今回のお話では、主人公は明確な野望を持って動くのとになります。鉄血のオルフェンズのハッピーエンド、そしてその先に待つ未来のために。
人類にーー黄金の時代を
そこからは実にスムーズな物語の進行であった。
先の襲撃による負傷者の救助や治療。
そして破損したトリニティの復旧。
その物資を運搬してもらうため、クライスラーエレクトロニクス社に駐留して貰っていたテイワズの傭兵部隊へ運搬とその護衛を依頼。
のこのこと帰ってきた実働部隊の面々は、釈明の余地なしにテイワズの傭兵部隊に拘束してもらい、抵抗したものはその場で射殺を命じた。
捕らえたCGSの隊員ともに今まで護衛を請け負ってきてくれたテイワズの傭兵部隊は謝礼金と今回の件の物資を携え、元の鞘へ帰還することになった。
テイワズのトップであるマクマード・バリストンには、CGSの件を説明し、物資の引き渡しと引き換えに、捕らえた者を強制労働施設に送ってもらうよう手配はすんでいる。
結果、オルガ含めた三番隊ーー実質的な鉄華団は、手を汚すことなくCGSの全権を掌握することになった。まぁ、クライスラーエレクトロニクス社の正規傭兵部門としてだが。
「三番隊で死者、31名か」
急造で作った簡易的なオフィスで、ライガットは今回の被害の集計と今後の方針、そして譲り受けたCGSの組織改編に関して資料と格闘していた。
彼らがクライスラーエレクトロニクス社の傭兵である自覚を持たせるため、組織再編はライガットがやらねばならない。
そうでないと、アルテやクライスラーエレクトロニクス社の社員に示しがつかないからだ。傭兵部門として引き取ったはいいが、それで好き勝手やられたら問題児をだだ引き取ったのと変わりはない。
こうなった以上、鉄華団をより組織的に、採算が合う組織へ育てなければならない。
「こりゃ、まずったかなぁ」
思い付いたときは、割りといい案だと思ったのだが、相手はあの鉄華団だ。
支配しようとすれば波風が立つのは当然。そしてオルガの並々ならぬ向上心には注意を払わなければならない。これ以上、選択を謝れば後に尾を引く結果に成りかねない。最悪の場合、鉄華団が「計画」の敵になる可能性も出てくる。
彼らをコントロールしなければ。地球の件が終わるまでに。彼らに気づかれないように。うまく。
ーーきたる「新しい」日のために。
「ライガットさん、少しよろしいでしょうか?」
パーティションで仕切られた入り口からクーデリアが顔を覗かせていた。読んでいた資料を起き、どうぞと部屋へ招く。
「父、ノーマン・バーンスタインと連絡が取れました」
そういうクーデリアの表情は優れない様子だった。
「そうか。やっぱり戻ってこいと?」
「はい…けれど、私は戻るつもりはありません。今回の件、私が地球にいくことは秘密裏に行われるはずでした。ですが、ギャラルホルンが行った襲撃は、間違いなく私を狙ってのもの。そしていつもは私の活動に反対しているお父様が今回に限って…考えたくはありませんが」
そういう彼女は不安に覆われているように見えた。
それもそうだ。
何せ、今回の襲撃を許したのは、ノーマン・バーンスタインがギャラルホルンに地球行きを密告したことにある。
全く、保身のために娘の情報を敵に売るとは…おかげでこちらも巻き込まれる形になってしまった。
「私のせいで、大勢の人が」
「それ言って、さっきここの少年兵に怒られたんじゃないの?」
クーデリアの言葉を遮って言ったライガットはマグカップに入った水を飲む。クーデリアは驚いたように目を見開いた。
「なぜわかったのですか?」
「君のことだ。責任を感じてそういってしまったんだろう?」
本当はアニメでそのシーンを知っているからだけど。今はそんなことを置いておく。
「あのね、クーデリアさん。彼らは君を守るために戦ったわけでも、ましてや僕らのために戦ったわけでもない。彼らはただ生きるため。ただ仲間と共に生きるためにだけに戦い、そして死んだ。僕はそれがとても誇りある生き方のように思えた」
「誇りある生き方?」
「そ。僕のように、自分の手を汚さずにどこか遠くで誰かが殺しあってくれることで利益を得るような男より、とても高潔で美しいと思うよ」
クーデリアには理解できないようだった。人が死ぬ。それも子供が。そんなことが美しいなど、思えるはずがないと。
「クーデリアさん。ぼくがやってる仕事って言うのはね。その美しさを極限にまで磨り減らしたものなんだよ。火星の独立?生産力の確率?そんな理想的のために僕は会社を作ったわけじゃない」
もともと火星というのは、孤立した市場だった。
供給ばかりで、相手へ輸出できる力を持っていない。いや、持たせてもらえなかった。
ほんの少し前まで、火星はギャラルホルンと反ギャラルホルン派による小規模な代理戦争の戦場でしかなかった。火星の貧困や孤児は、その副産物にすぎない。
故に、ライガットーーいや、ハインズ・ファリドにとってはその環境こそ都合が良かった。
「僕が何故、火星と言う地で武器商人ができているか、わかるかい?」
「それは、貴方が火星唯一のマーズマグネシウム合金の製造を確立したからであって…」
「違うね。それはあくまで痩せ細った火星市場の手札の一枚に過ぎない。僕は多くの企業と僕らは取引している。ギャラルホルンにテイワズ。火星の民間PMC、そして地球ーー単刀直入に言えば、ノブリス・ゴルドンとか、ね」
クーデリアの表情が一変した。自分の出資者である者が、武器ーー火星を混乱の渦へ導くことに絡んでいるのか、と。この頃の彼女は、自分が何をしようとしているのか。その成そうとしていることが如何に険しいのかを、本質的に理解していない。
「クライスラーエレクトロニクス社の立ち上げに、地球にもちろん損得があったわけだが、多くの組織にとって損はあれど、得が上回った。僕が企業を作った理由は、【人の進歩と発展のため】なんだよ。武器商人という仕事はそれに繋がる足掛かりを作る一時しのぎでしかない」
ライガットの目的は一貫している。
【人類のより良い進化と発展のため】
そのもとに多くの人間が集っている。彼らは純粋なまでに技術者の集まりだった。ライガットは彼らが存分に能力を発揮する場所を作ったに過ぎない。
本当ならばもっと別の方法で火星のエンジンになりたかったが、そう事はうまく運ばなかった。その中で生まれた武器商人という彼の顔は、単に資金を稼ぐためのツールでしかない。そんなものに、何の価値もない。
だが、多くの者がその顔に価値を付けていった。付けられた価値は独り歩きしはじめ、やがては巨大な権力となった。ただ、それだけのことだ。
供給ばかりで生産性を生まない代理戦争の場に、武器を安くで売買できる環境によって、疲弊していた両者の戦線は血色を取り戻し、そして戦線は広がる。
順当な利益と支出が起こることで市場が回り始め、結果的にクライスラーエレクトロニクス社があるクリュセは目覚ましく経済力を回復させた。
「君が僕を見ているのはね。多くの血が貯まった泥沼に浮かぶ、ほんのわずかな部分でしかないんだよ。僕は君が思うほど、高潔でもなければ、徳のある人間でもない」
邪魔物は消し去り、自分の都合のいいように物事を運び、自分は汚れない場所から眺めて利潤を得る。
「これはあくまで足掛かりでしかない。しかし準備は整った。僕が死んでも、もう誰にも止められない」
自分はあくまで顔でしかない。よりよく、効率よく資金をかき集めるための顔。そのためにライガットはモビルスーツに乗っている。
武器商人。火星に生産性を持たせた男。技術を作り上げた者。そんな人間が駆るモビルスーツほど、宣伝効果のあるものが他にあるだろうか?
「でも、貴方が死んだらどうするのですか?残された社員や、あなたの家族は」
「あのね、クーデリアさん。会社ってのは頭が潰れたら壊れるほど柔じゃないのよ。大手になれば、なるほどね?」
ライガットは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに言った。
会社とは人の集まりでしかないし、突き詰めれば、ユーザーが要求するものを請け負い、計画し、実行して、利益を得るための組織。
これが基本だ。
だからこそ、会社には社長がいて、上司や重役って言う肩書きを持った人たちがいる。その人たちは単に肩書きをただ持ってるわけじゃない。誰かが倒れた時やいなくなった時、それに即座に対応できるようにするためだ。
しかし、それを持つ以上は相応の責任が問われるが……。
「仮に僕が死んでも、会社や僕がやろうとしたことは誰かが引き継いで続けてくれる。そこに人間の感情論や、道徳心は介在しない。極めて機械的な構造で成り立つシステムなんだよ。もちろん、僕が社長としての役割や仕事を放棄し、誰かに押し付けた場合はそれ相応の責任が問われるけどね?だったら生じた責任はどこにいく?好きにしろと言われて好きに実行した部下たち?いいや、違うね。それを担うべきでありながら職務や責任を放棄した社長や上司へ責任がいくわけだ。例えば、今回のCGSの経営陣のように…ね」
この場で自分が死のうがどうなろうが、なすべきことは引き継いで続いていく。ここまで来た段階でもう誰にも止められない。
会社の経営ならばマクギリスが。技術なら働いている技術者たちが。そうなるようになっている。それがこの世界にどんな影響を与えるのかは定かではないが。
「あなたはーー」
クーデリアの絞り出すような声に、ライガットはただ耳をすませた。
「あなたは、なにを、成そうとしているのですか」
火星の力を得て、多くのコネクションを得て、地球とまでも力強いパイプを作り、火星に一時的にとは言え潤いをもたらせた彼は、何をしようとしているのか。今のクーデリアには図ることができなかった。
その血で塗りたくられた大地の頂で、彼は何をしようとしているのか。
クーデリアの言葉に、ライガットは微笑んで返した。
「人類の、黄金の未来のために」