ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ   作:亀川ダイブ

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 どうもこんばんは。亀川ダイブです。
 私の構成力の無さゆえに長くなる病が発症し、予告詐欺に予告詐欺を重ねた第四話ですが、今度こそ本当に最終パートです。
 文章中に多少残酷な表現が出てきますが、R15をつけるほどではないと私の今までの読書経験から判断しまして、R15にせずに投稿していますが、ご意見等ありましたらお知らせください。

 では、第四話最終パートです。どうぞご覧ください!



Episode.04-F『アク ヲ タツ ボウレイ ⑥』

 ――そこから先の戦いは、戦闘と呼べるものですらなかった。

 

『ウガアアアアアアアアッ!』

 

 リュウジは獣のように叫びながら、再生したドラゴンヘッドでショウカへと殴り掛かる。しかし開いた大口にずらりと並ぶその牙が、ショウカに触れることはなかった。ライの稲妻機動すら上回る速度で翔け抜けたGNソードビットが、ドラゴンヘッドを細切れに解体。ダブルオー・ゼロは蒼い粒子の弧を描いてふわりと飛び上がり、バウンド・ドラッヘを跳び越えて舞うように着地した。

 

「すごく遅いぜ、キミ」

『クソ女ガァァッ!』

 

 リュウジは口汚く吐き捨て、再生した右腕にビームブレードを構えようとするが、ショウカのソードビットはそれよりも速い。蒼い光が舞い踊り、右腕も粉微塵に切り裂かれた。

 

『ウオアアアアッ!』

 

 リュウジは言葉にならない叫び声を上げ、再度再生したドラゴンヘッドで黒龍撃滅砲を構えた。しかし、それも撃てない。赤黒い粒子が収束するよりも速く、またもやドラゴンヘッドはバラバラのプラスチック片と化していた。さらにGNソードビットは蒼い流星となって舞い踊り、バウンド・ドラッヘの両脚をも切り刻んでいた。

 両手両脚を失ったバウンド・ドラッヘは地響きを上げて倒れ込み、崩落したビル群の残骸に頭から突っ込んだ。再生途中の右腕で体を引き起こそうとするが、その右腕をまたもGNソードビットが両断する。ドシャリと瓦礫に倒れ込むバウンド・ドラッヘを、ダブルオー・ゼロは唯腕組みをして宙に浮き、冷徹な蒼い両目(ツインアイ)で見下ろしている。

 

『畜生、クソ女ガァァッ! 遊ンデンノカァァッ、ブッ殺シテヤラァァァァッ!』

「品がないのはキミの勝手だけれど」

 

 獣の咆哮を上げながら、再生途中の手足で飛び掛かるバウンド・ドラッヘ。しかしドラゴンヘッドを振り下ろした先に、すでにダブルオー・ゼロはいなかった。青く尾を曳く、流星の如き高速移動。視認することすら困難な超高速でありながら、ほぼ無音。優雅に、舞うように振り抜いた指先の軌道をなぞって、十二枚のソードビットが弧を描き、翔け抜ける。バウンド・ドラッヘの四肢は輪切りになって崩れ落ち、スカート部も布を裂くように引き裂かれた。

 

「さっきも言った通り、怒っているんだぜ。ボクは」

 

 強い言葉とは裏腹に、バウンド・ドラッヘを見下ろすショウカは徹底して無表情だった。

 しかしその「無」こそ彼女の最大限の怒りの表情なのだと、ライには察しがついていた。

 およそ人の上に立つ者らしからぬ、砕けた態度。自ら進んで道化を演じているかのような、ふざけた態度。ガンプラバトルを前にして、気分の高揚を隠しきれない無邪気な笑み。イマと妙なところで波長の合うような幼さを残す彼女が、氷のような無表情を貫いている。

 〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟――その二つ名の意味を、ライは今、理解した。

 

「圧倒的な力に蹂躙される(・・・)気分、存分に味わうといい」

 

 ショウカがパチンと指を鳴らすと、GNソードビットは優美な弧を描いてダブルオー・ゼロの周囲に集結した。十二本の蒼い刃が魔方陣でも描くかのように円環状に整列し、舞い散る粒子は青銀の煌きを一層強める。まるでドレスのようにダブルオー・ゼロの腰を覆うスカートアーマーが装甲を展開、内部に隠されていた計四基の太陽炉が、蒼いGN粒子の輝きと共に露出した。

 

「全太陽炉、圧縮粒子完全解放――ゼロ・トランザム」

 

 ショウカの言葉と同時、通常とは異なる蒼い圧縮粒子が、ダブルオー・ゼロを包み込んだ。

 

 その瞬間、世界が停止した(・・・・・・・)

 そして次の瞬間、全てが終わっていた(・・・・・・)

 

 バウンド・ドラッヘがいたはずの場所には、蒼く粒子の陽炎が立ち昇る、巨大なクレーターだけがあった。そのクレーターはしかし、高熱に焼き尽くされたものでも、衝撃に抉られたものでもない。

 半径数キロメートルの円形に、街が、大地が、切り刻まれた(・・・・・・)ものだ。数千、数万、数十万――いったい、どれほどの斬撃を積み重ねれば、このような光景が出来上がるというのか。その中心に悠々と浮かぶダブルオー・ゼロはすでにトランザムを解除しており、GNソードビットたちは役目を終えたと言わんばかりに、ダブルオー・ゼロの全身各部へと戻っていく。

 あれほどの猛威を振るったバウンド・ドラッヘの、あまりにも呆気ない最期。爆発も、轟音も、衝撃も、何もない。まるで刻が止まった(・・・・・・)かのような完全なる静寂の中に、ライは呆気にとられたまま、取り残されてしまっていた。

 

「さて、と」

 

 グンと、軽い浮遊感。クァッドウィングは、ダブルオー・ゼロの両腕に抱えあげられていた。

 

「お疲れ様だぜ、転校生君。キミはきっとお姫様抱っこなんて、する側で何度も経験しているのだろうけれど。たまには、されるのも良いものだぜ?」

「…………」

「おやおや、何だい転校生君。そんな鋭い目をしてちゃあ、相棒の美少女エルダイバーちゃんを泣かせちゃうぜ? まあ、ともかく――作戦終了。我が方の勝利だぜ」

 

 ライの無言をどう受け取ったのか、ショウカはクァッドウィングを地面に下ろし、肩を貸して立たせる形をとった。廃墟と化したホンコン・シティ、そのど真ん中に開いた斬撃によるクレーター。しかし、満月の夜空はそんな戦闘の激しさなど意に介さぬかのように晴れ渡っており――その星空をスクリーンにして、〝YOU WIN!!〟の文字が躍っていた。

 峰刃学園ガンプラバトルと、GBN部治安維持部隊GHOSTとの共同作戦は、無事終了。オオグロ・リュウジがヘイロンデカールの力を全開にしてあれだけ派手に暴れたのだから、不正ツール使用の証拠集めも、十分すぎるほどだろう。GHOSTの隊員がB弾を執行するところを直接見ることはないまま、作戦は終わってしまったが……

 

「大黒龍のフォースマスター君は、今頃ロビーでGHOSTに囲まれているだろうぜ。リアルでもヤジマの職員と警察官が、彼の部屋の前で待機していることだろうし……ヘイロンデカール事件は、これにて一件落着、はっはっは。といったところかな」

 

 なるほど、そういう仕組みか。前線にGHOST課員が出ると聞いていたために戦場でカタを付けるのだとばかり思っていたが、証拠さえ固めてしまえば、ロビーでもリアルでも奴を拘束することは容易いということか。

 

「さあ帰ろうぜ、転校生君」

 

 戦いが終わり、ガンプラとフィールドが粒子化し始めていた。ライは無言で頷き、握りっぱなしだった操縦桿から、ゆっくりと手を放した。

 廃墟と化したホンコン・シティが、金色の満月に照らされている。ビル群が根こそぎ崩落したために、今まで闇に沈んでいた歓楽街にも、満月と星明りが降り注いでいた。

 

「……了解」

 

悪喰竜狩り作戦(オペレーション・ニドヘグハント)〟――開始から約一時間。フォース〝大黒龍〟の壊滅を以て、作戦は終了した。あとはライたちダイバーの、与り知らぬところでの話。GBN運営本部やGHOST、そして現実の警察や司法機関の領分だ。ライは固く握り締めた拳を自分の額に押し当て、さらにぎゅっと力を込めた。

 

(強く、ならねば……悪に負けない、強さを……もっと……!)

 

 まだ、足りない。もっと、もっと強い力が必要だ。

 もう二度と、後悔しなくて済むように。今度こそ、負けないように。

 何としてでも、力を手にしなければ……強い力を。もっと、もっと、もっと……!

 

 ――完全に粒子化したライとクァッドウィングは、静かに夜空へと昇って行った。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「……ん? ここは……?」

 

 リュウジが目を覚ますと、そこは見慣れたフォースネストだった。ただ、散らかった酒瓶などは記憶の通りだが、派手な電飾も、部屋の明かりそのものも、完全に沈黙してしまっている。

 

「……あのクソ女にやられて……それから……」

 

 頭が痛い。飲みすぎた次の朝みたいに、ガンガンと痛む。とにかく酒を飲もうとテーブルの酒瓶へと手を伸ばすと、その手に血がついていることに気が付いた。

 

「これは……」

 

 顔が、濡れている……血で。どうやら、鼻血が出ているようだ。ヘイロンデカールを使いすぎるとたまにこうなることはあったが、今回の出血量は、かなり多い。だがしかし、それもどうせ電脳空間内でのこと。現実の体に影響が出るはずもない。

リュウジは考えるのをやめ、とにかく酒を飲もうと瓶を掴んだ――その手を、鋭い白刃が貫いた。

 

「ぎゃああああっ!? な、なんだテメ……あ、あんたらは!」

 

 怒鳴りつけようとした勢いを、リュウジは慌ててひっこめた。

 照明も消えた部屋の隅、暗闇に蟠るような黒いマントの二人組。フードを目深にかぶりその表情は窺えないが、二人とも身長はかなり低く、まず間違いなく子供だとわかる。鏡に映したように同じ外見の二人だが、その手に持った獲物だけは違っていた。

 右側の黒マントは、左右の手に一振りずつ、巨大な斧を持っていた。明らかに、子供の腕力では扱いきれないであろう巨大な斧を――しかも、木々の伐採に使うような斧ではなく、明らかに処刑用とわかる禍々しい装飾の施された鈍鉄色の斬首斧を、微動だにせず構えている。

 左側の黒マントは、細長い白刃を手にしていた。リュウジの右手をテーブルに縫い付ける白刃と同じものを、右手に三本、左手に二本。まるで獣の鉤爪のように、マントの裾から刀身を覗かせ、ぞろりと剣呑な輝きを放っている。

 処刑具を構える、黒マントの双子。風もないのに裾を揺らめかせるその立ち姿は、まるで亡霊――明らかに幼いその体格が、手に持つ処刑具の異様さを一層際立たせていた。

 

「そ、そうか……あんたらのおかげか。バトルが終わってロビーに戻されたら、すぐ捕まっちまうと思ってたからよ……で、でもなんで、刺されなきゃ」

 

 ダンッ。

 分厚いマントが翻り、斬首斧が振り下ろされた。リュウジの右手から、白刃に貫かれた痛みが、消えた。ただし同時に右腕の感覚が、肩口から丸ごと消え失せた。

 

「え……あ……ぎゃああああああああああああああああああああッ!?」

 

 一瞬遅れて、襲い来る激痛。噴き出す疑似血液。出血の演出は噴き出す赤いドットとして処理さていたが、その激痛は本物だった。

 リュウジはソファーから転がり落ち、悲鳴を上げながらのたうち回った。感覚制御が、働いていない。単なるダイバールックに過ぎないこの電脳の身体が受けた痛みが、完全にリュウジにフィードバックされている。リュウジは叫びながら腕の断面を抑えるが、その程度で出血が収まるはずもなく、冗談のような量の鮮血色のドットで、部屋中が赤く汚れていく。

 

「がああああっ、腕がァァッ!? ああああああああああ!!」

『うるさい』『黙れ』

 

 ドンッ、ザスッ。

 双子の斬首斧の方がリュウジの腹を蹴り上げ、無様に転がってきたその背中に、もう一人が白刃を突き立てる。突き立てて、捻じる。毛皮のコートは一瞬にして真っ赤に染まり、豪奢に膨れ上がっていたファーは、べったりと赤く濡れて萎んだ。

 

「ごはっ……な、なんで……裏切った、のかぁぁ……ッ!!」

『裏切りぃ?』『どっちがぁ?』

「うぎゃああああああああッ!!」

 

 さらに振り下ろされる、処刑斧と白刃。分厚く重い斬首斧が、リュウジの残された左腕を断ち落とす。三つ連なった白刃が、リュウジの両足を無残に引き裂き、天井にまで疑似血飛沫が飛ぶ。リュウジはもはや悲鳴を上げることすらできずに、芋虫のように床に転がった。

 

「あ、があ……あひぃ……が、ぎぎ……」

 

 現実であれば、とうに出血は致死量に達している。激痛のあまり、失神していてもおかしくない。しかしここはGBN、電脳空間の仮想現実。どんなに痛くても、ログアウトしない限り意識は続く。どれほど死にたくても、ダイバー自身にヒットポイントは設定されていない――両手を失いログアウトボタンを押せなくなったリュウジはもう、この地獄から逃げられない。

 

『デカールの実験にと、生かしておいたけど』『裏切りは、許さない』

「だ、から……裏切りって、なんの……ことごがっ!?」

 

 重厚な編み上げブーツの爪先が、リュウジの顔面を蹴り上げた。

 

『我らが〝王〟は、許さないよ』『我らの同胞を、傷つける者をね』

「ど、どう、ほう……っ?」

 

 砕けた前歯の間から、ひゅうひゅうと息が漏れる。双子の斬首斧の方が、リュウジの髪の毛を掴んで顔を上げさせた。そこにもう一人が勢いをつけて膝を叩き込み、リュウジの鼻はぐしゃりと音を立ててひしゃげた。

 

『お前が、頭の中を書き換えて』『オモチャにした、少女型NPCの中に』

 

 今まで抑揚なく淡々と告げていた双子の口調に、その一瞬、燃えるような怒りが滲んだ。

 

『『エルダイバーがいた』』

 

 双子の声がピタリと重なり、腫れ上がり血だらけになったリュウジの表情に、戦慄が走った。

 ノダとウダガワとの、フォースネストでの会話。無抵抗のNPCばかりは、もう飽きた。嫌がるのを無理やり、ってのもいいな。そんなNPC、設定が面倒だろ。じゃあ最初から、しゃべれる奴を引っ張ってくりゃあいいじゃあねぇか。ばれたらメンドクセェぞ。頭の中を、ちょっとばかりいじりゃあ、運営も誤魔化せるだろ。いいな、それ。どんだけ泣いても、助けは来ない、ってか。現実だったら即逮捕だけどよ。ゲームの中の女ぐらい、別に、なあ?

 んじゃまあそろそろ、エルダイバーでも……ヤっちまうか。

 

「ち、ちがふ! はれわ、あいつらが!」

『ふぅん、あいつらぁ?』『これのことかなぁ?』

 

 斬首斧をバーカウンターに叩きつけ、派手にぶち壊す。すると、バーカウンターの向こうには、リュウジと同じように手足をズタズタに引き裂かれたダイバーが二人、転がっていた。口の中に割れた酒瓶を叩きこまれ声を上げることさえできないノダとウダガワは、しかしそれでも気絶すらできず、血走った目で呻いていた。

 

「……んっ、な……ッ!?」

 

 言葉を失うリュウジを、黒マントの双子は容赦なく踏みつけ、蹴り上げ、殴りつけた。

 

『あの子は、平和主義だった』『目立つことが嫌いで、NPCに紛れて生きていた』

 

 殴る。蹴る。突き刺す。刺して、捻じる。

 

『影から静かに、ニンゲンを見るのが好きだった』『いつか、現実世界に行ってみたいと夢見ていた』

 

 打つ。斬る。引き裂く。叩き潰す。

 

『そのために、ニンゲンのパートナーを探していた』『見つかった、と言っていた。それが、お前だった』

「ごがっ、ぐげ……ゆ、ゆるひて……くだ、さ……」

『『許さない』』

 

 メキャッ。

 最後まで言わせず、ブーツの爪先を口の中に捻じ込む。直後、子供の脚とは思えない力で振り下ろされた踵が、後頭部に叩きこまれる。

 

『その、死なない身体で』『この、死ねない世界で』

 

 斬首斧と白刃を、十字を描くようにリュウジの首筋に押し当てる。リュウジに馬乗りになった黒マントの双子は、亡霊のような外見とは裏腹に、煮え滾るような怒りを込めて――冷酷に、告げた。

 

『『死を請うほどに、殺してやる』』

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――同時刻、現実世界。都内某アパート。〝大黒龍(ターヘイロン)〟フォースマスター、オオグロ・リュウジの住居前。

 

「隊長、やはり様子がおかしいです」

 

 きっちりと折り目の付いた黒服に身を包んだ男が、部屋のドアに押し当てていた機械を覗き込みながら言った。

 

「対象の在室は確認。すでに強制ログアウトされているはずですが、パソコンの前から動きません。GBN専用ヘッドギア(ヘッドマウントダイバーギア)も、装着したままです」

「……強行突入が必要と判断する。法務部としては、どうか」

 

 隊長と呼ばれた女性は、ドアに張り付いていた隊員の肩を叩いて下がらせ、入れ替わりにドアの前に立った。男物の黒服を一部の隙もなく着こなす、短い銀髪に褐色肌の美女。その美貌に似合わぬ鋭い視線は、まるでナイフのようだ。

 

「判断を支持しますよ、ラミア・ヤマダ隊長閣下様。関係各所への言い訳作りはお任せを」

 

 問いかけられた眼鏡の男性は、肩を竦めながら答え、ドアから距離をとった。この後の展開が、すでに予想できているらしい。銀髪に褐色肌の女性――ラミアは、手慣れた仕草で右手に頑丈な特殊繊維製のオープンフィンガーグローブをつけた。そしてスゥっと細く、しかし深く、力を溜めるように息を吸い――

 

「――GHOST、突入ッ!」

 

 ドッガァッ!!

 言ったその瞬間には、薄っぺらいアパートの木製ドアは粉々に吹き飛んでいた。神速にして豪打、右正拳一発。VRゲームの中でならともかく、現実世界で、しかも素手で、こんな人間離れした真似ができる女性などまずいない。しかしGHOST課員たちにとっては、隊長のこのような芸当はもはや日常茶飯事らしく、黒服の課員たちは特殊部隊さながらの動きで速やかに室内に突入していった。

 ゴミ袋と発泡酒の缶が転がる廊下を二秒足らずで駆け抜け、奥の部屋へ。鍵もかかっていないドアを蹴り開けると、そこにオオグロ・リュウジは胡坐をかいて座っていた。ヘッドギアをつけたままノートパソコンの上に突っ伏して、ピクリとも動かない。

不審に思った課員の一人が、リュウジの肩を軽く揺さぶる。

 

「おい、オオグロ・リュウジだな。我々はGBN運営……本部……から……ッ!?」

 

 ぐらりと、倒れる。仰向けになったその顔色は青白く、そして尋常ではない量の鼻血が流れていた。ヘッドギアに隠れていない、顔の下半分はほぼ鮮血に染まっている。

 

「こ、これはっ!?」

「何だ、どうし……ッ!?」

 

 遅れて入ってきたラミアが、あまりの出来事に固まる課員を押しのけてリュウジに飛びつき、抱きかかえた。脈はある。体温は、やや低いが正常の範囲内。耳を口元に寄せ、呼吸を確認。

 

「う……あ……」

「おい、貴様っ。自分の名前を言え!」

「……ふ、双子が……しに、がみ……が……ああああああああああああああッ!」

 

 リュウジは突然叫び出し、ガクガクと身体を震わせて暴れ出した。ラミアは瞬時に両肩の関節を極めて抑え込み、他の課員も無茶苦茶に振り回される両脚に覆いかぶさった。

 

「おい、落ち着けッ! 出血が多い、これ以上は命にかかわるぞ!」

「ああああ! しにがみ! ゆうれいが、ぼうれいがああああああああ! やめろ、やめてくれええええ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ――」

 

 ラミアは狂ったように暴れるリュウジを抑え込みつつ、怒鳴るようにして課員に指示を飛ばした。救急病院の手配、止まらない鼻血への応急処置、ヤジマ本社への連絡。課員たちが奔走する中でリュウジはひたすらに頭を振り乱し、呪われたように謝罪を繰り返していた。

 

「――ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」

(くっ……この病的な言動、ヘッドセットをつけたまま鼻血を流す……これでは、まるで……!)

 

 止まらない、謝罪と鼻血。ラミアはかつて直面した――自分も捕らわれてしまった、あの最悪の事態に近いものを感じ、戦慄していた。

 しかし、そんなわけがない。あれ(・・)はもうガンプラバトルから、徹底的に排除されたはずだ。あの〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟の教訓を活かし、GBNは世界で最も安全な電脳遊戯に生まれ変わったはずだ。それでも消えない悪を討つため、自分たちGHOSTは、GBN運営本部は、最善を尽くしているはずだ。

 

「あああああ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! あやまる、なんかいでもあやまるからぁぁぁぁ! もうゆるしてくれぇぇぇぇっ!」

 

 痙攣するように身を反り返らせたリュウジの頭から、ヘッドセットが外れた。その内側に表示された画面には、GBNからの強制ログアウトを知らせるメッセージ以外には何も表示されていなかった。

 ただ真っ黒な画面が、そこにはあるのみ――その画面の端が、僅かにブレる。まるで侵食されるかのようなその画像の乱れは、見ようによっては、黒い粒子(・・・・)が画面の端を通り過ぎたかのようでもあった。だが、暴れるリュウジを抑え込むのに必死になっていたラミアも、その他のGHOST課員も。誰一人として、それに気づく者はいなかった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 たっだいまー。帰ったぜー。

 いやぁ、疲れちまったぜ。GHOSTとの合同作戦ってのも、なかなか面白かったのだけれど……フォース〝大黒龍〟か。あんな奴らに、部員を何人も撃たれるとはなあ。このふがいなさには、さすがのボクも反省するしかないぜ、まったく。

 ……あれ? おーい、アルルー? ルルカー? いつもならお迎えに来てくれるのに……ボクがフォースネストに、帰ってきたよー?

 ……。

 …………。

 おいおい、まったく。そんなにじらされると、こっちから探しに行っちゃうぜ? そして見つけたら、我慢できずにほおずりとかしちゃうぜ?

 

「う~ん……むにゃむにゃ……」

「すぅ……ぴぃ……すぅ……」

 

 はっけーん♪ おいおいなんだよこの可愛い生き物は。ボクのアルルとボクのルルカが、パジャマ姿で一つのお布団でお昼寝中だなんていったいなんのご褒美だよ。眼福、眼福ぅ♪

 いやぁ、まったくもって素晴らしいぜ。キミたちがエルダイバーじゃあなかったら、きっとボクは現実世界でもロリコンでブラコンでシスコンのお姉ちゃんとして名を馳せてしまっていたぜ。うんもう確実に。

 

「むにゃ……だめ、ゆるさなぁい……」

「おしおきぃ……だからぁ……すぴぃ……」

 

 ふふ、何の夢をみているんだろうなぁ。なんて無邪気な寝顔だよ、危うく理性が崩壊するところだぜ。んじゃまあ、ボクもダイバールックをお休みパジャマにして、っと……おっやすみぃ♪ アルル、ルルカ♪

 

「くふふ……じゃあ、ひゃくまんかいで……♪」

「ゆるして、あげるよ……きゃはは……♪」




 以上、第四話でしたー。
 今回は旧キャラの登場も複数あり、今後の展開につながる伏線とかその他諸々をぶち込んでみました。今作は、前作よりも計画的に書いているつもりですが……さあ、いきあたりばったりなこの私がきちんと完結させられるのでしょうか(笑)
 感想・批評等お待ちしています。お気軽にどうぞ!
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