とりあえず
リィエルすこ
この世界には魔術が存在する。
魔術は主に戦争などに使われていて、その魔術を使える人間なら剣で一人を殺す間に10人の兵士を殺す事が出来ると言われている。
しかしその魔術師になれる人間は少なく、血筋的な問題、金銭的な問題などが挙げられる。
アルザーノ帝国。
この国は魔術師を多く育てる学院が数多く存在する魔術大国であった。当然戦争も強く国力で言えば最も強いと言っても過言では無い。
その国の魔術関係の事件を扱う部署。宮廷魔導師団、特務分室に主に二人組で活動をする存在がいる。
帝国軍の人間からは『イノシシと調教師』『アホコンビ』『こいつら突っ込んでおけば大抵なんとかなる』『敵が可愛そう』『作戦ブレイカーと作戦セイバー』『ちくわ大明神』とか言われている。
今日もそんな二人組に狙われる外道魔術師が余りの恐怖に震えながらも自らの研究施設から脱出を図ろうとしていた。外道魔術師の男は自分の研究施設に侵入し暴虐の限りを尽くした
自分の研究施設でウーツ鋼の大剣を振り回し、研究の成果や器具を壊されるのはなんとも言いがたいが、あれほど破壊されればもう復旧など不可能。逃げるのが現実的だった。
男が自らの施設の扉を開けると
「くそっ!何者だ!俺の研究所をめちゃくちゃにしやがって!この崇高な研究の理念が分からん訳ではなかろう!」
「知らねーよ。全く、国民の命にも手を出してまでやる研究か?何者かという質問にはこう答えよう」
ズハンッ!
男が逃げて来たドアが大剣によって破壊され青髮の少女が追いついて来た。見た目は可憐な少女であるが男が先程見た物を考えれば、もはや恐怖はホラー映画すら上回るものだろう。
「「アルザーノ帝国、宮廷魔導師団特務分室」」
息のあった名乗りは2人が長い間一緒に任務をしている事が見て取れる。側から見ればバカップルだが本人達はそのつもりは一切存在しないらしい。
「執行官ナンバー7『戦車』」
「執行官ナンバー8『剛毅』」
名乗りを挙げた2人のコードネームを聞いて男は驚いた。それは魔術師の世界では有名な宮廷魔導師団、最凶の二人組などと呼ばれ最近話題になっている名前だったからだ。
「しっかしリィエルから逃げ切るとは……割と実力はあったのかな?」
「ん………逃げるのは早かった。きっと前世はウサギか何か」
「随分きたねぇウサギだな。多分あれだよ……蚊とか蝿とかだろ」
本人を前にして愉快に会話を始める2人に男は苛立ちながらもどこからか逃走を図れないかと必死に思考を続ける。挟み撃ちにされたこの状況ではどちらかを撃破するしか無い。
しかし男の中ではあのイカれた少女に対する恐怖心があるのでどちらを選ぶのかは自ずと確定していた。
「《猛き雷帝よ》!」
男の指先から一節に省略された軍用魔術、『ライトニング・ピアス』一直線に放たれる、鉄さえ貫通する雷光。
通常は三節によって詠唱される呪文ではあるが、男の高い技量によって省略を可能にした事により不意をついた形で青年に魔術を放つことが出来た。
バチッ
しかしあろうことか青年は右手の甲で雷光を
「ッな!」
男が驚いたのは青年が魔術を弾いた事では無かった。青年は攻撃魔術の中でも高い速度を誇る『ライトニング・ピアス』を確実に撃墜したのだ。三節詠唱による攻撃ならまだしも、至近距離から放たれた一節による高速の攻撃をだ。
「『ライトニング・ピアス』の一節詠唱。まぁその程度飽きるほど見てるし。それじゃあ…………」
男が驚いた隙をこの2人が逃すはずもない。少女は大剣で斬りかかり、青年は逃れられ無いように反対側から拳を叩き込んだ。
結果、男の首は胴体と別れを言うことになった。もう起き上がることはないだろう。
青年はついでと言わんばかりにその死体に魔術を行使する。
「《吠えよ炎獅子》」
青年の手から放たれる灼熱の炎は男の死体を消し炭にした。魔術師の死体を研究する外道魔術師も存在する為死体処理は彼らの仕事では基本であった。
「さて仕事も終わったし飯でも行くかね」
「ん、タルト食べる」
「それは飯じゃないって言っただろ?」
「ん、じゃあ…………ケーキ?」
「はぁ……………わかったよ。ケーキバイキングな」
青年、アルト=マツバは少女の発言に頭を抱えながらも結局はケーキを食べる事にしたようだ。そもそもこの青髮の少女、リィエル=レイフォードには食事以外の娯楽があまり無いのでそれを抑制するのも少し不憫だと思ったからである。
そしてこの2人は4日連続でケーキバイキングに通っていると言う事実も語っておこう。
カリカリカリカリ
リィエルはそんな可愛げのある音を立てながら驚異的な速度でタルトを食べていた。どうやらイチゴのタルトがお気に入りらしい。普段無表情なリィエルはこの時ばかりは少し嬉しそうな顔をしている。
アルトもリィエルを眺めながらショートケーキを何個も食べていた。
あまりの速度に新しくケーキを持ってきた店員も険しい顔をしている。しかしアルトはその店員を見て何かに気がついた様だ。
「…………何やってんすか、アルベルト先輩」
そう。
ケーキを持ってきた男はアルトとリィエルと同じ職場。宮廷魔導師団特務分室、執行官ナンバー17『星』のアルベルト=フレイザーであったのだ。彼は色々な技能に精通しているので変装などもそつなくこなせるのである。普段の真面目な雰囲気の役からチャラ男まで変装や演技の幅は広い。
しかし彼の同僚は彼の変装や演技が完璧な事に異様な違和感を覚えると言う。
カリカリカリカリ
「………明日緊急で任務が入った。場所はフィジテのアルザーノ帝国魔術学院だ。」
「魔術学院?………潜入ですか?」
アルトは自分とリィエルの年齢を見て魔術学院に通っていてもおかしく無い様な年の為、任務に選出されたと思った。
「違う。アルザーノ帝国魔術学院の魔術競技祭に女王陛下が見学をする予定だ。本来は王室親衛隊などが護衛をする筈なのだが………その王室親衛隊に不穏な動きがあると情報が入った。」
カリカリカリカリ
「あの王室親衛隊に?………謀反なんてするとは思いませんが…」
「不穏な動きと言った。何かしらの事情があるのだろう。それに………アルザーノ帝国魔術学院には産廃王女もいる。」
カリカリカリカリッ!
「関係ない。敵は切る………それだけ」
「「…………………」」
情報を集める任務の筈なのだが……どうやらリィエルにはそこの所が理解できなかったらしい。アルトの胸中にはふと、人選ミスと言う言葉が浮かんだ。
その日のケーキバイキングの料金はアルト持ちとなった。アルトは一面ではリィエルに厳しいがこう言った所で強く出れないのである。リィエルは心なしか勝ち誇ったような表情をしている。
「ん、おいしかった。」
「良く飽きもせず毎日食えるな………たまには別の食おうぜ」
「……レーションはいや」
「普通の!飯を食おうって!言ってるの!」
「………………タルト?」
「うがぁぁぁぁぁぁ!」
アルトの悲惨な悲鳴が住宅街に響き渡った。
近所の人ごめんなさい。
しかしアルトはそんなリィエルの事を心配して毎日のように料理を自炊している。ちなみにアルトはリィエルが料理中フライパンを曲げた時から料理を教えるのを諦めたらしい。
そして明日からの任務を機にアルトに更なる苦労が降りかかる事は今の段階では誰にもわからない事である。
最後に
リィエルすこ