ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ   作:亀川ダイブ

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 第四話が⑤で終わると言ったな。あれは嘘だ。

 いや、すみません。終わりませんでした。長くなる病が発動しています……
 ⑥の執筆は終わっているので、二日連続投稿という形をとらせていただこうかと思います。明日の夜には本当に本当の第四話最終パートも更新します。

 予告詐欺の連続で申し訳ないですが、第四話Eパートです。どうぞご覧ください!


Episode.04-E『アク ヲ タツ ボウレイ ⑤』

 ホンコン・シティ沿岸部、港湾施設。

 ライたちがいる最前線からは一歩引いたエリアに、推進機関に損傷を受けたブルーバードは着陸していた。残存する無人機部隊程度なら艦の近接防衛システムで十分に対応できたが、有人機ともなると――しかもそれがヘイロンデカール仕様機ともなると、対処はそう簡単ではなかった。

 

『ひゃはは! 良いカモだぜーっ!』

 

 赤黒いオーラを纏ったGセルフが、ビームライフルを連射する。並みのライフルなら数発は耐えられるはずのミネルヴァ級のラミネート装甲を、不正に出力を高められたビームは楽々と貫通する。

 

「きゃあっ!」

 

 装甲を抜いたビームが艦内部で爆発を引き起こし、衝撃がブリッジを揺らした。シオミは落ちそうになった制帽を片手で押さえつつ、コンソール前に座ったハロたちに指示を飛ばす。

 

「ダメージコントロール! リペアドローンを派遣! ハロ、左舷の弾幕を強化!」

「サゲン、キジュウ、ゼンメツ! キジュウ、ゼンメツ!」

「シュホウ、タイハ! タイハ! ナンテコッター!」

 

 艦橋のあちこちで、グルグルと目を渦巻き模様にしたハロが両耳(?)をパタパタと開閉させる。平時なら可愛らしくもあるモーションだが、この非常にそれを見せられても何の癒しにもならない。

 

「くっ……だったら、VLSに高機動ミサイルをきゃああっ!?」

 

 さらにビームが直撃、左舷の被害は甚大だ。チーム戦であるこのミッションでは、ブルーバード一隻が落ちても、それだけで勝敗が決するわけではない。しかし、自分はブルーバードの艦長で、ブルーブレイヴのオペレーターだ。ダイバーたちがまだ前線で踏ん張っているのに、早々に離脱するわけには……

 

『まかせて、シキナミさん!』

「先輩っ!?」

 

 さらにビームライフルを撃とうとしたGセルフのライフルを、射出されたシザーズシールドが挟み切った。爆発するライフル、その爆風に煽られ姿勢を崩すGセルフの顔面に、追い打ちのモビーディックランサーが突き立てられる。

 

『おわあっ!? も、モビルスーツは前線じゃあねぇのか!?』

 

 Gセルフはシールドバッシュでシュバルベストライクを突き放して、後退。ランサーが抜けたその瞬間から、損壊した頭部の修復が始まる。そして爆発したはずのビームライフルは、何事もなかったかのように右手に戻ってきている。

 

『ヘイロンデカールの性能……まさしく不正だね……!』

 

 DG細胞のように復活していくGセルフを油断なくレティクルの中心に捉えながら、コウタも後退。シュバルベストライクを、ブルーバードの艦橋前に滞空させた。

 

(せ、先輩が来てくれたっ! ……じゃ、なくて、違う違う!)

 

 頼もしいその後ろ姿に、シオミの表情が一瞬緩む。だが、シオミは頬を両手でパンと打ち、わざと怒ったように眉を吊り上げた。

 

「な、なんでこんな後方まで来ているんですか。リーダー自ら前線を放棄するなんて、ありえません。作戦に従って……」

『キミを守るのに、作戦も何もないよ。シキナミさん』

「……っ!?」

 

 怒ったふりの表情のまま、シオミは固まってしまった。顔が真っ赤に染まっていき、言葉が出てこなくなる。頬が熱い、耳まで赤い。ダメ、こんな顔、先輩に見られるわけには!

 

「えっ……あ、その……」

『シキナミさんも、大事なチームメイトだからね。見捨てたりしたら、それこそリーダー失格だよ』

「……大事な……チーム、メイト……ですか」

 

 わざわざ、助けに来てくれた。「大事な」と言ってくれた。でも「チームメイト」だから――嬉しいような、悲しいような。シオミは吊り上げていた両眉を緩め、ふっと軽く微笑んでから艦長の顔に戻った。

 

「ここまでの峰刃学園各機の戦闘データを総合すると、ヘイロンデカール仕様のガンプラには高火力による一撃必殺が有効です。高機動装備(シュバルベストライカーパック)の武装では難しいですが、本艦の副砲はまだ生きています。射角内に敵機を誘い込んでください」

『了解だよ、シキナミさん!』

 

 コウタの応答と共に、シュバルベストライクは飛翔した。リニアライフルが甲高い銃声を響かせ、Gセルフを追い詰めていく。ドッグファイトの様相を呈してきた二機の戦いを注視しながら、シオミは副砲の射撃準備を進めた。

 

(こちらはもう大丈夫。でも、敵のフォースマスターを討たなければ、作戦は終わらない……!)

 

 ホンコン・シティの奥では、赤黒いオーラが渦を巻いて天を衝き、禍々しい竜巻となっている。おそらくあれが、決戦の場。異常な出力強化とDG細胞の如き自己再生能力を持つヘイロンデカール仕様ガンプラとの戦いは、困難を極めるだろう。

 

(頑張って……ヒムロさん、ガトウさん、イマさん……!)

 

 最前線で戦うチームメイトを思い、シオミはぎゅっと艦長席のアームレストを握り締めた。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「……悪を、討つ!」

 

 エネルギー切れのバスターマグナムを投げ捨てて、ライは弾丸の如く飛び出した。

 

「露払いはイマたちにお任せなのですよ、マスター!」

「いくらリフレクタービットでも、バスターライフルならっ」

 

 飛翔するクァッドウィングに負けず劣らず、ビークバギー形態のターミガンはホンコンの大通りを爆走した。その背に乗せられたガトキャノンは借り物のバスターライフルを撃ちまくり、バウンド・ドラッヘが次々と繰り出すリフレクタービットの大群に大穴を穿つ。

 リフレクタービットはその特性上、通常のビーム弾を偏向するのは得意だが、バスターライフルのような高エネルギーの奔流を防ぎきることはできない。バスターライフルが火を噴くたびに赤黒いオーラの渦は吹き散らされ、切り拓かれ、ぽっかりと空いた空間をクァッドウィングは駆け抜けていく。

 

「ハハッ、四枚羽根ぇぇッ! テメェがノダの言ってたクソ正義野郎かよ!」

 

 バウンド・ドラッヘの下半身、大きく広がったスカート部の表面装甲が展開、二十発近い小型ミサイルが赤黒い粒子の尾を引きながら撃ち出された。ライはマシンキャノンで迎撃、その全てを撃ち落としつつ、バウンド・ドラッヘに肉薄した。

 

「……貴様が元凶か」

「武器もなくこの俺を!」

 

 巨大な左手に比してやけに細い、まるで人骨のようなデザインの――しかしそれでも並みのモビルスーツより一回り太い右腕に、リュウジは大型ビームブレードを抜刀。噴出するビーム刃をヘイロンデカールの赤黒い粒子で染め上げながら、上空から迫るクァッドウィングへと振り上げた。

 

「やれるかよ、テメェごときがぁぁっ!」

 

 バヂィィィィインッ!!

 威勢よく吐き捨てたリュウジだが、予想外の手ごたえにたじろいでしまった。突っ込んで来る四枚羽根を斬り捨てるはずの大型ビームブレードが、止まっている。止められている。受け止められている――青銀色に煌く、手刀によって。

 

「あぁッ? 武器はねぇはずじゃ!?」

「……奥の手、使わせてもらうぞ!」

 

 ブライクニルフィンガーを構成する氷結粒子結晶が、その形状を変化。手刀に揃えた指先の、さらにその先まで伸びていく。鋭く、鋭く、ひたすら鋭利に磨き上げられた氷柱が、青銀に煌く氷刃と化す!

 

「……ブライクニルフィンガー、ソードッ!」

 

 ビキィィッ! バキャァァァァンッ!!

 大型ビームブレードの赤黒いビーム刃は、一瞬にして凍結。クァッドウィングがフィンガーソードを振り抜くと同時に粉々に砕け散った。

 

「うおおおおっ!?」

 

 間一髪で大型ビームブレードを投げ捨て身を躱したリュウジは、噴き出した冷汗を拭いつつ、コンソールパネルを叩いた。ヘイロンデカールの出力がさらに上昇、赤黒い粒子がバウンド・ドラッヘの人骨のような右手に収束して、大型ビームブレードを出現させる。部位破壊判定の偽装と同様の不正操作、武器破壊のリセットだ。

 

「へっ……ハハハ! おもしれぇ手品だが、俺にはデカールの力がある! 武器ぐらい、いつでもどこでもってなぁッ!」

「……手品は貴様の方だ」

 

 リュウジは左腕のドラゴンヘッドを展開、黒龍撃滅砲(ヘイロン・ブラスター)を撃とうとしたが、ライはすでに稲妻機動でその懐へと潜り込んでいた。完全に近接格闘の間合い、リュウジは無理やり大型ビームブレードをクァッドウィングとの間に捻じ込むが、まるで正拳突きのように突き込まれるフィンガーソードを受けるので精一杯だった。しかも、ビーム刃はフィンガーソードを受ける端から凍り付き砕け散り、リュウジは更なる後退を余儀なくされる。

 

「ヒャハハ! 出力はあの氷のシャイニングフィンガーほどじゃあねえみてえだなあッ、クソガキぃぃっ!!」

「……破ァァッ!!」

 

 ほぼ徒手空拳のような間合いで繰り出されるフィンガーソードが、次々と再生産される大型ビームブレードを、触れる端から凍結していく。ぶつかり合い、凍り付き、砕け散り、再生産されまたぶつけ合い、凍結、粉砕――フォース〝大黒龍(ターヘイロン)〟が不正ツール頼みの悪質ダイバー揃いとはいえ、その悪童どもを暴力でまとめ上げたリュウジ自身の戦闘能力は高い。ヘイロンデカールによる武器再生に頼ってはいるが、ライと近接格闘戦で渡り合っている剣捌きは、彼自身の技量だ。

 

「……せいッ!!」

 

 十数本目の大型ビームブレードを打ち砕いたライは、砕け散るビーム刃の破片を薙ぎ払うようにして、踝部フィンスラスターも全開にした回し蹴りを叩きこんだ。勢いの乗った踵がバウンド・ドラッヘの側頭部に深々とめり込み、怪物じみた異形の巨体が、大きく傾いた。竜の角のような意匠のアンテナが根元からへし折れるが、ヘイロンデカールの効果で即座に修復が始まる。

 しかし、折れたアンテナの修復にかかる、数秒。サイコミュによる感応波制御が乱れ、峰刃学園各機の動きを抑え込み猛威を振るっていたリフレクタービットの動きが、鈍った。

 

「……イマ!」

「はい、マスター! アンナさんも!」

「う、うんっ!」

 

 イマはアスファルトから白煙が上がるほどの勢いで猛烈なドリフト、その背中でアンナは二丁のバスターライフルを大きく左右に広げ、トリガーを引きっぱなしにした。

 

「イマとアンナさんのぉーっ、合・体・攻・撃! ドリフトローリングバスターライフルなのですっ!」

「峰刃学園のみなさんはっ、伏せてくださぁぁいっ!!」

 

 ドッ、ヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

 全周囲に荒れ狂う黄金色のビームが、数百機にも及ぶリフレクタービットの大群を、まとめて薙ぎ払っていく。峰刃学園の各ガンプラはマップ上の攻撃範囲表示を元に回避、ホンコンのビル群とリフレクタービットだけが、周囲から一掃された。

 

「なっ、なにぃぃぃぃっ!?」

「……好機ッ!」

 

 リュウジが動揺した一瞬をついて、ライはフィンガーソードをバウンド・ドラッヘの右膝に突き立てた。氷結した刺突が分厚い装甲を貫き、内部フレームまで到達。野獣のような野太い右脚を凍結させた。そして間を置かず、凍り付いた右膝を蹴り砕いて大きく跳躍、その場を離れた。

 

「うおっ、脚が!?」

 

 氷塊と化した右脚は粉々に砕け散り、バウンド・ドラッヘはその場に倒れた。ヘイロンデカールがすぐに右脚の再生を始めるが、しかしそれには数秒かかる。

 そして、リフレクタービットとの戦いから解放された峰刃学園のダイバーたちには、その数秒で十分だった。

 

「学園のみなさーんっ、チャンスなのですよーっ♪」

「撃ちまくってくださぁぁいっ!」

 

 ハイメガキャノン、GNバズーカ、ハイパー・メガ・ランチャー、シグマシスキャノン、パラエーナ収束プラズマビーム砲、ローゼスビット、ハイパーバズーカ、スーパーギャラクシーキャノン。そして、イマとアンナのバスターライフル。峰刃学園右翼部隊全機の銃口が、一斉にバウンド・ドラッヘに向けられた。

 上空で宙返りを打つクァッドウィングのフィンガーソードが解除され、氷結粒子が舞い散る。同時、ライはオープンチャンネルで学園の全ダイバー、そしてオオグロ・リュウジへと告げた。

 

「――成敗ッ!!」

 

 銃声、砲声、爆発音。粒子が弾け、光が溢れ、爆炎と衝撃が吹き荒れる。十機以上のガンプラによる、一斉射撃の集中砲火。赤や黄色のビームの光に呑みこまれ、赤黒いオーラが吹き散らされる。ドラゴンヘッドが吹き飛び、スカートアーマーが射抜かれ、ヘイロンデカールによる修復すら追いつかない速度で、バウンド・ドラッヘは削られていく。

 

(まずい……まずいまずいまずい、クソまずいッ!!)

 

 自分たちが負けるわけがないと、リュウジはこのクリエイトミッション〝ヘイロンズ・ウォー〟のクリア報酬を、ホンコン・シティの使用権としていた。

 もし、このまま負けたら――峰刃学園の手に、このホンコン・シティが丸ごと渡ったら。ヘイロンデカール以外にも手を染めている、非合法なサイドビジネスも明るみに出る。電子ドラッグ。ヤミ賭け試合。データを書き換えた少女型NPCによる、電脳売春の斡旋……現実世界でも刑事罰に値する行為を積み重ねていることを、リュウジは自分で理解していた。

 ミッション中の回線切断は負け判定、逃げることはできない。生き残るためには、勝つしかない。リュウジは痙攣したように口の端を吊り上げ、コート内側からカードキーを取り出した。ヘイロンデカールと同じ赤黒い光を放つ幾何学模様のカードキーを、リュウジは常軌を逸した目付きで睨みつけ、そして叫んだ。

 

「勝ちゃあいいんだろ、勝ちゃあよぉッ! デカールは隠しきれなくなるが、勝ち抜ければ! 店を畳む余裕ぐらいはできるだろうよッ!! ガアアアアアアアアッ!!」

 

 コンソールをブチ破る様な勢いで、カードキーを画面に叩きつける。瞬間、カードキーが粉々に砕け散り、その中に極限の高密度で圧縮されていた赤黒い粒子が、解き放たれた。

 

『ウガアアアアアアアアッ!!』

 

 再度、天を衝く赤黒い粒子の竜巻。戦場に散らばっていたリフレクタービットの残骸がまるで意思を持つように浮き上がったかと思うと竜巻へと吸いこまれ、バウンド・ドラッヘの下へと集結する。そして混ざり合い、一つになり――一つの、巨大な機影を作り上げた。

 

「……なん……だとッ!?」

『ヒハハッ! コレダァ! コノ力ダァッ、俺ガ欲シカッタノハァァァァッ!!』

 

 ――巨大化。シンプルに、わかりやすく、あり得ない変化。144分の1(ハイグレード)サイズのガンプラとしてもかなり大柄な機体だったバウンド・ドラッヘだが、現在のサイズは軽くその三倍。60分の1(パーフェクトグレード)サイズすら上回る巨大ガンプラが、赤黒いオーラを嵐のように撒き散らしながら、雄叫びを上げていた。

 

「は、ハイパー化っ!? おお、オーラバトラーじゃないのですよーっ!?」

『ギャハハハハハ! ガンプラハ、自由! ダロウガァァァァッ!』

 

 バウンド・ドラッヘは左腕のドラゴンヘッドを地面に叩きつけ、そのまま黒龍撃滅砲(ヘイロン・ブラスター)を発射。凄まじい衝撃が大地を割り砕き、蜘蛛の巣状に広がった地割れから、赤黒いビームの閃光が噴出した。

 

「きゃああああっ!?」

「ひああああっ!!」

「イマっ! ガトウっ!」

 

 ライは最大加速で急降下、噴き出すビームの大噴火から二人を引き上げようとするが、吹き上げるビームの圧力に押し返され、近づくことができなかった。地上にいた峰刃学園の機体は、地割れからのビーム噴出で大破、撃墜。ターミガンとガトキャノンにも撃墜判定が下され、二人との通信は途絶、通信画面は砂の嵐を映すのみとなった。

 

「くっ……!」

『アーッハッハッハッハッハ! コレデ後ハ、テメェダケダァァッ!』

 

 音程が狂ったように笑いながら、リュウジは大型ビームブレードを抜刀。大剣というよりも、もはやビルかタワーに近いビーム刃を、力任せに振り回した。

 

『ゲェハハハハァッ! マズハ、テメェヲ殺ス! 左翼ノ部隊モ潰ス! ソウスリャ勝チ逃ゲッテモンダロオッ、コノ俺様ガアアアアッ!』

 

 唸りを上げるその一振りごとに、ホンコンのビル群が二、三棟まとめてぶった切られる。轟音を上げて崩落するビル群の間を、ライは稲妻機動で翔け抜けた。リュウジはもはやヘイロンデカールによる不正を隠す気もなく、ただこの場を勝ち抜けるためだけに、暴力の限りを振り撒いていた。

 

『逃ゲテモイインダゼッ、正義ノ味方サンヨォォォォッ!』

 

 バウンド・ドラッヘのスカートアーマー表面が展開、一発一発が対艦兵器クラスの大型ミサイルがバラ撒かれる。ライはマシンキャノンを連射しつつ稲妻機動でミサイルとミサイルの間に入り込み、誘爆と同士討ちを引き起こさせて潜り抜ける。

 

『ギャハハ! 逃ゲネエノカァァッ、コノ力ヲ前ニシテェェッ!』

「――ここで退いては、俺の正義が廃る!」

 

 振り下ろされるビームブレードを、ライはギリギリまで引き付けて稲妻機動で回避。舞い散るビーム粒子の欠片が装甲を焼くほどの至近距離でビーム刃の側面をすり抜けて、バウンド・ドラッヘの懐に飛び込んだ。氷刃を形作っていた氷結粒子を、再び氷の掌へと変形。ブライクニルフィンガーを発動する!

 

「凍りつく(とき)の中で……悔い、改めろォォッ!」

 

 吹き荒れる寒風。舞い踊る雪風。氷結粒子結晶の掌を叩きつけ、冷気嵐が炸裂する、しかし!

 

「……ッ!?」

『ヒハハッ! 腕ノ一本グライ、安イモンダァァッ!!』

 

 砕け散る氷柱、弾け飛ぶプラスチック片。しかし、凍結し砕けたのは、バウンド・ドラッヘの右腕のみ。粒子の出力差か、単純なサイズ差によるものか――ブライクニルフィンガーの凍結範囲は、ハイパー化したバウンド・ドラッヘの全身にまで及ばなかったのだ。

 

『ウオラァァァァッ!』

 

 ガパンッ! ドッガアアアアッ!

 ドラゴンヘッドがクァッドウィングに喰らい付き、そのまま地面に叩きつける。凄まじい衝撃に肺の中の空気を叩きだされ、ライは声を上げることもできなかった。その衝撃は明らかにVRゲームの安全基準を超えていた。不正ツールによる攻撃力強化に、GBNの体感レベル制限が追いついていない。

 

『ギャハハハハハハハハ! コノママ黒龍撃滅砲(ヘイロン・ブラスター)ヲ撃ッテモイイケドヨォ……苦シンデモラオウカ、正義ノ味方クゥゥンッ! 俺様ノ城ヲ、踏ミ荒ラシタンダカラナァァァァッ!』

 

 クァッドウィングを咥え込んだまま、リュウジはドラゴンヘッドを地面に叩きつけた。振り上げてビルにぶち込み、引きずり回してまた地面を殴りつける。何度も、何度も、何度も。

 

『ギャハハ! ゲェハハハハハハハハッ!』

 

 わずか十秒程度の一方的な暴虐で、クァッドウィングはボロボロに破壊されてしまった。四枚羽根は全て引き千切れ、右腕は肩口から喪失。左腕は複雑に折れ砕け、辛うじて胴体からぶら下がっているだけ。ドラゴンヘッドの牙が深々と喰い込んだ腹部からはオイルが血のように流れ、下半身のコントロールはとっくに失われていた。

 

「ぐ……はっ……」

『撃墜マデ、アト一撃ッテトコカァ? ジャアソロソロ死ネヨ、正義ノ味方クゥゥンッ!』

 

 衝撃と遠心力に引っ掻き回されて、ライの意識は朦朧としていた。操縦桿を握る手に、フットペダルを踏む足に、まるで力が入らない。ドラゴンヘッドの口腔内に赤黒い粒子が収束し、凶暴な光を放ち始めた。

 焦点の定まらない視界、薄く靄のかかったような意識の中で、ライはギリリと奥歯を噛み締めた。

 

(俺は、また……悪に、屈するのか……っ!)

 

 もう二度と、あの時(・・・)のような思いはしたくない。

 悪に負けない、力が欲しい。

 誰にも何にも負けることのない、絶対の正義が欲しい。

 そう願い、そう誓い。必死に足掻いて、死ぬ気でもがいて。そうして手に入れたブライクニルフィンガーも、不正ツールの力に負けてしまうのか。

 欲しい。力が。 

 圧倒的な〝究極〟が、絶対的な〝最強〟が、正義を貫く〝力〟が欲しい!

 

「まだ、だ……まだ、負けられない……!」

 

 消えかけていたクァッドウィングの両目(ツインアイ)に、僅かに蒼い光が灯る――いや、違う。クァッドウィングにはもはや、一片の力も残されていない。撃墜判定が下っていないだけの、無力なプラスチックの人形だ。

 クァッドウィングの両目が蒼く光ったのは、クリアパーツが光を反射しただけだった。バウンド・ドラッヘのはるか後方、フォース〝大黒龍〟の本拠地である軍事基地を包み込む、圧倒的な蒼い粒子の輝き。頑丈なはずの防壁を、無数の迎撃火器を、粉々に打ち砕き崩壊させていく蒼い光。猛烈な破壊力を振り撒くその光は、しかしなぜかどこまでも穏やかで――一瞬遅れてやってきた轟音と衝撃波さえ、破壊の規模に比べると静かすぎるほどだった。

 だから、

 

『ン……ナンダァ?』

 

 リュウジがバウンド・ドラッヘを振り返らせる動作が緩慢だったのは仕方がないし、

 

「やれやれ。遅くなっちゃったぜ、まったく」

 

 完全なる無音で切り裂かれたドラゴンヘッドが宙を舞うのに気づかなかったのも仕方がないし、

 

「…………ッ!?」

 

 ライが気づいた時には、クァッドウィングはすでに地面に寝かされていて、彼女の後姿しか見えなかったのも、仕方がなかった。

 

「そこで休んでいると良いぜ、転校生君」

 

 全身に纏うGNソードビットは、どこまでも透き通った蒼。煌く青銀に塗装された機体はドレスのように華美でありながら、一切の無駄がない。芸術作品の繊細さと、戦闘兵器の勇壮さを併せ持つ、完成された戦いの女神。月明かりに照らされ、重力になど縛られないかのように宙に浮くその姿は、まるで一枚の絵画のようだ。

 

「敵の本拠地に無人機以外だーれもいないと思ったら、こんなことになっていたとはね。ボクもまだまだ、修行が足りないぜ。可愛い可愛いウチの部員に、辛い思いをさせてしまったなあ」

 

 控えめに言って、最強。

 謙遜したところで、無敗。

 そのガンプラ人生において、ただの一度の敗北も知らない。

 故にその二つ名は〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟。

 

「見通しの甘い、ボクのふがいなさが招いたことなのだけれど。それでも君のやり方は、ひっじょーーーーに! フェアじゃあない。だから……」

 

 峰刃学園ガンプラバトル部・部長、ヒビキ・ショウカ。その愛機、ガンダムダブルオー・ゼロ。

 

「……結構本気で怒っているぜ、今のボクは」

 

 まるで、主の怒りに応えるかのように。蒼く煌くGNソードビットが、一斉に攻撃態勢に入った。




 部長参戦、二度目の寸止めでございます。自分の構成力の無さが恨めしい……
 明日の夜に第四話最終パートを更新しますので、そちらも併せてお楽しみいただければ幸いです。
 また明日、お会いできればうれしく思います。
 感想、批評もお待ちしています。
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