アカツキ・ナツキの年齢について、第一話Cパートで26歳としていましたが、よく考えたら物語のこの時点ではまだ25歳でした。感想欄でも指摘していただいてたのに、申し訳ありません……該当箇所を修正しました。
何で今更気づいたかというと、今回の話で、彼女と同い年の前作キャラが今回登場するからです。
アホな間違いに気づきもしないダメ作者ですが、今後もお付き合いいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いします!
「単刀直入に言います。先輩と私のチームに、入っていただきたいのです」
シキナミ・シオミは正直不本意だったが、先輩がそう決めたのだから仕方がなかった。最大限、内心の不本意さや不機嫌さが表に出ないように表情を作りながら、きわめて事務的に告げたつもりだった。しかし、
「えぇっと……は、はい……」
おどおどと伏し目がちに、しかし流されるままという感じを隠そうともせず了承するアンナと、
「オケです! ですよね、マスター♪」
何にも考えてなさそうな無邪気な笑顔で手を挙げて賛成しつつ、もう一方の手ではパフェを食べるのを止めないイマ。そして、
「…………」
無言かつ無表情で腕組みをしたまま頷く、ライ。
この人たちは本当に事の重要さがわかっているのかとシオミは頭が痛くなってきたが、その頭痛を爆発させたのは、他ならぬ先輩その人であった。
「本当かい? 嬉しいなあ」
「嬉しいなあ、じゃありませんよ先輩。本当にお気楽ですね、しゃっきりしてください!」
がっ。ぐりぐりっ。テーブルの下で、コウタのつま先を踏んづける。シオミの
「わかっているんですか、先輩。この人たちと組むってことは、一緒にエレメント・ウォーを戦うということなんですよ。のんきに喜んでないで、先輩としての威厳をもってください。情けないですね」
ガミガミくどくど。怒鳴るわけではないが、口調も丁寧だが……
「あ、あはは。ごめんよ、シキナミさん。でもまあ、二人だけで戦うのは限界が……」
「私の戦術予報では不満なんですか!」
「そ、そんなことはないよ。いつも感謝してる、ありがとう」
「なな何を勘違いしているんですか。べべ別に、感謝してほしくてやってるわけじゃあないんですからねっ」
赤面して顔を逸らし、また踵でつま先をぐりぐり……実に、ちょろい。そしてコウタは鈍感すぎる。人の顔色を窺うことに慣れているアンナは、「あ、そういうことか」とすぐに合点がいった。そして――いや、だから。遠慮がちに、ちょこっとだけ手を挙げておずおずと発言する。
「あ、あのっ、
「アンナさん、イマたちは誘われた側ですよ? 誘っといて迷惑なんて言われるわけないじゃないですかー♪ あ、パフェおかわりです!
(い、イマちゃーんっ。〝ご迷惑〟の意味、察してーっ)
眉をハの字にして顔だけでなんとか伝えようとするアンナだが、自分のほっぺについた生クリームにすら気づけないイマが、そんな微妙なアイコンタクトになど気づくはずもない。
「てーいんさーん! こっちこっちー♪」
不機嫌なシオミ、困り顔で微笑むコウタ、おろおろするアンナ、終始無言のライ。そんなプチ修羅場の空気をものともせず、イマは元気一杯に手を挙げて叫んだ。周囲には他にも何人かの客がいたが、イマのよく通る明るい声は無事店員に届いたらしく、実に趣味的なフリルとリボンに塗れたメイド服姿の店員が駆け寄ってくる。
「はいはーい、ちょっち待ってやー♪」
――GBNが誇る広大な
ライたちがテーブルを囲んでいる、このガンプラショップ兼メイドカフェという中々に攻めの姿勢を貫いているVRショップ〝♪かふぇGP-DIVE ぜーた♪〟などは、その典型例と言えた。
「お待たせしてごめんなー、おじょーサマ。ご注文をおうかがいするでー♪」
「イマはですねー、この〝北宋のアッザムティー・パフェ〟をおかわりです! あとこのむすっとした仏頂面のマスターは別に怒っているわけではないので、気にせずコーヒーのおかわりをお願いします!」
「……ブラックで」
ライはイマに続いて短く告げて、店員が出現させた空中パネルに自分のダイバーギアをかざした。ちゃりんという小気味よい音が鳴ってゲーム内マネーが処理され、テーブルに注文の品が
その間も、シキナミがコウタを詰ったりアンナがあわあわと困っていたりといったわちゃわちゃした状態は続いていたのだが、それを見て、メイド服の店員は実に楽しそうに笑った。
「んっふっふー♪ 楽しそうやなあ、自分ら。ウチも学生の時分を思い出すわー♪」
VRショップでは使い道もないだろうお盆を胸元で抱えているのは、メイドカフェゆえの様式美だろうか。随分と背が低く幼い顔立ちに見える少女だが、まるで大人のようなことを言う。
「もぐもぐ。店員さんは学生さんじゃないのですか? はむはむ。
「んっふっふー♪ よく言われるけどなー、ウチもう既婚の子持ちの主婦やで?」
「ぶほーっ!」
「!?」
イマが噴き出したアッザムパフェがライの顔面を直撃した。だがそれよりも、イマと似たり寄ったりの小学生にしか見えない少女の言葉に衝撃を受け、流石のライも目を見張ってメイド店員を上から下まで見返してしまった。
旧GBOでの〝
「いやー、何度見ても笑えるわー、そーゆーリアクション♪ んっふっふっふっふー♪」
「ここ、子持ちですか!? いい、イマには店員さんがまず子供に見えるのですけど!?」
「カナメ・エリサ、26歳。この店の店長夫人や♪ さすがにダイバールックには反映されとらんけど、今、お腹に二人目がおるんよ。んで、今ウチは病院からアクセス中や♪」
大型のバトルシステムに頼らず、プラフスキー粒子の補給も最小限。回線さえつながれば、全世界のどこからでもアクセス可能――入院中の、病床からでも。それがGBNだ。
事実、ある種のリハビリやストレスマネジメントの一環として、GBNが採用されているという話もある。体を満足に動かせない事情を抱えた人々にとって、GBNが希望になるという美談も数多い。ならば、妊婦がGBNに興じることだってあるだろう。プラスチックの粉や有機溶剤とは無縁のGBNなら、母体への負担も少ないはずだ。
旧GBO時代からヤジマ商事が目指していた〝
「ウチは見ての通り、身体がちっちゃすぎるからなー。一人目の時も入院して出産したんやけど……ま、もう少しは店にも出るから、今後もごひいきに頼むでー♪」
どう見ても幼い、メイド服姿の、しかしもうすぐ二児の母になる彼女は、ライとイマの精神に残した衝撃からすると軽すぎるぐらいの気軽さでひらひらと手を振りながら、仕事へと戻っていった。
「ほえー……ディメンジョンは広いですね、マスター……」
「……そうだな」
ぽかんと口を開けてその後姿を見送るイマ。ライはアッザムパフェの残骸を布巾で拭いつつ、頷いた。そしてイマのほっぺについた生クリームを、同じ布巾で拭い取る。
「ん……にひひ♪ ありがとうございますっ、マスター♪」
「と、に、か、く! ですね!」
ばん、とテーブルを叩いて、シオミが立ち上がった。ライにほっぺを拭ってもらってご満悦の表情だったイマが、突然の声にびくっと肩を震わせた。
「……と、とにかく、です」
シオミは声を荒げてしまった自分を鎮めるためか、くいっと片手で眼鏡の位置を直しつつもう一度同じ言葉を言い、少し落ち着いた調子で続けた。
「ミネバ・バトルロイヤルが終わったら、部活はエレメント・ウォーに突入するというのが例年の流れです。特に今年はハイアー・ザン・ザ・サンへの参加資格の争奪戦も兼ねていますし、先輩にとっては高校最後のシーズンです。なんとしても、先輩を勝たせてあげ……」
「ほほう、しおみん先輩はサツキ先輩のために頑張るんですね! イマ、りょーかいしましたっ♪」
「ちちち違います! 私自身がオペレーターとしての経験を積むためです! ってなんで先輩は苗字で私はアダ名なのよっ!」
「ところでしおみん先輩、えれめん何とかとか、はいあー何とかとか、イマたちにはさっぱりなのですけれど。ですよね、マスター。アンナさん」
「う、うん。そうだね……あのぅ、教えていただけませんか。シキナミ先輩」
アンナはイマに察しとか空気を読むと言った類の言動を期待することを諦め、とにかく話だけでも進めようと、シオミに水を向けた。同時に、コウタにちらちらと視線を送る――と、コウタはすぐに意図を察してくれた。
「シキナミさん。仲間になってもらおうって言うんだから、僕たちの方が礼を尽くすべきじゃないかな。僕が説明してもいいんだけど……」
「……はぁ。仕方ないですね、わかりました。説明は任せてください、先輩」
コウタに言われ、シオミは眼鏡の位置をくいっと直しながら席に着いた。慣れた手つきで何枚もの空中パネルを次々と操作して、ライたち一人一人の前にパネルを出現させる。出現したパネルには、どこかネオジオンの紋章にも似た峰刃学園の校章をバックに、大きく『峰刃学園高校ガンプラバトル部』と表示されていた。
「……では、説明します。峰刃学園高校ガンプラバトル部が独自に設定する、ポイント制部内大会〝エレメント・ウォー〟について」
イマの天然っぷりに大幅にペースを乱されてしまっていたが、シキナミ・シオミは本来、世話焼きで説明好きな性分だ。峰刃学園ガンプラバトル部が独自に設定する特別バトル〝エレメント・ウォー〟の説明が、わかりやすく、滞りなく始まった――
〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕
《from:ヒビキ・ショウカ》
《to:今期新入部員諸君》
《件名:エレメント・ウォーについて》
『峰刃学園高校ガンプラバトル部主催 ポイント制部内大会〝エレメント・ウォー〟』
・参加資格
峰刃学園高校ガンプラバトル部員であり、〝エレメント〟に所属していること。
・エレメントとは
同一フォースの所属ダイバー同士で結成するフォース内分隊。今次エレメント・ウォーでは、エレメントは最低二名、最大六名(オペレーター含む)で結成するものとする。
・
特定の条件を満たすことで個人、およびエレメントに付与されるポイントのこと。同一エレメント内では共有される。フォース内においてのみゲーム内マネーとしての価値を持つ。ポイントを消費してNPCの呼び出しや基地施設の建造、母艦の運用などが可能となる特別ルールでのバトルやミッションも存在する。
・今次エレメント・ウォーについて①
GBN内全てのバトルの勝敗・ミッションの成否などに対して、付与されるEPが設定されている。各エレメントに所属するダイバーの合計EPの平均値をエレメント評価値とし、それを以て部内ランキングとする。
・今次エレメント・ウォーについて②
今次エレメント・ウォー終了時点での部内ランキングによって、GBNフォース連合会主催・夏季特別招待大会〝ハイアー・ザン・ザ・サン〟への出場者を選定する。
「――できるだけ、簡潔にしたつもりだ」
この後にもこまごまと続いていたエレメント・ウォーの細則を折りたたみ、手のひらサイズのメールアイコンにして、机の上を滑らせた。深い飴色に磨き上げられた木製の天板をメールアイコンは音もなく滑り、ぴったりショウカの目の前で止まった。ショウカはそれを受け、上機嫌に微笑んで見せる。
「感謝するよ、マサヒロ。こういった類の文章は、ボクよりもキミが書く方が的確で、適切だ。安心して代筆を任せられるぜ」
「自分としては、数式の方が好きなのだが。文章というものは、何というか――懐が、深すぎる」
GBN内、峰刃学園フォースネスト〝魔王城〟円卓の間。雰囲気たっぷりの銀燭台には長短さまざまな蝋燭が灯り、円卓をゆらゆらと照らしている。――しかし、物々しい甲冑や重厚なタペストリーに囲まれた巨大な円卓につく人間は、僅かに二人。
その一人は、円卓の十二時の位置。〝
もう一人は、七時の位置。連邦軍の士官用軍装に身を包んだ青年。几帳面そうな細面に、黒ぶちの眼鏡。染み一つない真っ白な手袋に包まれた指先で、宙に数式を書きながら言う。
「数式はいい。あやふやな領域を残さず存在するたった一つの正解だけが、自分を安心させてくれる――」
「……言っていることはけっこうな詩人だぜ、それ」
「言うなよ、ヒビキ――自分もそれは、わかってはいるつもりだ」
苦笑するショウカに、マサヒロもまた苦笑で返し、そしてぐるりと円卓を見回した。
「それにしても――二人、か」
「ああ、まったくその通りだ。別に招集をかけたわけでもないのだから、仕方ないと言えばそれまでなのだけれど。でもまあさすがのボクも、そろそろ悲しんじゃうぜ?」
ショウカは大仰な仕草で肩を竦めて見せるが、その表情に言っているほどの悲しみはない。むしろ、どこか楽しんでいるような色合いさえ感じられる。
「〝
「――気苦労の、多いことだな。部長閣下は」
「そう言ってくれるのはキミぐらいだぜ、マサヒロ。でもそんなキミも、もう行ってしまうんだろう?」
「――ああ、勿論だ」
言いながら、マサヒロはすっと立ち上がった。背筋が真っ直ぐに伸びた立ち姿は、きっちりとした軍装も相まって、実に精悍だ。しかしきりりと引き締められた表情の中で、眼鏡の奥の目だけが、若干の野性味を帯びている。
「今回もまた、エレメント・ウォーの初戦――ヒビキ主催の部内試合は〝トゥウェルヴ・トライブス〟からのスタートなのだろう?」
「旧GBO時代からの多人数同時参加型バトルの王道〝トゥウェルヴ・トライブス〟。12チームが入り乱れぶつかり合う超・乱戦……ボクは意外と、伝統を重んじるタイプなんだぜ」
「ふっ。遠回しな言いぐさを――だったら。自分が。自分たちが。出ないわけには、いかないだろう」
にやりと口の端を吊り上げ、マサヒロはパチンと指を弾いた。すると、マサヒロの背後のタペストリーが――正確には、タペストリーを表示していた大型ディスプレイの映像が切り替わり、大海原を駆ける超巨大空母を映し出した。
慌ただしく甲板上を駆けまわる、NPCの甲板作業員。彼らを見下ろす、鋼鉄の――否、プラスチックの巨人。装備も、デザインも、カラーリングも、全く同じガンプラたち。現実の兵器類を意識したような密度の高いディティールアップが特徴的な、重装型のジムタイプ。計、六機。
『……待ちくたびれましたよ、隊長。我々の準備は、ざっと600秒前には完了しています』
「すまんな、待たせた――そして軍曹、正確には627秒前だ」
『はっ! 申し訳ありません!』
ずらりと並んだジムタイプの足元で、一糸乱れぬ隊列を組み、敬礼を捧げる五人のダイバーたち。全体的に体格も髪型も高校生離れした男臭い集団だが、その中でも特に筋肉に恵まれている現役軍人にしか見えない大男が、ただでさえ伸びきっている背筋をさらにピンと伸ばした。
マサヒロは満足げに頷きながら、ショウカへと向き直った。
「集団戦闘は我らの最も得意とするところ――新入部員達には悪いが、一気にポイントを掻っ攫っていくつもりだ」
「まったく、趣味的だねぇ。逆にマサヒロにだけ筋肉がない理由が知りたいぜ」
「誉め言葉として、受け取っておこう――では、また後程な。ヒビキ・ショウカ」
「ああ。また会おうぜ、コウメイ・マサヒロ。できることなら、戦場で。敵として、ね」
マサヒロは呼び出した空中パネルを、演技がかった仕草で大きくフリック。プラフスキー粒子の輝きに包まれ、その次の瞬間にはガンプラのコクピットへと転送されていた。
仮想インド洋北西・アラビア海。エレメント所有の超大型空母は荒波を蹴立ててペルシャ湾に突入しつつあり、夜明け前の水平線の先には、砂塵吹き荒れる赤茶けた大地がうっすらと顔を覗かせつつあった。
その土地の名は、アザディスタン。戦火に喘ぐ砂漠の小国。そして、今次エレメント・ウォー、初戦の舞台。
「〝
実在する兵器類の操縦系を模してカスタムしている操縦桿を握ると、
マサヒロはフォーミュラ・ジムの両足をカタパルトに固定し、声も高らかに出撃宣告をした。
「エレメント〝フォウ・オペレーション〟――勝利を導き出す!」
以上、第三話Aパートでしたー。
冒頭でも述べましたが、ナツキの年齢の件、間違っていました……指摘していただいてたのに、申し訳ないです……
第三話から、エレメント・ウォーが始まります。次回からはバトルましましでお送りしたいと思いますので、どうぞご期待ください!
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