いつかこれを読む君の為に   作:北間 ユウリ

7 / 9

 お久しぶりです、難産でした。

 日記形式は前半だけです。ついに、私も日記形式を貫くことをやめてしまった……



僕の副官とパーティー

 

 6月3日 晴れ

 

 クルーガーさんからパーティーに招待された。グリフィン&クルーガー主催のパーティーで、支援者への返礼と喧伝を兼ねたものらしい。会場は僕でも聞いたことがあるくらいの高級ホテルで、クルーガーさんの意気込みが見てとれた。

 当然了承したのだが、護衛として数人の人形を連れてくるように言われた。喧伝ということで何となく予想していたが、実際に戦術人形を見せてアピールするつもりなのだろう。流石に、実戦はさせないとは思うが。

 

 取り敢えず、当日までに連れていく人形を選ばなければならない。パーティーに出席するのだから、護衛だとしても彼女達のドレスも用意する必要があるだろう。僕も、スーツを引っ張り出さないと。

 

 

 追記

 

 後任にアドバイス。指揮官になれば、パーティーに呼ばれる事もある。いつ招待されても良いように、スーツないしドレスは用意しておいた方がいい。見つからないと懐を痛める事になる。

 

 

 

 6月6日 曇り

 

 護衛の人形達のドレスはグリフィンが用意してくれるらしい。彼女達の希望をまとめ、グリフィンに送った。人形たちの利点は、規格が同じところだ。身体成長がないから、一々採寸する必要がない。

 留守番を頼むカリンには、後日に埋め合わせをすることを約束した。衣装カタログを見ていたので、また財布が軽くなるのだろう。

 

 スーツもグリフィンが用意してくれるらしい。もっと早くに教えてほしかった。

 

 

 

 6月20日 晴れのち雪

 

 今日がパーティーだった。支援者への挨拶は緊張したが、料理は美味しく、それなりに楽しんだと思う。護衛の人形達も、本部所属の人形達と交流したり、料理に舌鼓を打ったりと楽しんでいた。

 会場には珍しい顔もあって、久しぶりにペルシカと話した。どうやら研究は順調らしい。秘匿情報故にここには書けないが、楽しみなことも増えた。

 途中で酔った416に付き添って会場を出ることにはなったが、楽しいパーティーだった。

 

 一つ、反省があるとするなら、見て覚えても実践できるとは限らないということだ。次の機会までには、踊れるようになろう。お互いに。

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 楽しげに談話する指揮官とペルシカ。その二人を見ていると、416の胸中にほの暗いものが顔を覗かせる。

 それを飲み下すようにシャンメリーを飲み干すが、依然としてそれは残っている。むしろ、少し大きくなった気がする。

 

「なに怖い顔してるのさ」

「は? 怖い顔なんてしてないけど。私は普通よ、普通」

 

 いつの間に起きたのか、G11がスパークリングワインをちびちびと飲んでいた。その視線は416から指揮官達へと移る。

 

「……はーん、嫉妬かぁ」

「別に、嫉妬じゃないわよ。指揮官が誰と一緒に居ようと私には関係ないし、今の時勢なら一夫多妻制だって……」

「鏡見なよ」

 

 そう言って、G11は懐から取り出した手鏡を416へと向けた。そこに写っていた顔は眉が寄っていて、心なしか口角が下がっている気がする。

 

「……慣れない場所で気疲れしてるだけよ」

「あーはいはい、そーですねー」

 

 G11は呆れたように言い捨てて、またちびちびとスパークリングワインに口を付ける。その様子にムカッときて、416はG11の頬を引っ張った。

 

「わあっ、何すんのさ!」

「うるさいわね、ただ頬を引っ張っただけじゃない」

「強すぎるんだよ! これはれっきとしたいじめだ!」

 

 うるさいので離してやると、G11は頬をさすって、恨みがましく416を睨んだ。

 

「不機嫌になってあたしに当たるなら、指揮官のところに行けばいいのに……」

「だって、今行ったら邪魔になるし……」

「……416が、遠慮してる……!?」

「アンタ、私を何だと思ってるの?」

「自意識過剰ポンコツ人形」

「殴るわよ」

 

 ぎゃっと悲鳴を上げて、G11が頭を押さえた。なぜか、416の手は握り拳を作っていた。それを不思議に思いながらも、416は口を開く。

 

「今度余計な事言ったら、本当に殴るから」

「もう殴ったじゃん……」

 

 頭を押さえたまま、G11はテーブルに突っ伏す。

 

「もうさ、お酒の力でも借りれば? 酔った勢いで指揮官を独り占めしなよ」

「私、飲酒禁止されてる……」

 

 その時、416の頭に妙案が浮かんだ。

 

「……そうよね、酔ってしまえばいいのよね」

「あ、なんかマズイこと言ったかも」

「そのグラス借りるわよ」

 

 言うより早く、416はG11のグラスを手に取り、中身を自分のグラスに移す。そして、何も入っていない方のグラスを呷った。

 

「……よし、行ってくるわ」

「……もうどうでもいいや。行ってらー」

 

 適当に手を振るG11を背にして、416は指揮官の方に歩き出す。体を揺らして、さも酔っているかの様に装う。

 

 そして、ペルシカと会話している指揮官にもたれかかり。

 

「……しきかぁん……わたし、よっちゃったぁ……」

 

 素面では絶対に出さない、甘い声を出した。

 

 

 

 指揮官は固まっていた。416が甘えるような声を出したことではなく、その言葉の内容に。

 

「……え。あの、416?」

「なんかぁ、ふわふわしててぇ……ぇへへ……」

 

 ああ、これは酔っている。もし素面でこれなら、彼女がぶっ壊れたとしか思えない。

 指揮官は目の前が真っ暗になりかけた。だが、ここが基地ではないことを思いだし、何とか意識を保つ。

 

「ごめん、ペルシカ。ちょっと部下を介抱してくる……」

「うん、大丈夫だよ。キミと久しぶりに会って話せて良かった。……じゃあ、またね」

「ああ、また」

 

 ペルシカとの挨拶を済ませ、416に肩を貸す。完全に脱力していて、少しだけ重いと思った。

 

「ほら、416。外に出よう」

「ふへへ、しきかんのにおいー……」

 

 本格的に絵面がまずくなった。これ以上彼女の痴態が広まらない内に、何より彼女の為に、急いで会場を抜け出した。

 

 

 

 ホテルの中庭には、大理石の噴水が設置されている。その傍に置かれたベンチに、416と指揮官は座っていた。

 

「416、大丈夫かい?」

「……大丈夫よ」

 

 そう言う416の顔色は、まだ朱を帯びている。それが酒気なのか羞恥なのか、指揮官には判別がつかなかった。

 

「まだ酔いが残ってるなら、水をもらってくるけど……」

「本当に、大丈夫だから……」

 

 そう言って、416は手で顔を覆う。彼女は酔っている間の記憶が残るタイプなので、おそらく先ほどの自分を思い出して恥ずかしいのだろうと、指揮官は予想を立てた。

 会場から音楽が流れ始める。世間には疎い指揮官でも知っているヒットソングで、歌っているのは会場にいた人形達だろうか。たしか、余興の一つとしてそんな種目があった気がする。

 

「この曲、何だったかしら……。聞いたことはあるけど……」

「あれ、知らなかった? たしか……」

 

 そう言って、指揮官は曲名を口にする。それで416も思い当たったらしく、あれね、と呟いていた。

 

「たしか、振り付けがついてるのよね」

「そうそう。舞踏会で踊るような本格的なダンスでね。今日のパーティーでも、参加者がこれに合わせて踊るらしいよ」

 

 指揮官は事前に貰っていたプログラムの内容を思い出し、416に伝える。すると、彼女は少し考えてからすっと立ち上がり、指揮官へと手を差し伸べる。

 

「なら、私たちも踊りましょう?」

 

 月を背負ってそう言う彼女に、指揮官は見惚れた。風に乗ってふわりとふくらんだ銀の髪が、月の光を反射して煌めく。浅緑色の瞳が、宝石のように輝いている。

 しばらく見つめ合っていた二人だったが、416の瞳が不安げに揺らめいたのを見て、指揮官は苦笑して立ち上がった。

 

「そういうのは普通、男から誘うものだよ」

「だって、指揮官は誘ってくれないじゃない」

「……それは、どうかな?」

 

 頬を膨らませる彼女に、指揮官は手を差し出す。

 

「ーーレディ、どうか僕と一曲、踊ってくださりませんか?」

 

 416の目が大きくなる。差し出していた手が、彼女の胸元へと移動する。そして、首から下げていた指輪を、包むように握った。

 それを見て指揮官は、彼女があの時渡した指輪を身に付けていたことにようやく気付いた。

 もしや、先ほどの酔いは演技で、彼女は嫉妬して僕を外に連れ出そうとしたのではーーなんて妄想が、ふと思い浮かんだ。

 真偽を聞いてみたい気もするが、それよりも彼女の返事だと、指揮官は416の瞳を見つめ続ける。

 

「ーーうそ。夢じゃないわよね?」

 

 やっと彼女の口から出てきた言葉は、それだった。指揮官は苦笑して、

 

「人形は夢を見ないんじゃなかったっけ」

 

 と言った。

 416の顔が、先ほどよりも紅潮する。今回の原因は、指揮官にだって分かった。

 

「ほんとうに、良いのかしら?」

「それは僕の台詞だよ。そもそも、先に誘ったのは君だろう?」

「そうだけど……でも……!」

 

 416は中々答えを返してくれない。少しだけ焦れた指揮官は、彼女を焚き付けることにした。

 

「もしかして、ダンスに自信がない?」

「なっーーーー!」

 

 指揮官が放った言葉は、的確に416に刺さった。完璧を自称する彼女が、次に放つ言葉は、決まっている。

 

「わ、私は完璧な人形なのよ!? ダンスだって完璧に決まってるじゃない!」

「それじゃあ、踊ってくれますか?」

「当たり前よ! 寧ろ、指揮官が私の足を引っ張らないか心配なくらいね!」

 

 そう言って、416は指揮官の手を取る。指揮官は苦笑しつつ、彼女を抱き寄せた。

 

「あっ……」

「それじゃあ、次のフレーズから入ろうか。ワンツーのステップから……」

 

 そうして、二人は踊り始める。

 

 その躍りを見届けるのは、月と、友人を心配して見に来た一人の人形だけだった。

 

 

「えっ、ちょっと!? 落ちる落ちる助けて指揮官!!」

「416ーーーー!?」

 

「……なにやってんのかねー……」

 

 





 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 416のドレススキンから着想を得たお話でした。あれは誘ってる(ダンスに)。

 それはそれとして、416はダンスがお下手だと思うんですよ。足もつれさせて転びそう(偏見)。公式では身体能力に秀でてるそうですけどね。でもセンスは別物だって私信じてる。

 G11は416と妹したり姉したりしろ(して)。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。