しかしそれよりリィエルすこ
「《万象に希う・我が腕手に・十字の剣を》」
明け方、フィジテの高級住宅街の空き地に対峙する青年と少女。少女の手には今し方、錬成された鋼の大剣が握られている。
一方青年は完全に無手だ、しかしその目には闘志を宿らせ、敗北なんて微塵もするつもりは無い。
「ッ!いいいいゃああああッ!」
二人の人間が息を飲んで見守る中、最初に動いたのは
「よっと」
「ッ!」
「《鎧よ》」
リィエルの振り下ろしから、止まる事のない連撃が始まった。技術も技も無い、ただ力のまま脅威的な速度で振るわれる大剣を前にして、青年も魔術の使用を強いられる。
ギャリッ
魔術によって防護を作った腕で大剣を踊る様に受け流す。しかしリィエルは、ほぼ毎日こうやって対処されている。それ故に対応も出来上がっていた。
「《我が腕手に、ッ!」
リィエルは剣を振り上げながら魔術の詠唱を開始した。その振り上げも容易く避けられるが、リィエルの目的は当てる事では無い。
リィエルは
「ッ!?」
「十字の懐剣を》」
そして空いた手によるボディブローを叩き込みながら詠唱を終えて、空いた手に短剣を錬成した。ボディブローは防がれたが短剣を防御する
「脚は空いてんだよ!」
そこからのアルトの反応は早かった。リィエルに脚を掛けて重心を崩させ転がし、距離を取らせ……
「《功》ッ!」
『ウェポンエンチャント』の改変魔術、効果時間を一瞬に、威力だけを求めて改変された魔術式。完全に玄人向けの魔術である事は言うまでも無い。
忘れた頃に
それだけの攻防を繰り広げても二人の闘志は揺るがない。勝利を得る為に次なる策を巡らせ様としたその時、
「いや、
お前ら怖すぎるんですけどおおおおおッ!?」
そしてグレンの心からの叫びが二人の
「そうですか?」
「ん、いつも通り」
「いつも通り!?こんなのを毎日やってんの!?バカなの?アホなの?死ぬの?」
グレンの言うことも最もだ。こんな激しい模擬戦を毎日の様に繰り返す人間は帝国軍、いやこの国には存在しないだろう。何より驚くべき事は魔術師だと言うのに騎士よりも数倍は激しい近接戦をしている事だ。
「でも、グレン先輩にはこの中に入って三つ巴の戦闘をして貰うつもりなんですが……」
「殺す気か!いや死ぬぞ!?絶対死ぬぞ!?」
「またまた〜。全盛期のグレン先輩なら1分はいけますよ。」
無論フル装備での話だが。グレンは
最後の二つに限っては当たれば絶対殺せる様な性能がある。
「1分しか生きられ無いじゃないか……」
「俺達からすれば1分
「ったく……白猫、こいつらの真似はするんじゃねーぞ。魔術師として絶対異常だからなこいつら……」
「大丈夫。グレンも相当ゲテモノ」
「私、ここにいるのが不安になって来たわ……」
誰一人として、真っ当な魔術師がいない。これでどうやって魔術戦を教えると言うのか。だが安心してほしい、この集団は特務分室の中でも特に魔術師してない奴ら筆頭である。他はちゃんと魔術師している。
「まぁ、魔術戦を学ぶより戦闘センスを磨くのが先ですね。それならこのゲテモノ集団が最も上手く教えられますし」
「そうだな、リィエルはともかく。俺は拳闘を、アルトは東方の武術を教えられる」
「むぅ………」
リィエルはむくれているが、本人は何も考えず類稀なる戦闘センスに全てを委ねて戦っているのである。完全に感覚に身を任せている為に、何かを教えるのに向かないのはリィエルも理解していたので何も言えなかった。
「俺も白魔術のスペシャリストを名乗ってますから怪我の心配も必要ないですし。とりあえずグレン先輩は………」
「ま、待ってくれ!猶予が欲しい。俺には無理だ!」
「大人しくリィエルによって三途の川を渡りましょう」
アルトによる死刑宣告が通達され、待ってましたとばかりに
「ヒィッ!やめて!許してください!いやぁぁあああああ!」
グレンの悲鳴が響いているが安心して欲しい。
既に騒音を遮断する結界を張っているので近所迷惑にはならない。ちなみにグレンには安心する要素は無かった。
ザワザワ
「…………あー、これからお前らが行く『遠征学修』のガイダンスを始めます………グフッ……」
「……おい、グレン先生なんか様子がおかしくね?」
「ああ、いつにも増して何かを
「それだけダラけているのに、あのシスティーナでさえ何も言わないなんて、一体何が?」
グレンは今朝の事で全ての気力を使い果たしてしまった、模擬戦ではあるが今までで一番生命の危機を感じたかもしれない。グレンはそんな事を考えながら自らの体に鞭を打って授業を始めた。
「このクラスが行くのは、あー『白金魔導研究所』か」
「えー、別の場所が良かったぜ。な?アルト」
「んー、俺はどこでもいいんだけど………」
アルトは魔術の研究にそこまで興味はない。魔術を使うのだって便利だからと言う理由だし、既に
「フッ……甘いぞお前ら」
「うわっ、急に元気になったよこの人」
「シャラップ!お前らこの『白金魔導研究所』がどこにあるのか知ってるか?」
「………確かサイネリア島ですね」
「サイネリア島…………リゾート地として有名なッ!?」
サイネリア島は霊脈の関係で水が綺麗でありリゾート地としてもかなり有名である。『白金魔導研究所』がこの場所にあるのも、この地の綺麗な水を実験に使用する為だと言う。
「そうだ、自由時間も多めに取ってある………そしてこのクラスの女子は総じてレベルが高い。何が言いたいのかわかるよな?」
「先生!あんたに一生ついて行くぜ!」
グレンが男子生徒達と交流を深めているが、女子生徒達はその様子を見て冷ややかな視線を送っていた。
「ん、海に行くの楽しみ」
「そう言えばリィエルはまだ行った事なかったか」
「アンタ達も偶には息抜きすればいいんじゃない?」
「そうですね……最低限の護衛以外は
リィエルが楽しみにしている旅行先でさえ仕事に追われるのはあまり良くないだろうとアルトは考えた。最近は外道魔術師の襲撃はリィエルとアルトをメインに対応しているのでリィエルも疲れているだろう。
「ていうかリィエル水着持ってたっけ?」
「ん、イヴに貰ったのがある」
「イヴさんが?………なら大丈夫か」
アルトはあの真面目上司が何故リィエルに水着を渡したのか疑問に思いながら、あの人が渡したならまともだから安全だと考えた。
その判断を後々後悔することになるが。
感想評価ありがとうございます。
これでリィエルが好きな人が増えてくれたらいいなぁ……