リィエルすこ
そもそもアルトたちにこの任務が回ってきたのはただフィジテの近くの町に居たからに他ならない。王都からは馬車でも相当な時間が掛かるし、学院にある転移用の魔術陣も先日、学院で起こったテロリストの襲撃で壊されてしまったのだ。
その為アルベルトはともかく、全くもって任務に適していないリィエルとアルトを派遣するしかなかったのだろう。特務分室の
「これが魔術競技祭ですか……盛り上がってますね。」
「ああ。今回は陛下が見学に来ている。だから例年よりも盛り上がっているのだろう。」
「…………モグモグ」
リィエルはアルトの作った朝食のおにぎりを食べながら魔術競技祭の様子を物珍しそうに見ている。リィエルにはこういったイベントに参加した記憶が無い為、多少は興味があるのだろう。
「『精神防御』………中々キツそうな競技もやってますね。」
「………あそこにいるのがアリシア陛下の娘、エルミアナ王女だろうな」
参加者の屈強な男達の中に一人だけ可憐な少女が佇んでいた、競技も終盤に差し掛かっているのに全く堪えた様子はない。その様子を見てアルトは東方の修行僧の事を思い出した。
「流石はアリシア陛下の娘ですね。上の人間ももったいない事をしましたね。」
「……事情が事情だ。仕方がない事でもあったのだろう。」
「モグモグ…………あ、グレン」
「は?………グレン先輩?………本当だ」
アルトはリィエルの視線の先にエルミアナ王女を抱き留めるグレン=レーダスの姿を発見した。リィエルは無機質な目をしながらグレンに向けて闘志を露わにしている。
「俺達に何も言わずに去って行ったと思ったら……こんな所にいたとはな」
「リィエル………ステイだステイ」
「なんで?私はグレンと決着を付けたい」
「余計なことはするな。任務を忘れたのか?」
アルベルトが今にも動き出しそうなリィエルを鋭い眼光で睨んでいる。アルトが制止していなければ今にでも走り出していただろう。
「任務?女王陛下の…………グレンと決着を付ける事?」
「……………どうしてそこまで覚えていて、その発言が出るんだ?」
「………朝までは覚えてた」
「今覚えてなくてどうすんだ!………ハァ」
驚くべき事は朝まで覚えていた事だろう。元同僚であるグレンが見れば驚きのあまり失神してしまうに違いない。そこまでの成長を見せたのはアルトの血の滲むような教育の賜物である。
今回の任務は女王陛下の護衛を務める『王室親衛隊』の監視である。最近、王室親衛隊に不穏な動きがあると情報が入った。原因は異能者差別に対する新しい法案が円卓会で閣議されるようになったからだと思われている。
異能者とは魔術と同じく、人には出来ないような現象を起こす事ができる人間である、放電したり、水を操ったり、魔術の威力を上げたりと多岐にわたる能力がある。一般的には悪魔の生まれ変わりと信じられている。
その異能者に対する法案に関して、『王室親衛隊』が今回の訪問を機に何らかの行動を起こす可能性がある。
と言う事をアルベルトから説明されたのだが、リィエルが理解出来ているか分からない為アルトは確認作業をした。
「何をするかわかったか?」
「『王室親衛隊』を…………斬る?」
リィエルは途中まで自信ありげだったが途中で目的を見失ったようだ。アルトは頭を抱えた。これだけ騒いでいても周囲には気にされる様な様子はない。アルベルトがこの周辺に認識阻害の結界を張っている為だろう。
「このアホ!斬ってどうすんだ、監視だよ、監視」
「そう、…………でも私はグレンと決着を付けたい」
「…………アルベルト先輩。」
アルトは最早涙目で縋るようにアルベルトに泣きついた。しかしアルベルトはリィエルがアルトのお陰でかなりの成長をしている事を知っているので何も言う事はない。
「アルベルトとアルトはグレンに会いたくないの?」
「………知れた事を。あの男には色々と言いたい事がある。」
「……………確かにグレン先輩をボコしたい。」
リィエルの同僚の二人は内心グレンにかなりの恨みを持っていた。何故………何故リィエルを置いて行ったのか。今まではグレンとアルト、稀にアルベルトが面倒を見ていたのだが………グレンが居なくなってからその負担は一気に二人に降りかかった。どれだけの苦労を二人が感じて居たのかは想像し難い事だろう。
「そう。なら私とアルトでグレンをボコる。アルベルトは色々言いたい事を言えばいい。」
本人はその苦労を全く知らないかのようにグレンにとって死刑宣告に等しいその提案をした。
リィエルの技量はここ一年でありえない程に上昇していた。おそらく毎日の様に武術の達人であるアルトと組手をして居た為であろう。そんなリィエルをけしかければ流石のグレンをもってしても生きて居られるかは分からない。
「俺達はあいつに会わない方がいい」
「……なぜ?」
「久々、あいつの姿を見てわかった。あいつの居るべき世界は………やはり俺達が居るような血に濡れた闇の世界ではなかったらしい。」
アルベルトが目を向けた場所を見るとグレンは銀髪の女の子に土下座をしながら説教をされて居る。先程みたエルミアナ王女はそんな銀髪の子をなだめている。当然、グレンがまだ特務分室に所属していた時よりも楽しそうだ。
「あいつの居るべき場所は、彼処だ。眩い陽の光が当たるあの場所こそ、恐らくグレンという男が真に生きている場所なのだろう。」
その言葉にアルトはグレンが特務分室を出て行った時の件の事を思い出し納得しようとした時。
「女の子の足下が?それはなんとも面妖」
「「……………………」」
あまりに的確な指摘にアルトとアルベルトは押し黙るしか無かった。
その後危惧していた通り王室親衛隊が動いた。アルベルトが監視に放った使い魔達が王室親衛隊の動きを筒抜けにしていたのだ。王室親衛隊は女王陛下を自分達の監視下に置き、エルミアナ王女を抹殺すべく動いている。
そしてその肝心なエルミアナ王女は………
三人の元同僚グレンと共に王室親衛隊から逃げ回っていた。現在は王室親衛隊を撒き切っているようだ。三人は接触するには今しかないと思い近づいたのだが……
「《万象に希う・我が腕に・剛毅なる刃を》」
リィエルがこの機会を逃すはずもない。
リィエルの三節の詠唱によって地面がめくれ上がり、それを基としたウーツ鋼の大剣が錬成される。それをリィエルの細腕はなんら障害もなく握り。グレンに襲いかかった。
「いいいいやぁぁぁぁーッ!」
「リィエル!?ッちょま、だぁぁッ!」
ほぼ不意打ちにも等しいその一撃をグレンはなんとか避け切って『ウェポンエンチャント』によって自らの腕を強化する。素手であのウーツ鋼の大剣に対抗するのは流石に無理があったのだろう。
「はぁぁぁッ
《刃よ・再び我が腕に・宿り給え》!」
「なッ!?」
それはリィエルがこの一年間で新しく覚えた技、大剣の再錬成。グレンの腕を避けるように大剣が分解、グレンの腕を抜けた瞬間に再び大剣に戻る。それは余りに凶悪すぎる一撃だった。グレンにはそれに対処出来る手は無い。
「リィエル。………ッステェェェェェェイ!」
ピタッ!
アルトが大声でリィエルに呼び掛けをすると、グレンの顔の前でそんな効果音が聞こえる程の勢いで大剣が止まった。あまりの事にグレンは腰を抜かして倒れ込んだ。
「お久しぶりです。グレン先輩。元気そうですね。」
「ハァハァ、………訳がわかんねぇよ。死に掛けたぞ、今。」
「むぅ………」
リィエルはグレンとの決着を止められて少し不満そうだが、もう決着は付いていた様なものだった。収拾のつかないこの場を納めたのはやはりアルベルトだった。
「場所を変える。俺について来い。」
キャラ改変
止まる事を覚えたリィエル
そしてリィエルすこ