「鉄血のオルフェンズ」。
何でもない、平穏な日々。自分という存在と命を何不自由なく謳歌できる場所を求めてあがき、理不尽な現実に殺されて行く子供たちの物語。
そんな理不尽なことを許して良いのだろうか?いや、そもそも、そんな次元の話では無いのだろう。彼らの物語は常に「強者が弱者を踏み躙る」ことが根底にあった。そんな世界を「厄災戦」から三百年もかけて大人たちは作り上げてしまった。作られた檻の中でさ迷い、激情し、戦っても、多くを失い得るものは何もない。
現に彼らは、世界の現実によって殺された。
それは現実を生きていた僕たちにも言えることだった。
理不尽な社会の中で仕方がないと生きて、誰もが歯を食い縛り、耐えられなかった者が自ら命を絶っても、誰も見向きもしない。
そんな世界で、彼らが生き残るには?
どうやれば、宇宙を彷徨う「オルフェンズ(孤児たち)」を救うことができる?
どうやれば、こんな世界を根底から変えることができる?
ーーそのチャンスを、気まぐれな神様は、自分に与えてくれたようだ。
生前…と言うべきか。僕自身はロボットインターフェースの開発者だった。ガンダムに憧れ、その職を選んだ。
大型の物から小型の物まで、多くのものを開発し、社会に貢献して、理不尽な社会をほんの僅かにでも変えれると信じた。
しかし、現実は非情だった。
権力や力を持てなかった自分は開発者としてぼろ布のように使われ、そして死ぬこととなった。自ら作ったロボットに殺された。ほんの少しの間違えで、人を悠然と持ち上げられるロボットの力によって死ぬことになった。
我ながら何とも嘆かわしい最期だったと思う。
けれど、僕は今もこうやって生きている。
鉄と血で出来上がった世界に、しっかりと。
この世界で生を授かり、僕はチャンスを与えてもらったんだと思った。
世界を変えることができるチャンスを。
この理不尽と暴力に満ち溢れた砂ぼこりの世界を、良くできる可能性を。
それからの僕の戦いは始まった。
前世で培ったロボット工学知識を基礎に、オルフェンズの技術を貪欲に学んだ。世界情勢も、世界を変革するために必要なものすべて。
貧困層と富裕層で絶望的な差がある世界で、僕が何故そんなことができたか?それもまた、気まぐれな神様が与えてくれた恩恵にある。
「そろそろ行くぞ。準備はできているか?」
豪勢な作りの扉を開けながら、僕にそう言ってきた男の顔は酷く無関心なものでたった。
イズナリオ・ファリド。
原作では、彼に実子がいたかどうかは語られていないが、僕は彼の息子として生を受けた。実に運がよかった。まぁ、彼と共に歩めば最悪の結果になるだろうが。
腐敗した組織で好き勝手する彼の行為には虫酸が走るほど嫌悪する。だが、その権力は僕に十二分な恩恵を与えてくれた。優秀な家庭教師、セブンスターお抱えの技師、そしてイズナリオ本人から腐敗した組織でいかに権力を有するかの術、多くの知識と知見を得ることができた。
イズナリオが言い逃れできない決定的な証拠や罪を集めながら、同時に彼からの信頼を勝ち取ることも怠らずにやってきた。本当なら、ある程度の技術を得たら彼の醜態を晒して、行動を起こすつもりであったが、イズナリオにはまだやってもらわなければならないことがある。
この世界を大きく変えるために必要なピースを手に入れるために。
そして今日が、そのピースと出会う最初の日だ。
イズナリオに催促され、外出用の小綺麗な服装に着替えて外へ出ると、すでに玄関である大きな門の前に黒塗りの車が止まっていた。
隣で卑しく頬笑むイズナリオを一瞥し、僕は車から降りてきた子供たちを見た。誰もが泥沼の中にいるような絶望に染まった目をしている。
確かに居た。僕が生を受けてからずっと待っていた人物が。
イズナリオを抜かし、僕は訪れた子供たちへ膝を着いた。先頭にいる麗しい金髪少年に隠れるように子供たちは寄り添い、膝を着いた僕を見ている。
大丈夫。このために、僕はここに来たのだ。
「はじめまして。僕はハインズ・ファリド。君たちを歓迎するよ」
それが、後に弟となる【マクギリス・ファリド】との最初の出会いであった。
鉄血のオルフェンズの始まりまでーーまだ数年。