「15―21!」
「17―21!」
「ゲームマッチワンバイ、羽咲!」
あー、ヤバ。結局、良い勝負になってしまったじゃん。と言うよりも、姉さんがクリステンセンのメンタル揺さぶってくれておいたから、精神的優位に立てたからこその危なげない勝利とでも言うべきだな。それに、まだクリステンセン全力じゃない。いや、本気と言えば本気なんだろうけど、テンションそこまで何故か高くないな。やる気が薄いと言うか、現実感が欠如していると言うか、だいたいそんな雰囲気だ。
……まぁでも、今はこれで良いか。
ちゃんと本番の大会の試合で全力全開にさせる為に、この敗北感と屈辱感を与えることが一番の胆。これでコニー・クリステンセンと言う女に、羽咲織乃と言うバドミントン選手のイメージを強烈なまで植え付けることが出来た。これならば本気の本気で私を徹底的に潰す為、色々と策を練りながらも、更なるスキルアップの為に練習に励み、それこそ人生賭して死力を尽くしてくれるに違いない。ま、それなら嬉しいなってだけだけど。
でも正直、地力じゃ完全敗北してるからなぁ……―――ハァ。辛いね。
格上に勝る為の技術を身に付けることが、私にとってのバドミントンの練習の胆だもの。そりゃ地力も付けなきゃ、ただでさえ糞雑魚蛞蝓な身体機能しかない私だと本当に雑魚に成り下がるけど、どれだけ努力してもスポーツ選手の素質に溢れた普通の努力し続ける天才には何一つ勝てないからな。
「……あーあー、負けた負けた―――負けたわ!
流石、ママの実の娘ってだけはあるわねぇ……ふふふ。本気のホンキでやったってのに、この私が勝てなかった」
しかし、うーん……アレだな。変だな。凄く良い笑顔で、負けた負けたって言ってるように聞こえる。強がりには程遠い雰囲気だし、青春してる女の子って感じにしか見えないじゃんか。私がクリステンセンの立場だったら般若みたいな顔して涙ダボダボ流すのを、凄く無理して強がって我慢する無表情面になるんだけど。
何と言うか、悔しがってなくない?
むしろ、何か嬉しがってなくない?
可笑しいなぁ。本当なら、キィー悔しいって顔とか、野郎ぶっ殺してやるって怒気とか、そう言うのを期待していた筈なんだけど。そうしたらククク、まるで火に飛び込む蛾のようだって哂う予定だったのに。これじゃあ、態々メンタル弱っている所を狙いに逝って、卑怯者の悪党を演じた意味が……いや、まんまそれが私の本性だったぜ。私の性根は勝つ為なら、ルール違反や犯罪行為以外は何でもするものね。
なのでうーん、じゃーまぁ良っか。実力は見せられた訳だしな。
「そですか……はい。じゃあ、クリステンセン君。練習試合、ありがとうございました。では、さようなら」
良し、逃げるか。相手も良く分からん状態だし、試合の興奮とクリステンセンに勝った光悦で最高にハイってヤツなので、ちょっとメンタル冷却タイムが必要だ。バドしてるなら、この脳内状態だと細胞が蒸発しそうなまで思考回路が加速しまくって未来全部が見えそうな錯覚がして、水中にいるみたいに自分と相手の動きが遅く感じる程に体感時間が凄まじく遅延するんだけど、終わったならこれを解除しなくては。
何より、糖分が欲しい。
体も水分と栄養を欲しがってるけど、それ以上に脳味噌がブトウ糖を求めている。
それ故、試合中は正にベンチはオアシス。
「待てい!」
「だが断る」
―――
気が付けば、後ろをバックされていた。卑怯な。ついついジークフリートにインしたオレンジみたいな事を考えてしまった。
なので、反射で断ってた。私、これ、悪くない。
「ちょっ……待て待て、ねぇ待ってってばお姉ちゃん!」
「……はぁ。まぁ良いですよ。話がしたいなら、コートの外でお願いします。迷惑になりますし」
「そんなの分かってるって。だから、ほら、ちょっと私に着いて来て!」
「別に構わないですけど……取り敢えず、ベンチからドリンク取って来て良いですか?」
「オーケー!」
しかし、何でだろうか。何故かお姉ちゃんと呼ばれる度に、嫌がらせにクリステンセン君の言葉を否定してやろうって気を削がれてしまっていた。
―――……うーむ。
まさかな。こんな私が、お姉ちゃんと呼んでくれる妹が欲しかったとか。この羽咲織乃の目でも見抜けなかったぜ。マジで。いやはや、私って実は慕ってくれる相手にチョロいのかもしれない。姉さんとか自分で自分の事を自覚出来る程度には甘やかしまくっていたし。しかし、お姉ちゃんかぁ……
「はぁ……」
……とのことで、マイドリンクを一口。美味い。
「うへぇ……マジでか。マジで羽咲、あのコニー・クリステンセンに勝ってるじゃん」
「ホント。マジ吃驚って感じで、かなり驚いたよぉ~」
「そですか。ま、私は計算通り勝てて凄くもう、本当にとてもホッとしていますかね。これで負けたら、ちょっと軽く自害したい気分に鬱ってしまいそうでしたし……あ。
私、ちょっとトイレに行ってきますね」
しかし、生方さん。吃驚と驚いた何て同じ意味の言葉を態と二つ重ねた使う当たり、何故そこまで阿保な雰囲気のキャラ作りを徹底しているのか分からない。ついでに、マジとかなりも意味被り。そこまでのさり気無いディテールに拘る執着心が逆に狂気を感じてしまう。むしろ、頭がある程度良くないと、ここまで小憎たらしいギャルキャラにはなれないんじゃないかな。
あ~……兎も角、シンドイ。
はしたないからやらないけどさ、ぶっちゃけベンチに寝っ転がりたい。
ひんやりとした体育館の床にゴロゴロして、体内に困った高熱を放出してしまいたい。
しかしながら、まだ駄目だ。まだまだ駄目なんだ。ペットボトルを片手に持って、汗を拭くのに使っていたタオルを首に巻いて、重い足を引き摺りそうになりながらも体育館の外に出る。そして、ロビーのベンチに座り込み、特に意味もなく上を向く。
…………幸運過ぎる位、私って間が良いなぁ。
この一年間、求め続けていた渇望が不意に叶ってしまった……はぁ、ヤバい。心臓がバクバクしてまくって死にそう。自分の事ながら正味な話、ちょっと意味が分からない心境だ。
「―――で、織乃。どういうつもり?」
「―――あら。綾乃お姉ちゃんとは私、今は特に話すことはないんだけど?」
「…………―――」
嘘です。物凄く間が悪い女でした。基本、不運と
「あ、すみません。ちょっと……ちょっとあの、あれですかね。水分を摂り過ぎてしまいましたか、ちょっとトイレの方へ―――」
「―――あん?
出口なんてないんだよ、織乃」
「オゥ……」
そうだった。姉さんも天才に属する人だったな。軽く絶望。人の生理現象さえ一刀両断する
「そうだよ。ほら綾乃は良いから、織乃はちょっと私と話しようよ!」
「うん。そうですね、バドミントンですね」
「なによそれ。それはまぁ、私は織乃とバドミントンの話をしたいけど……?」
成る程ね、クリステンセン君……―――っち。煙に巻くにはまだまだ日本に馴染めていないか。もっとサブカルチャーに染め上げまくってやろう、嫌がらせで。
「コニーちゃんはそこでプロテインでも飲んでて。似合うし。その後、織乃と話せば良いと思うよ」
「ハァ! ちょっと、それってどう言う意味よ!?」
「見た目のままだよ………―――重量級」
あ、ボソっと姉さん最後にとんでもない事を言ってる。本当に姉さん、ちょっとでもバドミントンが絡むと煽りスキル高過ぎぃ……――はぁ。これの収拾をするの、マジ私だけなのか?
本当に、心の中だけじゃなくて、実際に溜め息が出てしまいそう。
嫌いな相手なら無の境地で適当にバドのイメトレしながら受け流すんだけどな。姉さんは姉さんだから無視なんて有り得ないし、クリステンセンはそもそも自分の理想像だから無視し切れないしで、もう色々と面倒臭い心境です。
「は? え、私が重量級?」
「そうでしょ。色々とビックサイズだし」
「へ、へへへ、へぇ~………―――チビ助」
うわぁ、青筋とか本当に存在するんだ。クリステンセンって怒ると怖そうだな。でも、姉さんにチビ助は頂けない。実に頂けない台詞だ……ほら。姉さんがチビ助だと、もっと色々と小さい私ってアレじゃん。とは言え、筋肉と手足の長さは欲しいけど、体格が大きくなると面倒臭いからな。でもさ、あの胸のサイズは頂けないと思いますよね、クリステンセン。プロになると人気の多寡って結構見た目が重視されるしな。
…‥何て、自分で自分に言い聞かせてみる私。
やっぱり男受けを気にするならビッグサイズがグッドなのは確定的に明らか。後、同性相手にも強気になれる。風呂でもタオルで胸を隠すこともなし。でもま、正直なところ私は性格糞な上にチンチクリンなので、母さん似の美貌一つで勝負するしかない。それでもAPP値を激下げする目付きの悪さは眼鏡でカバー。
「は? え、私がチビ助?」
「そうじゃない。身長も其処もお子様サイズだしね。ぷぷぷー」
「ふ……ふふ。フフフ。この私をそこまでコケにしたのはコニーちゃんが初めてだよ、マジで」
嘘吐け姉さん。芹ヶ谷さんに負けた時、見ていて冷や冷やするほどヤバい煽りを受けていた癖に。と言うか、素でフリーザ様みたいになるの、姉さんってホント姉さんだよ。となると差し詰め私はクウラと言った所だな、姉妹の立場は逆だけど。
「まぁまぁ二人とも。少し落ち着いて下さいよ。何と言いますか、ほらアレですよ、私の為に争わないでぇ~……みたいな雰囲気ですし?」
「「…………」」
死んだ魚の目みたい。いや、むしろ鮫みたいに無感情な四つの瞳だな。
「ほら、そこで急に息を合わせて私を馬鹿みたいに視ないように……全く。折角の青春真っただ中だと言いますのに、若い女子が二人揃って言い争って傷付け合うなんて、どうしようもなく非生産的な行動だとは思いませんか?
そんな事よりもすべき事が有る筈ですよ。
例えばそう―――ボードゲームとか、後で私の部屋でしませんか?」
ゲーム部の連中が作った宇宙的恐怖を感じられるヤツだ。結構良い雰囲気だったと思う。あの部はヤクザ体質の生徒会でさえ手を焼くゲテモノ集団ではあるが、オタクセンスだけは最高だ。後、総合ゲーム部部長は多趣味過ぎて凄まじい。
「え、なんで。なんでそこでボードゲームなのよ?」
しかし、このクリステンセン、良いリアクションしてくれるぜ。呆れて無言になるタイプのヤツより話し易くて会話が容易いものよ。
……あー、糞。ついでに私の馬鹿者。
会えば嫌いになれると思ったけど、別にそんな事なかったぜ。
無駄に会話を繰り返せば、無意味に感情が重なって、無価値に彼女の価値を認めてしまう心情が勝手に動いてしまう。でもま、人間は心も生きているから、そうなってしまうのも仕方がない事だ。美味い物を食べれば美味しくて感動するように、興味深い者と会話をすれば楽しいと喜んでしまうものさ。
「いや、結構すんなり相手の気持ちとか、一緒にやると分かったりして良いコミュニケーショーンツールなんですよ、ボードゲーム。スマブラとか、マリパとか、マリカとか、あぁ言う友情破壊ゲームと違ってストーリーを共有するドラマだから良いですよ。
……ですよね、姉さん?」
「え、やだよ。だって織乃がするボードゲームって滅茶苦茶狂ってるじゃない。私、ゲームで感情移入し過ぎてガチ泣きするの、もう嫌なんだよね。例えばだけど、火垂るの墓とか傑作だけど、二度見るのは気が滅入ると言うか何と言うか、織乃がするゲームってそう言う気分になるんだよ。しかも、普通に進めると基本バッドエンドだし」
「何でですか。ストーリーがクトゥルフしてる方が楽しいじゃないですか?」
「はぁー……ちょっとさ、なに二人で喋ってんのよ。と言うか、それってTRPGのこと?
でも、それこそ青春から程遠いじゃない。まず初めにバドをすべきでしょ。そもそもその為の合宿中じゃない」
あれま以外。TRPGに理解ある人なのな。母さん、子供育てる参考に私を使ったな。子供とのコミュニケーションにソレを選ぶあたり、母さんマジ母さんだよ。姉さんは基本バド狂いで、バドにのみ熱中していて、親からの御褒美にさえお小遣い要らないからバドミントンしようとか言うマジモンだったし、まぁ子育ての参考にならない子供だったし、仕方ないかもしれないけど。
けどなぁこう、話している内に透けて見える育った環境がなぁ……はぁ。何と言うか、ガチで姉妹なのが分かってしまうから、憎み切れないのが少し辛い。
「うわぁ……真面目ですね、クリステンセン君。糞真面目」
「ほんとコニーちゃんは真面目ちゃんだよぉ。もっと気楽にフリーダムに生きようよ。そう言うの、無駄に疲れない?」
「はぁなにそれ!!?
言っとくけど、私ほどフリーダムなヤツはそうそういないわよ!
フリーダムを超えてフリーパスな領域と言っても過言ではない遺憾の意よ、記憶にございません!!」
「取り敢えず、それっぽい日本語言って怒るの止めた方が良いですよ。折角日本語巧いのに、言葉が阿保っぽく聞こえますので」
「だよねだよね、そうだよねぇ~」
うんうん、と一緒に頷くマイ姉。やはり我が姉の事ながら、煽り性能高し。
「む、ムカツクゥ―――って、はっ! 違うわよ、そうじゃない!?
私は漫才なんかしに来た訳じゃない。あなたたちに話があるのよ、大事な話がね!」
やっぱテンション高いな、この子。もっと弄り倒したい。特に意味のない嗜虐心が私の良心に襲い掛かって来るぜ。
「だから良いかしら、お姉ちゃんズ?」
―――お姉ちゃんズ。成る程、お姉ちゃんズ……?
家族とか言うか、姉妹と言うか、何と言うか、こんなあっさり増えるもんなんかなぁ?
だが、私と姉さんと一纏めにするとは何事か……―――あ、大事か。そりゃまぁ雰囲気的な話でしかないけど、クリステンセン君が日本に来た理由ってそう言うことだと推測出来る訳でして。そう考えれば、私らがいるのは些事じゃない大事って事と言って言い訳だ。
「あっはい。まぁ良いですけど?」
なので、葛藤を置いてまず快諾。話を聞くのは
「……ふ。ま、いいけど。コニーちゃん」
そして、姉さんも満更でもないようだ。しかし、鼻で笑っているあたり、内心複雑なのだろう。だがしかし、私以外の妹をそこまで悪く思っていないのも何となく
尤も、バドを捨てた姉さんも結局は、母さんの娘だ。拾ってもう一度身に
「私はね、ママの娘に―――二人のお姉ちゃんに会いに日本へ来たのよ!」
「うん」
「はい」
「…………」
「……‥‥」
「……―――え?
あれ、反応それだけ?」
「うん」
「はい」
「え?」
まぁ分かってたし。姉さんも何と言うか、だろうねぇと無表情な顔が逆に感情を表している模様。
「はぁ何よそれ!?
あれでしょ、もっとなんかあるべきでしょ!?」
「なにかありますか、姉さん」
「別に何もぉ……だって、そもそもコニーちゃんだし」
「ですよね……―――あ、そうでした。
私もクリステンセン君とは会いたかったですよ。実際にこうやって会えて、マジ嬉しいです。嬉しい嬉しい。母さんの教え子が人気者になってるのは、まぁ……アレすよ。実の娘である私にとっても、そりゃまぁ嬉しい事である訳ですし、クリステンセン君が活躍する姿は私からすれば好ましい部類に属しますので」
「ハァ嘘臭! ハァなにそれ嘘臭すぎるわ!?」
「そんな、まさか。血の繋がりはないとは言え、同じ人を母と慕うなら信じて下さいよ。マジで。そう言うこと」
「うんうん、そう言うこと」
「なにがそう言うこと!?」
いやぁ良い反応。こりゃ本当に母さんと関係あるわな。リアクションそっくり。姉さんも新世界の神みたいな良い笑顔になってる。しかし、あれだな、姉さんって何で下衆顔がこんなに栄えるんだろうか?
啓蒙高いとソレも可愛く見えるんだけどね、マジェスティック!
はぁー……しんど。どうすっかなぁ、コレ。テンションが安定しないで暴走しまくってるの、凄く自分で自分が実感出来てるよ。なに勝ったばっかだし。
まず今大事なのはこの場を纏めること。
次に大事なのはとっとと体育館に戻ること。
なので手っ取り早く、全てあやふやに誤魔化してしまいましょう、今度こそ。
「まぁまぁ、落ち着いて下さいな。いえね、私が言えたことじゃないんですけどね?」
いや本当。
「全くだわ!」
やっぱ良い突っ込みだ。
「どうどう、クリステンセン君。正味な話、ぶっちゃけ先程のバドで私ったらもう満足しちゃっているんですよ。溜まりに溜まった欲求も消費して、積もりに積もった不満も消化されました。それになんだかんだ、姉さんのやる気の発破にもなってくれていますしね。
とのことで、後はもうやるべき事をとことんするだけです。
なので、クリステンセン君ならもう私が考えている事は分かって頂けている筈ですが?」
「……――あー、貴女。そう言う
「母さんの娘ですので。そう言うクリステンセン君は、自分が清く正しくないとバドが愉しめないとでも?」
「まさか。だったらさ、今の私の気持ちも姉さんなら分かってくれるって事で良いわよね?」
「勿論ですとも。こう見えても私、別に貴女の事を拒絶するつもりなんて更々ないんですよねぇ……姉妹としても、選手としても。ぶっちゃけ因縁も確執も貴女と私にあるにはあるし、それはお互い分かっている訳なんですけど、母さんの娘として優先するモノを投げ棄てる理由にはならない訳です。
ただただね、負けるつもりも、弱さを認める気もないんですよ。幾度敗れても、私は最後の最後に一番となれば良いんですからね。今の段階じゃあさ、別にどっちだって良かったんですよ」
無論、敗北は恥。負けぬ事に意義はある。しかし、最後の一勝負で勝てなば無価値。
「はぁーヤだヤだ。格好付けてクールぶってる癖して、内心ドロドロに腐って嫉妬深くて……―――それを、憎い相手に全く隠さない。
そう言うヤツ、私……うん、嫌いじゃないわよ」
「そーですか。ま、予想通りの反応ですけど」
「いいわよぉ別に。どうせ、最後に分からせて上げるだけだしね……まぁ、綾乃の方は結構期待外れだったけど。何があったか知らないけど、ちょっと鈍り過ぎじゃない?
最初は運動神経が良い素人か何かかと思ってたけど、それじゃあ違和感が強かったし。でまぁ織乃の様子を見るにそんなんじゃないのも確信したし。
その有様、どんくらいのブランクがあるって訳?」
「あー……ん。そのね、コニーちゃんには―――言いたくない」
「あらそ。雰囲気、それ、私の所為って感じ?」
こいつ、確信してる。生意気だけど陽気な性格をしてるのは本当なんだろうけど、それはそれ。これはこれ。内心は、ずっと姉さんの事を計っている訳だ。しかも、自分の欲求と願望には貪欲と来た。
やだなぁ……これ、本当にやだな。
まるで、これじゃあアレだ。姉さんと私を足したみたいな女じゃないか。
母さんは全く以って何処までも母さんだ。何でそう、子育て下手糞なんなんだか。姉さんみたいに意欲があって、だからとことん行き着いたバド狂いにしたんだろうな。ついでに頭も良かったからって、私がしていたような事をそのままコニー・クリステンセンの教育方針にでも使った雰囲気か。
「どうだかぁ……」
そんでもって、姉さんも姉さんで肌で感じている。仲良く出来るかもしれないが、白黒付けるまで認められない。認める気にもならない―――素晴しい。
この冷たい熱気こそ、姉さんらしい情熱だもの。
コニー・クリステンセンは、自分が地雷だと分かった上で、更に的確に地雷を踏んでくれる。何せ、それこそ姉さんの為になり、私にとって最善の事であり、クリステンセン君にとって最も望むべき事であるからだ。
「良いわよ、それならそれで。綾乃にちょっと火が付いたの、私も分かったし。それに私がコニー・クリステンセンだって知った時の貴女、ちょっとだけ身に覚えが有る貌だったもの。
……まるで、親が消えた子供みたいだったもんね。
気持ちは分かるよ。そう言うの私、凄く分かるからさ―――……ふぅん、成る程。綾乃はさ、もしかしなくても、私がママの娘で、ママの教え子なの、凄く嫌っているでしょ?」
「―――……あ?」
「やっぱり。だから……うん。やっぱりさ、私達って姉妹になれるんだと思うの。それは織乃も分かってくれるでしょ?」
目が死んでる姉さんを宥めつつ、話を促す。
「勿論ですよ。結局は、私は自分の強さを証明するだけですから。
それを為すのに、ぶっちゃけた話―――姉さんも、クリステンセン君も、一番の邪魔者って訳です。けれども、そうじゃないと私は本気で証明する為の相手さえ満足出来ない訳でもあります。
いやぁ……はは。全く、ジレンマですよ」
「そういうこと。なので、お姉ちゃん二人と会えて良かった。
だって―――弱くてつまらない奴が、ママの娘だなんて屈辱だもの。ママの娘としてね」
うーん……―――グッドスマイル。
本当ならば母の娘として嫌いにならないといけないのに、嫌いになれないこの感覚。ま、分かってはいたことだ。結局のところ、バドミントンに人生賭してるヤツを心底嫌いになどなれない訳だ。何だかんだ、幾度負けても諦めない芹ヶ谷さんみたいな根性極ぶりステータス人間も好きだし、こいつのような努力し過ぎな天才高飛車も好きである。無論、姉さんみたいな貪欲才能プレイヤーも。と言うか、闘って楽しければぶっちゃけ全て良し。けれども、今の思考は自分の心の内だ。所詮、相手と対話する為だけの独白だ。ただの自己肯定の為の自己認識だ。
白状すれば、倒す相手の人格など如何でも良い。
コニー・クリステンセンは嫌いではないが、嫌わないとならない敵だ。
本当はもうファンで大好きだし、戦ってみてもっと好きになったけど、それらを上回る感情が私には有る。そう在らねばならない。
だって―――恨む程、何故か私は巧くなった。
それがどうしようもない程に心地良い。実際に会って、もっと好きになり、嫌いと言う感情が枯れ、嫉妬と憎悪を抱けるように私は深化した。進化ではなく、深化した。
ああ―――もっともっと強くなりたいと、私は自分の意欲が更に深まるのが実感出来るのだ。
これ以上の歓びなど私にはない。重要なのは、試合に向けるモチベーションを維持する圧倒的な意欲と、現状に全く満足せず自分を徹底して追い立てる自己の確立。
心が、まだ立ち上がる。歩き続けることを許してくれる。
これを上回る才能など人間には存在しないと断言出来る。
為したいと決めた事を、只管に目指す苦行が苦しくない。
母さんにみたいな選手になり、母さんを超える選手になり、母さんの理想に届く選手となり、何時かは母さんみたいに自分の理想を誰かに引き継がせる。
「へぇー……コニーちゃんはそうなんだね」
「うん。そうなんだよ、お姉ちゃん。だからさ―――」
「―――良いよ。証明する」
「ありがと」
「別に。ただ私もさ、ウジウジするのは―――……もう、飽きたんだ」
だからこそ、今が望んだ交差点。本当なら私がそうすべきだったのに、クリステンセン君は私が為すべき事を果たしてくれた。
結局、お前が姉さんを終わらせ、お前がまた姉さんを始めた訳か。
本当にさ、本当にアンタは私達姉妹にとって何なんだろうね。姉さんにとって、君はどんな人になるんだろうね?
読んで頂きありがとうございました。最近、フロム脳な考察を見るのに嵌まったサイトーです。後、エルデン・リングのエルデンと聞くと薔薇のマリアの方を思ってしまうこの頃です。また読みました。ついでに、隻狼は最高でした。何度闘っても義父との忍者バトルは飽きませんね。でも一番ビックリしたのは、やっとベルセルクのキャスカが正気に戻ったところでしょうか。しかし、もう本当にガッツさんがねぇ……ホントもうね……
次回、ほのぼの温泉回。