「―――やぁ。ママとデーモン、おひさーです」
「ええ、久しぶり……――あれ?」
「うん、久しぶり……――んん?」
その声に反応して、三浦さんと藤沢さんが振り返った。気配を完全に消し、足音も無くし、私が天使様にされたように背後から完全な奇襲に成功した。
「ひゃぁあ! ソンビなって甦った!?」
「うぎゃあ! なんで、織乃なんで!?」
ゾンビでスレイヤーか。私の友人は、この私を何だと思っているんだろうか。取り敢えず、人間だと考えていないのは事実だろうな。
「いやぁ、私の高校の先生もこの合宿企画の一人なんですって。何でも、フレ女の先生とも知り合いらしいです」
「あ、そうなんだ。そんな事より、久しぶり織乃」
「うんうん。久しぶり~」
軽いなぁ。まぁでも、そもそも私相手に重苦しい雰囲気とか出す二人じゃないか。
「しかし、上手い事やりましたね。良くまぁあの拗ね果てた姉さんを、しかも挙げ句に協調性皆無の唯我独尊な姉さんを、ちゃんとバドミントン部に入れられましたね。
まぁYouたち、良くやったと褒めてつかわそう!」
いや本当、マジで尊敬する。どんな詐欺に引っ掛かったのか、姉さんが心配になるレベルで尊敬に値する。そんな風に褒め称えていた私に、ちょっとアカン目付きになった三浦さんが近付いて来た。
あれ、これ……まさか殺気?
交通事故で車に轢かれそうになった直前に感じた寒気と、今私が襲われている悪寒はとても良く似ていた。なので危機感のまま後退りしたのに、その距離を一気に零にして三浦さんは更に一歩踏み込んで来た。
「なんだぁテメェ……」
「痛い痛い痛いですからぁ!」
アイアンクロー! なんでアイアンクローなんで!?
「あ、宙に浮いてる。いいよ、のり子。もっとキツ目やって上げなさい」
「オーケーだよ、エレナちゃん。でもさぁ、秒で私をキレさせるとか、流石の煽りスキルだよね」
酷い。折角褒めたのに。これが人間のすることかよ!
だがしかし、デーモンのアイアンクローなど既に攻略済みよ。三浦さんの手首を掴み、頭部の皮膚がズルリと剥ける悪寒を我慢しながら回転し、まるでプロレスラーの必殺技の如き俊敏な動作で宙へ飛び出る。
けれど、眼鏡外しておいて良かった。デーモンの握力を考えれば、父さんの伊達眼鏡なんて粉々に砕かれていただろう、私ごと。やはりデーモン恐ろしい。この世の生き物じゃないな。
「なんと。腕を上げたねぇ、織乃ちゃん」
「この悪魔め!」
「悪魔で良いよ。悪魔らしいやり方で頭を潰してあげるから」
「それ、ただの悪魔でしかないですよ!?」
「そうとも言う」
恐ろしい。友人の頭蓋をノータイムで粉砕しようとする女子高生が、普通に目の前にいた。正に心なき者と言える所業。
「あ、おい。藤沢に三浦、この子誰? 羽咲に似てるけど?」
長身の美少女が声を掛けてきた。羨ましくなるほど理想的なアスリートの体躯で、筋肉も十分以上に付いたマッスルさんだけど、やはりと言うかアレか、多分膝を悪くし始めている。庇う動きはないが、違和感が少しだけあるな。とは言え、スポーツマンに付き纏う当たり前な厄ダネなので、普通の事を言えば普通のこと。
私も肘と膝がヤバい時もあったが、そこは療養と鍛錬を両立させれば良いだけの事。体を壊すなんて事態、バランスに気を付ければ良いだけだ。とは言え、これが出来る様になる為には、自分自身の身体能力と頑丈さを理解した上で、日々のトレーニングも全て一から百まで制御しなくてはならない。だから私は、自分自身を貴重で唯一無二な実験動物にすることで、姉さんと芹ヶ谷さんを強くすることを出来た訳だしな。
「荒垣部長。この子も羽咲ですよ。綾乃ちゃんの妹の羽咲織乃です」
「赤堀に行ったけど、その高校も合宿していたようですね」
「へぇ、アンタが……あの、羽咲の妹の羽咲織乃か。まぁ、あれだね、合宿中は宜しくな」
「はい。宜しくお願いします、部長さん」
荒垣か。まぁ、知ってはいるけど、見た事もない人だ。記憶に覚えも……うん、いや。あれ。あ、そう思えば、姉さんと戦っていた人かな。私は集中し過ぎると、精神統一を開始した直後から、一つの機能以外全てカットされてしまう。だからバドに本気を出すと、試合中とその前後の記憶がかなり混濁して試合内容しか身に覚えられないが、リラックスして人の試合を観戦している場合はまた別だ。
なので、この顔に見覚えがあった。姉さんが心を折った人の筈だけど、成る程。まだバドを続けていた訳か。いや、良かった。芹ヶ谷さんと同じでズタボロの襤褸雑巾になるまで敗北し尽くしても、今までの努力を否定されても、まだ続けているとなれば良いメンタルの持ち主なんだろう。強い人は、強くなれる精神を持っているものだ。こればかりは生まれ持った素質なので、才能の有無など無価値な領域。何だかんだ言って、スポーツが強い人は強くなり続ける事が出来る人だけである。
その点、姉さんは素質がない母に依存するマキシマム天才だったけど、そこは周りは助ければ良いだけの話。母さんがいなくなった後は、バドを続けらせる為に私や幼馴染二人に依存させてみたけど、折れる時は折れるからな。いやはや、教師や仲間が居てこそスポーツは楽しめるのだから、そう言う環境はやっぱり大事にしなければならないのだろう。
「ん~でも、貴女があの荒垣先輩でしたか。何時も姉さんがお世話になっています。多分に迷惑を掛けていると思いますが、どうかこれからも面倒を見てやって下さい。
本当に、本当に、お願い致しますね」
取り敢えず、二人からはラインで話には聞いている。部長の荒垣なぎさか。
「あ、ああ。うん、分かった。自分なりに頑張ってみるよ」
「ありがとうございます!」
目、かなり泳いでるな。もうかなり迷惑を掛けた後と見た。しかし、ちゃんと頷く当たり人間出来ている方なんだろう。それに、どうも結構な御人好しな雰囲気もあるし、人の面倒を見るのも嫌いではないと感じた。それなら姉さんみたいに手間が掛かるも、きっちり期待には応える才女なら、面倒見るのも中々に面白いので大丈夫だと思う。
ま、そもそもママとデーモンがマネージャーしてるので不安は一切皆無だけど。どうせ高校の不良も全て配下に治めていることだろうし、私の町の同年代でデーモンに逆らう愚か者はいないだろう。いたらそいつは勇者か生贄だ。
「―――……で、どうですかね。私とやりますか、部長さん?」
「へぇ……―――アンタと?」
「はい」
とのことで、面白い人発見。姉さんとリベンジしたいと思っているだろうこの人の実力、ちょっと拝見させて貰おうかな。しかし、能力全てを出し尽くす試合じゃないので、本気でも全力でやる必要はないだろう。ちゃんと練習になるように、記憶が吹き飛ばない程度には力を抜いて試合をしてみよう。
それに姉さんの部活の人のレベルは見ておきたい。ただの興味本位ではあるが、知っておいて損はない。そこそこの練習相手が居れば勝手に強くなれる脳味噌に姉さんをちゃんと鍛えたけど、強い相手がいるのはとても良い事だ。ライバルは多ければ多い程、選手として素晴しい出来事に違いない訳だしな。
「織乃、こらこら」
「織乃ちゃん、悪い顔になってるね。先輩も良いんですよ?」
二人は私の挑発を抑えに来たけど、まぁ耐えられる訳がない。だってこの人、見るからに闘争心の塊だもの。バドミントンが好きで好きで堪らないって感じが、私には堪らない。姉さんと同じか、それ以上に好きだって感情が明け透けに見えている。
何よりも、楽しそうだ。
「良いよ、三浦。やろうぜ、羽咲」
「はい。ありがとうございますね、部長さん」
素晴しいな。良い返事だ。これこそ青春してるスポーツマンって感じだよな。全く、こう言う青さを姉さんや芹ヶ谷さん、雑賀さんと生方さんにも持って欲しいものだ。何故かあの人達、凄くどす黒くグロイ性根が見え隠れしてるので、こっちとしてはバドをするだけで楽しくなってしまうもの。逆にこう言う荒垣さんみたいな人だと、気持ち良いバドが出来そうで嬉しいが……さてはて、どんな程度かが問題だな。
悪化した怪我とか、今日は偶々不調とか、ブランクとか、スランプとか、そう言う本気を出せない理由がないと良いんだけど。
「じゃあ、サーブはどっちにしますか?」
「アンタからで良いよ。シャトル持ってんのそっちだし」
「分かりました」
さて、また一試合と行きますか。コートも丁度空いた事だし、審判役を呼ぶのも面倒臭いから、カウントは自分達で取れば良い。ラインのインアウトの判断も、それぞれの裁量で決めれば良い。
「あ~、その試合前にすみませんけど、私を相手にして大丈夫だったんですか?」
「フレ女のこと?」
「はい。団体の練習試合をするようでしたけど?」
「あぁ……うん、それか。まぁ別に良いよ。実は団体の人数、脱走者が出てこっち一人足りないし、向こうも何だかごたごたあってまだ一人足りないんだってさ。
だから、ちょっとまだ時間があるんだよ。ワンセットなら多分大丈夫だし……」
「……はい。成る程、分かりました。まぁ、時間になりましたら、私も違う人と試合をしますので大丈夫ですよ。最後まで出来ないなんて事になれば、それはとても残念ですけど。
しかし、時間内に終われば何も問題ない事ですので、何一つ問題ないと言えば問題ないことですからね」
「へぇ。やっぱ羽咲の妹だね。アタシを時間内に倒して見せるって?」
「まぁ、失礼なのは自覚していますよ。でも、そう言う方が楽しそうかと思いまして。嫌な気分でしたら、今直ぐにでも撤回しますけど?」
「上等……!」
うん。ちょっとは相手の集中力が高まったように見えるな。どうも私を見る目に怯えや拒絶感があったけど、それもある程度は挑発で拭えたようだ。恐らく姉さんに対してトラウマがあって、姉さんに双子故にそっくりな私にも恐怖があるのだろう。せめてメンタルは万全にして試合に挑んで貰いたいけど、さてはて?
でもま、全てはコートに立てば分かることだ。とっとと試合を始めて練習しよう。体も温まっているし、この心地良い疲労感のままエンジンをまだまだ回転させ続けたい。
「―――く!」
「うーん……」
リードを取るのは難しくないな。点を取るのも問題なく、リターンとカウンターで全部決め球を返せるのでそっちも問題ない。後はそう、相手のキレが良くないな。ドライブやら、カットやら、スマッシュやら、リターンやら、技術自体は十分高いのに、何故かジャンピングスマッシュがヨロシクない。得意技っぽい雰囲気を持っているのに勿体無いけど……あれか、得意技だからこそキレが良くないのかもしれないのかも。
……成る程。となると、ジャンピングスマッシュにトラウマがあると見える。
まぁ姉さんに全く通じてなかったから、それが原因だろうな。精神的外傷として刻まれて、選手に必要な絶対的自信が消え失せたと見える。立ち直れないと、折れた心ってのは時間経過と共に磨り減るものだから、こうなってしまうのも仕方がないのだろう。
「……けれどなぁ―――」
別に、如何でも良いと言えば如何でも良い。姉さんと芹ヶ谷さんと違って私の作品って訳じゃないし、何かコメントする意味もない。何よりも、練習試合で全力を出してないとは言え、試合中に話掛けるのはそもそも好きじゃない。
ならさ、ちょっと遊ぼうか。
心を折るんじゃなくて、スカした
例えばそうだね、
「―――じゃあ、ちょっとだけ」
あの姉さんの不可思議な超感覚を、我流の論理で再現してみよう。あのおぞけがする的確さは、本気の姉さんと試合をした事がある人なら嫌になるほど感じ、姉さんの気力悪さを実感したことだろう。私だって姉さんの狙いの鋭さと、何より相手が苦手とするポイントを見抜く眼力は不気味を超えて恐怖する程だもの。なので妹からしても姉さんのセンスの良さはちょっと次元が違うと感じてしまうし、あの反射神経が羨ましいとも思う。いやぁ私が身に付けさせたとは言え、どんな脳味噌をすればあそこまで相手の不得意な箇所を暴き立てられるものやら。
だから、それを妹の私が欲するのも自然な欲求。
バドミントンの選手として、人が持つ技術の全てが欲しいと思うのは当然な筈。
観察した個人の技術も、戦術としてのスキルも、全部、何もかも頭の中に入れて実践的に行使可能。無才の凡愚であるならば、何もかも使いこなさないと勝機を自分の手元に引き寄せられないのだから、万全で在り続けることが私のバドミントンである。
所詮、羽咲織乃風情では敵を倒せる武器なんて頭一つだけ。
常識に囚われず、バドの既成概念を思考せず、零から築いたマイルールのみ信用する。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
「――――――」
呼吸が乱れているなぁ……でも、ちょっと変だな。なんであそこまで必要にシャトルを無理矢理にでも取りに行くのやら。やるなら打たれる前から動き出さないと駄目だし、もっとちゃんと小刻みにリズムを取って、一瞬で踏み込まないと膝にも体力にも悪い。私は完全に動きが我流入ってるから、脳味噌で体のリズムを常時取り続けて、タイムロスなしに脱力して膝を自在に出来るのでステップも楽に使えてアレだけど、そっちはまともな正統派バドミントン選手な筈だろうに。
私は母さん大好き過ぎて、母さんに認めて貰いたい余り、母さんの言う事を参考程度に聞いて強くなった悪い子だもの。誰よりも強くなりたいなら、知識は集めに集めて研究しまくって、技術を勉強し尽くして、自由自在に自分勝手に練習漬けの毎日を楽しんだ精神異常者だ。だって才能に溢れた自慢の母さんのやり方じゃ、私は姉さん以上には成れそうになかったから仕方ないよね?
だから、ほぅらさ、姉さんはとても素晴しいでしょ?
私は姉さんのプロトタイプとも言えるから、貴女にとっても良い練習相手になるでしょ?
荒垣なぎさ、成る程。成る程。その体躯は素晴しい才能に溢れていて、身長も高く、バドの選手に相応しい柔軟な筋肉だから、そもそも私より強いのは至極当然。生物として私が劣っているのだから、これは当たり前な事実として存在する。
だからさ、それが良くて素晴しい。
その素質と才能が生まれながらの武器である。
そして、その力を如何に攻略する戦術を考え着いて、それを可能とする技術を身に付ける為の練習こそ、私のバドミントンの全てである。
うーん、やはり思考は良いなぁ。脳が気持ち良い。
何でも良いから、考察して、推察して、過程を経て、結論に至る。
意味もなく相手の暴いて、技術も精神も自分の手札に加える作業が楽しい。試合だと楽しむ余裕はないからただただ暴くだけなんだけど、何時か試合も楽しめる程の選手に成長したいものだ。
「3-11ですね、部長さん?」
「はぁはぁ……そうだな、羽咲!?」
ニタリ、なんて擬音が似合う笑みとか浮かべてしまいそう。うーん、やっぱり良いな。折れてない折れてない。負け癖とは違って、打たれ強い人みたいだな。とは言え、そうそうに技巧で負ける気はないし、体力は糞程付けているので問題なし。何よりも、私の戦い事はエコの極みなので体力消費は抑えている。
しかし、勿体無いなぁ勿体無い。ジャンピングスマッシュ勿体無い。
本当の荒垣さんのスマッシュが見てみたいなぁ……そうだよな、うんうん。確かに、この人には何の義理も友情も信頼もないけど、この欲求を抑える理由もまた私には一欠片とて存在していない。していないけど、でも駄目だな。技術を教えるのは良いけど、これだと言う精神論だけは自分自身で辿り着かないと、それが自分自身に融け込んで自己の一部になりはしない。言っちゃいたいけど、バドミントンと言うスポーツを愛する文化人として、誰かのバドミントンを侮辱する真似はいけないよな。弱い奴の心を折るのは文化人として行うべき選別だけど、自分の作品以外の
しかし、言いたい。言っちゃおうかなぁ……ああ、しかし、やめておこう。そう言うのはコーチがするべきだし、あるいは自分で気が付かないといけない。私に教えて欲しいって言って来たら、その人はもう私の作品になるから別に良いんだけど、荒垣さんはそうじゃないんだしちゃんと自重しなければな。自分が教えたら強くなれそうな人は大勢いて、誰もを自分の色で染めたくなってしまうけど、私は相手が了承を得た作品じゃないと教えないようにしなくてはならない。だって、そうじゃないと姉さんと芹ヶ谷さんが特別じゃなくなってしまうし、最近始めた雑賀さんと生方さんにも申し訳ない。
「くそ……!」
「これで5-19ですね」
やっぱりこの人この様子、スランプ真っただ中だったか。
それじゃあ私なんかと試合をするのは悪影響。折れた心を砕くようなもの。
巧いと言えば巧いし、パワーもあって素晴しい選手だけど、特筆する何かが腐っているんじゃ別にって雰囲気だよな。
私も相手の能力を査定して特別に戦術を一から練る必要もなく、汎用戦術を使って攻略すれば良いだけ。
と言うことで、この結果もまた必然で普通。狙いは良いけど力がない腑抜けたスマッシュをクロスでリターンし、がら空きのコートに返して上げた。うん、私の運動神経もばっちり機能していて、使い勝手も何時も通りで宜しいことだ。
「5-20か……はぁ、はぁ……ック。これでアンタのマッチだな―――!」
「そのようですね」
けれど、諦めてはいないようだ。もうこれ意地だよな。でも見苦しいだなんて私は思わない。そんな事を思えるのは才能持ってるのにメンタル腐ってる奴だけだし、私が見苦しいって思うのはメンタル腐って努力しないままスポーツ続ける凡愚以下の怠惰な人間にだけ。
とは言え、どんな人間だろうとバドミントンをしているなら、その文化が好きな人なので別に如何ともしないけど。ただただ試合で打ちのめすだけだし、それは誰が相手でも同様である。
「5-21ですね」
「ああ、そうだな……ッ―――はぁ、ふぅー」
「取り敢えず、1セットありがとうございました。そちらとしても、練習試合前の軽い運動にはなったと思いますけど……うーん、どうしますか?
ちゃんと最後のセットまでします?
まだフレ女も人が来てない様ですし、そちらもバタバタしてるみたいで時間ありますけど?」
「はぁ……はぁ……いや、良い。付き合ってくれて、どうも」
「はい、そうですか。では、練習試合頑張ってくださいね」
「…………あぁ」
しかし、5ポイント取られたか。
姉さんと戦った去年よりかは遥かに成長してはいる。
ジャンピングスマッシュと、それに準じてスマッシュの勢いがスランプってだけで、技術と機能は更に向上しているのだろう。そもそも身体機能自体は私以上だし、勝っているのは反射神経やら動体視力やら柔軟性程度だもの。肉体面の才能って考えると、私はぶっちゃけ死力で鍛えても糞雑魚蛞蝓だからな……本当、マジ凡愚だな。
「はぁ……」
ベンチでまた一休み。これからフレ女レギュラーと北小町の練習試合をするみたいで、ちょっとした準備が向こうで始まっていた。
なのに、まだ姉さんとクリステンセンは来ていない。
私、ちょっと暴走しそう。手頃なのでバドしてくなって堪らない。
フレ女の人と練習試合はしたけど、あっちみたいにキッチリした団体試合方式の練習って訳じゃなかったからな。
生方さんなんて大学のイケメン男子をコートの中で甚振ってるし、雑賀さんもイケメン男子その2を点差付けてボコボコにしている最中。全く、趣味悪い女共だ。そりゃ私が教えた技術と戦術を見知らぬ相手へ存分に使うのは愉しいだろうけど、あの人たち嗜虐性無駄に高いから、ぶっちゃけ部活の同年にも先輩にも余り戦いたくないって思われてるからな。そして、何故か微妙に協調性がないあの二人の面倒をさり気なく見せられ、先生も一年生連中を私に面倒見させようと誘導してやがる。面倒臭いから絶対ヤダけど。精々面倒見れるのは二人が限度だし、やるなら徹底しないと意味ないので雑賀さんと生方さんくらい狂ってバドする人じゃないと、私自身も研究成果を活かして技術を教え込めないからな。
他の部活仲間も張り切っているので、どうやら丁度良く私だけ休憩タイムに入っているようだ。スポーツ飲料を飲もうと思ったけど、甘い刺激が欲しかったので、ちょっと自販機まで飲み物買いに外へ行こう。
「あ、ジンジャー発見」
ふむふむ。良い趣味してる自販機だな。この世で最も美味い炭酸飲料が置いてあって良かった。甘辛いシュワシュワ刺激が舌を痺れさせ、糖分が脳味噌を活性化させてくれる。そんな至福な時間の中、太陽の下で自販機置き場のベンチに座り込む。ペットで量が多いけど、ジンジャーはここで飲み切ってしまおう。体育館の中にはポカリがあるし、持って行っても仕方ない。
なので、一口で一気に飲み込む。う、ゲップ出そう。でも誰もいないし、別に良いかな……ん、ふへぇ~。口から出るジンジャー臭い甘い香りが鼻に付くが、炭酸飲料飲んでいるの別に普通だなぁ―――あ?
「―――姉さんが、金髪野郎に連れられてる?」
よし。隠れよっと。不気味過ぎて話掛けられない。しかし、あの姉さんと二人っきりになれる若い男か、良し殺そう。あの状況は学校の先生だろうと不自然だ殺そう。全く、藤沢さんと三浦さんが居ると言うのに、私の前で散歩デートとはやってくれるよ殺してやる。
―――は、いかんいかん。
脳裏がちょっと殺意一色に染まってしまった。まず冷静にならないとなぁ……はぁ、辛い。これからどうしようかな?
キングダムハーツ3が出るので思い出そうと思ったけど、作品滅茶苦茶あって吃驚した。1と2がPS2なのにも戦慄した。と言うか、主人公が直接関係ない因縁背負い過ぎて、3は凄まじい事になってそう。なにはともあれ、ハゲノートが諸悪の根源とだけは分かった。
後、FGO二部三章も良かった。ひひん。