主人公の陰が薄くなるけどまぁいいや
今日からリィエルは主人公である。
リィエルをすこるのだ!
戦闘描写は苦手、感情描写も苦手。
ほんの2年と少し前。
件の組織から亡命したいと願った兄妹がいた。
当時任務についていたのは、俺とグレン先輩とアルベルト先輩で、俺はその任務にそこまでやる気は無かった。
まさか両親を殺した組織から亡命するのを助ける事があるとは………任務最初期は酷かっただろう。彼らに対して敵意すら持っていた気がする。自分の中では復讐は完結していた為に、流石に手を下すという事は無かった。
それでも自分はあの言葉に好意的になってしまった。
『もし……よかったら、家族にならない?』
自分にとって家族という言葉は失った最も大切な物で、他の物では到底埋め合わせする事なんて出来なかった。だから自分は家族という言葉に乗せられたのか………いや、これはただの言い訳だな。
彼らは善良とは言えずとも気のいい人間で少なくとも心の何処かで気に入っていたのだろう。
『あなたが迷惑じゃ無ければ………あの子のこと、お願いね』
「……………………」
昨晩と同様に釣り糸を垂らすアルトは来訪者の気配を察知した。
アルベルトの忠告通りリィエルが自分に牙を剥くと言う事実に少なからずショックを受けるが、こんな事も最初から想定のうちであった。
想定していた通り寝返った組織も例の『天の智慧研究会』であろう。そもそもリィエルの出自はその組織が関わっているが故に、他の可能性は考えづらい。
「…………アルベルト先輩の言った通りになったか。全く………怖いなあの人は」
「…………………」
リィエルは口を開かなかった。これから殺す相手に対して交わす言葉なんて必要ないのか………または別の要因か。そんな考察もこれから意味をなさなくなるのだが。
アルトは自らの手袋を外してリィエルの足元に投げた。
「魔術師同士の決闘で勝者は相手に言う事を聞かせる事が出来る。当然知ってるだろ?俺が教えたから………な」
「…………わかった」
目を見開いたリィエルが手袋を拾い上げる………それが決闘を承諾する方法故に。
「俺が勝ったらリィエルはいつも通り俺たちの仲間。リィエルが勝ったら………敵でも家族の元でもどこにでも行くといい」
「……………ん、《
「ふぅ……………《
互いのことをほぼ知り尽くした二人はこの決闘に緊張感を持つ事が無かった。互いの間合い、呼吸の間隔、攻撃のリズム………全て
いつもはアルトが勝利するが今日に限ってはそうではない。互いに譲れない物がある。
「ーーーーーーーーッ!」
「いいいぃぃぃゃゃゃッ!」
ここに特務分室のエース同士の対局が始まった。
真夜中の海岸線で鈍い音を響かせながら戦う二人。どちらも互いの手を知っている為に決め手を切ることが出来ない。
この二人は同じ近接戦専門の魔術師として対極に位置していた。
天才的な戦闘感による極限の速さを誇る剣線を繰り出すリィエル。
驚異的な経験、リィエルには無い技を使い反撃の目を狙うアルト。
肉体のスペックに限って言えば魔術によって作られた肉体を持つリィエルが優っている。それでもアルトがその速度についていけるのはリィエルの数倍の戦闘経験を持ったアルトの先読みの恩恵であろう。
「ッぐ…………!」
しかしどんなに上手く受け流してもリィエルの振り回す大剣のダメージを消す事は出来ない。アルトの肉体の耐久、体力はリィエルと比べて加速度的に削られる一方だ。
戦闘時間が長引く程アルトには不都合な事が増え、リィエルに負ける可能性は高くなる。
そもそもこの戦闘はアルトにとっては異常な程不利な対局であったのだろう。
アルトはリィエルを無力化、敗北させる事を目的としているがリィエルはアルトを殺す事を目的とし。リィエルは高い記憶力によってアルトの技を覚えているが、リィエルの剣はそもそも戦闘勘によって繰り出される変幻自在の剣、アルトにとっては全てが初見。
故にアルトの出せる答えは一つ、リィエルの知らない技……所謂
アルトはリィエルの連撃に耐えきれず体制を崩す。リィエルがそれを見逃す筈も無い。
「やぁぁぁぁあッ!」
リィエルの渾身の一撃がアルトの
「ッ…………かかったな!」
最初に隙を見せたのはリィエルだった。アルトが東方にて忍者に習った忍術…………空蟬。リィエルは残像を残す程の緩急によって敵の目測を誤らせる技に完全に掛かってしまった。
「《いっぺん寝とけぇぇぇぇぇッ》」
そして隙を晒したリィエルに『フィジカルブースト』で加速、背後から拳を叩き込もうと接近…………そしてアルトの目が捉えたのはリィエルによって
しかしアルトを切り捨てるには遅すぎる。そう判断した故にアルトは躊躇わず踏み込み。
「ッ!?」
リィエルの罠に掛かった。
アルトによって錬金術の理を叩き込まれたリィエルは自身の剣の錬成、正式名称『隠す爪』の術式改変が可能になった。
アルトからすればその改変は剣の形状を変化させる程度だと認識しているがリィエルが直感によって導き出した利用法は完全にアルトを想定とした改変だった。
今までいたずらに地面を削り作り出していたのだが、素材をアルトの踏み込む場所に指定する事で簡易的な落とし穴を作り出した。
「ッぐぅ…………」
拳はリィエルに届いた。
しかし足場が崩れた事によって威力は減衰、致命傷になり得なかった。そして当然アルトは無防備、万策が尽きた。
アルトの胸を大剣が貫く。
「ーーーーーーッ」
「…………アルト、今まで……ありがとう」
アルトが最後に見たのは涙を流すリィエルだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
海岸にて決着がついた時、丁度良いタイミングでグレンがそこにやってきた。やってきた理由は只の下世話な老婆心でアルトの元に行ったリィエルを追ってきただけなのだが。
まさか殺し合いをしているとは夢にも思わなかっただろう。
「ッ…………リィエルお前………」
グレンもアルベルトから裏切りの忠告はされていた。しかし完全にアルトによって制御されているリィエルに問題など見つかる訳もなく信じていなかったのだろう。
「………………グレン」
リィエルはアルトから血に濡れた大剣を引き抜き正面に構えた。当然リィエルからすればグレンは敵だ。しかし
「なんでアルトを…………」
グレンから見てアルトの生存は絶望的だ。例え白魔術の達人といえど意識がなければ魔術など発動できないし、アルトの出血は多く相当厳重な治療をしなければ助けられない。
「命令………された。一番大切な人を殺せって」
「…………ッ誰だよ。お前に命令した奴ってのは!」
リィエルに命令出来る人間なんてそれこそ上司であるイヴかアルトぐらいしか思いつかない。となると………精神操作系統の術を
「………………兄さん」
「…………そういう訳かよ。殴ってでも止めるべきなんだろうな…………」
グレンは事情を理解した。リィエルの出自を考えれば想像がつく、本来は止めるべきではあるが、グレンはリィエルに勝つ事が出来ない。それが純然たる事実であった。
「…………じゃあね」
去り際にグレンの側頭部に一撃を入れ意識を落とす。
アルトの技術を形だけでも模倣しているので手加減も容易かった。
海岸に残されたのは倒れ臥す二人の男とアルトの釣り具だけだった。
今回もとばっちりグレン
最早ノルマ
リィエルちゃんはお礼を言える偉い子なんだよ!
ところでバトルシーンが対ヒロインしかない小説があるみたいなんですがどれか知ってる?(すっとぼけ)