ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ   作:亀川ダイブ

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 どうもこんばんは、おひさしぶりになってしまいました、亀川ダイブです。
 第六話は、挿話的な感じで、主人公以外のお話を書いていきます。物語的には、ライの新機体が出来上がるまでの間に起きていたこと、ということになりますね。
 そんな第六話のAパートは、熱血教師と不良生徒のお話(前編)です。どうぞ、ご覧ください。


Episode.06-A『ソレゾレ ノ ヒビ ①』

 

熱血教師(アカツキ・ナツキ)不良生徒(サカキ・リョウ)の場合・前編》

 

 

 六月初旬、春と初夏との間。早い話が、じめじめとした梅雨。

 奉仕作業という名の草むしりはすでに一時間、峰刃学園高校に星の数ほど存在する部活動ですらめったに使わない第四グラウンドという場所柄もあって、非常に徒労感が強い。

 

(こんなモン、事実上の体罰だろ……)

 

 内心でぼやきながらも、サカキが逃げ出さない理由はたった一つだ。

 

「はっはっはー! なんだサカキィ、テメェまだその程度かよォ! 見ろ、この雑草の山を! 今日もオレサマの完全勝利でオシマイかァ!?」

 

 泥だらけの真っ赤なジャージに百円均一の軍手、頭には麦わら帽子、首にはスポーツタオル。せっかくの長身と美人を田舎臭い野良仕事スタイルに固めたナツキが、反らさなくても存在感の凄まじい胸を自慢げに反らしていた。背後には、草の詰まったゴミ袋の山。その量は、サカキの軽く数倍。

 

「なあ、ナツキちゃんよお……このグラウンド、誰が使うんですかね?」

「知るかンなもん。テメェの学校だから、テメェできれいにするんだよ。掃除すりゃあ、テメェの心もきれいになるらしいぜ? よかったなァ!」

「あー、出た出た。センコーによくある謎理論……だりぃわ……」

 

 ナツキに聞こえるか聞こえないかの小声でつぶやきつつ、サカキは抜いた雑草をゴミ袋へと放り込んでいく。

 五月の〝新入生狩り事件〟以降、「ナツキ特製根性叩き直しプログラム」と称して行われている奉仕作業は、もう一か月も続いている。すぐに逃げ出したノダやウダガワとは違い、サカキは口では文句を言いつつも、ナツキに従っている。

 ナツキが「面倒を見る」と理事長に約束したことが、サカキの即時強制退学を避けるための条件だったことは知っている。だが、それで素直になれるなら、そもそも不良なんてやっていない――サカキはできるだけダルそうな感じを前面に押し出しつつ、草むしりを続ける。

 

「っつーか、部活はいいのかよ? この一か月、学校のあっちこっち掃除しまくって。俺なんかに付き合わなくても、ガンプラバトル部の奴らとバトってりゃあいいじゃねーんですかね」

「うるせェ、センコー舐めんな。ブラック労働にゃァ慣れっこなんだよ。テメェの相手と部活ぐらい、両立させてやらァ」

「いや、そーゆーことじゃ。いつまでやんだよっていう話だ……です」

「よし、こんなもんかァ。行くぜ、サカキィ」

「いやだから……ったく、しゃーねーな!」

 

 一方的に話を進め、ゴミ袋をぽいぽいとリアカーに積み込んでいくナツキ。サカキは大きなため息をつきながら、自分のゴミ袋もリアカーへと投げ込んだ。そしていつものようにサカキがリアカーを引き出すと、ナツキは後ろからそれを押し始める。第四グラウンドからゴミ捨て場までは、急な上り坂だ。サカキは両手両脚にぐっと力を込め、一歩一歩、坂を上り始める。

 

「っはぁ、はあ……運動部とかだりぃから、ガンプラバトル部にしたのによ……」

「よかったなァ、身体鍛えられて。はっはっは!」

「なんでこの重さでこの坂でアンタは余裕なんだよ! あー、クソっ!」

「へばるなよ、サカキィ! このあともう一仕事あるからなァ!」

「なんだよもう一仕事って! ダルすぎるだろ!」

「ンだよ、逃げんのかァ?」

「逃げねぇよ! 誰が逃げるかよ! やってやるよ!」

 

 そんなやりとりをしているうちに坂を上り切り、ゴミ捨て場に到着。ナツキは準備よくゴミ捨て場に用意していたクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出し、サカキに投げ渡した。サカキは小さく「あ、ありが……とう……」と言いつつ、それをかき消すように大声で 

 

「で、なんだ……ですか、仕事って!」

 

 言い、スポーツドリンクをラッパ飲みする。

 ナツキは自分もスポーツドリンクを飲みつつ、首筋に垂れた汗をタオルで拭う。そして八重歯を剥き出しにして悪戯っぽく笑うと、こう言った。

 

「今日の仕事はなァ……〝正義の味方〟、だぜ?」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――大鳥居児童館。峰刃学園からは住所としては隣町だが、徒歩でも数分の距離しかない場所にある施設だ。さらにそのすぐ隣には小学校と中学校があり、自転車で十分も行けば、ナツキの母校でもある大鳥居高校がある。

 

「……ってな立地だったからよォ、学生の時にボランティアでがきんちょどもの面倒見てやっててなァ。そのつながりで、今でも時々、な」

 

 そんなことを言いながら児童館の正門を通り抜けた、瞬間だった。

 

「「「ナツキせんせーっ♪」」」

 

 ここがもし現実ではなくGBNだったなら、その様は高機動マイクロミサイルの弾幕と誤認されたことだろう。上は小学校高学年から下は幼稚園児と思しき幼い子まで、児童館の狭い園庭で遊んでいた総勢十数名が一気にナツキへと飛び掛かってきたのだ。

 

「ひさしぶりー!」「あそんでー!」「だんなは? だんなはー?」「あれ、なにこのおにーちゃん」「めつきわるーい!」「きんぱつー! とげとげー!」「ふりょーだ! みためがもうふりょーだ!」「でも、だんなさんじゃないおとこ?」「うわきだ! うわきだー!」「ナツキせんせー、ひどーい!」

「だ・れ・が! 浮気なんてするかァァァァッ! オレはダンナ一筋だァァァァァァァァッ!!」

「「「きゃーっ♪ おこったーーーーっ♪」」」

 

 ナツキは牙を剥き出しにして怒鳴り、ファンネルよりも素早く逃げ出した子供たちを追いかけまわす。狭い狭いと思っていた第四グラウンドの四分の一もない狭い園庭では、いくら逃げたところでナツキの長い手足から逃げ切れるはずもない。子供たちは一人、また一人と鷲摑みに抱き上げられ、即席の〝ろうや〟と化したジャングルジムの中にぽいぽいと放り込まれていく。放り込まれた子供たちは、いつでも逃げ出せそうなものなのに、嬉々として牢屋に捕らわれ、逃げ続ける子たちを無邪気に応援している。児童館の職員たちも、にこやかにそれを眺めている。

 

「…………」

 

 目の前で繰り広げられる、あまりにも自分とは違う世界観。サカキは口を開けて茫然と立ち尽くすのみだった。

 

「……ねぇ、おにいちゃん」

 

 そんなサカキの学生服の袖が、軽く引っ張られた。サカキが視線をかなり下に向けると、そこには一人の少年がいた。一瞬、男児か女児か迷うほどに線が細く、儚げな顔立ち。いかにも両家のお坊ちゃんといった、整った容姿の少年だった。身長はまだ、サカキの腰までしかない。

 こんなにも幼い子供と、サカキは触れ合ったことなどない。どうすべきかわからず、とりあえずその手を振り払おうとしたが――その時、気付いてしまった。

 

「……おにいちゃんが、〝せいぎのみかた〟なの……?」

 

 サカキの袖を握る手とは、反対の手。小さなその手に、ガンプラが握られていることに。

 そして、そのガンプラが――作り込みも甘い、ほぼ素組みに近いような、間違いなくその少年の手作りであろうガンダムエクシアが――無残に傷つき、壊されていたことに。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「……まだ動いてる筐体があったのかよ」

 

 児童館の多目的ホール、その一角を占領している無機質な六角形。それを目にして、サカキが驚いたのも無理はない。それはGBNの稼働開始以来、瞬く間に全国から姿を消していった旧型のガンプラバトルシステムだったのだ。

 

「意外と生き残ってンだぜ。最新式のダイバーギアをなかなか買い揃えられない、児童館とか小学校のクラブ活動なんかじゃァな。中高の部活なら、GBN用のデバイスを揃えているところも多いがなァ」

 

 言いながらナツキは、システムを起動させていく。はめ込みっぱなしのGPベースのディスプレイに灯が入り、バトルシステム全体が低く鳴動する。硬質な機械音声が起動音声を読み上げ、今時目にするのも珍しくなった、電子化されていない生のプラフスキー粒子が噴出し、六角形のフィールド上を満たしていく。

 

「……旧型バトルシステムの時代にもよ、ヤジマ商事はオンライン対戦機能を実装しようとしたことがあったんだよ。」

「なんだよ急に。授業なんざお断りっすよ」

「うるせェ、聞け」

 

 ぽかっ。軽くグーで殴られ、サカキは不満げに――だが、逆らいはせず、口を閉じる。

 

「一つはGBO(ガンプラバトル・オンライン)GBN(ガンプラバトル・ネクサス・オンライン)のベースになったオンラインゲームだ。オレは基本的にこっちをよくヤってたんだが……」

 

 基本的にも何も、アカツキ・ナツキがGBOでどれほどの働きをしたのかを知らないGBNダイバーなどいないだろう。〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟の英雄〝最後の十一人(ラストイレヴン)〟、チーム・ドライブレッドの爆弾魔にして弾幕と火力の権化〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟――ネットニュースなど見ないサカキですら、彼女の活躍は聞き及んでいる。

 

「実は、もう一つ。今のGBNみてェな仮想現実(ヴァーチャル)での生活体験(ロールプレイング)なんかはいらねェ、バトルシステム同士を直接つなぐことで、手軽に世界中の誰とでも対戦できるシステムを構築しよう、ってェ動きもあった――それが、〝交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)〟だ」

 

 ナツキの言葉と同時、バトルシステム上に〝CROSS-DIVE system.〟の文字がホログラフ表示された。だがそのホログラフは経年劣化したバトルシステム本体と同じように、かすれ、ざらついた表示となっていた。

 

「へー、聞いたことねぇな。GBOはガキの頃にやってたけど」

「そりゃあそうだ。〝交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)〟のことは、ごく限られた人間しか知らねェ。オレも参加していたテストプレイ期間の最後に、ある事件が起きてなァ。企画ごと消滅しちまったのさ」

「事件?」

「システムの統括管理AIが自我をもってなんとかかんとかって……まあ、よくあるSF映画みてぇな展開だよ。とにかく、GBO時代の仲間とか、クロスダイブで知り合った奴らで、AIの暴走()解決したけどよ……さて、テメェの仕事はここからだ」

 

 ナツキはGPベースに、さきほどの少年が持っていた傷ついたエクシアを乗せた。システムがガンプラを読み取り、プレイヤーを先ほどの少年と認識。児童館の誰でもバトルシステムで遊べるように、そのあたりの個人認証は意図的に緩く設定してあるようだ。

 

「とりあえず、こいつを見な」

 

 ナツキはGPベースを操作して少年のエクシアの対戦記録を呼び出した。映像を再生、システム上にバトルの様子が再現される。日付は数日前の夕方、対戦相手は同じ児童館の子どもが操作するAGE-FX……旧バトルシステム特有のシステムであるダメージレベルの設定はC、ゲーム内で機体が大破しても現実のガンプラには影響が出ない設定だ。

 漆黒の宇宙に飛び交うFファンネルを、GNソードの一閃が切り落とす……などという展開からは程遠い、未熟な攻防。だが音声ログを聞く限り、二人ともとても楽しそうだ。真剣勝負ではあるのだろうが、それ以上に楽しむことに全力を尽くしているようだ。

 サカキは、無邪気に歓声や悲鳴を上げ、必殺技の名を叫ぶ子供たちの対戦映像に、胸の奥をチクリと刺す痛みを感じた。

 

『負けると悔しい! 勝つと嬉しい! だったら勝てる戦いだけを続けりゃあ、ずっとハッピーでいられるだろうが! ひゃははははははは!!』

 

 約一月前、〝新入生狩り〟をしていた自分自身が、言い放った言葉。そんな自分とは全く次元の違うガンプラバトルを、自分が失くしてしまったガンプラバトルを、こんな小さな小学生たちはやっている――

 

「よく見ろ、サカキ。ここからだぜ」

「……あ?」

 

 物思いに沈みかけていたサカキの意識を、ナツキの声が引き戻した。サカキは改めて、対戦ログに目を向ける。エクシアのGNソードがAGE-FXを切り伏せ、勝利を手にした瞬間だった。通常であれば、そのまま試合が終了するはずのシーンだが……試合が、終わらない。様子がおかしいことに気付いた少年は不安げにGPベースを操作するが、反応はなし。対戦相手のAGE-FXはプラフスキー粒子の欠片となってフィールドから消え去り、少年のエクシアだけが一人きり、真っ暗な宇宙空間に取り残される――否、一人ではなかった。

 

『……イ……タイ……』

 

 辛うじて少女のものとわかる、割れた音声。少年はびくりと肩を震わせ、その声のする方へとGNソードの切っ先を向けた。

 そこにいたのは、銀色のガンダム。ベースになったキットはおそらく実戦配備型Oガンダムだろうが、手足こそ揃っているものの、機体各部は激しく損傷している。まるでエクシアリペアのように、剥き出しのフレームを布で覆っている部分さえある。

 

『なんなの、キミは……!?』

『……イタ、イ……タ、カ……イ……』

 

 少年は震える声で問うが、割れて掠れた少女の声は同じような呟きを繰り返すばかり。しかしその声の調子が、だんだんと乱れていく。調律の狂った楽器のように。激情に駆られるかのように。

 

『……タタ、イタカ、イタイイイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

『な、なんなんだよおお!』

『イィアァアアァ! トラァァァァンザアアアアアアアアアムッ!!』

 

 膨れ上がるGN粒子の赤い光、流星の如く尾を曳いて飛び掛かってくる、半壊したOガンダム。少年が何をする間もなく、圧縮粒子を撒き散らす真っ赤な掌がエクシアの顔面を鷲摑みにして――そこで、映像は途切れていた。

 

「お、おい、ナツキちゃん……何なんだよ、今のは……」

 

 ガンプラバトルの世界では、常識で説明のつかない不可思議な出来事が起こる。それは、プラフスキー粒子の未知なる性質によるものか。それとも、ガンダムという作品が描き続けてきた、人間が持つ可能性の発露か。

 しかしこのオカルト的な現象は、そのどちらにも見えない。

 衝撃を受けるサカキに、ナツキは静かに告げた。

 

「……この戦いの後にも、何人か。児童館のガキどもはあの銀色のOガンダムに襲われている。そして、ダメージレベルはCなのに、リアルでガンプラがぶっ壊れてるってェ有様だ」

 

 GBN対応の最新式デバイスが揃わない状態では、この旧式バトルシステムでのガンプラバトルが、児童館の子どもたちにとっては最高の楽しみだったのだろう。それが、正体不明のガンダムに襲われて、自分のガンプラを破壊される。その恐怖と悔しさは、想像するに余りある……そしてまた、胸に刺すような痛み。

 

(俺がやってたことも……大して変わらねぇか……)

 

 何も知らない新入生を、囲んで、叩いて、スキンを奪って。恐怖と恥辱を与えて、自分が強い気になっていた。自分が勝てなくなっていたことから、目を逸らしていた。

 

「そこで、オレとテメェの出番だぜ。〝せいぎのみかた〟のサカキお兄ちゃんよォ」

 

 ナツキはいつもの調子で、バンバンとサカキの背中を叩いた。その顔には無理やりに笑みを作っているが、どことなく影がある。サカキはナツキのそんな様子に疑問を感じつつも、背中を叩くナツキの手をやや乱暴に振り払った。

 

「おいおいまさか、あのオカルト野郎をぶん殴って、ガキどもに手ェ出すなって説教しろってんですかね!? ンなもん、センコーの得意分野でしょうよ、なんで俺まで!」

「テメェの根性叩き直しプログラムの一環だァ。おこちゃまたちのヒーローになってみせろよォ、サカキ。あと、オレは現実世界(リアル)でサポートに回るから、バトルはテメェ一人だぜ?」

「ナツキちゃんがオペレーターやったって、どうせ『突っ込め!』『撃て!』『ぶん殴れ!』ぐらいしか言えねーでしょうがよ!」

 

 ぽかっ。

 

「うるせェ。やれ」

「ったく……だいたい何者なんだよ、あのオカルト野郎は……」

 

 サカキは言いながら、頭の中でナツキの話がようやくつながった。

 〝交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)〟――自我を持ったAI――暴走()解決したけどよ――あの、含みを持たせた言い方。

 

「あいつは……あの銀色のOガンダムのファイターの名は、ジル。オレたちが消去したはずのクロスダイブ・システム統括制御AI……の、片割れだった、対人コミュニケーション用インターフェースだ」

 

 ナツキは言いながらGPベースからエクシアを外し、サカキに使わせている旧ザクを乗せた。新たなガンプラを認識したGPベースから、硬質な機械音声が流れ始める。

 

《Beginning Plavsky particle dispersal》

 

 バトルシステムから噴出したプラフスキー粒子が、仮想コクピットを構築。コントロールスフィアがサカキの両手の位置にふわりと浮かんだ。サカキはため息をつきつつ、スフィアの上に手を置いた。GBNの操縦系統とは外見上は大きく違っていたが、意外にも握ってみた感覚は近い。ガンプラの操作に問題はなさそうだ。

 

《GANPRA BATTLE.Combat Mode. Damage Level,Set to C.》

 

「戦うのは良いけどよ、ナツキちゃん。そろそろ俺のガンプラ返してくれませんかね。旧ザクじゃ限界が……」

「オレサマが作ってやった世界最高級の旧ザクだ、並みの相手にゃ負けねェよ――まあ、あの事件の時のアイツは、並みじゃあなかったがなァ」

「だったらやっぱり、ヤクト・ズールを……」

「自分で考え、自分で戦い……ある意味じゃあ自分自身ですらであるはずの統括制御AIにまで、ケンカ売って……」

「おーい、ナツキちゃーん。聞いてるかー?」

「ゲームの中で生まれた、データの集まりに過ぎないはずのアイツが……あの時、ナノカの野郎がAIの革新だの革命的だの言ってたのも、今ならわかるぜ、オレにも。きっと、アイツは……」

 

 聞く耳を持たないナツキに、サカキは諦めのタメ息を一つ。旧ザクの両足を、仮想カタパルトのフットロックに乗せた。管制システムの赤いシグナルが並び、一つずつグリーンに変わっていく。一つ、二つ、三つ……シグナル、オールグリーン。

 

「サカキ・リョウ。旧ザク。行くぜ!」

 

 猛烈な加速度がサカキの体にのしかかり、同時に旧ザクは蹴り飛ばされたように射出される。数百メートルはあるカタパルトの景色が一瞬で後ろへと流れ去っていく中、ナツキが呟くように言った言葉が、妙にサカキの耳に残った。

 

「……きっとアイツは、世界で初めてのエルダイバーだった」

 

《BATTLE START》




 と、言うわけで。第六話Aパートでした。
 このお話は前後編でBパートまで続きます。Cパートからはまたメインキャラクターを変更してお送りする予定です。
 今回出てきた交流戦構想(クロスダイブ・プロジェクト)という設定ですが、これは前作「ドライヴレッド」執筆中にガンプラ系二次創作を書いていたハーメルンの作者さんたちとのコラボ企画だったものです。私の実力不足で思っていたように書き進められなかったのですが、本来はこんな結末を考えていたんだよ、ということを少しでも感じていただければ幸いです。

 最近は忙しくて他の作者さんの作品を読む時間もなかなか取れず……もっともっと感想とか書き合ったりしたいんですけどね。ブラック企業ってどうして世の中からなくならないんでしょうね。哀しいね、バナージ……

 兎も角。時間の許す限り執筆は続けたいと思います。感想・批評もお待ちしています。どうぞよろしくお願いします!

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