今作では前作の失敗を教訓にして、文章は短く頻度を高く更新したいと思います。
少し読みごたえに欠けるかもしれませんが、お付き合いいただければ幸いです。
北米、ニューヤーク市。一年戦争の傷跡も生々しい、廃墟――を再現した、
無数の弾痕に削られ、半壊したビル群。打ち捨てられ、風雨に錆びた戦闘車両。そんな中、僅かに残った高層ビルを遮蔽物代わりにして、私は――いえ、私と、私の愛機は、身を潜めています。
「周囲に敵影……なし。一段落、かな……?」
ガンキャノンをベースにした改造機。両手に短く太いビームガトリング、両肩にも大型のガトリング砲、そしてアームで保持されたABCシールド。見た目通りの火力重視型モビルスーツ、〝ガトキャノン・オーク〟です。普通の女の子な私は殴り合いの近接戦闘なんて怯えて竦んでしまうので、ガトリング砲大好きなお兄ちゃんたちにアドバイスをもらって、作り上げました。
さて、身を隠している私(とガトキャノン)ですが、すでに幾度かの戦闘を潜り抜けて、手足には若干の損傷があります。コンディションモニターは部分的に赤く、全体的にイエロー。武器弾薬はまだ余裕がありますが、少々被弾が多かったようです。万全とは言えません。
「……がんばって、ガトキャノン。入部試験、もうすぐクリアだから、ね……!」
呟くように語り掛けるのは、ガンダム作品の見過ぎでしょうか。でも、ついつい普通にやってしまいます。大切な、愛機ですから。
私――ガトウ・アンナはヘルメットを外し、汗で額に張り付いた栗色の前髪をかき上げました。現実では初夏の風も爽やかな五月だというのに、この戦場には陰鬱な雨雲がかかり、蒸し蒸しとした空気がコクピットの湿度まで不快に高めているかのようです。そこまで再現してみせる処理能力に、GBNを始めたばかりのころはいちいち驚いたりもしていたが、もはやアンナは新兵ではありません。
中学の頃からガンプラバトルを始めて、三年。ついにガンプラバトル界で、GBNで名をはせる強豪校・
峰刃学園高校ガンプラバトル部、入部の日。
生来の引っ込み思案で誰にも話しかけることができず、入部届を握ったまま部室を探してうろうろしていた自分を、親切な先輩方がGBNまで連れてきてくれました。
『お、新入生か。ウチの部は入部試験があるんだぜ。こっちに来な』
『だいじょーぶだいじょーぶ、GBNだから。ガンプラは壊れねーよ。平気だって』
『部室にパソコンあるから、それでやろうよ。おいでおいで、新入生ちゃん』
(なんて親切な先輩たちなんだろう。私、今日は普通に運が良いかも……!)
お出かけの予定を組めば雨が降るぐらいには日ごろから運の悪い私にとって、非常に貴重な幸運。そう思って男三人の先輩に連れられて部室へ、そしてGBNへ。あの憧れの峰刃学園ガンプラバトル部の
NPCの自動制御とはいえ〝黒い三連星〟を三連続、計九機のドムを相手にするのは骨が折れました。さすがはガンプラバトル界の強豪校、入部試験も歯ごたえアリアリです。しかし私もこのバトル部に入りたくて頑張ってきたのです。何とか五体満足でここまで来られて、一安心です。
「でも……」
どうした、ことでしょうか。ミノフスキー粒子に阻害され、画像の荒いレーダー画面を確認します。しかしやっぱり、敵影はありません――ただの、一機も。
「おかしいな……もう、ドムを倒してからけっこうたつのに……」
レーダー、光学、熱源探知。ガトキャノンのあらゆる索敵機能を試してみますが、全く以て反応なし。もしかして、何かのバグが生じたのでしょうか。ミッションの進行が不可能になるようなバグが。今まで入部試験に使われてきたミッションのはずですから、そんなバグは取り除かれていそうなものなのですが……
「ほー、新入生。可愛い顔して、バトルもなかなかできるじゃあねぇか!」
思案する私の耳に、先輩その1(失礼ながら、お名前を聞いていませんでした)の声が飛び込んできます。
「え……せ、先輩、どうして……!?」
戸惑う私、あたふたします。しかし、続けて耳に飛び込んできたGBNのシステム音声が、私を更なる混乱の極みに叩きこみました。
《敵の乱入を確認しました。
《バトル形式:争奪戦です。アイテムを
《所有するすべての
「……え? え? えぇっ!?」
とんとん拍子に進んでいくPvPバトルの準備に、頭の回転が追いつきません。私は乱入なんて許可した覚えはないし、そもそもこのミッションはガンプラバトル部の入部試験であって、と言うか所有している全部の
《敵の乱入を確認しました》
「ははは、こーゆー時の女の子の顔って、何度見てもたまんねぇなあ!」
《敵の乱入を確認しました》
「げはは! ひん剥いてやるぜぇぇ!!」
「――――っ!!」
先輩その2、そしてその3。人間、驚きすぎると悲鳴すら出ないものです。とても普通じゃないこの状況に、私は金魚のように口をパクパクさせながら、空中に大きく口を開けるカタパルトゲートを眺めることしかできませんでした。
「もう気づいてんだろ、自分がバカだったってなぁ!」
「やっぱ新入生狩りは、女の子に限るぜ!」
「げははははははは!」
下品な笑い声とともにカタパルトから飛び出すのは、下品なぐらいに武器弾薬をぶら下げまくったギラ・ズールが三機。いえ、うち一機はヤクト・ドーガの頭部装甲と武装をギラ・ズールに装備させたもののようです。ヤクト・ズールとでも言うべきでしょうか。
ビームマシンガンをバラ撒きながら降下してくるギラ・ズールたち。そのうちの数発が私のガトキャノンを叩き、私はようやく正気に戻りました。
入部試験なんて、嘘っぱち。このミッションは、この人たちが改造した条件付きミッションで、罠。この人たちは、最初から
「……は。はは……は……」
私の口から、乾いた笑いが漏れます。迫りくるギラ・ズール。装甲を叩く銃弾。コクピットは衝撃に揺れ、コンディションモニターは真っ赤に悲鳴を上げ始めます。
私は、いつもこうです。普通に過ごしたいだけなのに、とにもかくにも、運が悪い。お出かけしようとすれば雨が降るのと同じように、親切にしてもらったと思ったら、罠に嵌る。情けない。また騙された。私はただ、部活を、ガンプラバトルを頑張りたかっただけなのに。好きなことを、一生懸命にやりたかっただけなのに。
「は、はは……はぅ……うぐ、ううぅ……」
もう高校生になったというのに、私は涙が溢れそうになるのを、どうにか堪えました。こみ上げる
続けて何発も着弾する、グレネードとビームマシンガン。ヤクト・ズールが放ったファンネルに両足を撃ち抜かれて、ガトキャノンは膝から崩れ落ちてしまいました。
「うぅ……うううぅうぅ……っ!」
「……あれ、泣いてんの? 新入生ちゃん。かーわいー!」
冷たい廃墟のアスファルトに倒れ伏すガトキャノンを、先輩たちのガンプラが取り囲みます。おそらくはこれもミッションの設定なのでしょう、強制的に開かれた映像付きの通信ウィンドウで私が必死に涙をこらえているのを見て、先輩その2はさも愉快そうに歪んだ笑みを浮かべます。
「……泣いて……いません……!」
私のそんな強がりさえ、彼らにとっては玩具なのでしょう。先輩その2はヒュウと口笛を吹いて、先輩その3と目配せをし合います。そして追い打ちのように、先輩その1が私に言いました。
「ふっ、まあいいさ。てめぇが泣くのはこれからだ――
先輩その1の声に合わせて、三丁のビームマシンガンの銃口が、一斉に私に向けられました。
この戦場は仮想現実ではありますが、そんなことにはお構いなく、現実は非常です。
こんな状態になっても、サイコフレームは覚醒しないし、FXバーストもトランザムも発動しないし、ゼロは未来を見せてくれないし、SEEDが割れることもないし、明鏡止水に目覚めたりもしません。
(なんで……私って、いつも……こうなんだろう……)
凶暴なメガ粒子の輝きが銃口に収束し、高エネルギーの粒子の塊が今にも撃ち出されようとしています。
これがアニメなら、ガンダムなら、間一髪で仲間か、因縁のライバルかが助けに入るところです。しかし、生来の引っ込み思案で教室でも背景の一部に徹している私には、当然学校の友達なんて一人もいません。その友達を、仲間を、きっとガンプラバトル部でなら――そう、思っていたのに。
今思えば、フォースネストにはほかにも数名の部員さんがいたはずなのに、この先輩たちは明らかに避けられていました。それも当然です、こんな人たちなら。関わり合いになりたくないのも、よくわかります。
そしてだからこそ、わかってしまいます。
友達でも、仲間でもない私を助けに来てくれる人なんて、いないことが。
「だれ、か……」
――涙が、こぼれました。
新しい学校生活、新しい部活動。できるかもしれない、新しい友達、新しい仲間。その可能性が、未来が。今まさに私の目の前で、音を立てて崩れています。普通な私の、不運な終わり。
もう自分ではどうしようもない現実に、私はあるはずもない助けを、求めてしまいました。
「……たす、けて……!」
目を閉じ、操縦桿をぎゅっと握り締めました。
しかし、そんな、絞り出すような、私の声をかき消すように。
私を取り囲んだ三丁のビームマシンガンの、銃声が響きました。
〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕
《
轟、と吹き荒れる旋風。ぐいっと、引っ張られるような衝撃。まるでジェットコースターの急発進、急停止のような。それは明らかにビームマシンガンの着弾や、ガトキャノンが大破爆散したような衝撃ではありませんでした。
続いて硬質な接触音、破壊音、はじけ飛ぶプラスチック片の音。
「おわっ、何だぁっ!?」
「ンだ、てめぇ!」
「何モンだオラァ!!」
先輩たちの怒声が響きますが、私はなおも猛烈な加速度に振り回されて、何が起きたのかわかりません。しかしどうやら、私はまだ撃墜されていないようです。ぎゅっと閉じていた目を恐る恐る開けてみると――私は、ガトキャノンは、一機のガンダムに抱きかかえられていました。
ウィング系の、精悍なマスク。深い青と鮮やかな白のカラーリング。落ち着いた金属色で飾られた、各部のディティール。そして何より、風のように私を連れ出して翔け抜けた、鍛え上げられた猛禽類の如き四枚の翼。
その翼は惚れ惚れするほどに力強く、決して軽量とは言えない私のガトキャノンを抱えてなお、風のように宙を舞います。
「……あ、あの……あなた、は……?」
ごくごく平均的な学力しか持たない私の脳みそは事態に追いつけず、お礼とか、疑問とか、次から次に湧いてきましたが、口からはそんな言葉しかでてきませんでした。
私の言葉に反応して、これも猛禽類のように鋭いガンダムの
「……通りすがりの、転校生だ」
静かに、しかし力強く。告げるその人の目も、やはり猛禽類のように鋭いのでした。地球連邦軍の軍服を一部の隙も無く着こなし、まだ私と同い年ぐらいに見えるのに歴戦の風格すら漂わせる見ず知らずのダイバーさん。こんな不運な私のピンチに颯爽と現れた、ガンダムに乗ったクールなヒーロー。もしかしたら私は、そんな彼に恋愛感情を抱いてしまうかもしれませんでした――
「違いますよマスター、正義の味方! イマたちは、正義の味方なんですからね! にひひっ♪」
――金髪ツインテールの女子小学生がほとんど水着のような恰好で彼の首に腕を回して絡みついてさえ、いなければ。
――と、いうことで。ブルーブレイヴ、第一話のAパートでした。
こんな感じで小分けにして更新していこうと思います。
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