シンドウの最高傑作   作:サイトー

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十九話 偶像の失墜

 心が折れそうだ。見たくなんて無かったんだ。人間性を火の中に捧げたくなる気分だ。後、絶望もついでに捧げたい。

 

「これが……――」

 

 無様にも程がある。コートに飛び込んで、自分がシャトルを吹き飛ばしたくなる。本当に有り得てはならないのに、だがしかし納得しかない光景。試合はダブルスではあるが、動きはシングルスと違っても、それは戦術の違いで必要な技術は同じ。組んだ相手にもよるが、そもそも姉さんのパートナーは優しい人みたいだし、姉さんのバドを邪魔している訳じゃない。

 動作が甘い。

 初動が温い。

 間接が鈍い。

 視線が遅い。

 呼吸が弱い。

 全然駄目だ。

 何もかも、崩壊している。

 崩れている。壊れている。

 母さんが捨てた私の最高傑作が、一年で駄作に成り下がってしまっていた。全て最初からやり直しだ。分かっていた事だけど、姉さんが心折れた数ヶ月間はもう二度と戻らない。

 

「――……今の姉さんか」

 

 三浦さんと別れ、赤堀側の陣地に戻った。ベンチに座る気にもなれず、そのまま体育館の床に座り込み、壁に背中を預けた。さっきまで休んでいて、三浦さんの御蔭でストレスも減って、心が軽くなった筈なのに、気が重い。精神が澱んで、意識が混濁して、気が狂いそう。

 コニー・クリステンセン。私にとっての姉か、あるいは妹か?

 もはや、その事実から目を逸らすのは止めにしよう。あれは間違いなく母さんの娘だ。彼女は……あぁ、そうなんだろうな。クリステンセンは多分、私以上に母さんの娘に相応しいプレイヤーだ。私は母さんの子供だけど、あの女こそ母さんが育てた素晴しい選手なのだろう。神藤の最高傑作なのだろう。プロの試合映像を徹底して研究し、クリステンセンの癖も、技術も、思考も、感情も、全て理解し、学習済みな筈なのに、常に成長し続けているのも確認出来た。若いプロ選手であるからか、経験を積んだ老獪さと、意外性と、万能性と、成長性も兼ね備えながら、前見た試合映像の時よりも巧くなっている。感覚(センス)も優れ、肉体(フィジカル)の性能は隔絶してると言っても良いレベルだ。

 あぁ、良いな。素晴しいなぁ……面白いな、やっぱり愉しいな。

 クリステンセン君は確かに良い。何もかもが上手く、強く、速く、鋭い。

 だからさぁ私、ちゃんと母さんの心を理解出来たよ。こんな化け物みたいな才能の塊だもの、育ててみたくて堪らないくなってしまったんだね?

 脳味噌の保管しておいた情報はもう古臭い。速く早くこの情報を更新させて、あの生の動きを目玉を通じて脳に焼き付けて、思考実験の材料に作り変えて、イメトレの動きに取り入れないと。今この瞬間から、私の中で最高傑作(クリステンセン)を作り上げないと。

 あぁ、ああ、ぁああ糞っ垂れ―――……胸糞悪いよ、母さん。

 何であんな化け物を貴女が、私達が居た筈の貴女が、私達を捨てて、そこまで決意して育ててしまったんだ!!

 そんなに才能が好きなの?

 私たち二人よりも貴いの?

 強くないと愛されないの?

 何でバドをそこまで、貴女は何でバドミントンをそこまで求めて……娘も男も親も捨てて、世界を彷徨ってまで求め続けて……ッ―――!

 

「クリステンセン君―――か……うん。一番凄い才能だ」

 

 認めているさ、最初から。見た時から、全部何もかも理解しているさ。

 必要な才能全て持ち、大事な素質を全て宿し、強靭な精神が全て可能にする。姉さんなら正面から倒せる可能性はあるけど、何もかもが劣る私じゃクリステンセン君は倒せない。罠に嵌め、術で貶め、心を挫くしか手段がない。真っ当な倒し方だと勝ち目がない。

 ―――研究しないと。

 無才の凡愚でしかない私が姉さんみたいに、芹ヶ谷さんみたいに、真正面からクリステンセン君を倒せる程の感覚と技術がいる。惰弱な肉体を、もっともっと改造しなくてはならない。ただ勝つだけじゃ証明出来ないんだ。最高傑作なのだど証明する為には、バドミントン選手として勝たねばならないんだ。

 技がいる。戦術を実行可能とする鋭い技が。

 あんなのに勝たないといけない何て、全く、本当―――バドミントンは最高だ!

 それだけは感謝させて頂きます。何もかも許しているけど、これだけは許すだけじゃまるで足りません。だから、母さんの作品はこの私が倒します。

 

「ねぇー羽咲。あれが、あんなのが、今の神藤なんですかぁ?」

 

 座り込んで静かに練習試合を観察する私に、生方さんが話掛けてきた。そのまま隣で体育座りをし、私に視線を向けず、神藤(姉さん)だけを狂えるように見ながら、感情がない声を吐き出していた。

 

「そうですよ。幻滅しましたか、生方さん?」

 

「うん。凄く幻滅した。激オコぉって感じ。なにあれ、ふざけてるんですか。今の私がどんな気分なのか、羽咲なら分かってると思うけどぉ?」

 

「はい、分かりますよ」

 

 行き場のない怒りだな。倒したい敵が、憎悪に値しない弱者になっているなんて、私だったら耐えれそうもない。倒したいのに、目の前にいるのに本気を出せないなんて、多分気が狂いそうになるだろう。

 

「だよねぇ~……―――本気で、やるせない。あんなのに今勝ったって、私はなんの意味もないじゃないですかぁ?

 意味分かんない。理解出来ないって言うかさぁ……なんで、なんで、あの化け物が―――なんで、あんな様に、ほんま、なんでや羽咲?」

 

 涙が出てないのが不思議なほど、生方さんは叫ぶのを我慢するようにクリステンセン君と戦う姉さんを見ていた。身の内から湧き出る絶叫を耐えるように、じっと我慢して私に負の感情を差し向けていた。

 ま、それで良いけどな、別に。生方さんも自分の感情が分かっているだろうし、その上で私と会話することで平常心を保っている訳だもの。ここで見捨てたら、そもそも友人関係を建前でも続ける必要性さえ皆無となることだ。

 

「姉さんは姉さんで心折れてましたから」

 

「はぁ? あの神藤が心折れるって有り得るんですか?」

 

「じゃ、あの様をどう説明出来るんですか?」

 

「それは……ッ――!?

 ……うん。まぁ、そんな事もあるんだろうけどぉ。でもさ、私を潰した神藤の方が、なんで私よりもメンタルやられてるのか、今一分かんないなぁ」

 

 母さんの事を生方さんに言う必要はない。それは余分だ。ただの試合相手であれば良いし、生方さんに迷いを作るのも不本意だ。

 

「ま、時間が解決してくれますから。インターハイまでには復帰しますよ。なにせ、私よりバドが強い私の姉さんなんですから」

 

「神藤が羽咲よりも、ですかぁ?」

 

「はい」

 

「ふぅ~ん、そっか。だったら、まぁ良いでーす。

 けどぉ、そもそもインターは一都道府県で二人まで。私が出られるか、あの様の神藤が出られるかは、まだまだ分かんないよねぇ」

 

「そですね。私もうかうかしていられないですね」

 

「うざッァ……羽咲ウザ。そんな思っても無い事言うの、嫌味っぽくて好きじゃないでぇ~す」

 

「はいはい。そですね……―――あ。終わりましたね」

 

「あ、本当だね……で、羽咲。神藤のところへ行くの?」

 

「うん。まぁそんな感じです」

 

「そうなんだぁ……ふぅん。じゃ、らしくないけど、羽咲なりに頑張ってね」

 

「どうもです。それなりに頑張りますよ」

 

 らしくない、ね。それは私が私らしくないって事か、あるいは貴女が私なんて言う友達もどきの道具を心配している心境の変化なのか、とても気になるな。とは言え、どっちとも正解だろう。生方さんはかなり偽悪的な性格をしているからか、ある意味清廉潔白で、良くも悪くも情が泥沼みたいに深い。

 まぁ生方さんの中では、バドの良い練習相手から、話がそこそこ合う友人程度にはランクアップしたと見える。本人は自分の感情を認めるのを何故か罪悪感と生理的嫌悪感から拒否してはいるが……さてはて、その理由も推測出来るが決め付けはやめておこう。他人の秘密は蕩けるように甘く、愚かな好奇が人の中身を暴けと囁くが、友人を玩具にするのはスポーツマンシップに反するだろう。私も傷付きやすい心を持つ娘なので、人からは嫌われるより好かれたい。

 ――………さて、愉しい厄介事を片付けるか。

 本当の口調が出てしまいそうになる。ぶっちゃけ、自分の精神は男でも女でもない無性に近いから、何とか形からでも女子っぽい似非敬語口調にしているが、クリステンセン君相手にそこまで丁寧にする気にはなれそうにないな。誰かにアドバイスされた訳じゃないけど、口調程度は柔らかい方が良いだろうと思って矯正したが、それなりに女の子っぽくはなっている筈。とは言え、参考にしたのはアニメとかドラマで、人受けしか狙ってない似非敬語にしか過ぎないけど。女子相手だと、もうちょっと口調荒くして頭悪い感じにした方が印象は良いけど、私が善人じゃないと分かってる人には別段構わない事だ。人によって対応は変えないと、人間は人並み程度の扱いを受けられないしな。

 

「……………――」

 

 あー……うんざりだ。

 何もかも、偶に如何でも良く瞬間がある。

 叫びたくてどうしようもないし、暴れたくて可笑しくなりそう。

 自分自身の感情が不安定で、どっしりと定まった土台がないアヤフヤな人格に過ぎない私は、障害一つで思考回路が澱んでしまって、狂ってしまって、バドミントンがしたくなって堪らなくなる。今も、凄くとても堪らないんだよ。

 糞、糞……―――クソ!

 何で全てのプレイでそうしないかなぁ、私の姉さん。

 教えた通りにして欲しいんだけどなぁ、何でそんな余分が付いている。

 無心でやれと教え込んだ筈なのに。思考回路の癖を消せと念入りに脳味噌まで鍛えた筈なのに。強くなる為のバドミントンと、楽しむ為のバドミントンと―――徹底して勝つ為だけの、私達(シンドウ)だけのバドミントンは違うだろう!

 相手はあのクリステンセンだ!

 何でそんなヤツ相手にバドを楽しむ要素がある!?

 勝つ結果のみ求めないと、その女には姉さんだって勝てないだろう!!

 クリステンセン君をムキにさせたのまで良いが、それ以降はまるで駄目だったよ。クリステンセンのパートナーを棄権させたのも良いけど、根本から爪まで全て激甘だったよ。

 技術が錆び付いたのは良い。

 身体能力が衰えたのも良い。

 けれども、その心まで堕落したのは―――許し難い。

 折れた心がまだ何も戻って来ていない。姉さんはまだ何も立ち直っていない。

 無意味な時間だ。取り戻さないとバドミントンを再び始めた価値がない。このままじゃ今以上に強くなれないかもしれない。底無しに貪欲な闘争心と、際限無く湧き出ていたバドへの意欲が消えたままになっている。それこそが姉さんを姉さん足らしめる絶対の素質であり、圧倒的な才能を生み出した本当の力。肝心要の中身が腑抜け、そんな様のままコートには立たないで欲しいから、もう本当は分かっていたよ。まだまだ姉さんは駄目なんだね?

 だから、私も一肌脱がないと。

 見せて上げるよ、今の私のバドミントンを。

 

「――姉さん、久しぶり」

 

 パチパチパチ、とまずは祝福しよう。何はともあれ、拍手をして称賛しよう。言いたい事を腐らせる前に吐き出したい気分とは言え、相手が棄権したとは言え、勝ちは勝ち。

 

「………織乃?」

 

「はい。姉さん」

 

 試合が終わり、コートから離れた姉さんに近付いた。本当、数カ月ぶりの再会だ。周りにいるのは向こうの北小町の部員だけで、後に残るは姉さんとの関係が怪しい金髪野郎である。

 しかし、まぁ姉さんベッタリとしている。

 藤沢さんも好きなだけ甘やかしているな。

 まるで友達大好きな良い子ちゃんと言うか、天然ブリッ子と言うか――あぁ、見ていられない。

 姉さんの生活そのもので、人格の中核にバドミントンはなっていると分かっていたけど、それを捨てただけでここまで変化するのか。いや、違うか。

 ―――私か。

 私が家から消えたから、あんなになるまで元の性格から歪んでしまったのか。

 バドを辞めてからかなり丸くなって、穏やかな雰囲気を偽装するようになっていたけど、あれじゃ別人格に近い。

 そして、その名前不明な金髪野郎が寄って来た。部活の責任者として不審者に対応するってよりも、単純に私が気になり、尚且つ見覚えがあるからだろう。と言うよりか、この合宿に参加している女生徒である時点で不審者も何もなく、子供個人個人が話す程度のことで一々“大人”が割り込むことも有り得ないだろうし。

 

「なぁ、君。もしかして……」

 

「すみません。今は少し。後、出来ればちょっとだけですけど、羽咲さんをお借りしたいのですが?」

 

「まぁ、構わないぞ」

 

「いえ。では」

 

 うん。どうやら話の分かるパツキンだ。なので、とっとと姉さんの手を握り、近くの体育館の扉から外に出た。人目がないロビーに出て、誰もいないベンチに座らすことにした。

 

「……お、織乃。その私さ―――」

 

「―――はい。分かってます。

 本当、体も随分と酷く衰えてしまって、技もザラザラと錆び付きましたね」

 

「それは……そうだよ。だって、全然やってなかったもん」

 

「そですね。それは分かってますけど……―――相手、舐め過ぎですよ?」

 

「別に。誰が相手でも関係ないし……」

 

「ええ、それも同意です。けど私、皆でする楽しい練習のためのバドと、勝つだけの真剣勝負は違うって思うんですよ。

 まさか姉さん、あの女相手に無様な姿晒す事に、何も感じないとか言うのですか?」

 

「それは………うん、そうかもしれないけど。でも私は―――」

 

 俯いて、視線を私に寄越さない。

 

「―――……いや、良いですよ。

 私としては、取り敢えずまたバドミントンをしてくれるだけで、嬉しいことですからね」

 

 仕方ないか。発破掛ける為に嫌われるか。仲直り出来るか出来ないか、そんな事で悩む前に、まずは姉さんはバドミントンを取り戻さないとそもそも話にさえならない。

 

「ですが、アレを相手にアレですか。この一年のブランク、本気で予選大会にまで間に合わせるなら、キツイなんて次元じゃないですからね。

 夏のインターハイだって……―――いや、そもそも神奈川には、芹ヶ谷さんがいます。

 今のままじゃ、あの時以上に無様な姿を晒すのは確実です。姉さんはそのことを分かって、バド部に入部したのですよね?」

 

「……ッ―――!」

 

 あぁ、これだ。この本気になった姉さんの表情。先程の試合の時じゃ腑抜け巻くってた癖に、芹ヶ谷さんの名前一つで一気にスイッチ入ったみたい。

 けれど、まだまだ本腰を入れた訳じゃないのか?

 あのバド廃人のシャトル狂の姉さんが、厭々バドミントンをしている事は認めざる負えないか?

 とは言え、計画通りと言えば、その通りだ。終わらなかった事を祝い、喜ぼう。今までは終わってしまったことを呪っていたが、もはや全て過去の悲劇。

 ここからだ。

 ―――全て、またやり直すだけだ。

 その為に神奈川から抜け出して、あの高校に入学した。見事、姉さんはこうして甦った。邪魔者に過ぎなくなった姉妹と宿敵は消えて、心折れた姉さんに再度、意欲と言う火が燃え始めた。後はこの火が消えないように燃え上がらせて、炎になるまで見守る事が大切なんだろう。

 

「ふぅん。姉さん、あのね私は―――」

 

「―――勝つよ」

 

「へ?」

 

「全員に勝つ。コニーちゃんにも、薫子ちゃんにも―――織乃にも、私、勝つよ」

 

「……なら、良いです。その台詞が聞けただけでも、私は安心することができました」

 

 コニー・クリステンセン。やはり、あいつが最後のピースだったか。私でも、芹ヶ谷さんでもなく、あの女が最後の最後の発破を掛けたと言う訳だ。

 ―――……はぁ。偶然が、姉さんを本物の姉さんに仕立て上げたと言う事だ。

 正確には、その最中に過ぎないけど。心折れた後はぽやぽやと、理想の自分をキャラで演じていたけど、冷たい氷が芯に入ったように気合いが違う。

 プロリーグで大人の選手として生活している程のクリステンセンが、まさか日本の高校にまで来るとは思いもしなかったが、まぁ正直この結果になるなら悪くはない。そこまで私達に執着していたとは……いや、母さんに懐いたとは思いもしなかった。もしかすると、実の娘である私以上に、私の母さんを母親として求め、依存しているようにも感じ取れたが、その行動力の強さにちょっと引く。そして、母さんの娘である私達を多分彼女は、バドミントン選手として求めて、多分あの様子だと恐らくは……いや、これ以上は思っちゃいけない。

 勝つまでは、クリステンセンに情が湧くと私が不利になる。それに姉さんがバドを辞めたのは、別にクリステンセンは悪くはない訳だし、彼女を責める理論も理性も私には無い訳だし。尤も、感情は別なので苦手なのは覆せないけどね。

 

「しかし、因果なモノですよね。はぁ、母さんが……って、まぁ思っていまいますよ」

 

「お母さん?」

 

「はい。母さんです。クリステンセンさんも結局のところ、私達の同類でしょうし、認める認めないの問題じゃなくなっている訳ですよ。あれ、確実に母さんが育てた子供でした。

 彼女が母さんにとってバドミントンの選手としてだけなら、ただの生徒ですから、何時か倒すだけの相手でした。私達が個人的に感じる必要はなかったです。

 けれど……――――――」

 

「―――コニーちゃんは、ただの生徒じゃない」

 

「そですね。なので、さてはて。何時かはちゃんと母さんの言葉で、母さんにとってクリステンセンさんが何なのか聞かないといけない訳です。

 ま、行方不明なので面倒臭いですけどね。

 婆さんは電話番号くらいは知ってそうですけど、あの様子じゃ、無理に聞くのも婆さんに悪いからしたくないですけど。絶対母さんは父さんと爺さんにも、電話番号を教えないように言ってますし」

 

「おかあさん………そこまで、なんでなの?」

 

「教えて欲しいですか、姉さん?」

 

「……いい。自分で何時か聞くよ」

 

「それが良いです。私も姉さんと同じで、何も話して貰ってません。だから、母さんの事情を知ってはいませんし、分かっている事もただの予想でしかないですからね」

 

 結局の所、何も言われないと何も分からない。理解も出来ない。何を考えているか探れるだけで、私は母さんの心を知っている訳じゃない。そんな何も分からない私が、したり顔で言うべき事柄など姉さんには何もないのが真実だ。

 無様なモノだ。親子の絆なんて、在って無いような代物だ。

 言葉がなくても分かるけど、子供はやはり親の心を言葉で欲する生き物なんだろう。

 確信が無ければ、自信もまた幻みたいにアヤフヤで、自分の心も同じ様に宙ブラリンになって不確か。

 

「でしょ。お母さんのことは、お母さんから聞くよ」

 

「ええ、それが一番です」

 

「それで、織乃はさ―――……その、これからやるの?」

 

「やりますよ」

 

「勝てるの?」

 

「勝てます。全部もう知っていますから。逆に、相手は私を何も理解していませんし」

 

「そう。だと、先越されちゃうね」

 

「いえ、本番は大会です。その大会で、私のプレイスタイルに対して完璧に対策して、練習も熱を入れて本気の本気になった彼女と戦う為、この合宿でクリステンセンをボコボコのギタギタにして、今は糞雑魚に鈍った姉さんと当たっても死力を尽くすようにちょっと喝を入れるだけですからね。そうやって互いの条件を同じにして、そこから全力で大会目指して練習して、奪い合う為のスタートラインを揃えるんです。

 そうじゃないと、母さんの娘に相応しいバドの選手をきっちり選べないじゃないですか?」

 

「……怖いね、織乃はさ」

 

「姉さんに似たんですよ」

 

 ベンチに座ったまま俯いている姉さんを置き去りにし、そのまま体育館に戻るとしよう。まずは私を知って貰う為に、私が母さんの娘の一人だとクリステンセンに認めさせる為に、今までの全てを本気で、全力を出して、この場にいる全ての選手の目に焼き付けてやる。

 だから、何から何まで全開だ。

 出し惜しみは一切しない。本当の本当に、一切合切全てのプレイをクリステンセンに教えてやる。

 
















 久々な綾乃ちゃんと主人公の回でした。
 金髪野郎が姉さんをバド部に入れた事情を織乃が知ると鬼になりますけど、芹ヶ谷さんが一目惚れする未来だと、もはや修羅となって金髪野郎を駆逐してやると襲撃してきます。群馬の高校に入ったので、某群馬漫画のようにうどんの麺で立体機動する能力も得ています。多分。上毛かるたで死人とか結構出そうになりますしね。
 





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