シンドウの最高傑作   作:サイトー

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修羅バド編
十四話 私立高校赤堀学園


 群馬県某市某所。大秘境であり、未だ未開の地が残された魔境と聞かされていたが、まだまだ此処は都市部であるようだ。無駄に糞高い県庁も見えるし、道路を行き交う車両の無駄に多い変な町だ。しかし、だからこそ、此処は魔境と呼ぶに相応しい都道府県なのだろう。

 理由は知らないが、同じバドクラブに所属していたオジサンから聞いた話だと、何故か風呂屋がないらしい。温泉で有名だって聞いたけど、何でそれで風呂屋がないとか分からないが、温泉や銭湯や健康ランドの類が無い訳ではないらしい。矛盾していると思うが、此処群馬ではその程度の矛盾は考えてはいけない事と判断するのが利口な余所者だ。後、そのオジサン(独身)は、あの県は風呂好きに厳しい県だから、神奈川に引っ越して良かったと言っていた。もう二度と群馬には戻らないとまで愚痴ってたけど、伊香保とか草津とか良い温泉が沢山あると思うけど、なんでだろうな?

 ……ま、良いか。温泉は好きなので、近くに健康ランドでもあれば個人的に充分だ。

 全寮制のスポーツ学科がある高校なので、ぶっちゃけ何県何市の田舎でも構わない。設備が備わっていて、粒揃いの面白い選手が在籍していて、練習時間を確保してくれる学校なので、立地に文句は欠片も無い。買い物なんで、ギリシャ神話に出て来そうな南アメリカ大陸の大森林名な某通販サイトをご利用すれば良いし、中古のゲーム販売店なんてそれなりの市街地なら何処にでもあるだろう。あって欲しいとそう願う。

 

「初めまして。雑賀(さいか)瑠奈(るな)です」

 

「どうもです。私は羽咲(はねさき)織乃(おりの)です。これから三年間、宜しくお願いします」

 

「………………羽咲?」

 

「はい。羽咲です」

 

「…………はね、さき?」

 

「はい。羽咲ですけど?」

 

 入学式の前にある顔合わせ。寮の二人部屋で共同生活をする相手だ。出来る限り第一印象は良くし、その後から程々に素を出して相手を洗脳し、最良の共同生活の相手にしようと考えていたが、相手はどうやら自分を知っているようだ。同じ一年生で、聞いた話だとバドミントンで推薦された人らしいけど、そうなると羽咲織乃を選手として知っていると言うことだろうな。

 だけど、雑賀瑠奈か。サイカ・ルナ、かるな。うん、あだ名はカルナさんにしよう。見た目、ビジュアル系のイケメン美女だし。と言うかこの雰囲気、絶対型月好きな女オタだ。だって良く見るとその服装、ア○イルか○まむらか忘れたけど、型月とコラボしてる店のヤツだ。多分部屋着は例のクソダタTシャツとかにしてるタイプのオタクだ。私と一緒でノーパソを寮に持ち込んでるけどあれの中身、PCゲーが大量に絶対入ってるな。外付けHDも付いてるから、多分結構なデータ量。ある意味、私の趣味にドン引きしない相手そうでラッキーだったけど、違ったら違ったで洗脳して布教すれば良いの問題はない。何より、型月信者は設定とか、相性ゲーとかの話をすれば結構簡単に話が出来る。とは言え、きのこたけのこ戦争並に危い討論になる可能性が高く、綱渡りな雰囲気なんだけどな。

 

「…………」

 

「…………」

 

 で、あの、そろそろ反応して欲しいんだけど?

 

「あのー……」

 

「……うげぇあ! なんで、何であの羽咲がナンデ此処に!?」

 

「おい。その呻き声はなんですか?」

 

「いやいやいや! だってバドの大会で優勝する為のラスボスが同室だったとか、インターハイの為にこの高校に進学したアタシの気持ちはどうなるん!?」

 

「知りませんが」

 

「あー……あーあーあーーー!?」

 

 うわぁ。こいつ、ちょっとキャラヤバい。しかし、第一印象でここまでぶっ飛んでいるなら、こっちも世間体とかそこまで気にしないで接して良さそうだ。仲良くなれるかどうか、あるいは私が気に入るかは、また別の話だけど。

 なので、思い付いたあだ名で呼んでも良いだろう。

 こんなキャラ性なら別に相手のメンタルを重んじる必要も皆無だし。

 

「ちょっとカルナさん」

 

「え、カルナさん? なんで施しの英雄?」

 

 ビームが飛び出そうなほど目が血走ってるけど、初対面の女に顔で文句を言うと面倒臭いのでスルーしておこう。無礼をしても何ら気にならない愉快な人っぽいけど、そう言うのは気を許させてから楽しむ交友関係だ。

 

「じゃあ、譲歩して雑賀さんで良いでしょう。で、雑賀さん。今は挨拶をちゃんとしませんかね?」

 

「いやその……まぁ、それで良いじゃん」

 

「はい。で、私は羽咲織乃ですよ。良いですね?」

 

「あ、うん。分かったよ。あのジュニア大会の悪夢、羽咲さんね……あれ、そう言えば眼鏡してる。だから分かんなかったか。あのレクター博士みたいなメンタルがキレた目付きじゃないから、名前を聞くまで名前が思い浮かばなかったぜ。眼鏡ッ子だと試合中のシリアルキラー感が消えてる。

 アタシ、一生の不覚!

 確かにあの人を殺した直後なサイコパスっぽさがないもんね、今」

 

「………へぇ?」

 

 ここまで言われたのは人生で初めてだ。デリカシーゼロだな。良くこんなんで今まで生きて来れたと思う。絶対小学校とか中学校時代、女からハブられていたな。私と姉さんも藤沢さんや三浦さんみたいな精神的超人と幼馴染じゃなかったら二人ボッチな学生生活送ってそうだったから、この人も自分自身に苦労していそうだ。

 しかも、オタク。バンドやってそうなビジュアル系なのに、重度なオタク特有の廃人オーラ。違和感が半端無いキャラと空気の乖離だけど、面白い人間は腐る程見ているので対応は別に出来なくはない。

 

「おい、カルナ。今日からお前、パシリ一号ですから。焼きそばパン買って下さい」

 

 貴女を元世直しマンの手下みたいに扱ってやろうか。そして、私こそバドミントンを世直しするよっちゃんにでもなってみようか。正直、あの才能大好きロリコン変態爺の後釜とか狙ってるので、何時かバドミントンスポーツ界を世直し(改革)してみたい。会長になりたい。とは言え、それは選手として名声を得た後での話だけど。

 自分で言うのもあれだけど、私は頭が異常なほど優れている。折角両親がくれた才なので、それをバドミントンの文化の為に利用出来ればと思ってはいる。言うなれば、私の頭脳もバドミントンを強くなる為に鍛えた思考回路で、母さんが作った人工の天才性とも言えるのだろう。

 

「なんでさ!」

 

「はいはい。なんでさなんでさ。そう言う台詞、言いたくなる気持ち良く分かりますよ」

 

「塩対応」

 

「自重して下さい。これから幾らでも、オタクな会話をして上げますから」

 

「―――……はぁ、良い。同じ趣味の女子同士のオタク会話、良い。

 こんな見た目な所為で、オタ友が出来なくて悩んでいたのに、まさかあの悪夢の羽咲が同室で、しかもオタクだったなんて……良い悪夢だぜ。高校が始まる前に夢が悪夢のおかげで叶っちゃった」

 

 ヤだ。この人、オタク会話に飢えてる。そして私の経験上、型月信者みたいな設定魔だと、フロムゲーとの相性もかなり良い。どうせ同じ部屋で寝る仲なので、休日はゲームさせて泥沼に沈めてやろう。

 後、バドの練習を休む暇な日とか、中学時は室内遊戯部のゲーマーどもの助っ人としてゲーム大会に参加し、イモノイモコの名前で凸砂芋砂の外道砂としてFPSの試合とかしていたので、ゲーマー諸々のオタクな知り合いは結構多い。だから、こう言うオタ会話に飢えたオタク女子の扱いにもそこそこ自信はある。

 

「え。と言うよりか、悪夢の羽咲って何なんですか?」

 

 しかし、今はそんな事よりも聞いた覚えのないあだ名が先決。私が出ていて、三浦さんに無理矢理見せられた雑誌にはそんな事は書かれていなかった筈だけど。

 

「なんだ、知らないん? あの二人は超新星を超えて冒涜的な悪夢だったって、ジュニア大会の関係者は揃って言ってるじゃん。しかも、その後で推薦受けた大会はあの神藤と同じで辞退してるので、一夜限りの悪夢の優勝者だったって。

 だから、バド雑誌だとあの大会がそもそも羽咲の悪夢だったって言われてるよ。

 または神藤の勝ち逃げとか、無冠の新星とか、色々と。個人的には形状し難き冒涜的バドミントンだったって思ったけどな」

 

 分かった。雑賀さんの中だと、私は神話生物並に理解不能なSAN値直送のバドをする人外だと。悪夢とか、そんな恥ずかしい厨二ネームが密かに付いていたとか、本気で知りたくも無かったけど。

 

「成る程です。それで、あの礼儀を捨てた対応に繋がったと」

 

「………あー、うん。さっきはすみませんでした」

 

「良いですよ。別に、礼儀とか気にしない性質ですし。ただこんな日本の世の中、特技が生きるだけの老害とか、偏屈な糞餓鬼みたいに無礼だああだと拘るメンタルチルドが多いので、世間体だけは守る様にした方が自己防衛になりますからね。

 まぁ、人付き合いをする上で、ある程度は定まっているラインに沿った対応をするのが、大人ぶるって事だとは思っていますけど」

 

 大人も正直、糞餓鬼が餓鬼を辞めてただの糞になってるのが多い。何だかんだで内面は人間全員同じであり、思考を覗き見るのも容易いことだ。男女の差もあるが、生物として乖離しているだけで、人間社会における常識は共有している。ちょっとサイコ入ってる人とかも稀にいるけど、結局は理論で語れる異常性なので何一つ問題はない。

 だがしかし、悪夢とか言うのは許せんが。

 私が倒されたら“HUNTED NIGHTMARE”とか表示されるとでも言うのか。月の魔物か。

 

「えー、それ、メンド臭いじゃんか」

 

「そう言う事言いますと、本気でバドして上げませんよ?」

 

「分かりました、羽咲様!」

 

 目をキラキラさせている雑賀さんを見て、この人の性格もだいたい分かってきた。どうやら根の部分はかなり暗黒色なようだが、上辺が素直な面白キャラを演じているようだ。ある意味で、あの勢いのまま喋るのも、自分が理想とする明るい自分を建前にしているだけと見える。

 ……ま、バドを辞めた直後の姉さんと似たような雰囲気だな。姉さんは性格悪くて人を煽って倒す事を楽しむ癖に、誰かに優しくする人を自分自身の理想としていた。しかし、そんな願望は毒にも薬にもならない。となると、成る程。ある意味似た者同士か、雑賀瑠奈。ルームメイトとしてこれからが面白くなりそうな人物で非常に好ましい。

 

「現金な人のようで助かりました。では、今後の為にもしっかりと話し合いましょう。まずは雑賀さん、何処出身なのですか?」

 

「出身地は違うけど、育ちは群馬だ。そっちは神奈川県だっけ、警察で有名な」

 

「おっと、神奈川県警は別に良いでしょう。県民も嫌気がしてますし、普通に働いてる警察官も悪く見えてしまいます。人間心理として仕方がないことなんですけども。

 でも、あの程度の汚職は何処の県警でもしてると思いますよ。なにせ、組織運営してるのも所詮は人間なんですから。まぁ民間団体が監視組織を作って見張られてる警察組織ってだけで、組織自体が県民からどう思われているかは察して欲しいですけどね」

 

「ああ、弁護士が作った見張り番だったけか。社会を監視する公共機関を監視するって話でしょ。ウォッチメンみたいな事が実際に必要な位、もう運営が腐り果ててただけだもんね、神奈川県警」

 

 中々話に付いて来れる人だな。見た目に反し、話題は音楽以外にもかなり豊富か。

 

「……もしかして、ロールシャッハとか好きですか?」

 

「映画も漫画も見たぜ!」

 

「あれま、同好の士でしたか」

 

「ひゃ~意外。あの羽咲が、アメコミまで理解出来るオタだったとか、ちょっと楽しいよ」

 

 成る程。結構好き勝手に会話出来る程、色んなネタに対応可能な人みたいだ。オタクにありがちな特徴として、知識を蒐集すること自体が楽しい面がある。人生に役立つとか、無駄だとか、そう言う利害など捨てて、只管何でも知りたがる。勉強とは本来そう言う娯楽であり、ただの贅沢に過ぎない。読書もネットも本質は他人の知識を学ぶ道具であり、情報蒐集をして叡智を得る事が人間を人間らしくする。

 いやぁしかし、この人見た目バンドやってそうなビジュアル系なのにかなり意外だ。人は外見で決め込むのはいけないが、外見とはその人物が第一印象で相手に教える自己主張でもあるので、やはり内面の自己と自我を知る為の重要な材料だ。人格を形成する一つの大切な要素でもあるのだから、外見である程度は精神性も絞り取れる。それを考えると、見た目と中身のギャップが自分同様にかなり激しい二面性があるので、ちょっとサイコ気味な雰囲気にも頷ける。

 つまるところ、見た目通りじゃない人格の持ち主はちょっとヤバい。人を騙すことを娯楽にする節がある。友人のような間柄になることも出来るかもしれないが、多分あれかな、羽咲織乃では雑賀瑠奈が自然と親友になることは有り得ないだろう。

 恐らくは芹ヶ谷さんと同じだ。どうせバドミントンをしないと、互いの能力を認めないと、その人の人格を認められない。バドミントンと関係ないならこんな面倒臭い事にはならないけど、同じ部活生かになると言うならば、一定以上の熱量をバドに注ぐ人じゃないと何一つ認める気にはならない。

 やる気ない奴は不要な塵屑だが、それでも努力を続けられるなら、私が力になれば良いだけの話だ。

 

「では、話をしながら荷物整理でもしておきましょう。今日は暇な一日ですし」

 

「オッ慧音(ケーね)

 

「はいはい。人里の教師のことですね」

 

「ふっふーん。成る程、アンタがそこまでのオタだったとは……バドしてる時と違い過ぎて、マジ怖いぜ」

 

「お互い様ですよ。で、こんな事を言うのは無礼だと分かってはいるのですが……まぁその、私と貴女、何処かで会った事がありましたか?」

 

「あ”……げぇ、うえ?」

 

 目玉が更に血走り始めて、本当に核ビームが出そうだ。やはりカルナさんの渾名に間違いはないけど、余り周りには広めないでおこう。ぶっちゃけ、オタクだって知られたくないので、分かる人だけ楽しめれば良いだけだ。

 

「え、嘘。アタシのこと、覚えてらっしゃらないと?」

 

「はい。何処かでバドミントンしましたか?」

 

「………………」

 

 おっと、地雷踏んだみたいだな。多分、何処かの大会で試合した相手なんだろう。しかし、試合中はバド以外の全部が消えているので、試合内容以外は全て忘れている。趣味で観賞している大会の試合映像以外で、個人個人のプレイヤーは覚えていない。印象に残るとか、残らないとか、私にそんな感情は試合に向けることもない。精神集中が切れた試合後に何かしらの会話で選手を覚える事はあるけど、何事もなく試合が終わったなら、相手選手を覚える必要が何一つない。

 だから、戦って覚えている選手は殆んどいない。芹ヶ谷さんと戦って倒した姉さんと良く似る人や、私が倒したあの天使様は良く覚えているが、それ以外はバドの内容以外に必要な材料じゃない。だからバドミントンをすれば戦った事があるか否か思い出すけど、名前までは出て来ないだろう。いやはや、多分これは精神障害の一種なのかもしれない。一つのことに全身全霊で集中すると脳味噌がそれ以外の機能を失い、その一つ以外が一切記録されてくれない。自分を殺せば殺すほど強くなれたので丁度良い症状だったけど、日常生活に弊害がないので今は無視している。とは言え、記憶障害程度など年齢を重ねると誰でも現れるもの。サヴァン症候群に近いと自分で自分を診断したけど、自分の異常性を隠せるなら健常者と変わらない。

 何より世間体を守る程度は常識的なので、自分はきっと変わり者なだけの一般人だ。

 

「ジュニアの一回戦目、アタシ……襤褸負けした、雑魚がアタシ。覚えられてない、アタシ……駄目だ。良し死のう」

 

 面倒臭い。しかし、これをフォローしない程、私だって非人間な悪魔じゃない。

 

「すみません。あのーその、あれです、今思い出しましたから。はい大丈夫です」

 

「嘘だ!!!!」

 

「バレましたか。でも、名前はちょっとあれですけど、バドの内容はちゃんと覚えてますから」

 

 ズタズタにした相手だったか。成る程。それなら確かに、私をラスボス認定するのも分からなくもない。けれども、それでもバドを続けて、こうやって推薦を受けている所を見るに、メンタルが強い上に努力家だと言うことだ。人間は辛い経験がないと精神は強くなれないが、辛いだけでは鬱になって心が死ぬ。大切なのは、辛い経験を何だかんだ乗り越えて成功した実体験である。

 多分、雑賀瑠奈はまだ乗り越えていない。私を倒したくて、乗り越えたくて、バドミントンをしているように見える。まぁ、ただの予測だけど、今もバドをしている何割かの理由はそれだろう。しかし、その不屈の闘志を支える何か他の理由もあり、彼女のメンタルを構築する基本的な骨子となっていると考えるのが自然だ……―――ああ、知りたい。

 

「……もう良いよ。荷物整理始めようぜ」

 

「はい。了解―――で、何の本体を持って来ましたか?」

 

「プレステと箱とスウィッチ。後、ゲーム用のディスプレイ」

 

「私はPSだけです。なので、一緒にオンでもしますか?」

 

 ノーパソとディスプレイはあるので画面は足りている。二人部屋で中々に広い為、趣味の道具を保管するスペースはまだ余裕がある。整理整頓と互いのパーソナルスペースを平等に分けながらも、趣味を交えた世間話をそのまま続行する。

 

「良いねー……んで、何持って来たん?」

 

「ダクソとかブラボです。いやー、ぶっちゃけ友達と一緒にやった事なくて、地味に楽しみなんですけど……あれ。勿論、カルナさんは―――」

 

「―――あるよー」

 

「んんー、マジェスティック!」

 

 良し。コンビ組んで侵入しよう。あるいは、PKKで侵入者をジワジワと嬲り殺しにしてやろう。そんなことを考えつつ、新生活を何だかんだと楽しむ私であったとさ……何て、回想するのも終わりにしよう。入学して色々と本当に沢山のイベントが起きたが、やっとバドミントンの部活に参加出来る。自主練習はしまくっていたが、団体での練習はクラブ以来だ。

 

「羽咲織乃……っ!」

 

「あれが、あの……」

 

「……あれが三強殺しの一人―――」

 

「―――ジュニア大会の悪夢」

 

「しかも隣のビジュアル娘さん、全中で二位だった雑賀瑠奈。クイーンの芹ヶ谷薫子に負けたけど、ジュニア大会にも出場した人だ」

 

「場違い過ぎるバンドマン雑賀ちゃんだ。本物だ」

 

「にしても羽咲さん、眼鏡してない時の目付き、ちょっと殺意のオーラ出てないですかぁ?」

 

「「「「「「「ねー!」」」」」」」

 

 濃い。全員何だかキャラが濃い。良いから早く自己紹介に入って欲しい。体育館前の中で部活が始まる前の待機時間、動物園のパンダの気分でテンションが死んでしまったよ。どうやら私達二人が部屋に籠もってゲームをしている間、バド部で寮生活する一年女子は団結していたようだ。

 出遅れたか、無念。しかし、バドミントンで信頼を勝ち取れば如何とでもなる問題だ。

 

「皆さん、既に仲が良いですね……」

 

「……ああ、マジでな。もっとこうスポーツ高の部活って、敵を倒してやるぜってギスギスしてるもんかと思ってた」

 

 しかしながら、何か怖いくらいに仲が良い。高校に入る前から知り合いか、同じクラスでもう友達になっていたのか、私と雑賀さんみたいにルームメイトだったのか。まぁどれでも良いか、ギスギスバドするよりは遥かにマシだ。

 

「そんな事無いよ。本気なんだから、むしろ空気読んでなぁなぁで馴染まないとやってけないし。本気になるのは、本気にならないといけない時程度だよ」

 

「でもぉ、何であの羽咲さんが、態々こんな田舎町な群馬までぇ?」

 

 この高校は入学生を外見で取っているのか思う位、全員が優れた見た目をしている。そして、キャラ作ってるのが分かる程に分かり易いブリっ子っぽい媚売り風女子高生が、私に一気に近付いて質問して来た。男相手じゃなくても、同性の私に対してもちゃんと作ったキャラで接するあたり、ある意味肝が据わった女だと言う事が分かる。人の眼が有ろうが無かろうが、仮面を脱がない時はキャラを絶対に崩さず、異性にも同性にも平等に接する八方美人でもある。人に好かれる事に貪欲で、嫌われる事を恥だと思う女らしい女だが、同性には遠ざけられるタイプだろう。

 私は性格が複雑な人は反応が面白いので好きだけど。

 

「推薦を受けましたので。一番此処が良い条件をくれました」

 

「ふぅ~ん……へぇ、そうなんだ。神奈川のバドスターな羽咲さんが居たからつい気になっちゃってさ。でも、質問に答えてくれてありがとぉ!」

 

「どういたしまして」

 

 あらま。やっぱり腹黒い所がある。それ以外に県外に私が出る理由がないのは分かっているのに、推薦で来た事を此処で周りに露見させる訳か――ふふ。見た感じ、うわぁって雰囲気でこの子を見てるのが一人。興味なさそうなのが一人。嫉妬の目で私を見るの数人で、雑賀さんは楽しそうに私とこの子の会話を聞いてるだけか。

 でも、成る程。全員、牽制はし合うけど常識の範疇。精神面は大人のようだ。バド以外の場所でイキる様なヤンチャさんはいなくて良かったけど、それはそれで普通かな。

 

「は~い。一年生の皆、紹介するから集まって」

 

 女子の先輩かマネージャーの声がして其方の方を向く……む?

 声が若いから生徒かと思ったけど、まさかアレは先生なんだろうか。しかも凄まじく気が抜けていて、雰囲気も表情も疲れていて、あれじゃまるで長時間労働で過労死寸前状態な残業中のOLだ。まぁ学校の先生の部活動は基本サービス残業でほぼボランティア活動なので、定時時間内の授業中にサボるなら授業料返しやがれってなるが、ただ働き中の人にそこまで求めるのは正に鬼畜眼鏡。人の心がない悪魔。

 ……現代社会の闇だな、教職。

 死んだ魚の目をしている私が言うのもあれだけど、あの先生も目玉が死に腐ってる。ブラボの獣みたいに自分の意志と感情がドロドロに溶けていて、こっちを見て優しく微笑んでいるのに目の所為で快楽殺人鬼にしか見えない。バドをする為に今は外している伊達眼鏡とか、今度奨めてみよう。

 

「あー……また新年かぁ……部活のただ働きを毎年毎年繰り返さないと駄目なんだな……はぁ。良いなぁ若いって羨ましい――――……って、いけない。ちゃんとしないと。

 私はバド部の顧問をしてる山崎泰子だ。

 皆、バドミントン部にようこそ。先輩に紹介しますから前まで来て!」

 

 痛々しい。無理して先生っぽく元気出してるのが一目で分かる。多分あの先生、春休みもずっと部活動に参加していたんだろうな、土日も。しかも遠征や合宿にも付き合い、大会などの引率もあるのだろう。私生活は全て学校行事で潰えてしまい、ストレス発散するプレイベートが消える悪循環は、ただ単純に地獄の一言。

 ――……うん。見なかったことにするのが一番だな。

 ああ言うのは真っ直ぐ見ると鬱になるだけだ。子供じゃ大人を救えない。ブラック企業化する原因の人材不足を解消するのは経営者の手腕で、お客の立場である我々では何も出来ないのだから。まぁでも、先生は人より優しく接しておこう。それか外部から補助役のコーチでも雇うように、ちょっとだけ圧力を掛けておこうかな。

 

「神奈川県緑ヶ丘中学から来ました。羽咲織乃です。これから三年間、どうぞ宜しくお願い致します」

 

 最後の最後。どうやら並んだ順番的に、男子の自己紹介が終わった後、女子の女子紹介が始まって私で終わりのようだ。

 

「羽咲……あの―――」

 

「―――ジュニア大会の悪夢」

 

「そんな、あの羽咲が……三強を下したダークホースが……」

 

「戦わず優勝した不戦勝の女王……」

 

 ざわざわとするが、ぱんと一拍。拍手を一回叩く音を鳴らし、山崎泰子先生が生徒を静かにする。

 

「はいはい! 静かに!

 一年生の皆ありがとう。これから三年間宜しくね」

 

『はい!』

 

「では、恒例行事と行くよ。まずは経験者の一年生の皆には、先輩と試合をして貰うから」

 

 ほほう。思い切った事をする先生だな。目が死んでいてやる気がなさそうに見えて、性根は生粋のプレイヤーみたいだ。強い奴がコートでは正しく、実力で上下関係を教えるタイプの指導者か。生意気な中学上がりの高校生を従順な部活員にするには良い手段だけど……――いやあれ、分かっているな。

 この先生が、この部活で一番腹黒みたいだ。

 私が先輩を叩きのめす事を望んでいる。この私に、そう言う役目を求めている。

 背負えないなら態と負ければ良いだけだけど、一年からレギュラーに参加するなら遠慮する事なく勝てば良いだけ。

 

「だとよ、羽咲。良かったな」

 

「そっちこそ楽しそうですよ、雑賀さん」

 

「別に。私は私のバドを披露出来れば嬉しいだけさ」

 

「私もですから。ただ自分の有能性を証明するだけです」

 

 で、女子バド部部長をボコボコにした。語るまでも無く、私よりも弱かった。ついでに同じ体育館のスペースで練習している男子バド部の副部長も更にフルボッコにしておいた。本当はバド部はバド部で一纏めになっているが、取り敢えず男女で別れてはいる。この年だと女生徒が部長で、男子生徒が副部長だそうだ。

 しかし、年下に負けて茫然としているな。特に男の副部長は、年下の女に敗北してちょっと放心状態だ。実は人のプライドを圧し折るのとか、何故か母さんの所為で姉さんがバドを辞めてから妙に楽しく思えて仕方がない。母さんに捨てられ、姉さんにも捨てられ、更にその姉さんを捨てて家出もしたので、精神がかなり歪んでしまった自覚はあるけど、愉しいんだから楽しいので、これを止める必要は皆無だ。他人にこの悦をバレなければ何一つ問題無し。自分で自分の人格に難が有るのは分かっているが、勝ちを楽しむのは健常者として何一つ可笑しくない。

 けれど、やはり本気で全力を出すバドミントンは楽しくないな。記憶に試合内容しか残らないし、何の感情も湧いてこない。バドミントンそのものは気が付けば好きな娯楽になっていて、姉さんと母さんが居なくなっても続けるライフワークになったけど、試合自体は楽しめないか。最近は勝った後に失意する相手が可愛く思えて、自分が最高傑作である事を周囲に示す有能性に優越感を感じるようになって、精神的に成長したと実感は出来るので無駄ではないけど。

 

「先輩。試合、ありがとうございました」

 

「…………あ、あぁ。こちらこそ、は、はは、羽咲さん」

 

「はい。また練習しましょう」

 

 いやぁ良かった良かった。練習相手には十分強い人だ。試合自体は私が圧勝してしまったけど、別に問題はなかった。周りも見た雰囲気色んなテクニックを主軸にする人が大勢いて、部長も副部長も良い人そうだ。私みたいな糞生意気な少女に負けていても、勝った私に負の感情で見ていない。悔しそうだけど、私の技能を勉強して盗み取るガッツがあって、次は如何に勝とうか考えている。勝ち方を悩む事を楽しめる程に、二人共メンタルが強いみたいで、それが分かっていて山崎先生は二人を嗾けたようだ。

 本当、死にそうなOLにしか見えないのに、生徒を使う事に遠慮しない悪い先生みたいだ。けど、生徒が強くなる事に躊躇わない良い先生でもあるようだ。

 

「わぁ流石ですねぇ、羽咲さん。凄く強いよぉ……―――本当、とても」

 

「ありがとうございます。生方(うぶかた)(ゆかり)さん」

 

「これから同じ部活の一年生なんですから、もっとフランクに呼んで?」

 

「では、生方さんで」

 

「はいぃ羽咲さん」

 

 凄くほんわか柔らかく笑っているのに、瞳が欠片も笑ってない。試合相手の先輩を圧倒的な技で倒した後、二戦目をする私の試合をずっと見ていて、ずっと無感情に観察していたようだ。偶に試合中に態と集中を切らして周りを観察した時、憎悪とか嫌悪の感情に思える鋭い目付きで私の動きを見ていた。

 あれだな。ちょっと良い感じに歪んでる。フランクに呼んでとか言ってはいたけど、下の名前で呼ぶなと雰囲気で語っていた。どうやらこの高校で出会う前から嫌われている様子だけど、私に原因は分からない。となれば、初めて会ったのはこの高校じゃなくて、雑賀さんと同じで何処かの大会なんだろう。それも中学時代は他県勢なので、十中八九全国大会か。

 ふむ。メンタルブレイクでもしたのかな?

 けれども可愛い顔して禿鷹みたいな目を持つ生方さんは、これから同じ部活をする同年齢の友人として非常に良い相手だ。バドの技巧的には雑賀さんと同等か、少し下と言った雰囲気か。一年前の姉さんより二人共強い選手なのを見ると、相当の努力を積み重ねた強者だと理解した。

 ハイエナみたいに飢えた笑みと腐り澱んだ目付きをする雑賀さんと違い、生方さんは真っ直ぐな冷酷女と見た。建前として感情や思惑を隠すが、別に露見しても構わず狩りに行くタイプのヤバい奴だな。

 

「あ、勝ったか。これでアンタが一番になるな、羽咲」

 

「そうですねぇ、凄いですぅ……ふふ。勝った一年は、運が良ければレギュラー入り出来るかもぉ」

 

「さぁ、それはどうでしょうね?

 しかしながら、先輩方に勝てた一年は私達三人だけみたいですから。そう言う希望的観測が有る方が、私達以上に経験豊富な先輩方相手にやる気が出ると言うものですね」

 

 こいつら、笑ってるのに目が笑ってないなぁ……はは。泣きそう。でも、メンタルが強い二人っぽいので、これから先の部活動で好きなだけ甚振り弄べ――じゃなく、一緒に楽しくバドが出来るというものだ。姉さんや芹ヶ谷さんと同じ位打たれ強いと尚も良しだけど、多分楽しめそうで今はとても心地良い。やっぱりこの高校に来て良かったし、先輩も強い人がちらほらいて面白そうだもの。

 

「でもほらさ、まだ全員で当たって戦った訳じゃないですから。それにこのバドミントン部のエースも誰か知りませんしね。

 何よりも、貴女達二人―――私に最初から負けるつもりで?」

 

「―――はは」

 

「ふふ―――」

 

 雑賀(さいか)瑠奈(るな)生方(うぶかた)(ゆかり)か。どうやら相変わらず私は敵には恵まれているらしい。後で生方さんの詳しい情報も調べて、どんな人なのか知らないとな。でもまずはレギュラー枠を取って、派手に練習を楽しもう。

 最も優先すべき事は、この私こそ最高傑作だと母さんに示す事なのだから。













 オリキャラ二人参加します。この高校で意気投合した同年来の部活友達とでも。
 実は中学のゲーム部に助っ人としてゲーム大会にもイモノイモコの名前で織乃は参加して、芋砂凸砂の化け物として某動画サイトで人気なる程の変態廃人です。その所為でこの高校にあった総合ゲーム部へ強制入部させようとする変態金髪女部長とか、廃人ゲーマーなのに全国優勝した若き天才バド選手を玩具にしようとする新聞部のマスゴミ部長と戦い抜き、何故かバド部のユニフォームのデザインをしている美術部の美少女部長(両刀使い)に一目惚れされ、ユニフォームデザインを人質に絵画のモデルにされそうな所を鬼の風紀委員長に助けて貰ったりと色々とドラマがありましたが、無事に何事もなく高校のバド部に入部しました。
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