静寂。
全ての弾丸を撃ち尽くし、硝煙の霧が辺りを満たす。
消失。
ゆっくりと、ゆっくりと満たしていた硝煙の霧が大気に溶ける。
晴れる。
そこに皆が見たのは、地に伏した物の怪。その姿は、仰向けで大の字。
流れ出る血液は大地を溶かし、火も無き煙を上げる。
安堵。
隠れ、息を殺し戦いの行方を診ていた村人。
一人。
また、一人。
顔を覗かせ、戦いの終わりを確認する。
拝一刀も機関銃の引き金である紐を離し、終わったとした。
そして、向かう。
地に伏した物の怪の元へ。
側に立つが、警戒は解かず、
「面妖な物の怪であった…。」
脇差に手を掛け油断なく血液に触れない場所を選び、足先で突き反応を確かめた。
動かず。
それを確かめ、
「お侍さま。」
一番に駆け寄って行くのはけぃん。
「勝ったんだね。」
「そのようだ。」
近付く足音の方へと向く拝一刀。
そこには驚愕で引きつる、けぃんの顔。
その瞳が映すのは、立ち上がった物の怪の姿。
同時。
左足を一歩前。その親指の付け根に体重を掛け、軸とする。
軸を中心とし、右足を引き弧を描きながら振り向く。
残った脇差に右手がかかる。
抜刀。
振り向きの回転を抜刀の速度に変換する。
斬。
その口より、粘り絡む唾液を纏い管なる第二の口が伸びていた。
そう『いた。』と過去系。
では、今は?
第二の口は、脇差により斬られ中を舞う。
「グゲッ。」
声では無く音。物の怪が上げたものは。
抜刀斬りの反動を右の捻りに換え、体液により煙る脇差を構える。
突く。
「はぁぁぁぁぁ!」
発する気合と共に、物の怪の空いた口へ脇差を先端から押し込む。
柄から手を離すが早いか、地を蹴り間合いを取る。
立往生(たちおうじょう)。
そう呼ぶ。
立ったままの死を。
遅々(ちち)。
鈍間(どんま)の速度で、物の怪が前のめりに地面へ向かう。
倒れる。
今度は土埃が舞う。
そして、流れ出る体液はまた火の無き所に煙を上げた。
今だ、油断無く殺気を放つ拝一刀。
流れる緊張。
止まらぬ。流れ出す体液は増し、煙を上げ続ける。
そして、伏せる物の怪の体の黒が薄くなっていく。
やがて、流れなくなった体液は、この生物の死を告げた。
安堵。
本当の安堵。
その場の全員が胸を撫で下ろす。
「お侍さま。」
けぃんが、改めて呼んだ。
ゆっくりと向き直る拝一刀。
「終わったの?」
そう聞くのは当然であろう。
「うむ。」
頷く。
「やったー!」
その言葉に、けぃんを始めとする村人全員が喜ぶ。
苦しむ。
「ぐっふっ。」
突如。
苦しむけぃんは、地面に倒れた。
両手は胸元を掻き毟り、体は藻掻く。
「く、苦しい!!!」
そう聞き取れた。
「どうした!」
抱き起こす拝一刀。
集まる村人が、人垣となり二人を囲んだ。
「はぁ、はぁ…。」
両手をだらりと地に垂らし、虫の息。
囲む村人も、なす術なく見守る。
苦しむけぃんが上げたのは、
「クッ、ァァァァァ…。」
最早、声では無く音。
噴出。
抱き起こす拝一刀の顔に噴きかかる鮮血。
けぃんの胸を破りしモノと目が合う。目と呼べるものがあればだが。
硬直。
あまりの衝撃に、囲む村人達は驚きさえ忘れ、ただ魅入っていた。
そいつは蛇に似た姿。けぃんの胸から突き出し鎌首を持ち上げていた。
「ピギャァ…。」
小さく鳴き、威嚇する。
よく見れば、先程倒した物の怪に酷似した特徴がある。その大きさを除けば。
「ピギャァァ…。」
また鳴いた。
その姿に似つかわしい動き。『するする』と蛇の如く、けぃんの体から這い出す。やはり、全身に先程の物の怪の特徴を持っている。
跳ねる。
突如、全身をバネにし跳んだ。
喰らいつく口を開き、拝一刀の喉笛を目掛け。
捻る。
体を反らせ捻る。跳びかかるモノに対し左半身の姿勢。
結果、喉笛をかすめ、拝一刀の後ろへと跳ぶ。
当たるのは運が良いのか、悪いのか…。
結論は、当然当たるものによる。
武道の心得も無い、ただの村人が刹那の判断で回避等できる筈もない。
咬(か)む。
跳んだ小さな物の怪は、一人の村の男に喰らいついた。
そして、その喉笛から声の代わりにと鮮血を出させた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
側の村人が、咬まれた男の代わりに悲鳴を上げた。
絶命。
男は喉笛に咬み付いた小さき物の怪を両の手で握りしめ、そのまま後ろへと倒れた。
逃。
それを合図に村人が我先にと逃げる。
無手。
何も残っていなかった。
最後の獲物である脇差は、物の怪の口の中で溶けていた。
礫(つぶて)。
咄嗟に、拾い放つ石礫。
あやまたず、石礫は小さき物の怪へ。
当たる。
刹那。
『ひょい』
音がした。
それは、気のせいだが。確かに聞こえた。
小さき物の怪の避けた音が。
「ピギャァァ!」
鮮血に染まった、その口でまた鳴いた。
そして、ゆっくりと拝一刀を確認し、
「ピギャァァ。」
鳴く。
跳ぶ。
今度は小さく跳び喰らいついた男から地面へ。
泳ぐ。
小さき物の怪は、体をうねらせ地面を走る。
否、地面を泳ぐ。
そして、茂みへと泳ぎ着く。
それから、数回茂みを揺らし奥へと進み消えた。
静寂。
小さき物の怪が起こした混沌は成りを潜めると、その場を静寂が満たした。
「逃げたか…。」
ぼそりと拝一刀の口から漏れた。