いつもより更新ペースの早い亀川です(笑)
雨続きでガンプラの仕上げ塗装ができないため、ガンプラ紹介ではなく本編更新となりましたー。本編更新はこれが年内最後になるかな……
兎も角、第四話スタートです。どうぞご覧ください!
全エレメントに支給される初期値が、1000EP。これに、ミネバ・バトルロイヤル生存の副賞、一人につき500EP×五人分が加算される。つまり、今季エレメント・ウォーの〝ブルーブレイヴ〟の初期EPは、3500EPということになる。
「おぉぅ、それはそれは! ……それは、多い方なのですか、マスター?」
「……知らん」
すっとぼけた顔で首をかしげるイマに、ライはぶっきらぼうに答えた。アンナは何か言ってあげようと口を開きかけて、でも自分も何も知らないことに気づいて口を半開きにしたまま、眉をハの字にして困っている。
「前のシーズンでは、初期値の1000EPだけだったから。みんなが仲間になってくれたおかげで、とても助かっているよ。だよね、シキナミさん」
「はい。正直、ありがたいです。エレメント評価値……フォース内ランキングに使用される数値は所有EPを人数で割りますから、何人チームでも基本的には平等です。しかし、所有EPが多いに越したことはありません」
アンナへの助け船を出したコウタの言葉を補足しつつ、シキナミは戦術予報パネルに新たなウィンドウを開いていく。
五人が集まっているのは、エレメント母艦〝ブルーバード〟内、ミーティングルーム。SEEDdestinyのミネルバを元にした艦だが、ミーティングルームの内装は
「シーズン中の母艦運用権の獲得が、1000EP。これが早い段階で取れるだけで、今後の戦術が大きく変わります。エレメント所有の母艦での出撃が必須条件のミッションは、EP効率の高いものが多いですから」
「前のシーズンは大変だったね。ごめんよ、なかなか勝てなくて」
「……昨日も言いましたよね、先輩。そうやってすぐ謝らないでください。先輩はエレメントのリーダーなんですよ、もっと自信をもって堂々としていてください。情けないですね」
シキナミはメガネの奥で目を細め、ジト目でコウタを睨む。コウタはまた「ごめんよ」と言いかけてしまい、中途半端な愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「……にひひっ♪ こーた先輩としおみん先輩、らぶらぶですねぇ、マスター♪」
「……? そう、なのか?」
「んもぅ、マスターはオールドタイプ過ぎますよー。どこをどうみても、イマとマスターと同じぐらい、らっぶらぶじゃあないですかー♪」
「……離れろ。顔が近い」
ほとんど耳元にほっぺがくっつくぐらいの距離でニヤニヤしていたイマの頭を、ライは乱雑につかみ、ぐいっと押し退けた。
「んにぃー!? もうマスターってばぁ、照れ隠しが乱暴すぎですー♪」
ぶーたれながらもどことなく嬉しそうなイマと、無表情のライ。イライラとしたジト目のシオミ、力ない愛想笑いのコウタ。四者四様のメンバーに囲まれたそのど真ん中で、アンナは顔を真っ赤にして俯いていることしかできなかった。
(みみ、みんなそれぞれラブラブすぎですよぅ……見ているこっちが恥ずかしくなっちゃうレベルじゃないですかぁ~!)
『こらこら青少年たち、何をいちゃこらしているんだい。見ているボクの方が恥ずかしくなるレベルだぜ、まったく』
アンナの心の声とほぼ同じ内容が、戦術予報パネルから聞こえてきた。自動的に通信ウィンドウが拡大され、声の主の姿がパネルに大写しになる。
『はろはろー、〝ブルーブレイヴ〟の諸君。部長のヒビキ・ショウカだぜー。よっろしくぅ♪』
艶やかな黒髪に、切れ長の流し目。峰刃学園ガンプラバトル部・部長ヒビキ・ショウカである。
黙っていれば古風な和風美人なのだが、ショウカはわざとそのイメージを崩しにかかっているかのように、茶目っ気たっぷりにウィンク&横ピース。その様子からは〝
(ぶ、部長さん……っ。とと、突然なんで……というか、あの挨拶気に入ってるのかな。全然似合わないのに……ミネバ・バトルロイヤルの説明の時もしてたし……)
「こんにちはー、ぶちょーさんっ♪ その挨拶、全然似合わないですけど気に入ってるんですかぁー?」
(イマちゃーーんっ!? 言っちゃダメそれーーっ!?)
『ああ、ボクの最近のお気に入りだぜ。よっろしくぅ♪』
(気に入ってたーーっ。そして似合わない発言も気にせずまたやったぁーーっ!?)
「にひひっ♪ カワイイですよね、それっ。よぉし、イマも♪ よっろむぎゅ!?」
「……用件は?」
エンジンのかかり始めたイマの頭をぐいっと抑えつつ、ライは短く問うた。
流れを切ってくれたライに、内心で感謝。ウィンク&横ピースの投げつけ合いからの「ほらほら、しおみん先輩とアンナさんも!」「いっしょにやろうぜ。部長命令だぜ?」という地獄絵図が見えかけていたアンナは、ほっと胸を撫で下ろした。
『用件? ああ、用件ね。忘れるところだったぜ。まったくこのボクとしたことが、とんでもないうっかりさんだぜ』
ショウカは整った顔立ちに涼し気な微笑みを浮かべ、肩を竦めて見せた。その仕草だけなら同性のアンナでさえ胸を高鳴らせてしまうような美しさなのだが、突然現れて女子小学生(仮)と横ピース合戦をやりかけて用事を忘れかけるとかそれ部長としてどうなのかと、アンナは思うが口には出せない。
「ヒビキ先輩。私たちは今後のエレメント・ウォーに向けた作戦会議の途中なのですが」
『そんなキミたちにこそ、お得なお話だぜ。成功すればボーナスEPマシマシ、ボクからの特別なお願い事だ』
多少の苛立ちを滲ませるシオミの声色もどこ吹く風、ショウカは飄々と告げた。そしておそらくは、空中パネルを操作したのだろう、通信画面の向こうで人差し指を軽くフリックした。ほぼ同時、こちらの戦術予報パネルに、新着メールのアイコンが表示される。
『今季初戦、お疲れ様だったね。一発目からマサヒロのエレメントに当たるとは運がない……が、キミたちをボクは、高く評価しているんだぜ。事実、〝ブルーブレイヴ〟のフォース内ランキングは、現状、けっこうな上位に位置している』
フォース内ランキングは、エレメントの所有EPを所属人数で割った〝エレメント評価値〟によって定められる。
初戦〝トゥウェルヴ・トライブス〟で〝ブルーブレイヴ〟には、参加費と被撃墜のマイナスポイントがある。参加費は二人チームなら50EP、それ以上は一人につき50EP。オペレーター込みで五人編成のライたちは、200EPとなる。バトルロイヤル形式の試合なので、試合終了時点での被撃墜は当然シオミ以外の全員で、四機・計400EPのマイナスだ。
一方、獲得したEPは、撃墜スコアがダイバーのガンプラ六機とNPD一機、計700EP。フォース内ランキングで格上の〝フォウ・オペレーション〟から撃墜を獲ったため、ボーナスポイントとして撃破一機につき50EP、計150EP。試合におけるエレメントの順位は第二位となるため、順位ボーナスで300EP。
差し引き、550EPのプラス。母艦運用権の獲得のため1000EPを支払っているため、現在の総所有EPは3050EP――エレメント評価値は、610。初戦を終えたばかりのフォース内ランキングでは、総数約百のエレメント中の、実に三十位に食い込んでいた。
「しかしこれは、あくまでも初戦の結果だけの順位です。シーズン終わりには万単位のポイントを稼いでいるエレメントも多いことを考えれば、誤差のようなもの。ヒビキ先輩にわざわざ声をかけていただくほどの事でもないかと思いますが」
『ああ、そうだね。だからランキング云々というのは、あくまでもボクから個人的なお願いをするための建前で、言い訳だ。このお願いごとにキミたちを選んだ理由は、大きく二つ。噂の転校生が面白そうだな、というのと――』
「…………」
悪戯っぽい流し目の中に、一瞬。見定めるような鋭さがよぎったのを、ライは見逃さなかった。かつて師匠の下で修練を積んでいた時に、あのような目をした相手を何度も見てきた。あれは、強者を求める目。より強い相手を、より激しくより熱い闘争を求め、値踏みする目だ。その目の光に中てられ、ライの闘争本能にも火が付きかける――が、続くショウカの言葉に、ライとは別の炎が音もなく燃え上がってしまった。
『というのと――ボクが個人的にコウタを信じているから、かな』
ピキッ。もしここがGBNでなければ、シオミの眼鏡にヒビぐらいは入っていただろう。いやむしろ、このプレッシャーはGBNだからなのだろうか。炎のように噴き出す、目には見えない
普段は空気なんて全く読めないイマまでもが仔犬のように縮こまってライの背中にしがみ付き、アンナはほぼ白目をむいてガタガタと震えている。
「……どういう、冗談です……?」
『冗談? おいおいシオミちゃん、ボクが今までに一度でも、冗談なんて言ったことがあるかい? まったく、心外だぜ。ボクとコウタの間に、個人的な信頼関係があっちゃあダメだっていうのかい?』
「……コ・ジ・ン・テ・キ・ナ……ッ!?」
ギチギチギチ……壊れかけのサイコガンダムのような動きで、シオミはコウタを振り返った。眼鏡のレンズが光を反射し、その表情は読めない。
しかしコウタは動じない。普段はアンナの声にならない訴えも感じ取って通訳してくれるコウタだが、なぜかシオミのことになるとそのセンサー感度は大幅に鈍ってしまうようだ。いつも通りの力ない愛想笑いを浮かべながら、事も無げに答えた。
「ああ、ショウカちゃんとは、三年間同じクラスだから。中学の時も、ガンプラバトル部で一緒だったし。小学校は別だから、幼なじみってほどではないけどね」
「……ショウカ、チャン……ッ!?」
(ああっ、今その「名前+ちゃん」呼びはダメですサツキ先輩っ。シキナミ先輩が、自分の「苗字+さん」呼びとの差をぉぉぅ……っ)
全部気づいていながら、へらへら笑うショウカ。何もわかっていないコウタ。NT-Dに匹敵するナニカが発動中のシオミ。
アンナは恐怖と心労のあまり思考停止に陥り、そのまま明鏡止水の境地に達してしまった。金色に染まったアンナのダイバールックが少しずつ透き通っていき、魂的な何かがすぅーっと抜け出しつつある。
「ああっ、ダメですアンナさん! この状況でイマを置いていかないでくださーいっ! いいイマ、怖すぎておもらししちゃいそうなんですよぉーっ! まま、マスターもこの状況、何とかしてくださいよー!」
「……何をはしゃいでいる?」
「んだぁーーっ! これだからオールドタイプはーーっ! あぁっ、ダメですアンナさんっ! そっちに、そっちに逝っちゃダメなのですよーーっ!!」
――その後、紆余曲折という言葉では語り尽くせないほどの様々な手順と葛藤と修羅場を経てショウカからの通信は切れ、どうにか場は落ち着いた。
いっそ清らかな表情で遠くを見つめるアンナと、口から耳から白い煙を吐きながらへたり込むイマ。そして、無言かつ無表情でひたすら眼鏡を拭き続けるシオミと、困り顔でシオミに話しかけ続けるコウタ。
そんな死屍累々のミーティングルームの中で、ライだけがいつもと変わらぬ仏頂面で、ショウカからのメールを開いていた。
「……運営本部公認の、特別ミッション……?」
メールの冒頭に描かれた、GBN運営本部のゴロマーク。そして、GBNの治安維持部隊として有名な〝
Gunpla Hyper Online Security Team――通称〝
ショウカからのメールには、フォース〝峰刃学園ガンプラバトル部〟と、運営本部直属治安維持部隊〝
〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕
違法行為や迷惑行為を繰り返す悪質ダイバーという存在は、どれほど規制を強めようとも、消えてなくなることはない。ある意味ではそれは、数々のガンダム作品が描こうとした人間の本質、その一側面なのかもしれない。
しかし、だからと言って、それを放置するわけにはいかない。
ヤジマ商事が目指す〝
――そして、
かの〝
「ンだよ! ちょっとパラメータいじっただけじゃねーか!」
それこそがゲームの公平性を損なう不正行為だというのに、がなり立てる少年の声に反省の色はない。
ガンプラの完成度の低さのわりにとんでもない威力のビームライフルを連射するストライクフリーダムは、彼が怒鳴り散らす通り、パラメータを操作しているのだろう。異常に出力強化されたビームの粒子が派手に飛び散り、灰色の月面を照らしている。だが、ただの一発も、バンに掠りもしない。威力だけは上がっても、肝心のダイバーの腕が悪すぎるようだ。
バンはため息をつきながら、運営本部のデータベースにダイバー情報の照会をかけた。
「……サトウ・ユウタ、12才。都内在住――まだ小学生か。改造ツールはどこで手に入れた? お小遣い貯めて買ったのかよ、ボウヤ?」
「こ、個人情報だぞ! 訴えてやる!」
「違法改造ツールの使用、パラメータの不正操作。さらに、対戦相手への暴言と試合途中の回線切断……累積で何十回あると思ってんだ? 運営からの警告も無視しやがってよ。そんな状態で、誰が、誰を訴えるって? 悪質ダイバーのボウヤがよぉっ!」
「うるせえ! バーカ、バーカ!」
悪質ダイバーは叫びながら、スーパードラグーンを射出した。とても彼自身が操作しているとは思えない複雑な軌道で飛来する八基のドラグーンに、しかしバンはうんざりした表情でため息を吐いた。
「……この軌道、またあの安物改造ツールかよ。お小遣い少なかったんだな、ボウヤ」
バンはガンプラに纏わせていたABCマントを脱ぎ棄て、一気に加速した。
起伏の少ない月面を、這うように翔け抜ける黒い影。鉄血のオルフェンズより、テイワズの万能型高性能機〝
「ゴースト2よりHQ、対象の不正行為を現認した。
『HQよりゴースト2、B弾の執行許可ナンバーを確認する』
「ゴースト2、了解。執行許可ナンバーは……」
英数混じり12桁のコードを述べつつ、バンは絶影に二振りの大型ナイフを抜刀させた。月の灰色の大地を蹴って、跳躍。今までに何度も相手をした安物の不正改造ツールに操作されたスーパードラグーンを無傷で潜り抜け、ドラグーンを射出したままの姿勢で止まっていたストライクフリーダムの真上をとる。
「ど、ドラグーンを無傷で……ち、チートかよ! 卑怯だぞ!」
「はいはい、カッコ悪いからもう黙ってな……退場してもらうぜ!」
「ひっ……!?」
悪質ダイバーは引きつった悲鳴を漏らすと、何事か手元で操作をしたようだが、何も変化は起きなかった。おそらくは回線切断で逃げようとしたのだろうが、すでにヤジマ電脳警備部が、法務部の監督の下、対象のゲームハードに侵入し回線切断を封じている。ゲームハードの電源を切ることすら不可能だ。有線接続なら回線を引っこ抜くという手が使えなくもないが――少なくとも、ボタン一つで逃げるなど、許さない。
「え、嘘、なんで」
「年貢の納め時だ、覚悟しやがれっ!」
絶影の影が黒々と、ストライクフリーダムへ飛び掛かる。逆手に持った二振りの大型ナイフがVPS装甲の隙間を貫いて、金色の内部フレームに深々と突き立てられる。激しく火花を散らして身を捩るストライクフリーダムの顔面に、絶影は強烈な頭突きを叩きこんだ。
「うわぁぁっ! や、やめてよぉぉ!」
「自分が何をしたか、よぉぉっく反省するんだな! 時間はあるぜ、少なくとも今後数年間! テメェは全てのオンラインゲームから排除されっからよぉッ!」
バンは右手のナイフをストライクフリーダムに突き立てたまま残し、腰に吊るしていた大口径ハンドガンへと持ち替えた。
装填されているのは、全GBN内でGHOST隊員だけに使用が許されている特殊弾頭〝
本人確認が厳格化された現在、それはオンラインゲーム全体からの
「ご、ごめんなさい、もうしませ……」
「遅ぇよ!」
バァンッ!
銃声は、短く一発のみ。眉間を撃ち抜かれたストライクフリーダムは、プラフスキー粒子の欠片となって消えていく。消えていく最後の一瞬に悪質ダイバーの発狂したような叫び声が聞こえた気がしたが、バンは特に気にも留めなかった。
執行対象が未成年者だったということは、今頃ヤジマ法務部が専属カウンセラーと共に彼の自宅のベルを鳴らしていることだろう。世界最大にして世界最高の安全性を目指すオンラインゲームたるGBNに課された責任は、大きい。ただ排除して終わりではなく、その後もフォローも、ヤジマ商事の業務の範囲内だ。
「ま、俺は……悪い奴らを、とっちめるだけだがよ」
バンはしんと静まり返った月面に絶影を降ろし、青く澄んだ地球を見詰めた。
「……ゴースト2よりHQ。任務完了、帰還する」
『HQ、了解。……おつかれさま、あんちゃん。晩ごはん、できてるよ』
「おう。楽しみだ」
守ると誓った妹の声に迎えられ、バンの表情が、緩む。
絶影は転送ゲートへと軽やかに飛び込み、バンもまた、GBNから現実世界へと帰還するのだった。
以上、第四話Aパートでしたー。
前作エピローグで登場したGHOSTとの共同作戦が、第四話のメインとなります。B弾の仕様など現実にはあり得ないほどの強硬策をとっているヤジマ商事ですが、黒色粒子事変はそれほどの大事件だった、ということで。あと、私自身がリアルに感じているオンラインゲームの悪質プレイヤーへの怒りも含めて、こんな感じになっています。
それはそうと、前半のラブコメ部分は楽しんでいただけたでしょうか? ときどき書きたくなるのですが……楽しんでもらえていたら幸いです。
次回こそガンプラ紹介ができるかな……年内にやりたいですね……
感想・批評お待ちしています。今後もよろしくお願いします。