早朝一番は体幹と呼吸を整える為、同じバドクラブに所属するクラブのボスであり、且つ中華料理店店主李搏御爺さんから手解きを受けた李氏八極拳の套路を行う。試合中の平衡感覚、重心移動、それに伴う体幹運動と足捌きを鍛える為でもあるが、ぶっちゃけただの趣味だ。良く漫画で縮地とか言うけど、あれは剣道で言うスリ足の延長で、バドミントンでの踏み込み作業と何ら変わらない。肩を下し、腰を落とし、膝を曲げ、脱力状態になり、そこから一気にトップスピードにまで加速する為に精密な肉体バランスが必要なのだ。簡単に言うと体重計で膝かっくんをされたみたいな動きをすると体重が一気に減り、逆に足を力ませると負荷が掛かって重くなる。だから私はバドでシャトルまで一気に距離を詰める時、脱力で体重が軽くなった刹那に地面を滑空ように移動する。動き方一つで地面からの反発力と肉体への負荷を減らし、理論的な動作を極めることで体力も温存し易くなる。むしろ、疲労感が溜まって全身が脱力した方が不必要な力みが体から消え去り、動作そのものはより滑らかになる。素振りもそれに近い。そんな移動方法を体に染み込ませ、毎日繰り返して、それを思考せず零秒の反射神経で可能にするのが日々の練習と言うもの。
そして、その体幹の基礎こそ我が八極よ。何せ八極拳こそ人類最強の武術である。それを己が技術に取り込み、我がバドは更なる深化と遂げるのだ……なんて、全身全霊で思い込みながら体を練磨すれば、それ相応に効果もあった。自分で自分を自己暗示で洗脳してみたが、中々に面白い精神状態になれた。集中力を鍛えるには心を殺し、思考回路を切り替えるように極限状態を維持しないとならない。ガンダム風に言えば、時が見えそうな感覚。あるいは小学生の時、最強のいじめっ子だったデーモン閣下と死闘を演じた際に見えてしまった走馬燈に近い感覚かな。まぁ最近はバドの練習だけだと運動機能と反射神経の効果が伸び難いので色々と手を出しているが、その中でも武術は肉体を鍛える最も優れた教材だった。むしろ、スポーツよりも合理性と精神性を重んじているので、バド以上に自分の思考回路に適した技術分野でもあった。後は純粋に体を動かす神経を鍛錬する為でもある。
それと体力も一気に鍛えたいので朝はランニングが有効かと思ったけど、酸素を過剰に必要とする運動をそこまでしたくはなく、長時間行うことは出来ない。そう言うのは休める前にする短時間の鍛錬にしており、そもそもバドは瞬間的な動作を連続させるので、別に常時動きっぱなしと言うことでも無い。長距離走行の筋肉ではなく、どちらかと言えば短距離走に必要な体力で、正直走り込みにそこまで意義は見出せない。でも、やはりある程度は長距離体力も必要。だがやるとしても短い時間で、全力で只管足が死ぬまで走り続けるようにしている。自分の肉体は無酸素でずっと素振りとフットワークを繰り返した方が、バドミントン用の筋肉に体力を増加させられると判断した。最近は苦しい状態で何時も通り動けるよう、酸素供給量を制限する為にマスクやら、まぁ色々と思考錯誤を繰り返している楽しい毎日だ。
後は、瞬発力が欲しい。凄くとても欲しい。
反射神経のまま動く柔らか
十分の一秒よりも短く、百分の一秒の世界で微調整が出来る筋肉と神経が欲しかった。弾道を予想することで誰よりも先にシャトルをイメージして動き出せるけど、肉体自体の初動を今よりも更に加速させれば、もはや誰も私のバドには辿り着けやしないだろう。しかし、こう言う鍛錬は毎日毎日繰り返し、神経にそう言う機能を付属させないと始まらない。なので目的を忘れずに動きを繰り返し、段々と更に早い反射稼働が出来つつある。
それからイメトレは欠かさず繰り返し、熱中すると時間を忘れて素振りとフットワークをするけど、多分自分以外だとイメージトレーニングで神経に大ダメージを与えて鍛えるのは難しいだろう。プロの試合の映像などは録画するまでもなく、この頭の中にイメージで保管しておけば、私はどんな時でも好きな相手とバドミントンをすることが出来た。自分でも如何かと思うけど、コートに立ちさえすれば毎日母さんの幻影とバドを出来るし、そうやって無貌の母とバドをしている。まぁ幻影と言っても、私がイメージする現役時より更に巧い最強の神藤有千夏に過ぎないけど。それで三強との予行練習も十分したし、全国大会の選手は良い練習相手で、各国プロ選手は皆脳内友達だ。
無論、あの
いやまぁ、バドの選手としては凄く尊敬しているし、見た目も美人で可愛いと思うし、母さんが仕上げた超一流の若きスター選手と言うのも分かってはいるが、憎悪と嫉妬と未練と悔恨とその他諸々はまた別物だ。しかし、私達を捨てた母さんと一緒にご飯を食べて、私達を捨てた母さんと一緒にバドをして、私達を捨てた母さんと一緒の家で生活し続けてると考えると……本当、彼女の幸福が私達の代わりだったのにって思う醜い心が、やはり私の本心である。しかしながらそこは認めた上で、その感情を練習の熱量に変換してこそ母さんが作り上げたスポーツマンで在るのだろう。だからこそ、私は母さんが作り上げた完全無欠の選手でなければならない。その精神性が、この練習の質と密度を維持している。だからありがとうございます、母さん。貴女の御蔭でもっとバドミントンをしたいと、その練習に没頭し続けていたいと、底無しの熱量が脳味噌の中から湧いて肉体を問答無用で稼動させてくれる。
後はイメトレだと反復作業を念入りにしている。そうすれば脳のイメージ通りに動くことが結構可能となり、ミスを極力減らす事には成功した。けれども、シャトルを狙って振うラケットの標準機能は日々の鍛錬で神経に慣れさせる以外他になし。このタイミングでこの速度で振うと狙い通りにシャトルを飛ばせる“
だから、もう慣れた。
慣れた上で、鍛えた。
後は更に素早く、もっと狙い良く打つだけだ。
「疲れますねぇ―――……はぁ」
朝は濃縮だ。しかも、それをした上でシャワーで汗を流し、朝食を食べ、学校に行く準備も整えないとならない。しかも今までは姉さんもしていたが、今日からはもう私一人だけで……あーもう、糞だな。私の惰弱な精神は根が飽きっぽくて、堕落を好むニート体質だから、姉さんがいないだけで憂鬱になってしまう。姉さんがいるだけでやる気が出たが、今は義務感と欲望だけで熱量を生み出し続けないとならない。
まぁ別に問題はないけどさ、でも何だか楽しくはないな。
とは言え、楽しくないからこそ、私は理想を叶える為に繰り返し続けるだけ。
失うモノが一つもない空っぽな精神性を維持するには、日々の練習で心を殺すのが一番だ。私の場合、試合で完璧を演出する為に何を思わないように心掛け、正の感情を出さない様、負の感情を作らない様、徹底して何も思わず感じないようにしている。自分をイメージ通りに動く機械人形に作り変え、余分なもの全て削ぎ落し、戦略通りに戦術をコートで演じないと私みたいな凡愚は誰にも勝てやしないのだから。だから勝ちたい、負けたくない、褒められたい、楽しみたい、強くなりたいと言う感情は全身全霊で練習をするための熱量で、バドが巧くなるのに必要なメンタルではあるが、試合中では心の重荷になる邪魔物だ。敵と闘う時は捨て去って身軽になり、終わった後にまた拾い直せば良い。
とは言え、自分を作り上げる鍛練は、私にとってそもそも最高の娯楽である。母さんが間違えようとも、姉さんが壊れようとも、スポーツを苦行に感じようとも、辛くて苦しみながら強くなるのが私は好きなのだ。それは勉強でもゲームでも同じで、そんな中でもバドがこの世で一番と選択した私自身の生き甲斐なんだ。
強いて言えば、その次に自分のバドを誰かに教えるのが、私は好きなのかもしれない。
「いってきます!」
「いってきますね」
久々の登校。挨拶して、姉さんと一緒に玄関から出た。
体は絶好調。何より昨日はバドをサボったゲーム三昧な一日で、夜はカロリーと肉体維持を気にしないで暴飲暴食で、かなりストレスを発散した。スポーツマンにあるまじき暴挙であったが、何もかもが清々しい気分になれた。とは言え、今日からまた学校帰りもバドの練習がある。バドに必要な動作を染み込ませたいから、姉さんが参加しなくなったクラブもまだ辞める気はない。気が狂うほど芹ヶ谷さんと打ち合い、他の人とも練習し、その後も時間があれば芹ヶ谷さんを連れて練習する毎日を計画している。
……しかし、姉さんがいないと練習相手に困る。
流石に家が違う芹ヶ谷さんとは時間制限があるので、ちゃんと門限も守り、芹ヶ谷さんの親御さんにも心配させないように計画しないとならない。全く以って面倒臭い事態になったが、姉さんのメンタルを修理する道具は時間しかないのだから、ここで私が自棄を起こしても損しか発生しないだろう。
はぁ……マジでどうしようか。
芹ヶ谷さんにもプライベートがあるし、自分用の練習もあるだろうから、どの程度まで互いを利用して良いか分からない。そもそも毎日は不可能だ。相手が姉さんなら遠慮もいらないし、どうとでもなるけど、今回はちゃんと限界を見極めないと。
……とは言え、頻度としては前にバドを教えていた程度が限界かな。
四六時中は流石に無理。一人で楽しめる自己練習の密度をもっと上げる為、効率的な練習を実践する為の鍛錬が必要になってくる。そう考えるとイメトレの濃度を上げるのが、多分一番効率的だろう。対象者の精度をより上げる為に自分の脳味噌を次の段階に成長させる必要も出て来るので、脳のトレーニングも厳しくしていこう。
「おはよう。綾乃、織乃。休んでたみたいだけど、もう大丈夫?」
「大丈夫だよ。おはよう、エレナ!」
「……おはようございますね、藤沢さん」
ああ、気が抜けてた。バドの考え事をしている内に、藤沢さんと校門で出会ってしまっていた。しかし、あれだけ思い悩んでも時間は当たり前のように過ぎて、こうして何でも無いように友人と学校で出会って、当たり障りのない日常に戻る事が出来る。
まぁ、今はトモダチを楽しめば良い。これは子供の特権だ。
後半年しかない中学校生活。どんなに良い生活を送っても悔いは絶対に残るものだけど、平穏無事ならそれが一番だ。
「おはよう、皆さん」
「おはよう、のり子!」
「うん、おはよう。のり子」
「……お、おはようございます、三浦さん」
本当にもう平穏無事ならそれが一番なんだから、何でそんな表情で私を見て微笑む―――三浦のり子!
「あら、元気がないみたい。大丈夫、織乃ちゃん?」
「大丈夫……うん、あの別に大丈夫ですよ?」
「それは良かったよ……―――本当に」
おい、こっち来るな。なんで気配を消しながら正面から近付いてくる。
「まだ織乃ちゃんは体調が良くないみたいね。顔が……何だか、引き攣ってるよ」
「そ、そうですね。体調良くないかもしれないですけど、別にもう大丈夫で―――」
「―――え、なになに。今夜の合コンに参加したい?」
「言ってませんからね!」
この似非リア充め。中学生デビューに成功してから、何でそんなに私をそっちの道に堕落させようと誘惑してくるんだ。小学校の時の貴女はそんなキャラじゃなかった筈。
「こら、のり子。そうやって直ぐ織乃で遊ぶ。朝からからかっちゃダメ」
ありがとうございます、マザーエレナ。貴女が私と姉さんの友達になってくれていなければ、三浦さんに姉妹揃って食われていました。最近分かったことだけど、三浦さんは男も女も関係無い剛の者だって話だから。
……はぁ。しかし、本気で怖い。
気を抜くと直ぐ恋バナからそっちの話にもなるし、行き成りこんな事も言ってくる。三浦さんの悪癖から守ってくれる藤沢さんには、本当もう感謝しかない。
「ははは、ごめんごめんエレナちゃん……」
でもまぁ、滅茶苦茶荒れに荒れていた小学生時代の三浦さんに比べれば、確かに今のキャラの方がまだマシだ。イケメンイーター、全自動リア充男吸引機、男喰らいミウラビッチなど数々のあだ名を私達から受けながらも、他の同級生には一切本性を隠し通すメンタルは脅威に値する。この学校の全校生徒が騙されている。しかも、ギャル以上にリア充な遊び人な癖して、見た目は黒髪清楚な文学系美少女と言う全力で男受けをするスタイル。最も実際に男と付き合ってはいないみたいで、不純異性交遊にまでは発展させてはいないと言うことだ。お友達で止めてるみたいだけど、友達の異性交遊に関わると本気で面倒臭いので見て見ぬふりが一番だろう。
だから―――うん、合コンとか全く興味ないので巻き込まないで欲しい。
親に養って貰っている身分の餓鬼がする合コンとかどうせ、後でパコパコするだけの合体パーティでしかないんだろうし。下手しなくても馬鹿が集まれば、私の偏見に過ぎないけど、そのまま気分で乱交パーティになるんだろう。私はそう言う性的同調圧力が凄く嫌いだ。そもそも思春期の性欲とかバドで普通に発散出来るから、別に男とか不必要。
尤も三浦さんが男に体を許すような優しい女だなんて、欠片も思ってはいないけど。
多分男漁りの合コンとか言いながら、実際は男に奢らせるただ飯会とか考えているだけに違いないだろう。
「……でもさ、勿体無いじゃん。リア充っぽい生活、楽しいよ?」
「いや、別に全く勿体無くないですから」
本当に興味ないので。そもそも母さんの我が儘を許す私の父さん並に包容力がないと、異性としての好意にさえ値しない。まずそこが付き合う最低条件。正直イケメン云々の見た目は如何でも良いし、性格もはっきり言って好き嫌いはない。後は私と会話を楽しめる程度に頭が優れてないと、付き合う以前に友人である必要もない。
それにリア充とか言うけど、バドしてれば良くも悪くも、楽しくも苦しくも、生きてる実感を充分に満たせているので問題ない。と言うより、バドミントンさえ
「えー……だって、織乃ちゃんって私と同じ理由で清楚キャラっぽい黒髪眼鏡にして、そう言うモテ易い雰囲気作ってるんでしょ?
私、織乃ちゃんの事は分かってるから。なので同じ伊達眼鏡属性女子として、ここは私が先輩になるべきかと!」
「違いますから。目付き悪いの隠す為ですから」
父さんから買って貰った眼鏡で、そんな不純な事が出来るか。ぶっ飛ばすぞ。それにさ、そもそも姉さんの方が断然可愛いですし。それと私が告白され易いのは異性とも同性みたいに喋れるだけで、会話を重ねると無駄に好感度を稼ぎまくってしまい、ついつい相手が私の事を好ましい人間だと思わせてしまうからだけだ。
いや、本当。なんでこの年齢の男って、あんなに過剰なまで洗脳に引っ掛かるのか?
何よりも、私は別に女として男の気を引いた事は一度もない。同じ学校に通う同級生の一クラスメイトとして、同じ教室で生活する人間として、それなりに好かれる様に接しているだけだ。内面とか、そんなの建前だけの偽装を好かれても、私は相手に思う事は何もない。
「またまた~もう、この告白され魔さん!」
三浦さん、リア充趣味に私を引き摺り込みたいからって、そんなあだ名を付けられても困る。それに告白はされた事はあるけど、この四人の中だと美少女具合なら藤沢さんがトップなので、そんな事を言われても更に困る。まぁ見た目は藤沢さんが美人さんなんだけど、女の私がこう感じるのも変だけど、何故か彼女には人妻的背徳感がある。あるいは、リアルにお姉さんな雰囲気か。
なので……うん、同級生からはモテるというより信頼されている。同性からは頼られる姐さんだ。むしろ、教師の方々がそう言う男性視点で見ているキャラだった。本当美人さんなのに、残酷なことだ。
「好きでされてる訳じゃありませんし、それもここ最近は全くないです……ってか、告白される頻度はそっちの方が断然上だと思うのですけど?」
「残念。私はイケメンそのものが好きなのであって、別に異性として好きって訳じゃないの。格好良かったり、可愛かったり、見た目が良ければそれで良いの。
だって―――私より弱い男なんて、愛玩動物以外の何になるのかな?」
「あ、はい。三浦さんはそう言う人でしたね」
怖い。本当にもう怖い。嘗て、彼女はデーモンと呼ばれていた最強のいじめっ子だった。親が離婚したのか、再婚したのか聞いていないけど、姓が変わったことで今の中学校では誤魔化せてはいるが、一部の人間は彼女の本性を理解している。そう理解しているからこそ、そのデーモンの名を学校で噂として流すような愚行もしていない。
……小学校の頃、最初はまだ良かった。生まれながらに強く、生まれた後も家の都合で強くなった彼女は、他人に暴力を振ういじめっ子や不良を叩きのめしていただけだった。しかし、段々とエスカレートしていった彼女は、上級生も制圧し、他校にも勢力図を伸ばし、暴力を振るう為にいじめっ子を探すようになっていた。正義の名の元に、仕事と割り切って子供を助けぬ教師に代わり、彼女はデーモンになっていった。そして、もはや全ての学徒に恐怖される不良になってしまった。
挙げ句、最終的には閣下と呼ばれていた。
確か高校生の兄を連れて来たいじめっ子をしばき倒し、偶々何故か持っていた蝋燭を止めに使って苛めたからだったか。デーモンに逆らうと蝋人形のお仕置きをされると噂が広がり、三浦さんはデーモンから閣下に進化した。学校の不良たちも、デーモンが余りにデーモンだったので心底恐怖した。そのまま周辺のガキ大将が殲滅され、暴虐の独裁が始まった。
まぁ、それも一年で収まったが。本当に、何でこの友人は直ぐ暴走するのか。もう本当、私がどれだけ小学校の頃に苦労したことか。あの姉さんがバド以外で本気になったのは、悪魔退治の時くらいだ。私達はこれをデーモン閣下事件と呼び、また幼稚園から付き合いのある幼馴染の三浦さんが暴れ出さないよう注意する必要がった。
後、悪魔退治事件の功績から、何故か藤沢さんだけエクソシストとか、マザーエレナとかと、デーモンから救われた人々から感謝されている。
「はいはい。そんな事は如何でも良いでしょ。遅刻になっても知らないから」
「分かってるってば、エレナ。ほら、織乃、のり子。行くよ二人とも」
「保護者ですね」
「うん、保護者と子供だね」
本当に、藤沢さんは良くこんな問題児三人と一緒に居られるなぁ……何て、その問題児である友人として感謝しかない訳だけど。正に生まれながらの保護者で、生粋の母親体質なんだろう。何せマザーだし。
だがしかし、三浦さんには困ったものだ。
本当、正に清楚系純潔ビッチだ。性質が悪いことに、三浦さんは好きでそんなリア充キャラを演じている。本性は暴力のデーモンで、小悪魔なんて次元では無い閣下な癖して、もうこれを三年も貫き通している。でも、あの暴力主義者よりかはまだ似非リア充の方が平穏無事な毎日を過ごせる……って、思わないと心労で胃が痛む。
……はぁ、もう友達するのって疲れるな。
また暴れ出したら私が色々説得して、藤沢さんにデーモンを越えし者へもう一度なって貰わないといけないかな。しかし、あの
「しかし、最後の学年が四人同じクラスとは吃驚でしたよ。何で同じ名字である双子の姉さんとも一緒なのか、疑問ですけどね」
「まぁ、一緒なんだから別に良いでしょ」
三年のクラスに入って、藤沢さんに無駄話を愚痴る。意味のない会話だが、そんな無駄を楽しめるのが友人と言うもの。有意義なだけの生活なんて、色のない牢獄と変わらないことだ。
―――で、昼飯の時間。
授業中は正直、教師の話を聞くことで集中力を常時マックスで維持し、更に平行してバドのイメトレをしているので脳味噌はずっと鍛えている。だから時間が経つのが凄まじく早く、脳を使い過ぎて頭痛がする程で、一刻も早く糖分が欲しい気分になる。空腹と言うよりかは、脳の為のカロリーが欲しい。脳トレでデーモンに殺されそうになった時に味わった走馬燈並の集中力を好きな様に出せる様になったが、あれ程の集中力を出すと吐き気の余り視界が歪むが、最近はクラクラしながらメンタルを平常なままでいられた。
とは言え、授業はただの復習だ。既に教科書は丸暗記して知識は得ているので、学校は教師の話を聞く確認作業と、人から言葉で物事を教わる事を学ぶ場所だ。何よりもう知識だけなら高校卒業レベルで、青春はバドに集中したいから小さい時に学業は終わらせたし、後は大学などで専門知識を学ぶだけの状態にとっととしておいた。
「…………」
「あれ、織乃ちゃんどうしたん? お弁当早く食べないと授業に間に合わないよ」
そんなお昼休みの中、四人でランチタイムと洒落込んでいるけど、食べ始めない私に三浦さんが話し掛けて来た。
「箸、入ってないです……」
「へぇ……?」
絶望した。目の前に脳味噌のエネルギー源があると言うのに、私では届かない事実に絶望した。災害などの支援では食糧はあるのに食器がなくてご飯の供給がストップすることがあるらしいが、多分今の私が味わってるこの絶望感はそれに近いだろう。
三大栄養素のブドウ糖が、この白米の中にある糖分が私は欲しい……!
我が脳髄が原動力を求めているんだ。このままエネルギー不足だと暇過ぎて精神が死んでる授業中、折角してるイメトレの精度が落ちてしまうではないか。
「仕様がないわね、全く織乃はさ。ほら、予備で割り箸持ってるから上げる」
「マザーエレナ。ベリーサンキューですよ」
「誰がマザーか。あんたの母になった覚えはない」
「そんな、エレナおばさん」
「次、クレアおばさんみたいに言ったら、鼻フックの刑だから」
「はいはーい」
しかし、私達問題児三人衆の保護者である藤沢さんに死角なし。本当、何時子供を産んでも立派な大人に育てられる天性の才能をお持ちであるようだ。女として羨ましい限りである。
―――で、既に放課後になった。
本当に何も変わらず、何の変化も無い日常だ。絶望をした後でも、学校の風景は何時も通り。苦しくて楽しい毎日だ。脳内でずっと、母さんとイメトレして、姉さんとイメトレして、芹ヶ谷さんとイメトレして、世界一位とイメトレして、世界二位とイメトレして、世界三位とイメトレして、三強とイメトレして、ずっとずっとバドを脳内で演出し続けて、外側の自分は何も変わらず日常を演出していた。普段は動きながらするイメージトレーニングだが、体を動かさずともバドミントンの研究は常時行える。しかし、今のままでは駄目だ。このままじゃ発想力も想像力も駄目だ。
まるで足りない、と自分自身に失望する。体力に限りはあるのだから、神経をもっとすり減らして強くする必要がある。才能がないならば、脳味噌が編み出した理論を感覚として自分の神経に刻む為、ちゃんと練習前にイメトレをしないと鍛錬で実践することが出来ないではないか。
だからこそ、私にはバドミントンが足りな過ぎると、自分の不出来な脳髄に失望する。何故なら学校とは学生であると言う建前を守る為の場所であり、バドの練習する前に、その練習を練習する瞑想空間である。ここで確固たる想像力を養わないと技を身に付けるなど囀ることさえ許されない。
何よりも、想像力はあらゆるスポーツで必須の学習能力。これを生かせない奴は勝利をイメージ出来ず、常勝など夢のまた夢。自分自身を思い描けることが出来ないと勝つ為の道筋の、その最初の入り口を見出す事も出来ない。才能がない凡愚である私は、まず自分の能力でも敵に勝てる明確なビジョンを描く思考回路がなくては話にならない。
なのに、もう学校が終わってしまった。もっと時間は有意義に使わないと脳髄が進化出来ず、バドを成長する余地がない。肉体はイメージ通りに動かす道具であるのだから、そもそもイメージを完全無欠でなければ試合を演出することなんて不可能なんだ。だから明日は、もっとちゃんとイメトレをしないと。頭の中でバドミントンを集中しながら、普段通りに生活しないとならない。スマッシュの速度で飛来するシャトルを知覚する程の集中力を養う為にも、日常生活で思考と感覚を研ぎ澄ませる練習は凡愚の私には必要なんだ。
ああ、でも私は、何処まで狂えば姉さんに届くのか……?
天才共が持つ才能を人工的に得る為に、考え抜いた自分だけの理論を神経と感覚で身に付ける為に、毎日の鍛錬と常に脳内で行うイメトレで何とか再現出来たが、所詮はまだまだ付け焼刃。だからこそ、私が持つ偽りの才能はもっともっと成長する。
「じゃあ、皆さんさようなら。私はクラブの方へ行きますので」
「分かった。じゃあまた明日ね、綾乃、織乃………って、ん? あれ、何で綾乃はあっちに行かないの?」
まぁ、そう言う反応になるのは分かっていた。普段なら私達姉妹は学校が終わればバドクラブに二人で向かって行っているのに、何故か今日は私だけがそっちの方向へ行くんだから。
学校に居る間に、姉さんはまだバドを辞めたことを言っていなかった。でも、私がいると藤沢さんにも三浦さんにも言い難いものだ。そうすると必然的に、姉さんだけじゃなくて私の方にも何で辞めたのか質問される流れになるに決まっている。傷心中の姉さんからすれば、余り好ましい会話の流れじゃないだろう。
ここは何でも無いように私だけが三人から離れて、姉さんがいない非日常を日常にするのがベスト。
「姉さん、バドミントン辞めましたから。じゃ、そう言うことでまた明日ですね。道中気を付けて下さい」
「は……?」
「え……?」
「…………」
だから、言い難いことはさらっと此処で告白しておいて上げよう。驚いた顔をしている藤沢さんと三浦さんに手を振り、申し訳なさそうな顔をした姉さんには苦笑い一つで許すのが妹のプライドと言うものだ。
あー、でもなぁ……はぁ。やっぱり独りは寂しいものだ。
何時もなら隣に姉さんがいる帰り道だって言うのに、今日からは私は一人で歩き続けないといけない。戦い続けて、強くなり続けて、母さんが望むようにバドミントンを鍛え続けて、そのメンタルも研磨し続けて……はて、それで私の人生は一体何が手に入るんだろうか?
いや、そんな風に考える事が惰弱な精神の表れか。
独りで歩いているから、こう言う暇な時間でバドのイメトレをしていても弱気になってしまうのだろう。
今は思う儘に自分自身を鍛錬すれば良いだけのこと。明日は今日よりも強い自分になればいいだけの話。クラブには芹ヶ谷さんもやって来るし、ちょっと面白い性格をしたバド好きな大人も大勢いる。クラブの纏め役である李搏御爺さんなんて面白い人筆頭だろう。まだまだ若い私達の世代が青春に熱中しているのも大変好ましいけれど、ああやって適度にバドミントンを娯楽として遊ぶ大人達からも、一人のスポーツマンとして学ぶべきメンタルが存在している。
でも、でもなぁ……やっぱり糞っ垂れな現実だ。
姉さんはもう隣にいない。多分もう二度と、私の隣でバドミントンをすることはないのだから。
三浦のり子。通称:デーモン、閣下、デーモン閣下。
小学生時代、史上最悪のいじめっ子だった少女。余りにも強くて自然と周囲からデーモンと恐れられ、女子小学生相手に調子に乗った高校生の不良を蝋燭で苛め抜き、自尊心を粉砕したことからデーモン閣下と呼ばれるようになる。この時代は公園のジャングルジムに、不良が良くオブジェとして飾られていたらしい。一年以上周辺小学校を独裁に成功するも、幼馴染のマザーエレナによって改心したので今はもうまとも。しかし、中学生になった事を契機に嘗て暴力主義者だった自分から少しは変わる為、何故かリア充になることを決意。で、マジでリア充化に成功。だからと言って、人格や性格に変化は全く無い。建前としてリア充趣味があるだけで性根はずっと暴力主義者。だが雰囲気は清楚系文学少女に変わる事が出来ていて、最初から理解している人以外、誰も彼女の事を見抜けていない。
自分以下の男に興味はないが、イケメンはイケメンで人並みに好き。なので不純異性交遊に走らない清楚系純潔ビッチ。男を弄ぶのが好きなだけで別に性的興味は皆無らしく、もし好きになるとしても武術に優れ、その上でマッチョなメンタルイケメンじゃないと多分一欠片も靡かない。マッチョ具合は、ボディビルダータイプでも、着痩せする細マッチョでも良いらしく、良い筋肉なら見た目は如何でもいいとか。なので、イケメンイーター、全自動リア充男吸引機、男喰らいミウラビッチと仲が良い三人から断言され、でも似非リア充として開き直っているので変わる気はない。
藤沢エレナ。通称:エクソシスト、マザーエレナ、デーモンスレイヤー。
幼馴染の姉妹がバドミントンをしていて、もう一人の幼馴染も武術を学んでいたので、じゃあ自分も何かしてみたいと思って親に相談したので護身術として合気道を道場で幼い頃から学んでいる。藤沢両親曰く、絶対この子は美人になるので、自分の身は自分で守れた方が良いとのこと。しかし、柔術に天賦の才能があったらしく、即効で開花してしまったとか。暇潰しに古流柔術の本を読んだり、動画で柔術の稽古とか見ており、道場以外でもド嵌まりしている。重度の柔術オタク。
小学生の頃、拗らせてデーモン閣下になった幼馴染にプッツンし、ついにボコボコにした。デーモンの支配を終わらせた偉業を讃え、誰かが悪魔を退治したエクソシストと呼び、あのデーモンを従えている姿を見た誰かがマザーエレナと呼び、デーモンに自尊心を砕かれた男子からデーモンスレイヤーと呼ばれていた。中学生になった後もデーモンの恐怖はこの世代では受け継がれ、未だにエクソシスト藤沢と影で呼ばれている。
主人公が居る為、ちょっと原作時空からキャラ設定がズレています。四人とも幼馴染で仲が良いですが、実は小学校の頃は三浦さんが一番荒れに荒れまくっていた過去があります。とは言え、保護者のママに拳骨されて大人しくなりましたけど。雰囲気としては、狂犬リア充の三浦のり子、天然魔性の羽咲綾乃、扇動屋の羽咲織乃、そして問題児三人衆の面倒をみている保護者の藤沢エレナです。
後、主人公はリア充趣味に自分を引き摺りこもうとする三浦さんを警戒しています。三浦さんとしては、何だか張りつめて思い悩んでる雰囲気がある友達を、パーとリフレッシュさせる為に異性を道具にして遊ばせようとしているだけで、悪気が全く無いです。むしろ、主人公に寄って来る悪い虫は蝋人形にするつもりです。しかし、主人公よりも最近は綾乃ちゃんの方も段々と可笑しくなっているので、そっちの方が気になっていましたが、綾乃ちゃんは男と会話をしても楽しいと思えるような人ではないので、どうやってメンタルケアしようかと思い悩んでます。
ママは良くも悪くもメンタルが健全なので、思い悩んでいても、相談されるまで無理には聞きません。本人が望むままに生活出来れば良く、その上で一緒にいて楽しければ友達としてそれで良いと思ってます。
GN-XXさん、huntfieldさん、244さん誤字報告ありがとうございます!