも恵まれているのに、やっぱりずっと修羅道インしてるのも違和感有りまくって書けませんでしたけど、これでやっと本編の高校生になる雰囲気にしていこうかと。

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