リィエルすこ(メリークリスマス)
本格的に冬が始まり寒くなってきたこの季節。
年末前のこの時期にはあるイベントがあった。
このイベントの為にアルトとリィエルは何故か上司に有給を取らされたので家でくつろいでいるのだが………
「アルト………クリスマスって何?」
リィエルは自分と同じくこたつの中でくつろいでいる家族の少年に疑問に思ったことを聞いた。
「クリスマス……まぁ元は偉い人の誕生日だったっけな。今はただの祭りってイメージが強いよ」
「んー、どんな祭り?」
アルトはリィエルに聞かれた事を頭の中で思い返してみる。以前の自分はクリスマスに鳥を獲って来て丸焼きにし、家族みんなで食べた事を思い出した。
「ローストチキンを食べたり、子供にプレゼントを渡したり………後はその年いい子にしてればサンタクロースって奴が夜中忍び込んで枕元にプレゼントを置いてくんだよなぁ」
昔、一晩中張り込んでサンタクロースを襲撃……そこから父との本気の魔術戦になって母に怒られた事はいい思い出である。
「夜中に忍び込む…………」
「どうかしたか?」
リィエルはアルトの言葉を聞いて考え込んだ。何を考えたかと言うなら子は親に似ると言えばよく分かるだろう。
「私にもサンタ………来るかな………」
「ッ………リィエルはいい子だから。きっと来るさ」
「ん!待ってる」
リィエルは特殊な出自で、親はいない。きっとクリスマスと言う行事も体験した事が無いのだろう。そんな事を思った一人の親バカは当然今日やる事を思い付いた。
「ところでリィエル。欲しいものある?」
「…………いちごタルト?」
「食品かよ」
「ん?」
「いや、いいんだ。来るといいなサンタクロース」
アルトは近所のケーキ屋に用事が出来た。
後は例の格好も用意しなければならない。夕食の準備という名目で少し出かけるとしよう。
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その夜自分の家に忍び込むという謎の状況に違和感を覚えながら何故かバーナードが所持していた例の赤い礼装を受け取り作戦を実行に移す。
この礼装、温度調整や壁への張り付きなど便利な効果が付いていて無駄に高性能である。煙突から入って落ちても大丈夫な様に耐衝撃のルーンまで…………
何故ここまで高性能なのか。それはバーナードのサンタクロースとしての対象が余りに高度過ぎたからであった。バーナードには孫や子はおらず独り身だが面倒を見ていた子供がいた………若き日のイヴ=イグナイトであるのだが。
彼女の家はクリスマスを祝うほど真っ当な家とは言えずイヴの元には当然のようにサンタクロースは来なかった。この事を不憫に思ったバーナードは名門であるイグナイト家の人間に気付かれずプレゼントを置きに行く必要があった。
イグナイト家に気付かれず侵入する事なんて普通は不可能なのだがそこは英雄。自身のスペックと作り出したこの礼装でなんとかしてしまったのだろう。
イヴもサンタクロースという年でもないのでバーナードはこの礼装の扱いに困っていたのだ。そこで丁度娘?が出来たアルトの手に渡ったのだろう。
先ずは一キロ離れた所から遠視の魔術で対象の状態を確認する。窓から見た部屋にいたのは帝国魔導師団の礼装に身を包み大剣を出し待機しているリィエルだった。
「あいつ……サンタクロースを殺す気か?」
何故いちごのタルトを枕元に置くのに命を賭けなければならないのか?この理不尽にアルトは親という生物の偉大さを感じた。
しかし諦める訳にはいかない。
昔取った杵柄、アルトは隠形の類いも得意であった。教えてくれた忍者の師もこんな平和的な使い方なら眉をひそめる事もないだろう。
夜の街の屋根を赤い人間が跳ね回る。
素早く、それでいて音もなく、着実に気配を殺し対象に近づく。しかしどんなに隠形に優れていてもあんな風に見張られていたら見つかる事は必然である。
何か手を考えなくては………そしてアルトはポケットの中からバーナードに託された謎の薬物を取り出した。あの英雄が言うには「吸った瞬間ゾウでも爆睡。翌日にスッキリ目覚められる」らしい。
一体何に使ったのだと聞いた時は、疲れた顔をしながら「イヴちゃんサンタ捕まえる為に『イーラの炎』や『第七園』使ってくるから……」と嘆いていた。
サンタとはどれだけ隠形を極めなければならないのか。さらなる疑問が深まる。
しかし作戦は決まった。
事前に準備していた屋根裏に繋がる隠し扉を使いリィエルの部屋の上に潜む。リィエルは今も剣を構えたまま動かない。
「メリークリスマス」
アルトはそんな言葉と共にバーナード作の薬品をリィエルの部屋に散布………恐ろしい事に無臭で煙も出ないらしい。これではリィエルも抵抗出来ないだろう。
リィエルは流石に耐えられなかったのかその場で意識を失い倒れそうになるが
「おっと……」
アルトが慌てて部屋に侵入し、リィエルの体を支えた。
未だに薬品は残っているが無駄に高性能なサンタ礼装のつけ髭にはガスマスクと同様の効果がある。特に問題はなかった。
リィエルを布団に寝かせて毛布を被せた後、上流階級の人間が食べる高級ケーキ屋で買ってきたいちごタルトを枕元に置いた。寝相が悪い訳でも無いのでベッドから落ちる事は無いだろう。
「ぅ………アルト………」
「?寝言か………」
アルトはリィエル頭を愛おしそうに撫でた後部屋を後にした。
翌朝
「…………サンタ……侮れない……」
「どうした?」
翌朝リィエルはサンタクロースに謎の対抗心を燃やしていた。
「サンタはきっと凄腕の暗殺者………戦ったら殺されていたのは私の方………」
どうやらサンタクロースの幻想?は守ることが出来たらしい。また別のところで勘違いが起こっている気もするが……
「そもそもサンタは待ち構えるものじゃ無いから。何を貰ったんだ」
「ん!いちごのタルト。とっても美味しそう」
アルトはリィエルの嬉しそうな顔を見て自分もプレゼントを用意していたのを思い出した。昨日買い物中に見つけた物だ。
「メリークリスマス。これプレゼント」
「いちごのタルト?」
「まだ欲しいのか?まぁタルトじゃないよ」
アルトが渡したのはいちごを催したネックレスだ。アルト自身もいちごのショートケーキが好きだったりするのでプレゼントには丁度良かった。
「俺とお揃い。食べ物の方が良かった?」
「嬉しい………大切にする」
リィエルがネックレスを大事そうに抱え込んだ。
アルトもそれを見ていちごのタルトを買わなくて良かったと心底思った。
「アルト」
「?」
「メリークリスマス」
「ああ、メリークリスマス」
そして当然のごとく今日の二人の朝食はいちごタルトだった。
急造ですが中々の出来だと自負している
番外だと後先考えなくていいから楽。
このネックレス今後も自分の作品に登場しそう。
いちごタルトのネックレスと思ってたけど主人公がショートケーキ好きなの思い出してお揃い路線に切り替えました。