一直線に進む。
人を全て避け、目的の女の前に出る。
何故か分かりたくないが、誰も私と目線さえ合わせず、道を自然と譲ってくれた。眼鏡ないとそんなに私って怖い顔なのかと憂鬱になるけど、今はこの眼力が便利なので気にしないでいこう。
「クリステンセン君、初めましてですね。私、羽咲織乃って言います」
「え?」
前置きは無粋。試合の為の合宿なら、相手があのクリステンセンなら、分かり易く挑発すれば良いだけ。
「此処で会えたのも何かの縁。だから、貴女が母さんの娘なら、姉妹同士で
だから、コニー・クリステンセン―――良いバドミントンをしよう」
「へぇ……そう。あなた、あっちのお姉ちゃんとは随分と違うって訳ね」
「ああ、良かったです。ちゃんと私が言いたい事、分かって頂けたようで」
「分かるわよ、お姉ちゃん。つまり、あれね――――」
やはり、ある意味ノリノリな人だな。挑発されると燃えるタイプか。それも叩きのめしたい相手からだと更に熱血する女だ。全く、メンタルまでスポーツマンとして優れている。
「―――おい、
―――………………うん?
「え、いや。あれ、流石の私でも、この場面でそんなネタは挟めないですよ?」
空気が、死んだ。彼女には
「あれぇ、可笑しいわね。ママは織乃お姉ちゃんとバドがしたい時は、そう言えば一発だって言ってたのに」
「母さん!?」
「うん、ママよ。ママがそう言ってたの」
つまり、それって、どういう事だってばよ!
まさか母親代わりを務めた娘に対し、実の娘の内情を色々と喋ってたって事なのか!
糞っ垂れめ、バドをする前にメンタルのバランスかなり崩される嵌めになったんだけど!?
もしかしてあれなんかな、チェスとか、将棋とか、オセロとか、遊戯王とかで、大人気なく母さんをボコボコに負かせたのを根に持っていて、私のオタク趣味とかクリステンセン君に教えたのか?
……いや多分、実際に会ったら仲良くなれるようにって、普通に教えたのかもな。
バド以外の趣味でもクリステンセン君と遊んでいたのは健全だし、ちゃんとコーチとしてだけじゃなくて母親代わりとして愛着持っているのもそれとなく理解出来たけど、何でよりにもよってそれ関連でクリステンセン君を染めちまうのかなぁ―――マジで。
「ふぅん。でも、良い機会よね。綾乃お姉ちゃんだけでも嬉しかったのに、まさか織乃お姉ちゃんまで居るなんてさ」
「そ、そうですかね……?」
気になる。母さんは私の事をなんてクリステンセンに喋っていたのか、凄く気になります。
「後、お姉ちゃん、あのね私って実は―――仮面巨人プレイに嵌まってるのよ!」
「母さぁんんん!?」
そこまで喋ってたかよ!
やめてよ、恥ずかしいじゃないか!
こっちは初対面でバドのプレイ以外なんも知らない相手だってのに、こっちの隠したいプレイベート全部筒抜けになってるじゃんかよ!
ないわぁ……ホント、マジ無いわぁ。
特に仮面巨人先輩とか言う外道アンデッド好きなのがマジ無いわぁ。
バドの選手として完全にメンタル整えてブチのめしにコートまで来たって言うのに、オタクバレが最初からしてるなんて屈辱だ。しかも、デンマークの金髪美少女に言われるなんて辱めだし、この会話、フレ女の人にまで聞かれちまってるじゃないかぁ……はぁ、マジ有り得ないわ。
憎きクリステンセンが相手だって言うのに、これから戦うんだってのに、自分の好きな趣味を好きになっている上に、自分をお姉ちゃん呼ばわりする人のメンタル、これからちょっと崩壊させてやるぜ何て意気込めないじゃないか。
「しかし、クリステンセン君。私がお姉ちゃんですか?」
「そうよ。だってママの子供なんでしょ?」
「だからお姉ちゃん?」
「うん、お姉ちゃん!」
お姉ちゃん……お姉ちゃん……あれ、何かちょっと良い気分だ。姉さんの妹だった私が、血の繋がりも戸籍の繋がりもないけど、母さんをママと慕う美少女からお姉ちゃん………―――ひひ。
あ、何かキモい笑みがちょっと浮かびそうになってしまった。
しかし、この私がお姉ちゃんかぁ……うん。今度、クリステンセン君を父さんに紹介して上げよう。母さんが外国で育てた娘だって言って上げないと。本当マジ、ウチの母さん、冷や冷やする修羅場を茶番っぽく味合わせてやる。態と父さんに勘違いさせてやる。
あれ、でもこれってあれじゃん……もしかして、私が折れれば家族団欒とか普通に出来そうなんじゃ……いやいやいや!?
悪いの母さんだし。全部母さんが好き勝手世界中でエンジョイしてるのが悪いんだし。
そう思えば、姉さんも心折れていた御蔭で、ゲームやアニメとかのオタク趣味にのめり込ませて、バドに復帰出来る様にメンタル回復させちゃってたけど、あれか、バド関係なく姉さんもクリステンセン君も共通の会話とか出来るのか。もしかしなくても、姉さんと私とクリステンセン君って、バド狂いなのも合わせて滅茶苦茶趣味が合って仲良くなれそうな雰囲気が……………―――母さん、まさか全て、この偶然全てが実は必然で、貴女の計算通りなのですか?
家族計画だったのですか?
クリステンセン君を育て始めた時から、姉妹三人が仲良くなてるように仕組んでいたのですか?
怖い。マジで母さん怖い。あれか、私の察しの良さも全て実は計算済みで、私と姉さんがクリステンセン君を敵視するのも分かっていたから、敵意が薄まるように娯楽をそれとなく提供していたですか?
いやもう、バドと母さんが関係ないと普通に友達になれそうな気がしちゃってる。今ちょっと闘争本能が弱まって来てるから、これ以上はマジ勘弁して欲しい。
「そうですか。この私がお姉ちゃんですか―――……あ、じゃなくてですね!?」
「うん?」
「その、私とバドミントンをですね……」
「うんうん。分かってるって。私と戦いましょう」
「……そうですか。ありがとうございます」
畜生。完全にペースを相手に握られてしまった。なんなのだ。凄く微笑ましい奴を見る目でクリステンセンに見られている。
―――屈辱だ。
何時だってこんな筈じゃない場面ばかりに遭う……―――ハッ!?
後ろの遠くに居た筈の
クリステンセン、もはやお前の何もかもが許せない。この借りは理不尽ながら、これから始めるバドで全て返させて頂きます。
「―――で。コートは確保出来たけど、どうするの。織乃お姉ちゃん?」
「取り敢えず、とっとと試合を始めましょう。ブランクがあって錆び付いてた姉さんとじゃ、クリステンセン君も消化不良だったでしょうし。なので、今貴女の内に溜まっている鬱憤を、このバドで憂さ晴らしといきましょうよ。
全く、不甲斐ない姉の不始末を片付けるのもまた、不出来だとしても妹の務めである訳ですからね」
「あ、そ。でもお姉ちゃん……その、何で私のことクリステンセン君って呼ぶのよ。別に呼び捨てでコニーでも、織乃お姉ちゃんみたいにコニーちゃんでも良いのに。
何だか名字で君付けだなんて、ひどく他人行儀じゃない?」
「え、他人ですし。そもそも初対面ですし」
「ふぅーん。あっちのお姉ちゃんと違って、そう言う所は冷たい訳ね」
「まぁぶっちゃけ、私の気持ち、クリステンセン君も理解していると思っているんですけどね?」
「あー……そっか。織乃お姉ちゃんってば、もう嫉妬深いね。でも、そんな言い回しするってことは、お姉ちゃんも私の気持ちをちゃんと理解してるって考えても言い訳ね」
「うん。ま、言葉にしない方が華だし、お互い恥ずかしいし、言いたくないですけど」
「分かった。うん、そりゃまぁ恥ずかしいわよね。でも、だからこそまだまだ他人って言うことかしら……」
戦意が甦るのを実感出来た。
ただバドをするだけじゃない。
ただ戦って敵を倒す訳でもない。
あれは―――宿敵だ。一生に一度の運命的な怨敵だ。
戦いたい。勝ちたい。どうしても、クリステンセンには勝たねばならない。絶対に、私が強いんだって証明しないといけない。母さんにも、この試合を見る姉さんにも、そして目の前に居る
「……じゃあ、お姉ちゃん―――やらないか?」
「………………―――」
そして気合いを入れている私に、クリステンセンはまるで公園のベンチに座る男みたいな台詞を吐いて来た。
……うん。
それは、この場面ではどうなんでしょう?
元ネタは知らなそうだから良いんだけど、ほらもぅシリアス場面でそりゃないってマジで。これじゃあ、クリステンセンじゃなくてクリス
「あっはい。そろそろやりますか」
「ふふ。ホント、こっちのお姉ちゃんは綾乃お姉ちゃんと違って、私を本気で叩き潰す気満々で愉しそうよ。どうせ戦うんだったら、やっぱりこうじゃなきゃね」
とか言いつつ、強者の眼でクリステンセンは私を見ている。つまるところ、私より自分の方が強いと言う自信に満ち溢れた瞳である。ま、何も間違ってはいないけど、試合は強い方が勝てるって訳じゃない。ちゃんとこっちは勝てる準備をして来たから、今回のバドだけは―――
「そうですね。クリステンセン君。最初の姉妹喧嘩を致しましょうよ」
―――圧倒的に、私が母さんの娘だと分からせてやる。
「ですので、サーブはそちらからで良いですよ」
「ええ」
公式戦じゃない練習試合だけど、正真正銘真剣勝負だ。ある意味で、姉さんと戦うよりも心が奮え滾って仕方が無い。何もかもが遅く感じて、クリステンセンの全てが頭の中に入ってしまって仕方が無い。
呼吸も、瞬きも、指先の動きも、全部何故か分かってしまう。
シャトルを打つ前段階にも入っていないのに、既にコートの何処に墜ちるのか把握してしまう。
ここまで脳味噌が冴えるのは人生で初めてで、姉さんが心折れた時から待ちに待った瞬間だったんだ。本当は、このクリステンセンと戦う為には、日本代表選手となって、世界大会に出場するしかなかった。あるいは、一人デンマークに飛んでプロリーグに入るしかなかった。
けれど、此処で証明する――――全てを。
倒す。絶対に倒す。肉体も、技術も、戦術も、理論も、根性も、矜持も、全て私の力で打ち倒す!
「―――――ふふ……」
始めよう。私のバドミントンは、お前を倒さないと前へ進めないんだから。こんな好機を笑わないなんて出来ないし、無様な自分の心を嗤わずにもいられない。
姉さんがああなってしまった以上、貴女こそ私の大切な妹だ。
嫌いで、苦手で、今は好きになれないけど、それでもバドだけが私と姉さんと貴女を繋ぎ止める絆なんだろう。母さんの娘なら、バドの為に家族さえ置き去りにする母さんの娘ならば、目指す場所に違いなど何もない。
「………ははは―――!」
だから、貴女も楽しそうに笑ってるんだろう?
白帯を超えて迫るシャトルを視界に入れて、その予測軌道を脳内に思い浮かべ、私はステップする。既に相手の動きを見て予想しているので、どんなショットでも対応出来るように両脚で構える必要はなく、ワンテンポでも素早く稼動出来るよう片足で着地しながら打ち返す。
一直線に伸び、ラインギリギリ手前で堕ちるドライブだ。
貴女に比べれば非力な私だけど、球の速度は余りないショットだけど、自分の肉体そのものは身体機能が許す限りの素早い筋肉に鍛え上げている。出し惜しみなどせず、最後の最後まで体力が持てばいい。最初からフルスロットルの動きで、且つ体力を温存しながら厭らしく倒すだけ。
―――は!
成る程。ドライブをドライブで返すか。しかも、ほぼ狙った返し。性格は読めていたし、そうすると分かっていたけど、どうやら脳内クリステンセン君と現実のクリステンセンに違いはないと判断出来た。
ならば戦略通り潰させて頂く。
決め手に欠けて、決め技などなく、ならば私は全て後に続けられる粘り強さと、高速のカウンター以外に強みがない。それも所詮は姉さんの二番煎じに過ぎないが、足りない分は相手を調べ尽くす前準備で補い、バドそのものを誰よりも勉強し尽くすことで差を失くす。
お前の全てを学び、貴女そのものを理解する。
シャトルを打ち返す度に、足りなかった脳内クリステンセン君のピースが埋められていく。
コートの中の現実と、メンタルの中の仮想が繋がり合わさる。これだ、この万能感が、何時か姉さんの超能力染みたあの直感さえ完全に予測し、相手が持つセンスさえ私は逆読みして把握する。
見える見える、全部見える!
一年前は白痴の愚か者だった私の脳味噌は、
だから―――勝つんだ。
一点だって失敗せず、戦略通りに相手へ与える得点以外で失点するつもりはない。
「0―4!」
審判の宣告だ。失敗など有り得ず、この点差もまた必然。
「はぁはぁ……はぁ―――!」
「……………ふぅ」
クリステンセン、息が荒いな。粘れば粘る程、体力は消耗していくが、同時にメンタルも消耗していく。しかも、そこまでやって得点がないとなれば、選手の心は恐ろしいほど諦めへ傾いてしまう。不甲斐ない自分に苛立ち、自分の技を物ともしない相手へ苛立ち、思い通りにならない現状に焦り出す。こんな点差から逆転するのは全く不可能じゃないが、私と貴女ならそうじゃない事を理解してることだろう。
……しかし、どうも私の脳味噌、何だかちょっと変な感覚だ。
ここまで集中すると感情が抜け落ちて、バド以外に何も思い浮かべる事が出来なくなっていたんだけど、思考の視界が恐ろしく広がっているような気がする。前準備した何百通りの戦術を完全無欠に実行するだけの機械になっていたけど、自分の全力を本気で引き出しているのに相手の表情が良く見える。今までの対戦相手は何処か黒い影の無貌にしか見えなかったのに、クリステンセンの姿がとてもクリアに脳味噌へ映り出ている。
確かに今までは、感情をなるべく殺し、一切動揺することなくプレイ一点に集中させてきた。
今も無心でプレイに集中して無駄な感情を殺してるけど、私のこの思考回路は尚更激しく加速し続けている。集中しているのに、私はもっと深く集中し続ける事が出来ている!
「0―5!」
また一点、私のものだ。さぁ、速く次のプレイを再開しよう。早くサーブを行い、どんどんゲームを加速させるんだから。
「織乃お姉ちゃん……ッ―――」
「―――――」
ああ、良い気迫だ。しかしながら、私が言うべき言葉は何もない。なので無問題。さて、また思い通りに動いて貰おう。
バックハンドから、相手をライン端まで移動するようにサーブする。
何度も良く見たクリステンセンのステップから、次に何処へ移動するのか読み取り、尚且つ自分の所に来るシャトルの位置を見つつ、レシーブを見切る。即時、ネット前からカウンターでプッシュする。それを拾われてクリアされるも、既に移動を終えてクロスファイアを炸裂させる。
当時の姉さんよりも鋭い今の私なら、シャトルが曲がりに曲がって相手のラケットから更に遠のく。そして、そのカーブ軌道と空気抵抗も感覚的に操作して打って、ライン内に入るよう計算している。とは言え、相手はクリステンセンなのでそのカットスマッシュさえ拾われるが、それもまた計算の内。勢いそのままステップしながらラケットを構え、地面にどっしり着くと同時に跳ね上がってショットを開始。
カットスマッシュを、今度は持ち替えた右手で打ち放つ。
今まで左手のカットスマッシュだったが、逆にすれば無論シャトルの回転も逆向き。左手でリバースカットをすれば同じ逆向きに打てるが、両利きの私なら右手に変えた方が回転を鋭くしてスマッシュ可能。
「…………ぁ、ぁあ―――!」
私の右手カットスマッシュに反応しつつ、シャトルを拾えなかったクリステンセンは茫然と私を見た。今までの私なら無表情のまま、無言を貫いて、無感情に試合を続けてバドミントンを続けていたのだろうけど、今の私なら違う。集中力を維持したまま、無心で相手のメンタルを削るのに適した対応が出来る。
―――笑うんだ。
コートの全てを祝福するように、まるで聖職者のように笑みを浮かべるんだ。
折れそうな心を折るため、得点した事を誇るんじゃなくて、相手の失点を祝福するようにとても綺麗に嗤うんだ。
「まだ、まだよ。まだまだぁ……!」
奮起する心、諦めない心。宜しい。ならば、バドミントンだ。何より、相手の体力とメンタルを回復するのを待つなんて、こんな無才の私じゃ許されない慢心だろう。
とは言え、クリステンセンに勝ち目はない。
と言うよりかは、私の戦略に穴を穿つことがクリステンセンには出来ない。
何せ、そもそも彼女が私を打ち破る為に実行する戦術さえ、私は思い浮かぶことが出来る。彼女を育てた母さんの技術も、彼女をスターに仕立て上げたヴィゴ・スピリッツ・キアケゴーの能力も、何もかも調べ上げている。無論、その攻略方法も私は自分の身体に叩き込み済み。
そもそもクリステンセンが並の男性選手を超えるパワーとスピードを持っていようと、私は上位の男性選手を遥かに超える人間辞めてるマッスルを練習相手にしていた幸運もあるので、脳味噌と神経がスピードに慣れており、しっかり準備して構えておけば対応出来ない程のパワーになど存在しない。尤も、それはクリステンセンの方も同じことなんだろうけどな。
だが、私程度のパワーじゃ価値はない。
真正面から使った所で通じない。鋭いショットとは、メンタルの隙間を穿つ狙いの良さだ。
ステップを踏む為の体勢を崩し、ラケットを上手く震えないタイミングを作り、動きの初動を構えさせないことが重要だ。と言うより、それが私の最大の武器。
その為のカットであり、スマッシュであり、ヘアピンだ。
つまるところ、私にとって得意技がないからこそ、全てが決め技としてオールラウンドに使いこなすことが最低条件となる。
「はぁはぁ……ん。長所も、ないけど……短所もないって訳ね、お姉ちゃん……?」
「うん。クリステンセン君。長所とか短所とか、プレイに癖があると思考回路が偏りますからね」
「ホント、貴女ってママの娘なの?」
「ま、母さんはちょっとコーチの仕方も脳筋でしたからね。長所を伸ばして、短所を削って、弱点になる癖を覚えさせない。それが基本方針みたいでしたから、ちゃんと育てて貰った貴女からすれば私は邪道に見えることですね。姉さんもプレイは基本重視で防御特化なのに、派手技好きでやり難い変わり者ですけど、ある意味育てるのは単純明快でしたことでしょう。
尤も、それはそれで楽しそうに、無能な私が私らしく強くなれる方法も一緒に考えてくれましたから」
おっと、試合中だって言うのに、ついつい長く喋ってしまった。反省しないといけないな。しかし、無視する必要もなく、相手に考え事をさせるのも悪くない。何より知り合い同士の練習試合だと審判役の人に思われるみたいだから、何の注意もないみたい。だけど母さんは、クリステンセン君みたいな才能豊かな子とか、姉さんみたいに鋭い感覚がある子とか、最初から強い子供の選手を強くするのは上手かったが、無能で無才の私を育てるのは四苦八苦してたからなぁ……――うん。ちょっと目の前の女に嫉妬する。いや、自分に嘘吐く必要もないから、ここは思いっ切り滅茶苦茶嫉妬しまくっていることを認めてしまおう。
うーむ、だけど長話でちょっとだけ息を整えられてしまったか。
まぁ良い。いや本当は良くないし、戦略上駄目なんだけど、相手の回復も想定して練り、即座に倒し方を作り直した。
「貴女、卑屈過ぎない?
その強さで無能なら、今の私なんて……」
「まぁ、クリステンセン君。確かに貴女は―――」
―――――あ、いや。此処で相手の努力を否定するのは、戦略も戦術も関係ない。
心を折るならバドミントンのプレイでなくてはならない。母さんならそんなことをする訳がない。勝つ為だからと、この一線だけは、私は絶対に超えてしまってはならないんだ。
誰だってある程度は努力している。頑張っている。クリステンセン君は誰よりも努力しているし、そこは才能も感覚も比較する必要がない。
見るべきは、勝つか、負けるか。
その比べ合いにおける自分と相手の能力だけ。
相手の動揺を誘う程度なら良いかもしれないけど、言葉でクリステンセンに勝っても私の人生に意味がない。
「―――その、充分強いと思いますよ。
私が今の貴女を圧倒しているのは、貴女のことを良く知ってるからですし。貴女が私から点を取れないは、まだ私のプレイを理解していないだけですし」
だから、ヤル気を出せ。敗北するのだとしても、負ける最後の瞬間までお前だけは死力を尽くせ。私が求めているのは、正真正銘全てを出し切って私を打ち倒そうとする本物のコニー・クリステンセンだけだ。点差が離れて、姉妹に負けそうで焦ろうとも、そんな事に関係なくただただ戦え。私を倒す為に、勝つ為に、戦え。
―――戦うんだ!
私は絶対に勝利を得て、貴女が敗北に沈むのだとしても、私の為に最後まで戦い続けろ!?
「ですので、全力を出して下さい。
例え勝ち目がないと諦めそうになっても、もう戦いたくないと膝が折れそうになっても、貴女だけは最後まで本気でい続けて下さい。
神藤有千夏の娘なら、何が何でも私を倒して見て下さいね」
「―――上等よ!」
白帯の向こう。やっと私は、倒すべき敵と邂逅出来た。
とのことで、此処から二人の
スポーツモノは三人称視点が鉄板で、解説係りによる試合中の解説が王道の構成ですが、この作品は基本的に主人公の一人称で書いてます。ぶっちゃけ原作でバド解説してるので、主人公のトンデモ理論だけで書いてみたくてそうしてみましたが、試合のプレイを主人公だけの思考で解説するのは中々に面白いと感じています。
なのでプレイをしていない外野ですと、描写していないですが、三つの陣営でずっと解説合戦が始まってます。その所為で生方と雑賀が綾乃ちゃんにチンピラみたいに近付き、結果としてデーモン閣下が音も無く縮地し、聖母エレナが目から怪光線を発して威嚇しつつ、何故か更にこっちに来た天使志波姫が乱入し、更に織乃からロリコン疑惑を掛けられている金髪も念の為に輪の外に立ち、ずっと誰かが喋って解説している混沌になってます。