シンドウの最高傑作   作:サイトー

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十三話 別離

 もう後戻りは不可能だ。一度決め、既に返答してしまった。

 けれども、推薦を受け入れたのも当然だ。学校側が私のバドミントンが欲しいと願い、好待遇でバドの練習環境を用意する。

 此処での練習も十分以上ではあるが、もう三年も掛けて鍛え上げた。そもそも技術の向上だけなら一人でも良く、練習相手も選り好みはない。何より同年代だと今は芹ヶ谷さんだけで、姉さんはもう辞めた。しかも芹ヶ谷さんは私の写し身で、彼女の戦術眼とテクニックは私が考案し、練り上げ、伝授した知識である。正直、練習相手としては姉さんとバドしてるのと何ら変わりはない。

 ……だから、高校も何処でも良かった。

 無料で高校卒業の資格が得られるならば、尚の事良かった。両親が払う学費の節約にもなるし、学生寮がある学校なら生活費も格安で実家から独立できる。独り暮らしと言う訳じゃないけど、環境を変えるには実に好都合だと思っている。

 

「なんでなの!!?」

 

「バドミントンのためです」

 

「私が聞いてるのはそんな言葉じゃない!」

 

「では、他に何を期待するのですか。まさか、私に諦めろと?」

 

「織乃ッ……―――!!」

 

「姉さん。既に決めたことですから」

 

「――――ッ……!」

 

 ここまで激怒した姉さんを見たのは初めてで、これほど私に感情を叩き付けるのも初めてだった。母さんが私達を捨てた時だってここまで激情した事もないし、バドを捨てて今まで穏やかだったのもある種の擬態だったと悟らせる本音でもあった。

 

「貴女まで……織乃までバドの為に、こんなモノの為だけに―――!!」

 

「こんなモノですか?」

 

「そうだよ!!」

 

「ですが、それが私の半生です。それは姉さんも変わらない事実では?」

 

「話を、逸らすなぁ!?」

 

 胸元を掴んで、私を引き寄せて、顔の距離が一気に近付いた。瞳孔が開いて興奮しているのが良く分かり、呼吸だって荒くて倒れそうだ。過呼吸気味に息を吸っては吐き、手の力も段々と強まっている。けれども、私にだって意地がある。首が締まって呼吸がし難いが、そんな苦痛は一切表情に出すものか。

 これは、大切な通過儀礼である。

 姉さんにもはや私は不必要な存在だ。家族と思ってるし、大切な姉だけど、それと私の夢とは何一つ関係ない。私は私の為に生き方を変えるつもりは一切なく、何より姉さんが姉さんで在る為に絶対に避けられない重要なこと。

 

「捨てるの! お母さんみたいに私をさぁ!?」

 

「はい。捨てます」

 

「こ、ここ、この……―――馬鹿、馬鹿織乃!!

 裏切って、あんなバドなんかの為に私を裏切って何なの!! お父さんも家族も捨てて!!!」

 

「家を離れるだけですよ。バドの為に捨てるのに違いはないですけど。それに、母さんみたいに家に一切寄り付かない何て所まで、スポーツマンに徹底するつもりもないですし。

 ああ、だけども、バドミントンの為に身軽にはなりたいと思っています。強くなれるなら、何も問題はないことです」

 

「それでも……それでもさ、嫌だよ。

 だって織乃までこの家から居なくなるなんて、私絶対耐え切れないよぉ……!!?」

 

「耐えて下さい、姉さん。もう自分で決めた事ですから」

 

「この分からず屋!!」

 

「はい。ごめんなさい」

 

「うぅ……ぅ、この、何で、そんな急に何でなの?」

 

「急にじゃないですよ。前から考えていました」

 

 姉さんがバドミントンを捨てた時から、こうしようと考えていた。なるべく早目に伝えようとは思っていたが、それに耐えられる程に今はもうメンタルは回復したと判断した。そして、それは正しかった。こうやって私に掴み掛かって、感情を露わにして、問答を行うことは出来ている。あの時のままじゃ、無理にでも派手にバド以外の事にも興味を持たせて心を癒していなければ、こんな事を言った瞬間に姉さんは終わっていたことだろう。何一つ私に言い返す事も出来ないで、無感情のまま現実を諦めて、心をあの時みたいに塞いで泣くだけだったに違いない。

 ……こんな胸糞悪いの、私だってやりたくない。

 何で私が母さんみたいにスポーツマンに徹する為に、自分の家族を苦しめないといけないんだ。

 けれど、そんな無様の仕方がないことだ。だって、母さんが私達を捨てた時からこうなる可能性も思い浮かんだけど、私は母さんが完璧なバドのコーチだと思い込むことでずっと封じていた。でもさ、本当はこう言う未来が訪れるかもしれないって予感していて、それを強引に脳味噌から消し去っていた。だから今のこの来て欲しくなかった未来が現実になったのも、母さんが姉さんと私をバドミントンの為に捨てた時から決まっていたことなんだろう。

 でも何処まで行っても、どうせ凡愚な私には、バドミントン以外に欲しい将来など欠片も存在しない。それ以外、何も求めない。だから―――捨てる。捨てないといけなくなってしまった。

 これは、たったそれだけの話に過ぎない。

 そう思い込んで覚悟を決めて、凡愚な精神を徹底して完結させてしまえ!

 

「だから県外の高校に行くのも、私が私のバドを続ける為なんです。今は分からなくても、姉さんなら何時か分かってくれますよ」

 

「分からない……分からない。分からない分からない分からない、絶対に分からない!?」

 

 叫んだ姉さんが私を突き飛ばす。畳の上に尻餅をついて、そのまま涙を流し続ける姉さんを見上げた。姉さんはずっと泣いていた。私がバドミントンの推薦を受けた高校に行くと、神奈川県を出ていくと告白した時から、どうして、何で……と泣いていた。

 私が、私の為に、姉さんを泣かしていた。

 そのまま更に私を押し倒して、姉さんが馬乗りになって動きを拘束する。

 

「教えて、織乃。どうして、なんで……私を捨てるの。それじゃ何も分からないよぉ!?」

 

「―――バドミントンの……ため、です」

 

「嘘だ。嘘だよ。ねぇ、嘘って言ってよ……」

 

 涙が私に降って来た。

 涙を流さない私の代わりに姉さんの涙が流れていた。

 

「すまない。でも、もう決めたんだ。姉さん、私はもうバドミントンだけをしていくって決めたから」 

 

 子供の頃、直した筈の口調に戻ってしまう。でも、仕方がない。私だって本当は、私の本当のことを姉さんに言うのは怖いんだから。

 

「ぅ……ぅ……な、なんでぇ?」

 

「母さんが、そうして欲しいと願っている。強くなって欲しいと私と姉さんに求めているから」

 

「ふざ、ふざけないで!?」

 

「ふざけてないよ。私は母さんのバドミントンが好きだから。姉さんとバドミントンをするのだが、好きだったから」

 

「じゃあ……じゃあ、別に家を出る必要なんてない!

 ここで強くなれば良い。薫子ちゃんだっているんだから何も問題ないよぉ!?」

 

「だけど、私の姉さんはもういない」

 

「……ッ―――!」

 

「貴女はもう、バドミントンを辞めてしまった。姉さんはずっと私の姉さんだけど、今の姉さんは母さんの娘を辞めたから」

 

「だったら、薫子ちゃんはどうするの……?」

 

「構わない。芹ヶ谷さんはもう私を必要としてない。私ももうバドミントンで芹ヶ谷さんに求めるものはない。互いに思う儘練習して、強くなって、バドを求めて、何時か何処かの大会で試合が出来てばそれで良い。

 練習相手なんてさ、ぶっちゃけ誰でも良いんだ。強くて、巧ければ、もう誰でもさ。だから芹ヶ谷さんと一緒にバドが出来なくなるのは悲しいけど、悲しいってだけだ。互いに得るべきものを得たのなら、バドミントンの為に独りになるのは仕方のないことさ。

 それに、もう二度と皆でバドの練習が出来ないって訳じゃない」

 

「ヤ、ヤだ。駄目だよ、それじゃ……―――」

 

「諦めて」

 

「―――ッ~~~!」

 

 仕方がない。そう思う。

 母さんがそう在って欲しいと私達を捨てたんだから、娘の私は母さんの理想に応えないとならない。姉さんも絶対に、絶対に、バドミントンを捨てない方が良いに決まっている。絶対に、母さんに捨てられた“程度”の不幸でバドミントンを辞めた事を後悔するに決まっている。その為に私は姉さんの前から消えなければならず、私が姉さんの代わりに母さんの期待を応える娘であるなんて、そんな要らぬ錯覚は姉さんの中から消さないといけない。

 私は居ない方が良いに決まっているならば―――家を、出なければ。

 こうなって初めて分かる。母さんが私と姉さんに黙って家を出た理由が、家を出る立場になって初めて分かる。

 

「姉さん。私はバドミントンで生きていく」

 

 だから、言うべき事は私の事だけにしなければ。姉さんのバドミントンに私が要らず、むしろ有害だから出て行くなんて言えば、心が癒えていない今の姉さんにはバドミントンと母さんに対して完全に失望し、心が完膚無きまでに折れてしまう。

 だから、まだ話せない。

 治れば、癒えれば、姉さんは完成する。

 苦境でスポーツマンのメンタルは成長し続け、屈強な精神が困難を打破する力を宿す。

 心が折れた今の状態に堕ちて、尚もバドミントンを愛して、強さを求めて、宙を舞うシャトルを楽しみ続けるならば、母さんが求める以上のプレイヤーに―――私の姉さんを育て上げる事が出来るのだから。

 ……でも、こんなのは私の好き勝手に期待してること。姉さん本人に喋っちゃいけないこと。

 母さんも多分、こんな心境で家を出たんだと思う。バドミントンの為に捨てられた娘だから共感出来る。大切な人に期待することを、強くなって欲しいと言う欲望が制御不可能になる。理想とか、将来とか、夢とか、何一つ我慢出来ずに欲望が暴走する。

 姉さんには、無理強いさせたくない。そんなバドに価値はない。

 自分から、自分の意志でまたバドミントンを初めて、今の私よりも更に強くなって欲しい。そう在って欲しい。

 

「私は……私は……ッ―――!!」

 

「バドミントンを、捨てられないんだ。例えそれが、姉さんの為でも、父さんの為でも……それが、母さんの為だったとしても。

 何があったしても、もう二度と私は―――バドミントンを諦めない」

 

「あっ……あ、ぁぁあ―――ああああああああああああ!!!」

 

 生温かい涙だった。声を上げて泣いているから、私の所為で泣いているから、泣かないでなんて言葉を言えなかった。そんな人でなしの台詞は吐けなかった。私は確かに人間の屑だけど、建前でしか他人に優しく出来ない悪党で、親切心なんて最初からない悪人だから、こんな奴と家族とか友人とかしてくれる人には正しく在りたいと願う。世間体も建前もなく、優しく出来ると願いたい。

 許されるとしたら、精々が涙を指で拭う程度か。

 けれど、黙って家を出るなんて事は許されない。

 泣いてしまうと言うのは初めから分かっていた。

 それなのに、姉さんが泣いているのは身が裂けるように痛いのに、自分が泣かした事には何の感情も浮かばない。そうするしかないと思って行動したのなら、自分自身に対して何かを思うことは有り得ない。泣かした相手にも理不尽だろう。

 

「ねぇ、織乃?」

 

「なに?」

 

「織乃はさ、まだ私にバドをして欲しいって思ってるの?」

 

「うん。当たり前。姉さん程、バドミントンが上手い人はいないから」

 

「そっか……ああ、そっか。そうなんだね」

 

 私では、姉さんが何を思っているのか分からない。私の言葉を聞いて、何を考えているのか分からない。けれど、その予想をするのは難しくはない。どんな感情を抱いているのか、ある程度なら見抜けるとも思っている。

 後悔と、未練と、憎悪。

 母さんみたいに捨てる私を恨んでいるけど、それ以上にバドを捨てた事を悔やんでいる。バドを手に戻したいと思ってくれれば、そう強く願ってくれる切欠になれば、姉さんはもう大丈夫だろう。後は、全て藤沢さんと三浦さんに任せれば、何一つ問題なくまたバドを始めてくれることだ。

 

「でも、それは私のお願いだから。また始めて欲しいけど、バドが楽しくないなら……して欲しいとは思わない。でも、それでもまた私達のバドミントンを楽しみたいと思ってくれるなら、何時でも良いからまたやって欲しいんだ」

 

「…………………うん」

 

「だから、私はもう行くって決めたんだ。強くなるよ、姉さんよりももっと強くなる」

 

「……うん。分かった。お母さんと違って、言ってくれたから、私もちょっと頑張ってみる。でも、でも、まだ良い。

 私は、まだ……バドミントンなんて嫌い。やりたくない。コートに居ても辛いだけだから」

 

「分かってる。だって、私も嫌な気持ちになるから」

 

「でも、織乃はそれでもまだバドをするんだ?」

 

「うん。するよ」

 

「だから……だったら、私も何時か――――――」

 

 

◇◇◇

 

 

 結局、喧嘩別れになってしまった。

 少し違うかもしれないけど、納得しないまま姉さんは何処かに走り去ってしまった。

 まぁ仕方がないと無理に納得しておこう……はぁ、死にたい。気軽に死にたいとか思ってしまう程、本気で気が狂いそう。いや、こうなるって分かっていたし、自分がこう言う心境になるのも最初から理解していたけど、それでも何だか空を飛びたい。リストカットとか、あんな自傷行為にでも走れば少しは気が晴れそうかもしれん。

 とは言え、思うだけで実行に移す事はないんだけど。

 死んだらバドミントンが出来なくなるので、それじゃ死ぬ価値がそもそも無い。

 バドが出来ない事以上の不幸なんて今の私にはないので、そう言う自己否定は夢破れてからすれば良い哲学思考だ。思春期なので感情が不安定なのは生物学的に当然なので、別に私が凄く死にたい気分になるのも普通な女子である。

 なので、もうマジで死にたい。

 嫌われたかもしれないよ。はぁ。あぁ……はぁ、姉さん本気で泣いてたし。どうしようかな?

 いや、そもそもさ、どうしようもないから死にたいんだけど。でも、こうしないと姉さんずっと塞ぎ込んでるだろうし、強烈な発破も仕掛けないとバドに意識を向けようともしないし、私も過去に囚われて前向きに強くなりづ付けられないからな。

 身軽になれば良いなんて言ってしまったけど、姉さんも私が消えれ身軽になれば、私をコートに残した事に対する罪悪感も薄れるだろう。もうメンタルは回復してきているので、後は罪悪感も時間が経過すれば無くなって、バドをまたやりだしたくなるとも考えている。

 

「あぁ…………はぁ……―――はぁぁぁぁあああ……」

 

 誰もいない部屋で、畳の上で寝っ転がってみる。何時までもこうしていたい気分になる。そもそもな話、なんで姉さんと私がバドミントンをする為に高校まで県外の場所を選ばないとならず、姉さんと別れてバドをしないといけないんだが。結果、父さんとも、爺さん婆さんとも別れないといけなくなるわ、幼馴染の藤沢さんと三浦さんとも別れないといけないし、折角親友みたいになれた友人の芹ヶ谷さんとも会えなくなった訳だ。

 ……はぁ。私、これで強くなれるんだか。

 メンタル的に考えれば、結局は人間一人で強く在れない奴は雑魚だ。人は一人で生きられる訳じゃないし、他人と関わって成長する生き物だけど、孤独を許せない奴は最後の最後で敗北する。自分自身に負けて、自分を許容出来ないまま最後を迎え、スポーツマンとしての人生を終わらせる。試合の間に味わう独特なあの孤独感は、自分自身との戦いとでも呼べる精神状態で、克服するにはどうしてもメンタルが強くないと己に潰れて負ける。

 コートに必要なのは、(メンタル)と、(パワー)と、(テクニック)だ。

 そして、全てを手に入れる為に最も効率的なのが家を出る事で、それが結果的に姉さんの人生さえも手助けできる良策になってしまっている。推薦を受けないのは、もはやバドミントンに対する裏切りで、姉さんに対する裏切りでさえある。

 芹ヶ谷さんも、既に自分の進路を決めている。

 彼女もまた自分で選んだ。あの高校に受かって良かったと思う。

 だから、せめて自分の人生は自分で選ばないと。姉さんがまたバドを始められるように誘導してるけど、姉さんも自分自身の意志でまたバドをすると選ばないと意味がないんだから。私はもう選んだのだから、この葛藤と後悔も価値はない。

 要らない。

 下らない。

 詰らない。

 苦しいって言う私の感情が無駄。

 だって苦しまないと、辛くないと、私は強くなれない。私は楽しくなれない。

 

「なんて難儀で変態的なのか……良いけど。自分の事だし」

 

 はぁ。溜め息、吐きたくないけど吐いてしまうな。強くなる為に苦しいのは肉体的にも精神的にも普通なことで、誰もが共感出来る痛みに過ぎない。私はそれが、バドに関してのみ楽しいと思うし、メンタルがボロボロになるのも悪くない気分になる。生活も捧げて良いし、バドを人生にしても良い。肉体もその為だけに消耗させて、最後の最後まで使い潰す予定だ。

 しかしながら、それを姉さんに求めるのはお門違い。

 いや、芹ヶ谷さんはそうなれたので、私と同じ趣味と変態性を求めているけど。芹ヶ谷さん、私と一緒で廃人体質の弩変態さんなのでバドミントンが際限なく強くなれる面白い人格をしていて、だから気の合う友人になれた訳だしな。

 

「終わったのかい、織乃」

 

「あ、父さん。終わりましたよ。案の定、姉さんは怒ってしまいました」

 

「そうだね」

 

 はぁ……父さんか。あ、また小さく溜め息吐いちゃったか。

 

「すみませんでした。喧嘩なんてしてしまって」

 

「良いよ。仕方がないことだからね」

 

 部屋の机の前に座った父さんが、寝転ぶ私を見ながら苦笑いしている。高校進学の事は自分で言うと決めて、姉さんと大喧嘩するかもしれないと言ったけど、父さんは私の我が儘を聞いてくれてずっと違う部屋に居てくれた。話の内容も盗み聞かずに、姉さんが出て行くまで待っていてくれた。

 との事で、私も座ることにしよう。

 父さんの対面に移動して、さっさと起き上がろう。

 

「結局、私、母さんと同じ選択を取ってしまいました」

 

「そうだね……」

 

「ま、自分の為なんですけどね。あの高校を選んだのも、バドの為に過ぎませんから」

 

「良い事だよ。子供なんだから、大人になった時に叶えたい夢に全力なのは、人として当然の選択だ。むしろ、僕が織乃の後押しをしたんだから、綾乃に罪悪感を抱く必要なんて欠片もないんだ」

 

「あ……そ、それは、そうなのかもしれません。けど!?」

 

「だから、もう良い事なんだよ。織乃、君のバドミントンを僕は応援しているから。勿論、それは綾乃のバドミントンもね」

 

「ち、ちが……違うんです。そうじゃなくて、私は……私は!?」

 

「織乃。それはね、何も違わないんだよ。僕も綾乃は、まだバドを続けるべきだと考えている。

 でも有千夏は……―――いや、どうなんだろうね。有千夏の気持ちは分かっているつもりだけど、もしかしたら娘の織乃の方が有千夏の理解者なのかもしれない。僕はバドミントンの事は分からないからね。

 だからさ、織乃がバドミントンに一生懸命なのは何も間違ってない。

 それだけは父親として、僕は何があっても肯定する。将来の為に選んだ進路なら、親として織乃を助ける義務がある。けれど、僕は君の親であるけど、君の未来を選ぶ権利はないんだ。

 好きにして良い。偶には、姉妹で傷付け合っても良い。

 頑張る事を恐れる必要なんて何処にもないんだ。僕は何時でも、二人を応援しているからね」

 

「…………――――」

 

 あ、ぅグ。私は、違う。そんな風に思って貰えるような綺麗な人間じゃない。誰かに応援して貰えるようなバドじゃない。強くなりたい、楽しくなりたい、そんな自分勝手な欲望のまま生きている私は、ただただ大人に甘えて子供でいたいだけの糞餓鬼だから。

 だから……!

 

「父さん。姉さんをお願いします。本当は、同じ高校に行きたかったから。そんな位、心配で堪らないから、お願いします」

 

「心配いらないよ。こっちの事は何の心配もせず、頑張りなさい」

 

「はい。父さん」

 

 何も言わないで行こう。何時か母さんに私のバドミントンを証明する為に、最高傑作である事を自分自身で認める為に、強くなる。巧くなる。ただただ鍛え続けるだけ。

 何時か母さんみたいになるまで、私はこのバドを貫き続けるのだから。

 



















 次回から修羅バド編開始です。





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