それでは、お楽しみいただけると幸いです。
父もよく見てみると、ちょっと若いです。古ぼけているはずのお店の調度品も、なんか古さより新しさを感じます。
「時間移動(タイムスリップ)したみたいです、ココアさん」
「私たち、過去のラビット・ハウスに来ちゃったってことかな?」
「はい。そうでなければ母や祖父が此処にいる理由が説明できません」
遠くでパンパンッと手叩きをする音が聞こえました。母が、言い争ってた父とおじいちゃんに話しかけています。
「はいはい、タカヒロさんもお義父さんもお話しはここでストップ。今来たお客さんに迷惑かけてしまいますよ、この続きはお外でお願いしますね!」
「お、おお、そ、そうじゃったな。すまなかった。タカヒロ、場所を移した方が良いじゃろう」
「そうだな。どうせお客は少ないから、任せても大丈夫だろうし。ならば、いつものところで話をつける。あとはスマンが頼む」
「ありがとうございます。それでは気をつけていってらっしゃい。タカヒロさん、お義父さん…」
母は、言い争っていた祖父と父に、喧嘩は外で続きをするようたしなめ、店内から二人を外へ送り出しました。ようやっと静かな店内に戻りました。
たしかに、お客の身にしたらうるさいし、迷惑ですよね。母の言うとおりです。
トレーにお冷2つを持って、母が私達のテーブルに近づいてきます。
もちろん、家族ではなく、お客としての私達にお相手するためですが…
母は目の前の私が未来の世界のチノであることは、きっと分かってくれないでしょう。
「いらっしゃいませ。お冷です。メニューはこちらです。ご注文がお決まりになりましたら、こちらの
「それでは、オリジナルブレンドコーヒー2つお願いします」
「かしこまりました」
祖父と父が出ていったので、サイフォンで母がコーヒーを淹れてます。
しばらくして、コーヒーが出来たようです。
「お待たせしました、ブレンドコーヒー2つです」
「ありがとうございます」
お母さんが淹れたコーヒーが飲める日が来るなんて、夢にも思いませんでした。
カップをテーブルに置いてから、母は私に話しかけてきます。
「あなた、もしかしてチノちゃん?」
「えっ?」
過去の世界の母に私がチノではないか、と言われて驚きました。ここは正直にお話するしかないですね。
「は、はい、わ、私はチノです。信じてもらえないかも知れないですが、未来から来ました。いま中学3年です」
「未来から来たチノちゃんね。初めまして。私、願いが叶ったのね~。本当に嬉しい!」
もともと私と違いアグレッシブだった母は、小躍りして喜んでます。なんかココアさんみたいです。
そして、ココアさんも母に挨拶します。
「初めまして、私がチノちゃんの姉のココアです」
「ココアさんは私の姉じゃありません。母を混乱させないで下さい」
「ふえーん、チノちゃんが冷たいよう」
「あらあら、そうすると、貴女は保登さんところの末っ子ちゃんかな。目の色といい、保登さんとよく似てるわ。もちろん未来から来たことになるのね」
「お母さんの推理で大正解です。ココアさんは、いま高校2年で、私達の世界では、ラビット・ハウスにホームスティして、私と一緒に住んでます」
「そうなの…チノがいつもお世話になってます。よろしくね、ココアお姉ちゃん」
「ふぇっ!? よ、よろしくお願いします」
母から突然「お姉ちゃん」と言われ、びっくりしたココアさん。でもとてもうれしそうです。
「わーい、チノちゃんのお母さんからお姉ちゃん認定されたよー」
「ココアさん、良かったですね」
ココアさん、能天気すぎです。私は少し嘲笑をまぜてココアさんに応えました。
お母さんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、3人で会話です。お母さんも私の隣に座りました。
あ、コーヒーの味ですか? お母さんには悪いですが、私のほうが腕は上ですよ。
って閑話休題でしたね。話は続きます。
「お母さん、ところで何で私が未来から来たチノだって解ったんですか?」
「それはね、私が願って、魔法をかけたの…未来のチノに会えますようにって。それで現れたのが貴女」
「お母さんは魔法使いだったんですね」
「自分の魔法で、おぼろげに自分の子供の未来の姿、幻影は出せるの。だから、チノはすぐわかったわ…でも」
「でも?」
「他の友達とかはわからないの。現にココアちゃんだって今来てくれたから解っただけなの」
「そうなんですね」
魔法って言葉が出たので、俄然ココアさんがその話に興味を示します。
「どうやって、魔法をかけるの?チノちゃんのお母さん」
「そうね。魔法の言葉(マジック・ワード)を使うわね。『カフェラテ・カフェモカ・カプチーノ』って」
「なら、私にも出来そう! 私、小さいときから魔法使いになりたかったんだー」
「そう、ココアちゃんは出来るかも知れないわね。チノだって私の娘だもの、才能あるはずよ」
「チノちゃん、私、魔法使いになれるかもだって」
ココアさん凄く嬉しそう。確かに魔法使いの才能ありそうです。今回だって、異世界に連れてきてくれたのはココアさんですし。
「お母さん、おじいちゃんとお父さんは、なんで揉めてたんですか?」
「今度、タカヒロさんがバータイムにジャズをやるので、ピアノをラビット・ハウスに入れたいってタカヒロさんが」
「お父さんも結構無理をいいますね」
「タカヒロさんには悪いけど、グランドピアノは勿論、アップライトピアノもこの店には入れるところが無くて、お義父さんの言う通り多分無理だと思うわ」
「そういえばチノちゃん、今のラビット・ハウスにも、ピアノ無いよね。狭いのと、床に段差があって確かに難しそうだね」
今のラビット・ハウスにもピアノはありません…というか構造上入れるところがないんですね。
「その他にも、簡易PAアンプとスピーカーの設置の仕方とか、配線は表に出ないようにするとか、あの二人、最近しょっちゅうなの」
「お母さんも大変ですね」
「お客が来たときは、ああやって外に出てもらっているわ。どっかで飲んで来ているんでしょうけど。もともとは仲はいいので、すぐに解決するわ」
「チノちゃんのお母さん、苦労が絶えないんですね」
「でも、全然心配はしてないの」
「どうしてですか、お母さん?」
「タカヒロさん、お義父さん、私も、お互い信頼し合っているから…ね」
この時のお母さんの笑顔が、とっても素敵でした。血が繋がってる筈の私には出来ない芸当です。
実は、ラビット・ハウスの店内は伸縮自在で、当初は原作は広く、アニメはコンパクトだったのですが、現在はアニメ版が擦り寄り、アニメはコンパクトな外装でありながら、中は広く4次元状態になっています。
ここでは、アニメ1期あたりのコンパクトなラビット・ハウスを想定しています。
あと、チノ母とココア母は原作通り高校時代から付き合いがあって、ココアについても知っていた設定です。チノに「ココア」と名前を出されたので、外見(目の色とか遺伝的要素)と、名前ですぐに解ったことにしてます。
拙いこの小説をお読み頂き、ありがとうございました。