オルフェンズの無い世界のために   作:紅乃 晴@小説アカ

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最悪の誤算

最悪だ。本当に最悪。

 

運命の日まで僅かとなっていたのは分かっていた。クーデリア・藍那・バーンスタインによる火星独立の気運が高まってもいたし、それに危機感を覚えるギャラルホルンも怪しい動きをしているし、テイワズはそれを静観する姿勢を崩していない。

 

近く、クーデリアが火星独立の交渉のために地球へ赴く。

 

そのときに、CGSこと鉄華団によってギャラルホルンの妨害を掻い潜り、地球へ向かうはずだった。

 

はずだったのだがーー。

 

「ですから、私の護衛をクライスラーエレクトロニクス社にご依頼したいのです」

 

なんでうちにその話がくるのかなぁ!!

あーほんとに!!最悪だ!!

 

来客用の応接室で向かい合うクーデリアの予想外の申し出に、僕は頭を抱えたくなった。あーもう、どこで間違えた?くそが。

 

秘書として後ろに控えるアルテが、あからさまに敵意の眼差しをクーデリアに向けているのが余計に僕の胃を痛めた。

 

そもそも、僕は彼女とは何度も会っている。

 

火星独立を目指す彼女。

 

そして形はどうであれ、火星に生産力をもたらした僕。

 

互いに意見を交換することはあった。しかし、こうもまぁ、物語を変えるつもりもなかった僕にとって、今回のクーデリアの暴挙は想像以上に厄介だった。

 

「クーデリアさん、ウチは武器商人ですよ。護衛なんて大層なことは管轄外です」

 

本当のところは、お断りしてさっさとCGSに行ってほしいところだった。だが、彼女は食い下がる。

 

「クライスラーエレクトロニクス社は、火星で唯一の生産力を持った企業です。私が目指すハーフメタルの規制解除と、あなたのマーズマグネシウム合金の取引緩和にも大きな転機になります。それに、貴方は個人でモビルスーツや兵器を開発しているのでしょう?戦力には申し分ないはずです」

 

あー、それどこから漏れたんだ?いや、漏らしたの僕か。そりゃあ試運転とかいって火星の荒野を行ったり来たりしてたわけだし、ばれない方がおかしいか!はっはっはっ!!参ったわい。

 

「まぁ、どこで手にいれた情報かは問いませんが、確かにウチの会社にはモビルスーツがありますよ」

 

「でしたら」

 

「ただ、それだけです。私たちは武器しかない。貴方の要望には答えることはできません」

 

彼女の言い分は、所詮は世間知らずなお嬢様の発想だ。残念だが、モビルスーツを持っている、兵器を持っているだけじゃ傭兵なんてできやしない。護衛とは、それを管理する指揮者と、人海戦術による隙の無い防御や警戒。そして護衛対象を守りながら戦う戦術や技術が求められる。

 

「ウチはね、技術者の集まりなの。わかる?技術屋に武器持たせて、それで傭兵の真似事ができると思ってるのなら、それは大きな間違いだ。技術者と戦う者は、根底的に違うんですよ」

 

語気が強くなってるのは自分でもわかった。ここにいるのは純粋に「人の未来のために技術を磨く」ことを志した技術者ばかりだ。そんな彼らに武器を持たせて戦わせるなんて、僕にはできないし、それを強制することは許さなかった。それに、もっと大事なこともある。

 

「それにね、クーデリアさん。ウチの社員にはね。もう人を殺すために武器を握らせることはさせないって、決めてるんですよ」

 

そう。これが一番の理由だ。

 

後ろに控えるアルテや、人手不足だったから引取り、一人前に育てた孤児たちに、武器を持って護衛する仕事をさせる?それこそ論外だ。外では我慢しているが、ここは僕の会社であり、僕の縄張りだ。

 

ここにいる以上、そんなことはさせないし、させるつもりはない。たとえそれがクーデリアの頼みであったとしてもだ。

 

「と、いうことですから。申し訳ありませんね」

 

ここで意識を切り替えた。語気とちょっとした怒気を混ぜた口調から、いつものフランクな口調へ戻す。いやぁ、テイワズとかギャラルホルンとか、癖のある人たちと取引していると、自然と身に付いちゃうもんだね、こう、凄みを出す感じ。まぁ出来ても誉められたもんじゃないけど。

 

「い、いえ、こちらこそ、無理なお願いをして、申し訳ありませんでした」

 

「しかし、地球への交渉ならば護衛は必要なのも確かです。知り合いの民間PMCを紹介しますので」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

よぉし!これでCGSへクーデリアたちを紹介すれば、シナリオの修正はできたでしょう。うむ。我ながらいい機転の効かせ方だ。あとは予定通り、鉄華団が立ち上がれば僕の計画も動かすことができるだろう。

 

大きな前進になる。マクギリスやガエリオもそろそろ火星支部に来る頃だ。一度、マクギリスとも秘密裏に会わなければならない。

 

「では、PMCまで僕が送りましょう。アルテ、車の準備を頼む」

 

「わかりました」

 

アルテは一礼すると、クーデリアたちに目もくれずに部屋を出ていった。うーむ。やはりアルテは人見知りが強いのだろうか。

 

「私は、やはり嫌われてるのでしょうか」

 

そんなことを考えていると、クーデリアが不安そうにこちらにそう言ってきた。そう自覚があったのも頷ける。

 

昔、クーデリアの記事を見ながらアルテが「言葉だけ掛けられても、私たちは人になれなかった」と呟いていた。

 

クーデリアが行うのは「政治的な解決」だ。政治というのはとにかく時間がかかる。草木を育てるのと同じように、実になるには多大な時間を有するし、なにより彼女はまだ地盤作りの真っ最中だ。今の彼女には、孤児たちに食事や寝床、勉強をする場所を用意する力はない。

 

それと違って、僕が行ったのは直接的なこと。平和的な手段をとらずに一気に実績へ繋げるやり方だ。子供を食わせ、勉強させるために、子供に武器を作らせている。誇れるものでも、誉められるものでもない。

 

「クーデリアさん」

 

僕は落ち込んでいた彼女の目を見た。

 

「僕がやっているのはね。単に寿命を伸ばす延命処置でしかないんですよ。今の状況が続けば、結局は何もかわらない」

 

僕のやってることは、彼女の目的までの時間稼ぎに過ぎない。彼女の夢が叶えば、僕らの企業ーー、いや、軍事産業は衰退することになる。そうなれば、僕の役目は終わるだろう。

 

「貴方がやろうとしていることは大きな時間が掛かることだ。けれど、それはそれ以上の恩恵を火星にもたらせることになる。その時がくれば、彼女やこの火星にいる孤児たちも、きっと貴方に感謝するし、誇りに思いますよ」

 

人の命を奪うものを作る僕とは違って。その言葉は飲み込んでこらえた。もっとも、そうなってから僕のやりたいことが始められるのだけどね。

 

 

****

 

クーデリア・藍那・バーンスタインは、正直なことを言えば、目の前にいる「ライガット・カッシュ」に嫉妬していた。

 

彼と出会ったのは、父であるノーマン・バーンスタインからの紹介で、丁度「クライスラーエレクトロニクス社」を立ち上げたばかりの頃だった。

 

どこで父と関係を持ったのか?どうやって貧困であえぐ火星でそんな企業を立ち上げられたのか?

 

そもそも、「ライガット・カッシュ」なんて名前をクーデリアは聞いたことがなかった。父いわく、地球で火星進出を検討していた資産家という事くらいしか知らない。彼の過去も経歴も、謎に包まれている。

 

そんな彼が立ち上げた「クライスラーエレクトロニクス社」は瞬く間のうちに結果を積み上げていった。

 

貧困層であえぐ人々を積極的に雇用し、行き場をなくした孤児も迎え入れ、衣食住に勉学も施していると聞いたときは、自分の耳を疑った。

 

武器を作り、販売する武器商人。

 

そんな人間なのだから、とても卑しいものだと決めつけていたのに、いざ彼に会えば、あまりの誠実さと潔癖さに舌を巻いた。ならばと思い会社の見学にも何度も訪れたが、「武器を作ってる」こと以外、やましいところは一切なかった。

 

休日のショッピングで、楽しげに友達と買い物をする少年、少女たちも増えた。

 

彼は、出路はどうであれ、確かな結果をもたらしたのだ。結果が出ずにもがいてる自分とは雲泥の差だった。

 

そんな彼に、クーデリアは嫉妬した。醜い嫉妬ではない。彼の在り方に憧れ、焦がれ、なぜ自分はそうなれないかと思う気持ちからの焦りだった。

 

今回の護衛の話も、彼なら事をうまく運べるのではないかという淡い期待があったから、彼女はここにきたのだ。

 

しかし、それは間違いだったとクーデリアは自分を恥じた。応接室から出た彼女はこの場に安易にきた自分を責める。

 

彼と自分は、それぞれ抱いた理想が違っていたと気がついた。彼は自分のやっていることを延命処置でしかないと言い切った。これだけの結果を出しているというのに。ライガットは、持てる力を持って、目の前で苦しんでいる人を救う道を選んでいる。

 

自分は?

 

クーデリアが歩んできた道は、さらにその先の未来へ繋げるための道だ。火星の経済圏の確率、そして独立に繋げるために。志すものが根本的に違うのだ。

 

クーデリアは、ライガットに抱いていた嫉妬を捨てた。

 

尊敬と火星に希望の灯火をもたらした彼に答えるために。

 

その灯火を火星を照らす太陽へ変えるためにーー。

 

 

****

 

 

火星に夜明けがせまる。

 

アルテが運転する防弾、防爆使用の汎用運搬車と並走するように、僕はモビルスーツ「トリニティ」を走らせていた。

 

クーデリア・藍那・バーンスタインは今や火星の希望だ。

 

そんな彼女を無きものにしようとするギャラルホルン、そしてそれらに雇われた民間PMCを警戒し、出発を深夜帯にして、念のために標準武装したトリニティを発進させた。

 

クリュセ郊外にあるCGSまでなら、そんなに時間は掛からないが、念には念を押した方がいいだろう。

 

「ハッパさーん。センサーのほうはどう?」

 

「とくに問題はない。いたって普通の輸送さ」

 

まだ背が低いアルテ用に調整した運転シートの隣。助手席で、モニターとにらめっこしているハッパが、不機嫌な声でそう答えた。

 

「まだ怒ってるの?だからごめんってばぁ」

 

「トリニティはまだ調整中なの!バックパックの接続確認もしなければならないのに、貴様というやつは!」

 

通信インカムから腹立たしいと言わんばかりの声が溢れる。いやぁ、申し訳ねぇ。マジで。ハッパさんにトリニティにバックパック機構をつけてほしいとお願いしたのだから尚更申し訳なかった。

 

トリニティ。

 

多くの技術者のアイデアによって作られた「マーズマグネシウム合金」。それを惜しみ無く使った「特製」のモビルスーツだ。

 

宇宙世紀時代のロマンが、このモビルスーツに詰まっている。もちろん現在で再現可能な技術で。

 

不完全だが全周囲モニターや、火器管制システム、電磁場を用いた駆動方式の開発と、先進的なテクノロジーが詰め込まれてる。

 

グレイズのような汎用機が主流なこの世界で、トリニティはバックパックの交換によって局地的な戦術、戦闘に対応できる多様性を有する設計になっている。

 

何も装備していない「ネイキッド」。

 

対モビルスーツ戦を想定した「デュエル」。

 

後方支援を想定した「アサルト」。

 

高機動戦、木星などの重重力化での戦闘を想定した「フルブースト」。

 

その他もろもろ。

 

このバックパックシステムが厄介なんだよなぁ。ハッパさんもかなり手こずってるようだし。できれば、それを流用したグレイズやモビルワーカーのパック交換にも使えるとの目算も立っているから、是非とも確立させたい。

 

そんなことを呑気に考えられるほど、CGSまでの道のりは平凡だった。

 

そう、平凡のはずだった。

 

「…!!社長!前方に熱源だ!」

 

それを聞いたアルテがすぐさまブレーキを踏んだ。戦場に近づくことを嫌う彼女の本能がそうしたのだろう。急に停止したせいで、後部座席に座っていたクーデリアとフミタン・アドモスが前のめりになる。

 

「熱源?まだ夜明け前だぞ」

 

モニターの光学望遠を最大にする。丘の頂きにあるCGSがうっすらと見えたが、その周りで煙が上がっていた。明らかに自然のものではない黒煙だ。さらに見渡すと、辺りではモビルワーカー同士の戦闘が繰り広げられている。

 

「演習ーーってわけでもなさそうだな。相手は誰だ?」

 

ハッパの疑問に、僕は冷や汗を流していた。なぜだ?クーデリアはこちらにいる。なぜ、CGSがギャラルホルンのモビルワーカーたちと戦っているんだ?戦う理由など無いはずなのに。

 

「CGSがギャラルホルンと戦闘を行っている!」

 

「はぁ!?」

 

僕の言葉にハッパは信じられないような声をあげた。しかし真実だ。モビルワーカー同士が土煙をあげながら肉薄している。辺りに立ち上る煙は両軍が潰しあったモビルワーカーの成れの果てだ。

 

「なぜだ!ギャラルホルンが一介のPMCを襲うはず無い!!」

 

PMCは民間の軍事企業だが、あくまでギャラルホルンの統制下で許された範囲でしか行動しない。ましてや、お上であるギャラルホルンと戦闘を行うなんて、そんな無謀なことは断じてしない。

 

ではなんだ?心当たりはある。僕が不当に流した武器が見つかった?書類偽装は完璧だったはずなのに。なぜ?

 

そんな答えのでない疑問が頭を駆け巡っていたら、思わぬところから答えが帰ってきた。

 

「実は、貴方たちの会社に向かう前は、CGSへ護衛任務を依頼していたのです。しかし、クライスラーエレクトロニクス社のライガット様なら、CGSよりも武器をお持ちですし、交渉もスムーズに進むかと思い、貴殿方の会社へ赴いたんです」

 

「ーーは?」

 

フミタンの言葉に思わずそんな声を出してしまった。

 

おいおい。

 

おいおいおい。

 

ということは、クーデリア確保を目論むギャラルホルンが、CGS護衛の情報を掴んで?けど、肝心のクーデリアはCGSに向かってなくて?クーデリアが居るもんだと思ってギャラルホルンが攻めてきて?あろうことか襲っているということか?

 

目的の人物はこちらにいるというのに!?

 

あっはっはっ、なるほどぉ。おそらくクーデリアのスポンサーであり、貪欲な利益を望むノブリス・ゴルドンさんが噛んでるなぁ?フミタンさんよぉ!やってくれるぜぇ!!(憤慨)

 

「ということは、CGSは何の覚えもないのにギャラルホルンに襲われてるってことじゃねぇーか!!」

 

僕の改心の答えに、誰もが驚いたようだった。それどころじゃねぇ!!早く助けないと序盤で物語が崩壊する!!それは困る!!非常にまずい!!

 

あ、でも、モビルワーカーだけなら三日月たちだけで撃退できるじゃ

 

「社長!!前方にエイハブウェーブ反応!数は三機だ!!」

 

シット!!きっとその三機は、序盤に出てきたオーリスや、クランク、アインのグレイズに違いないぜ、はっはっはっ!!

 

「アルテ!お前たちはここで待機だ!!僕が行く!!」

 

腰と背中に懸架していたライフルとショートメイスを両手に持ち、一気に戦闘モードへ切り替える。

 

「なっぁ!?社長!!トリニティはまだデータ取りの最中で…!!」

 

「これより現地での実践データ収集に入る!!ハッパさん!!機器のモニタリングを!!」

 

「言い換えればいいってもんでも…あぁ、もう!わかりましたよ!!」

 

あれやこれや、安全策を考える暇はない。とにかく行かなければ。フットペダルを踏み込んで、脚分スラスターのガスを吹かした。歩行していたトリニティは中に浮き、それまで歩んできた数倍の速度で進んで行く。

 

「社長!!ライガットさん!」

 

アルテの引き留めるような声が聞こえたが、それはエイハブウェーブの影響ですぐに聞こえなくなってしまった。

 

 

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