雰囲気がこれでもないかというくらい、重苦しいものになった。ヤバい。あまりにも軽率にものを言ってしまった。正に、口は禍の元である。後悔の2文字しか浮かんでこない俺をよそに、尚も2人は続けてこう言った。
「貴方と、司令官が元々居た世界で、どういう関係だったのかは分からないけれど、あの司令官よりもこの国のためを思い、身を粉にして頑張っている人は少なくとも私の知る限りではいないわ」
「それに私や叢雲も含め、ここの鎮守府のみんなは本当に司令官には良くして貰っています。そして、そのことに感謝していない人はいません。そんな司令官に対する誹謗中傷は私たちに対する最大の侮辱と受け止めます」
アカン。もう、目がマジだ。この後の返答によっては命の危険すら覚えてきた。さっきここで見放されたら野垂れ死ぬ、という風なことを思ったりもしたけど、なんなら今ここで死んでしまいそうだ。それだけ鬼気迫ったものを感じる。もうこうなってしまえば、俺にできることは限られてくる。というか、一つしか思い浮かばない。そして、それを実践するしかない。それは何かって?そりゃもちろん―
「ヒィイ~~!!今のは冗談のつもりだったんだよ~言うなればギャグよ、ギャグ~!ギャグのつもりで言ったんだってば~。ゴメェンなさ~い。謝るし、もう二度と言わないから許してくれよ~!ウゥゥ~~」
恥も外聞もなく、ひたすら泣いて謝ることだった。まさかこの年齢にもなって、自分よりも全然年下の子にこんな謝り方をしてしまうとは…自分が情けなさすぎる。あれ、でも艦娘って年齢の概念はないんだっけ?いや、そもそも俺は今カワサキであるから、自分の年齢も何もないけど。そういえば今はカワサキの年齢になっているわけか。もっともカワサキの年齢なんて知らないが。
って、今はそんなことはどうでもいい。これで許してもらえなかったら、本当にどうしよう。さすがに殺されるなんてことはないと思いたいが、そのまま見捨てられて、途方に暮れること待ったなしである。俺がこんな風に絶望しているさなか、彼女たちは一つ息を吐き、
「司令官の言っていた通り、悪い人ではなさそうだね。でもって調子に乗りやすい性格、これも司令官の言う通りだね」
「ま、これに懲りたら軽はずみな発言は控えることね」
何事もなかったのようにこう答えた。先ほどの緊迫した雰囲気とは一転、メタナイトと話していたときの様子に戻っていた。え、え?どういうこと?そんなに俺の号泣謝罪が効いたってことか?それにしたって変わり身速すぎじゃない?なんかこうドッキリにでも引っかかったような心境でいると、
「どうだ、2人とも?警戒は必要ありそうか?」
「「全くないですね!(わね)」」
いつの間にやらメタナイトがこの場に戻ってきていた。
「司令官の言うことを疑っていたわけではないですけど、自分の目でも判断するに越したことはないですからね」
「そもそも他人の情報を鵜呑みにはするなって、いつも司令官自身が散々言っているわけだし、私たちがこんな対応をするのはアンタが原因でもあるでしょ?」
「これは一本取られたな。かくいう、私自身もカワサキに姿を成り済ました全くの別人の可能性もあるのではないかと考え、最悪の場合敵側にそのような能力を持った者がいて、スパイを送り込んできた、というケースもあるかと考えたが…敵側もこうもボロを出しやすいヤツを差し向けることはないだろう。今のが演技といった風にも到底見えなかった」
カワサキの姿に成り済ました全くの別人というのはビンゴだし、何気に失礼なことも言われているような気はするが、それはさておき。…つまりはだ。先ほどまでの会話は俺を試すための茶番だったというわけか。………
「もぉ~~~!!なんだよ~!本当に心臓止まるかと思ったよ~いくら何でもあんまりだぁ~~!酷すぎるよ~~!」
「悪かった、許してくれ」
「こっちとしては本当に何気ない発言だったのにぃ~!だって、だって球体の身体をして、仮面にマントなんて怪しさ満載だと思うだろ~普通ぅ~~」
「確かにそれは言えているかもしれないけど、裸エプロン姿のアンタが言ってもまるで説得力に欠けるわよ」
「はは…叢雲ちゃんの言い方はキツイけど、それに関しては全面的に同意かな」
そういえば、そうだった。カワサキの格好ということは叢雲の言う通り、裸エプロンに他ならない。ただ、言葉に出されるとすごく恥ずかしいのだが、格好そのものについてはそこまで変だと思えないのだ。慣れてしまっている自分がいることにコワイ。もうカワサキに完全に染まってしまったのだろうか。そして、叢雲のことをキツイと言っている吹雪だが、先ほどの責め方といい、正直お前も十分キツイ。というか、なんならコワイ。
「じゃあ、さっきメタナイト卿を呼んでいた艦娘も、あれも台本通りだったってこと~?」
「いや、あれは本当に助けを求めていたから私を呼んでいたのだ」
「そういえば、暁ちゃんは結局何があったんですか?」
「フリスビーで遊んでいたところ、高い木に引っかけてしまって、とれそうにもなくて半泣き、といった具合だった」
「想像以上にしょうもない理由だったわね…」
「まあ、そのフリスビーは確か司令官が暁ちゃんたちにあげたものだったし、司令官からもらったものは特に大切にしていたからしかたないよ。それに、そのおかげで私たちがタイミングよく切り出すこともできたし」
クソ~~!その暁とやらのせいで、俺はとんでもない目にあっていたというわけかい。みてろよ暁ぃ~次に会ったときはリベンジを決めさせてもらうからな。といってもまだ、一度も会ったことないから顔すらわからないけど。
「それはさておき本題に入ろう。カワサキ、先ほどは言い損ねたが、そなたはこの世界に来たばかりで、恐らくあても全くないだろう。そこで提案するが、そなたが嫌でなければ、しばらくはこの鎮守府で生活するというのはどう「お世話になりま~す!!」…よし、決まりだな」
もちろん即答だよ。何が何でもyesに決まっている。当然のように力になってくれようとするメタ様やっぱり最高!宇宙一カッコイイ一頭身です、もう一生ついていきます、ハイ。
「そうと決まれば鎮守府の皆にも連絡せねばな。叢雲、大淀に都合がつく者だけでいいから、鎮守府にいる者を大広間に集めるよう伝えてくれ。それから会場の準備も頼む。私は工廠に来るよう頼まれて、それで今から行かなければならないから、そうだな…現在の時刻が一六〇〇だから、集まるのは1時間後の一七〇〇頃でいいだろう。それまで吹雪はカワサキにここの鎮守府の説明をしてやってくれ」
「了解」
「分かりました!」
「ではカワサキ、また後で会おう」
こう言うと、メタナイトと叢雲はこの場を去っていき、俺と吹雪だけが残った。とりあえず1時間後には、呼べるだけの鎮守府にいるメンバーとの顔合わせが始まるらしい。言うなれば俺が艦娘に対して自己紹介をするわけだな。そう思うと少し緊張してきた。いつになっても自己紹介というのは不思議と慣れないものである。
「あのーカワサキさん」
「ん?あ~鎮守府の説明だね~よろしく~」
「それもありますが、まず言っておくべきことがありまして…」
吹雪は少しきまり悪そうな表情をしながら、俺に話しかけてきた。なんだろう?何か言い出しにくいことでもあるのか?一体何だろう、そんな風に思っていたら
「本当に、すみませんでした!」
大きな声で謝られた。え、どうして?
「カワサキさんを試すようなことをして、しかもあんな脅迫じみた物言いの仕方になってしまって、本当にごめん
なさい!」
「なぁんだ、そんなことか~。もう終わったことなんだし、別にいいじゃないか~」
「とは言っても、初対面の方に対して本当に失礼なことをして…」
「俺にも非はあったんだし、お互い様だよ~。今後は仲良くしてもらえればそれでいいからさ~、ね~?吹雪さ~ん」
「ありがとうございます…カワサキさんは優しいんですね!」
優しいのは君の方だよ。あー良かった。あの時は本当に怖かったけど、ここまで気にしてくれているあたり、吹雪って礼儀正しくて良い子なんだなぁと切に感じた。こんな子を怖いと思うなんて、全くどうかしてるぜ!吹雪ちゃん、最高じゃ―!
「じゃあ、改めてこの鎮守府の説明をよろしくお願いしま~す」
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
うんうん、吹雪とはもう仲良くなれそうだ。そうだよな。どんな組織に属すのであれ、良好な人間関係は進んで築いていくべきだよな。今にして思うと、前世の職場ではそういったことには気をまわさなかったことも、会社でうまくやれなかった原因の1つになっていたのかもしれないな。よーし、今からなら幸先よくスタートを切れそうだぞ。早速、自分から話しかけてみてコミュニケーションをとっていかないとな。
「そ~だ~。さっきはうやむやになったけど、結局メタナイト卿…司令官はこの鎮守府ではどうなの~」
ひとまず、気になっているところを聞いてみた。さっきの発言は俺を試すようなものだったらしいし、本心はまた違うのだろう、そう思っていた。ところが、吹雪は
「え?司令官に関してであれば先ほどの私や叢雲ちゃんの話の通りですよ。」
え…なんか雲行きが怪しくなってきたような…
「じゃ、じゃあ、司令官の悪口を言おうものなら…」
「はい、私も含め艦娘全員が黙っていませんね。言った人はただでは済まないことは間違いありませんけど…?」
なにかおかしいですか?とでもいいたげそうに、至極当然のようにそう答える吹雪。その表情は柔らかいが、目は全く笑っていなかった。訂正、やっぱりフブキサンコワイ。他の艦娘も差はあるかもだけど、大体吹雪と似たような感じなんだろうな…ああ、なんか不安になってきた。俺、うまくやっていけるかな…
カワサキの受難は続く…でも基本自業自得ww