唐突。
武士(もののふ)が見れば、互いの殺気がかち合ったと見えたかもしれない。
跳び退く拝一刀と林。
その距離は、刀の間合い。
互いの踏みしめる音が、足先も構えに移行したと判らせる。
右手を柄へかけ、左手で鞘を押さえる。
対峙する二人が同じ構え。
居合い。
そう呼ばれる技。
視線と視線がぶつかり、火花を散らす。
もう斬り合いは始まっていた。
拝一刀が動くよりも、刹那早く動く林!
抜く。
自信はあった。
己の居合いは、誰にも負けぬと。
鋒が拝一刀を捉える。
斬る。
否。
林の鋒が届くよりも、瞬早く拝一刀の斬撃が届いていた。
(斬られた…。)
体の痛みは無い。しかし、心の痛みはある。
斬り合いで初めて負けたと心が傷付く。
拝一刀と林は、互いを読みの斬り合い。
そう殺気で斬り合う幻影。
結果、林が斬られた。
意地。
それが林の心を支える。
己の技を信じ、また殺気の幻影で斬る。
二度目。
三度目。
繰り返される殺気の幻影での斬り合い。
全て、斬られたのは林。
全く動かない二人を見ていたけぃんの喉が小さく鳴る。
その小さな音が林を現実へと戻す。
憤怒(ふんぬ)。
(おのれ、拝一刀。)
こみ上げる怒りが、冷静さを奪う。
が。
息遣い。
心を鎮める武の息吹。
脱力。
緊張は速度を奪い、脱力は速度を与える。
明鏡止水。
息吹により、心の水面は鏡の如く静かに穏やかに。
脱力と明鏡止水が放つ高速の居合い。
(届いた!)
勝利。
殺気の幻影での斬り合いを制した。
斬る。
林が現実に放つ、脱力と明鏡止水の高速の居合い。
先程の勝利の幻影が現実と重なり、拝一刀へ白刃の軌跡が伸びる。
音。
それは拝一刀が放った斬撃の後に付いて来る。
林の高速の一閃を追い越す、拝一刀の音速の一閃。
痛み。
知っていた、それは敗者の烙印だと。
瞳に映るのは、拝一刀の上着の胸元に僅かに走る切り口と、その奥に僅かに流れる血。
「届きませんでしたか、お見事…。」
己の人生における最高の一閃を超えた、拝一刀に贈る賞賛。
伏す。
訪れたそいつが林の背中を押す。
先ずは足。
そして、体、腕、首の力を奪う、そいつの名は死。
ゆっくりと。
膝が崩れる。
後は連鎖し全身へと続く。
そして、地へと墜つ。
それを待っていたかの如く、付いた血糊を振り払う拝一刀。
納刀。
刀と戦いを納めた。
勝った。
離れ、見ていたけぃんが乳母車を押しながら走り寄る。
「お侍さまが勝った!」
それは勝利宣言。
蜘蛛の子を散らす。
その言葉の再現が、今ここで行われた。
村人を囲んでいた野党達は、たった今雇い主を失った。
「や、矢場(やば)い逃げろ!」
「逃げろ!」
口々にし、散り散りに駆け出した。