ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ   作:亀川ダイブ

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 どうもこんばんは。亀川です。
 ブルーブレイヴ、第五話突入でございます。五話と言いつつ、総話数的にはもう20話を超えているんですね。自分でもびっくりです。
 それでは第五話Aパート、どうぞご覧ください。


Episode.05-A『チカラ ノ イミ ヲ ①』

 その空間は、宇宙というよりは夜空に近かった。

 無限に広がる濃紺をバックに、遠く近く瞬く無数の星屑。だがどの方向に目を向けても、地上らしきものはない。三六〇度全天周に夜空だけが広がっているという、異様な空間。

 だが、異様なのは景色だけではない。

 何の支えもなくただ宙に浮かんでいる四枚の仮面もまた、異様であった。

 

『フォース〝大黒龍(ターヘイロン)〟。切り捨てるには、惜しい犬でしたね』

 

 ミスター・ブシドーの仮面から、声が響く。機械的に加工され、個性を抹消された声色から、性別も年齢も推し量ることはできない。ただ、苛立ちだけは口調から滲み出ていた。

 

『左様。データはまだ計画に十分とは言えぬ。もう少し搾り取りたかったところじゃな』

 

 カロッゾ・ロナの鉄仮面が続けた。

 

『例の双子の投入、判断が拙速ではなかったかのう?』

『エルダイバーどもは同族意識が強いからな』

 

 鉄仮面の投げかけた言葉に、ラウ・ル・クルーゼの仮面が応える。

 

『あの犬は、我らに知られていないつもりで――おっと、違うな。我らの知らない(・・・・・・・)ところで、エルダイバーに手を出していた。その時点で、奴らの〝王〟はご立腹だ。切り捨てなければ、奴らはこちらに牙を剥く』

『……必要な損失と、割り切るしかないようですね。ただ皆様方、例のデカール関連の損失をカバーするのは我が社であるということはお忘れなく』

『ふふ、金の心配ならいらぬよ。新参の若造はそろばんが小さいのう』

『……ご忠告、痛み入ります』

『ククク……揉めるなよ。新人君も、ご老体も』

『貴様もけっこうな歳じゃろうが。ふふふ……』

 

 揶揄するようなクルーゼの仮面に、ブシドーの仮面は黙り込み、鉄仮面は忍び笑いを漏らす。

 場が停滞したのを見定めてか、最後の一枚――今まで口を閉ざしていたシャア・アズナブルの仮面が、口を開いた。

 

『ヤジマ本社は、ヘイロンデカールの存在を犬一匹の仕業とは思っていない。だが、どれほど手を伸ばそうと、奴から我らにたどり着くことはない。そのためのエルダイバーどもだ』

『当方のセキュリティも万全であるとは、主張させていただきます』

『感謝しよう。犬の一、二匹が処分されたとて、我らの計画に支障はない。犬を切り捨てたことで〝王〟への義理は果たした……我らと彼らの協力関係に、変わりはない。計画に大きな変更はない』

 

 シャアの仮面が言葉を切ると、他の仮面たちも、何も言うべきことはないというように押し黙る。この〝会合〟において、沈黙は肯定を意味する。仮面の向こうで何を思い、考え、どんな謀略が巡っていたとしても――その後も数秒の沈黙が続いたことで、今次〝会合〟の終了が決定した。

 

『それでは、失礼させていただく――幻想に終焉を。現世に利益を』

『まったく、仮想空間は疲れるわい――幻想に終焉を。現世に利益を』

『ククク――幻想に終焉を。現世に利益を』

 

 三枚の仮面が夜空に呑まれるように消え、〝会合〟の場にはシャアの仮面一枚だけが残される。ただ一人残ったシャアの仮面は、しばらく何も言わずに夜空の中に佇み――そして、一言。呟くように言い残し、空間から消え去った。

 

『現世に利益を……幻想に、終焉を……!』

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 峰刃学園ガンプラバトル部エレメント・ウォー対象GBNミッション〝止まるんじゃねぇぞ〟。

 鉄血のオルフェンズ終盤をモデルにした、PvEミッションである。作戦目的は、旧CGS基地から脱出する鉄華団メンバーを、脱出用地下トンネルが開通するまでの約四〇分間、無限に出現し続けるギャラルホルン部隊から守ること。

 このミッションは、ダイバーたちの間では複数の意味で有名である。母艦の出撃が可能であるにもかかわらず、ミッション開始時点で母艦は駐機場で大破着底、補給拠点としてしか使えないという謎仕様。敵部隊の増援は無限、かつ本来は愚策であるはずの戦力の逐次的投入が有効な戦術となるレベルの物量で絶え間なく押してくるため、ミッション途中でトイレにも行けないという鬼畜レベルデザイン。終盤で追加されるボスキャラがなぜかレギンレイズジュリアではなく、グレイズアイン(しかも異常に硬い)であるという原作設定軽視。

 調整ミスを疑わざるを得ないようなミッションにもかかわらず、峰刃学園ガンプラバトル部でも中堅以上の実力派エレメントは、週に一度しか出現しないこのミッションをよく受注している。クリア報酬以外に、敵機撃破ごとにエレメントポイントが加算されるというボーナスが設定されているため、〝稼ぎ場〟として人気のミッションなのだ。

 

『ブルーバードよりエレメント各員へ。脱出トンネル開通まで、あと三六〇秒です』

「な、長かったー! やっとゴールが見えてきたのですよー!」

 

 ミッション開始から三〇分以上、トリガーを引き続けるのはさすがに疲れる。イマは叫びながら、もう何度補給し直したからわからない脚部ミサイルランチャーの残弾を全弾発射した。

 小型の高機動ミサイルが鋭い弧を描きながら敵集団に突っ込み、何重にも爆発の華を咲かせる。丁寧に弾頭部分の塗分けをした……正確には、ライにしてもらったミサイルはGBNのシステム上でも高く評価されており、その破壊力は、大群で迫りくる鉄血系量産機のナノラミネート装甲を吹き飛ばすのに十分だった。

 しかし、敵の数が多い。フレームを剥き出しにして、あるいはフレームごと吹き飛ばされて倒れる仲間を踏み分けて、鉄血系量産機の大群は途切れることなく押し寄せてくる。

 

「あわわ……こ、これだから無限沸き系のミッションは嫌いなのですよーっ! ナノラミ持ちはビーム耐性も高いですし! むきーっ!」

「落ち着いて、イマちゃん。シキナミさん、予備弾薬を!」

『了解、補給コンテナを射出します。補給はこれで打ち止めです、残り三三〇秒、持たせてください』

 

 だだっ広い駐機場に着底しているブルーバードのカタパルトから、ほぼモビルスーツほどもある巨大な砲弾型のコンテナが撃ち出され、槍投げのようにターミガンのすぐ近くの地面に突き刺さった。コンテナ側面がガパリと開き、数本のサブアームがにょきにょきと生えてくる。コンテナの横に片膝立ちで座り込んだターミガンのまわりでサブアームが動き回り、機体の耐久力回復と粒子・弾薬の補給作業が開始される。

 

『ターミガン、補給作業完了まで三四秒です』

「カバーをお願いします、こーた先輩っ!」

「了解だよ、イマちゃん。このフルシティストライカーなら……っ!」

 

 身動きの取れないターミガンの前に立ちはだかる、コウタのエイハブストライク。しかしその装備は、いつものシュバルベストライカーではなかった。

 重厚な砂色の装甲。角ばった分厚いシールド。大型のスラスターとプロペラントタンクを備えたバインダーから伸びる、頑強なもう一対の腕。ストライク本体と合わせて計四本の腕に構えるのは、重量級の四角い銃身を備えた、四丁の大口径ロングバレルライフル。

 エイハブストライクの万能型重装備、フルシティストライカーパック。四つの巨大な銃口が、押し寄せるギャラルホルンに向けられた。

 

「どんな数が相手だって……守り抜いてみせる!」

 

 ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ! ドガンッ!

 その一発ごとに、数機のグレイズがまとめて吹き飛ぶ。細身のゲイレールなどは、手足がバラバラになって弾け飛ぶ。原作よりさらに大口径化されたロングバレルライフルの破壊力は、NPCガンプラのナノラミネート装甲程度なら、何の問題もなく撃ち抜いてみせた。

 

『右前方、敵機接近。グレイズです』

「えぇいっ!」

 

 コウタは両手のライフルは撃ち続けながら、サブアームのライフルをバックパックに懸架、腰の大型シールドを取り外してサブアームに構えさせた。振り下ろされるグレイズのアックスをシールドで受け、押し返し、よろけたところに追撃の盾打撃(シールドバッシュ)を叩きこむ。

 

『ターミガンに敵機接近。レギンレイズです』

「させない!」

 

 頭部装甲がひしゃげ、内部のカメラアイを露出させながら倒れるグレイズの背中を踏みつけると同時に、ターミガンに接近していたレギンレイズに右手のライフルを撃ちこみ、撃破。さらに基地施設に迫る敵部隊を射撃で牽制しつつ、大型シールドを変形。展開したグリップをサブアームでがっちりと掴み、完成した大型シザーズをグレイズへと振り下ろした。

 左右の手ではライフルを撃ちまくりながら、サブアームでシザーズを閉じていく。分厚いニッパー型の鋏がグレイズの胸部を挟み込み、ナノラミネート装甲を圧壊させフレームをギリギリと締め上げていく。

 

「これで……トドメだ!」

 

 ギリギリギリギリ……ジャキィィンッ!

 体を真っ二つにされたグレイズは爆発せずに活動停止し、プラフスキー粒子の欠片となって霧散した。

 

「そしてここでイマのほきゅーもかんりょーなのです! 補給ありがとうございます、しおみん先輩っ♪ 護衛ありがとうございますっ、こーた先輩っ♪ にひひっ♪」

 

 弾薬と粒子を全回復したターミガンが、クァッドバスターライフルを振りかざして弾幕を展開。再び四丁ライフルに持ち直したフルシティストライクの弾幕と合わせて、猛烈な勢いで敵部隊を撃破していく。無限沸きするギャラルホルン部隊だが、二機の射程に入る端から撃ち落とされ、基地施設に侵入することもできない。

 コウタはほっと溜息を一つ、そしてまた表情を引き締め、レティクルを睨みながらシオミに言った。

 

「シキナミさん、こっちは何とかなりそうだ。ヒムロ君とガトウさんは?」

『基地背面からの敵部隊と交戦中です――クァッドウィング、敵エース級NPCと接触。グレイズアインです!』

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 旧CGS基地施設内、数多くある格納庫の一つ。その屋上にあらかじめ射出しておいた複数の補給コンテナを並べ、遮蔽物とした簡易陣地。アンナはコンテナの一つを銃座代わりにして両手のガトリング砲を構え、グレイズアインと格闘戦を演じるライに、他の敵機を近づけないことに精一杯になっていた。

 

「い、いくらライ先輩でも無茶ですっ、そんな敵のど真ん中でなんて……っ」

 

 十数機ものグレイズリッターを従え、通常のモビルスーツよりも二回りほども長い手足を振り回すグレイズアイン。ドリルパンチやスクリューキック、パイルバンカーといった凶悪な格闘兵器の数々が、仲間のグレイズリッターをも巻き込むような勢いで次々と繰り出される。

 襲い来る攻撃の僅かな隙間に、ライはかなり強引な稲妻機動でクァッドウィングを捻じ込み、紙一重の回避でグレイズアインへと肉薄する。

 

「あっ、危ないですよっ」

 

 ドガララララララララララララ!!

 クァッドウィングの背後に迫ったグレイズリッターを、ガトキャノンの弾幕が蜂の巣にする。

 

「……助かる」

「い、いやライ先輩っ。助かるとかじゃなくて、危ないですよぅ!」

『クァッドウィングの装甲では、グレイズアインの攻撃を防ぎきれません。当たれば終わりです』

 

 シオミも冷静に指摘するが、ライは二人の忠告もまるで耳に入らない様子で、バスターマグナムをグレイズアインへと突き付けた。だがトリガーを引く直前に、グレイズアインは阿頼耶識システム特有の生物的な挙動で大きく仰け反り、スクリューキックを振り上げる。

 

「くっ……!」

 

 ライは眉間にしわを寄せながら、回避・後退。グレイズアインとの距離が空いた瞬間に、その空間に何機ものグレイズリッターが飛び込んでくる。原作同様、ただのグレイズよりは性能の良い機体のようだが、ライにとっては物の数ではない。無限に増援が現れるのは厄介だが、アンナの分厚い弾幕が十分に抑えになっている。

 

(……だが、あいつ(・・・)なら)

 

 四枚羽根スラスターを全開にした跳び蹴りでグレイズリッターを地面に叩き落とし、ソードを突き出してきたもう一機にバスターマグナムを突き付け、零距離射撃。背後から飛び掛かってきた機体にもバスターマグナムを撃ち込み、再度、グレイズアインに突撃。ビームセイバーを展開して斬りかかるが、グレイズアインは大型アックスを両手に構え、斬り返してきた。激しく火花を散らして二度、三度とぶつかり合うが、圧倒的な重量差に押し返され、ライはまたしても距離を取らざるを得なくなる。

 

(……ヒビキ・ショウカなら、この程度の相手に……手間取りはしない……っ!)

 

 ライの脳裏に、流麗な、長い黒髪が翻る。〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟ヒビキ・ショウカ。そのガンプラ人生でただの一度の敗北も知らない、当代最強の女子高生ダイバー。

 

『……結構本気で怒っているぜ、今のボクは』

 

 舞い踊るGNソードビット。絵画のような優美さで宙を舞うダブルオー・ゼロ。細切れにされるハイパー・バウンド・ドラッヘ。そして、世界すら停止させる粒子の輝き、ゼロ・トランザム――圧巻。その一言であった。

 

(……力だ。彼女のような力があれば……俺は、もっと……もっと、ちゃんと、守れたはずなんだ。あの時だって……ッ!)

「ライ先輩っ、前!」

『ヒムロさん、回避を!』

「……ッ!?」

 

 目の前に迫る、分厚い斧刃。咄嗟に掲げたビームセイバーごと、左腕を持っていかれてしまう。その衝撃でクァッドウィングは制御を失い、頭から墜落。コクピットはガクガクと揺さぶられ、モニターの映像が激しく明滅する。

 

「ライせんぱぁぁぁぁいっ!」

 

 アンナの叫び声と共に、ガトリングの銃声が響き渡る。グレイズリッターは次々とナノラミネート装甲を撃ち抜かれ、倒れていく。しかし、機銃弾程度ではグレイズアインには通用しない。一点を集中的に撃ち続ければ機銃弾でもナノラミネート装甲は貫けるが、弾を散らして弾幕を張るのがそもそもの用途であるガトリング砲では、それも不可能だ。

 

(……右手は生きている、ならばっ!)

 

 グレイズアインは無機質な金色の単眼でクァッドウィングを見下ろし、両腕の大型アックスを高く掲げた。あれが当たれば、どんなモビルスーツも無事では済まない。ライは唯でさえ鋭い鷹の目をより一層鋭く引き締め、右手を大きく前に突き出した。

 

「ブライクニルッ! フィン……」

《――MISSION CLEAR!!》

 

 突如、鳴り響いた機械的な女声のアナウンス。グレイズアインは大型アックスを振り上げたまま粒子の欠片となって消えていき、ライの視界の真ん中に、戦闘結果報告(リザルト)画面が表示される。

 作戦時間終了、ミッションは成功。鉄華団メンバーは、無事に地下トンネルからクリュセ自治区へと脱出した――

 

『冷汗をかきましたよ、ヒムロさん……ともあれ、ミッション終了です。お疲れさまでした』

「えっ? あ、そうかぁ。時間制のミッションでしたね、今回は……」

 

 まるで風船の空気が抜けるように、アンナの肩から力が抜け、張りつめていた表情がふぅーっと緩んでいく。その様子を通信ウィンドウ越しに見ながら、ライは操縦桿を握りしめた手を、離せずにいた。

 

「…………」

 

 結局ライは、機体が粒子化して強制的に転送されるまで、ただの一言も言葉を発さず、コクピットで佇んでいたのだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 峰刃学園ガンプラバトル部と〝GHOST〟との共同作戦――〝悪喰竜狩り作戦(オペレーション・ニドヘグハント)〟から、一週間。悪質ダイバーの巣窟を壊滅させた大規模作戦の顛末はGBN内でも大きな話題となり、ただでさえ当代最強の女子高生ヒビキ・ショウカが率いる部活動フォースとして有名だった峰刃学園の名は、GBN全土に響き渡っていた。

 

「ねえねえ。あのヒトって、四枚羽根のガンダムの……」

「あ、ホントだ。どうしよう、声かけちゃおっか……」

 

 お揃いのミーア・キャンベルのライブ衣装に身を包んだ女性ダイバーの二人組が、ライの方を見て小声できゃいきゃい呟き合っていた。ライは何の気なしにその二人の方を見やったが、その瞬間、ミーア・キャンベル風の二人は「ひっ」「ごめんなさいっ」と引き攣った表情で頭を下げて立ち去ってしまった。

 

「……?」

「にひひーっ♪ またやっちゃいましたね、マ・ス・ター♪」

 

 よくわかっていないライの前に、紙製のカップに入ったコーヒーが差し出された。なぜかやたらと上機嫌な、イマの笑顔付きで。

 

「マスターの鋭い視線に射抜かれる幸せを理解できないとは、可哀そうなガールズなのです。マスターの不機嫌な悪人面を許容できる女性は、GBN広しといえどもイマぐらいなのですからねっ♪ にひひひひ♪」

「…………」

 

 ライは仔犬のようにすり寄ってくるイマを好きにさせたまま、湯気の立つコーヒーを受け取り、口をつけた。

 鉄血のオルフェンズより、テイワズの拠点コロニー〝歳星〟。その商業エリアの目抜き通りにある花壇に、ライは腰かけていた。

 コロニー内の設定時間は午後八時、季節は冬。まだ春の陽気の残る現実世界とは違い、吐く息は白く曇る。道を行くダイバーやNPCたちも、冬の装いだ。現実世界の時間はまだ夕方ごろだろうが、コロニーであることを忘れそうなほどに広い〝歳星〟の夜景はもう、色とりどりの看板やネオンに彩られていた。

 

「……イマ、先輩たちは?」

「お買い物がまだ終わらないそうです。まだもう少し、イマとデートできますよっ、マスター♪」

 

 イマは「にひひ」と頬を緩め、ライの腕に自分の腕を絡めてくる。冬仕様のダイバールックに着替えたイマは、全体的にもこもことして、仔犬は仔犬でも小型の室内犬のような印象だ。明るい褐色の肌に、白いファーがよく似合う。透き通った金色のツインテールが赤い毛糸の帽子から伸びるさまも、なかなか絵になっている。

 周りを見れば、スキンやアクセサリーなどを扱う店の多いこのエリアには、女性ダイバーの姿が多く、男女で連れ立って歩いているダイバーも散見される。その姿に触発されてのイマの「デート」発言なのだろう。ライは一人で納得し、もう一口、コーヒーを飲んだ。

 GBNミッション〝止まるんじゃねぇぞ〟の終了後、ライたちブルーブレイヴは休憩のためこの〝歳星〟の商業エリアへと来ていた。

 ミッションは成功、クリア報酬および撃破ボーナスとしてエレメントポイントを獲得。〝悪喰竜狩り作戦(オペレーション・ニドヘグハント)〟での特別ボーナスやその後の一週間での獲得ポイントと合わせると、ブルーブレイヴの総所有ポイントは六〇〇〇EPに達し、エレメント評価値は一〇〇〇の大台に乗った。

 チームとしては、悪くない流れだ。特に今まであまり戦績の振るわなかったコウタとシオミは感慨もひとしおらしく、記念とばかりに新しいダイバールックやアクセサリーを買いに行っている。

 アンナもコウタに買い物に誘われ、シオミの方をちらちらと見ながら何度も断ろうとして断り切れず、なぜか急に不機嫌になったシオミに何度も何度も謝りながらついていった。イマはなぜか背筋を伸ばして敬礼などして、アンナを見送っていた。コウタは当然、ライとイマにも一緒に行こうと声をかけていたのだが、ライは言葉少なに断っていた。

 

(そんな気分には、なれないな……)

 

 ――力が、欲しい。悪を討つ力が。何物にも負けない、強い力が欲しい。

 そう思うほど、思うようにクァッドウィングが動かせない。先のグレイズアインとの戦闘も、反省点だらけだ。

 もっと積極的に、アンナと連携をとっていればよかった。戦闘中に、目の前の敵から注意を逸らすなどあり得ない。ブライクニルフィンガーを、もっと早い段階で使っていれば。

 

「ま、マスター……? お顔が、怖いですよ……?」

「……ん、ああ。すまん」

 

 心配そうに潤んだ上目遣いで、イマが下からライの顔を覗き込んでいた。ライは冷めかけたコーヒーを一息に飲み干し、少し離れた屑籠に向けて投げ込んだ。しかし、

 

「あっ、もー、マスターってばぁ。外れちゃいましたよ?」

「…………」

 

 上手くいかないときは、何をやっても上手くいかないらしい。

ゴミは放っておいても不要データとして一定時間で削除されるだけだが、道にゴミを投げ捨てるようなマナー違反は、たとえゲームの中でもしたくはない。ライは腕に絡みついてくるイマを適当にいなしながら立ち上がった。

 

「……本当に真面目だな、おまえは」

 

 だがライよりも早く、黒いコートに身を包んだ大柄な男性ダイバーがカップを拾い、屑籠にポンと放り込んだ。男は顔を隠すように巻き付けたマフラーをほどきつつ、軽い歩調でライへと歩み寄ってきた。

 

「久しぶりだな、ライ」

「……ま、マスター……どちらさま、なのです……?」

 

 体格のいい黒コートの男から身を隠すように、イマはライの袖にしがみ付いてきた。そんなイマの様子がおかしかったのか、マフラーを外した男は意外にも人好きのする笑顔で声をあげて笑い、手帳のようなデバイスを取り出した。デバイスの表面にホログラフ表示されたのは、GBNダイバーならだれでも知っているエンブレム――〝GHOST〟のエンブレムだった。

 

「ご、GHOST……さん、なのです……?」

 

 エルダイバーとしての力で、イマにはそのデバイスもエンブレムも本物であることは理解できた。しかし、GHOSTに声をかけられるような心当たりは、イマにはない。イマが不安げな顔でライを見上げると――

 

「……久しぶりです、バン義兄(にい)さん」

 

 ――不動の仏頂面、万年不愛想な悪人面であるはずライの頬が、少し緩んでいた。




 ……と、いうことで。
 今回は、勝てない主人公・ライの苦悩回となります。
 仮面の老人たちとか、エルダイバーの“王”とか、けっこう今後に関わる設定も出てきつつあります今日この頃ですが、きちんと伏線を回収できるよう頑張ろうと思います。
 あと、本作は私の中で「ラブコメ強化」と「女の子をかわいく」を裏の目標にしているのですが、どうでしょうか。今回のイマとかけっこうあざといですよね。本作の女性キャラの大半はカスタムキャストでモデルを作っているんですけど、あれってこーゆーところで公開してもOKなのかなあ……
 ……兎も角。感想・批評もお待ちしております。どうぞよろしくお願いします!
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