「…ということがあってさ~。みんな朝から元気だよね~」
「そうだったんですか。しかし、話を聞く限りだと、カワサキさんは着々とこの鎮守府の皆さんと打ち解けているような気がしますね」
「そうかなぁ~?」
食堂を出た俺と大鯨さんは、先ほどの出来事を話しつつ、建物内を見回っていた。その建物というのは、俺が自己紹介をした大広間や、執務室、また、艦娘を回復することができるドックと呼ばれる場所等が存在するところで、この鎮守府の本館扱いとなるらしい。ちなにみ提督の個人部屋もこの建物内にある。
ちなみに自己紹介の時のことに関しては、いい具合にすっとぼけておくことにした。もっとも俺から聞くことができないのであれば、他の誰かから聞けばいいだけの話ではあるから、バレるのも時間の問題のような気もするが。
「この建物内の紹介は粗方終わりましたので、一度外に出て違う場所を回りましょう」
「ほかにも建物があるってこと~?」
「そうですよ。それでは、次は工廠の方へ顔を出してみましょうか」
「オッケ~」
工廠というのはよくわからないが、いずれにせよ大鯨さんが案内してくれるので、ここは黙って後についていこう。
「おお~…なんかすごいところだね~」
第一声が小学生並みの感想しか出てこなかったが、先ほどまでとはまるで違う光景を俺は目の当たりにしていた。そして中に入って様子を見てみる。するといかにも工場内と言った感じで、油や薬品の臭いで充満しており、物音はうるさいし、非常に蒸し暑くもある。率直に言って、あまり長居をしたくない場所であった。
現にもう疲れてしまったのか、あちらこちらにたくさんの小人が浮かんでいるのが見えてきた。幻覚まで見えてしまっているというのはまずい。ここは早いこと後にしたい、そう考えていると
「大鯨さん、こんにちは。工廠に来るなんて珍しいですねー。本日はどうされたんですか」
「こんにちは、夕張さん。今日はこちらにいるカワサキさんの案内ということで、やってまいりました」
「おお!こちらが噂の!?ふわぁ~~提督同様、本当に人間離れしていますね…」
ポニーテールの艦娘が大鯨さんに挨拶をしたかと思うと、俺の姿を見て驚いていた。すると奥からもう一人艦娘がやってきて、
「失礼ですよ、夕張。初対面の人に対して。はじめましてカワサキさん。私は工作艦明石と言います。これからよろしくお願いします」
「軽巡洋艦夕張です。明石の言う通り確かに失礼な反応でした。ごめんなさい」
「明石さんと夕張さんだね~。これからよろしく~」
なにはともあれ、挨拶を交わした。どうやら2人も俺の自己紹介の場には居合わせてはなかったらしい。それならそれで好都合である。
「ひとまずここで会話しているのもなんですから、休憩室に入りましょう。その部屋は空調も効いているので、ここよりは遥かに過ごしやすいですよ」
「さんせーい。あ、それならついでに、昨日のカワサキさんが鎮守府の皆に自己紹介をしていたときの模様を録画にとってあるから、それを見ながらにしない?私と明石はそのときその場にいなかったし…大鯨さんはどうですか?」
「実は私もその場にいなかったので、そういうことならぜひその映像を見てみたいですね。カワサキさんに聞いても、のらりくらりとはぐらかされちゃいましたし…」
俺に好都合なんてあるわけがなかった。結局運命には逆らえないってことか…
×××
「…カワサキ!伊良湖ちゃんと店を出すんなら、これからはもっと意識を高く持ちなさいよ!わかった!?」
「カワサキは他人に料理を出すということについて、もうすこし深く考える必要があるんじゃないでしょうか」
「カワサキさん、私も料理に少しはたしなんでいますので、なにか手伝えることがあれば、いつでも協力しますので、言ってくださいね」
「2人ともキツイね~。そして、ありがと~大鯨さ~ん」
早速俺は夕張と明石に小言をもらっていた。いつのまにやら呼び方も、“さん”付けから呼び捨てに格落ちしてしまっている。もっとも霞や曙のそれと比べると屁みたいなものではあるが。そんな中俺のことを気遣ってくれる大鯨さん。ああ、伊良湖さんに続いて天使がここにもいました。いや、伊良湖さんが天使なら、この人はどちらかといえば女神にあたるのだろうか。なんにせよ、実にありがたい存在であることこの上なしである。
「ところでさ~。この…工廠だっけ?一体何をするところなの~?」
とりあえず話題を変えることにしよう。このまま針の筵というのは何としても避けたい。
「そうねえ…カワサキは何だと思った?」
「何かものを作っているところじゃないかなぁ~」
「それで大体合っているわよ。ちなみにどんなものを作っていると思う?」
「う~ん…ここには小さい子がたくさんいるし…わかった、娯楽用品だ!」
「はい、大ハズレ。仮にも軍事用施設で、そんなものおおっぴろげに造れるわけないでしょ。正解は艦娘用の兵器開発よ」
「え~~!?アンタたちそんなの作れるの~?すごいなぁ~。でも、ここの艦娘の多さから言って2人だけじゃ厳しいよ~」
「普通ならそうだけど、私たちには頼もしい助っ人がいる。それが妖精さんと呼ばれる存在で、生産開発も含めたあらゆる面で艦娘を助けてくれるありがたい小人たちよ。貴方には見えていないだろうけど、工廠内にはたくさんの妖精さんがあちこち飛び回って活動しているの」
ということは、さっきあっちこっち飛び回っていたのは、その妖精とやらだったのか。なるほど、なるほど…ちょっと待て。
「う~ん…ということは、あれは幻覚とかじゃなかったんだねぇ~」
「え?どういうこと?」
「さっきの場所でさ~、多くの小人が飛び回っているのが見えたんだよねぇ~そのときは幻覚だと思っていたんだけど…でもそれにしては、妙にリアル感があってさ~不思議だったんだよね~」
「…ということは、カ、カワサキ!?あんた妖精が見えるってこと!?」
「…だと思うけど、それがどうかした?」
「一般に妖精さんが見える人は、ほんのごく一部しかいないと言われています。その中でも妖精さんと会話ができたり、好かれたりするとなるとさらに絞られてきます。私たち艦娘も妖精さんの姿は見えど、明確な意思疎通まではできません。そしてそういった方たちが所謂提督としての適性があるということですが…」
「ちょっと実験してみましょ!妖精さんを連れてくるからここで待ってて!」
そう言って夕張は部屋を飛び出していき、しばらくたつとその妖精を数人伴って、この場に戻ってきた。
「とりあえず、カワサキ。ここに何人の妖精さんがいるかわかる?」
「そ~だね~。俺には4人の妖精の姿が見えているよ~」
「すごい、合ってる…何か話しかけてみて」
「え~っと…ねぇ~君たち。今度俺は店を開くんだけど良かったら食べに来ない~?」
「おいしいものがでるならむろんいきます!」
「たくさんよういしておいてください」
「うでもあげておくよーに!」
「そしてただにしておくれ」
「え~、それは無理だよ~。払うものは払わないと~」
「どう…明石!?」
「会話が成立しているわ…これは間違いないわね」
明石は何やらイヤホンのようなものを耳からとり外すと、このように言った。どうもそれを耳に着けていると、妖精の話している内容がわかるらしい。なんともビックリアイテムである。
「…ということは、カワサキさんには提督としての適性があるんですね!すごいです!」
「そ、そうなんだ~。いまいちピンとこないけどねぇ~」
「それにしてもまさかカワサキが…提督といい、違う世界から来た人には何か特別な能力でもあるのかしら…?」
そうか、俺には提督としての適性があるのか。もしかして、料理人よりも提督の方が向いているとか?
「そういえば、メタナイト卿も適性があったってこと?」
「ええ、そうよ。妖精さんたちの提督の慕い具合はもう半端じゃないわ」
「でも、俺も結構仲良くできているよ~。そのうち俺がここの鎮守府の提督になったりしてね~ハハハ」
「「「…は?」」」
場が一瞬で凍りついた。なんかデジャヴ…
「あんまり調子に乗らないでくれる?提督とあんたなんて、比べること自体がおこがましいわ」
「私たちの提督はメタナイト提督しかありえませんから」
「カワサキさん、今回は不問にしますけど、…次はありませんよ」
「ヒイィ~!?ギャグのつもりだったのに…」
夕張、明石どころか大鯨さんまでマジギレ寸前であった。本当にごめんなさい。
「ばかもやすみやすみいえ」
「わらえなさすぎるじょうだん」
「たかがかわさきのくせになにをちょうしにのってるんだか」
「いっぺんうまれかわってきてからでなおしてこい」
妖精たちの怒りすら買ってしまった。もはやこの鎮守府ではメタナイトは神格化されているのではないだろうか…ていうか、最後のやつ。残念ながら俺はもうすでに生まれ変わっているんだよ。
と、まあこんな風にひと悶着もあったりしたが、工廠についての説明は一通り受け、俺たちは次の場所へと向かうことにした。
カワサキに提督の適性がある、この設定が今後の伏線になるかどうかは現段階では全く考えておりません
あと、割とどうでもいい話ですが、艦これの妖精とトリデラに出てくる天空の民が個人的に何となくかぶる印象を受けます