ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ   作:亀川ダイブ

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 またもやお久しぶりになってしまいました。亀川ダイブです。
 月一程度の更新が続いていますね……遅い……何とかペース上げたい……遅いなりに今後も頑張りますので、気長にお付き合いいただければ幸いです。

 不機嫌眼鏡と腹黒仔犬、後編です。どうぞご覧ください。


Episode.06-D『ソレゾレ ノ ヒビ ④』

不機嫌眼鏡(シキナミ・シオミ)腹黒仔犬(ガトウ・アンナ)の場合・後編》

 

『おーっほっほっほっほっほっほっほっほ!!』

 

 キンキンと甲高い笑い声が響くたび、ミサイルが、砲弾が、ビームが、ムーン・ムーンの大地を震わせ、掘り返し、捲り上げて、樹海を茶色い荒野へと変貌させていく。まるでモビルアーマーか陸上戦艦でも相手にしているかのような弾幕に、アンナはバーニア・スラスターを全開にして逃げ惑うばかりだった。

 

「ひゃいっ!? だ、弾幕ってこんなに怖かったんですねっ、ひぃんっ!?」

「いつもあなたがやっていることでしょう、アンナさん。何とかして目標地点まで誘導を!」

「そそそ、そんなこと言われてもぉぉ……ひゃわあっ!?」

 

 ズビュオォォォォンッ!!

 ドドムム・バインが背負った大型砲が、野太いビームを放つ。小型のモビルスーツ程度なら丸ごと飲み込んでしまいそうな高エネルギー粒子の奔流が、ガトキャノンの右肩を抉る。

 

「し、シールドブースター大破、切り離しますっ」

 

 右肩のシールドブースターが一瞬にして半壊。残った推進剤が引火・爆発する前に切り離すが、バランスを崩したガトキャノンは樹海をなぎ倒して墜落同然に着地。その凄まじい衝撃と振動に、アンナは平衡感覚を滅茶苦茶にかき回されてしまう。

 

『チャンスよ、イサミ! まずは後輩ちゃんから潰しなさいっ!』

『あいさー、ユリちゃん』

 

 白ロリ服のフリルを翻して檄を飛ばすサユリに、イサミは無表情で応え、トリガーを引きまくる。弾幕に掘り返され土色の荒野となった大地を、ドドムム・バインは見かけによらぬ高速ホバー走行で突っ込んでくる。

 

「え、えぇーいっ!」

 

 目標地点まで、あと1200m。視界の端に浮かぶ簡易マップを意識しつつ、アンナはフライトユニット内蔵式のメガビームキャノンを発射。黄色いビームの奔流がドドムム・バインに向けて放たれるが、氷上を滑るようなホバー走行により回避されてしまう。

 

「はわわっ、おっきいのに速いっ!?」

『おーっほっほ! そのための四本脚! そのためのホバーですわ!』

『重くて、速くて、高火力……それがドムだよ……!』

 

 イサミはやや得意げに微笑みながら、フットペダルを蹴り込む。ドドムム・バインは四本足を滑らせて一回転。フィギアスケートじみた流麗な回転が終わると同時に、両手のマシンガンはガトキャノンをぴたりと照準していた。

 

『おやりなさい、イサミ!』

『あいあいさー』

 

 おそらくは炸裂弾であろう銃弾が高い連射力でばら撒かれ、アンナが咄嗟に掲げたシールドブースターの表面で次々と弾ける。そのたびに塗装は剥げ、プラスチック片が飛び散っていく。ほんの数秒の斉射で、シールドの耐久力は目に見えて削られてしまった。

 

「アンナさん、高火力型の相手の前で足を止めては!」

「わかっていますっ、いつもはやる側ですからっ。弾幕の餌食、ですよねっ」

 

 ドドムム・バインからの射線が途切れた一瞬の隙に、アンナはボコボコに撃たれまくったシールドブースターを自ら放り投げ、頭部バルカンを撃ち込んだ。耐久限界を超えたシールドブースターを撃ち抜き、まだ半分ほど残っていた推進剤に着火、大爆発。熱波と衝撃波が吹き荒れ、わずかに残っていた樹々を薙ぎ払う。

 

(あ、あわよくば……なんてやっぱり無理ですよねっ、わかってましたよぅ!)

 

 フライトユニットの推進力だけでは、ガトキャノンは飛べない。爆炎と黒煙を突き破るようにして飛び出してきたドドムム・バインに背を向け、アンナはフライトユニットのバーニアを全開、飛べないまでも精一杯のブーストジャンプで後退した。

 

『おーっほっほ! お待ちなさいな、ウサギさーん!』

「わわ、わたしはウサギさんじゃありませんよっ、白ロリ金髪チ……先輩!」

『いま白ロリ金髪チビって言いかけたでしょうあなたぁぁぁぁッ!!』

 

 ドドムム・バインの絶え間ない銃声に、サユリの怒声が重なりながら迫りくる。アンナは涙目になりながらもビームガトリングを撃ち返し、そしてまた跳躍。ジグザグに進路を変えながら、ある一点を目指す。

 

「ひぃっ!? し、シキナミ先輩っ、目標地点まで250、次のジャンプで到着、ひゃわっ!? き、金髪チ……先輩がしつこいですよぅ!」

「こちらの準備は完了しています。逃げ切って、アンナさん!」

「は、はぃい、がんばりま……」

 

 ズビュオォォォォンッ!

 跳躍しようと地面を踏み切る、その直前。ガトキャノンの右側フライトユニットが、超高エネルギーの奔流に呑み込まれ、蒸発した。バランスを失ったガトキャノンは頭から墜落、コクピットは衝撃に引っ掻き回され、アンナはシートから投げ出されてひっくり返った。

 

「あ、アンナさん!?」

「う、あぁぁ……よ、酔いましたぁぁ……おえぇぇ……」

 

 全感覚(フルダイブ)型VRゲームであるGBNにおいて、コクピット内でぐるぐるにシャッフルされたからといって〝ミンチよりひでぇ〟状態にはならない。電脳遊戯空間(ディメンジョン)内は全てが全て安全第一だが、パイロットが車酔いのような症状になることはある。

 何とか立ち上がったガトキャノンだが、その足取りはアンナの状態を表すかのように頼りない――しかし、これで。

 

「……アンナさん、誘導ありがとうございます」

 

 シオミは静かに告げ、狙撃用スコープ越しに睨みつけるドドムム・バインへと、意識を集中した。目標地点までまんまと誘導されたドドムム・バインの胸に、戦闘中には到底気づけないであろう小さなレーザーポインターの光を確認し、シオミはハロに命じた。

 

「ハロ、今よ」

「リョウカイ! リョウカイ!」

 

 ちょうどその時、シオミの読み通り何にも気づいていないサユリは、シートから立ち上がって仁王立ちし口元に斜めに掌を添えたザ・お嬢さまポーズでの高笑いに忙しかった。

 

『おーっほっほっほっほ! このわたくしが作り上げたドドムム・バインの砲撃に、どんなダイバーだろうと、ガンプラだろうと! ひれ伏すのですわー!』

『撃ったの……私だけど……ね……んっ?』

 

 証拠などない、僅かな違和感。ニュータイプじみた直感で〝それ〟を感じ取ったイサミは、サユリが転がり落ちるのもお構いなしにドドムム・バインを急発進させた。

 

『ひぎにゃああっ!?』

『くっ……!?』

 

 しかし、完全に避け切るには、一歩遅かった。ドドムム・バインの左前脚は突如噴き出してきた大量のトリモチにべったりと絡みつかれ、地面と接着された。ほぼ同時、細く絞り込まれたビームの閃光が一直線に迸る。

 ドドムム・バインの胸部、コクピットを狙った一撃は、しかし、

 

「っ!? 外したっ!?」

 

 ほんの一瞬の差で身を反らしたドドムム・バインの右腕を貫き、手に持ったマシンガンごと吹き飛ばす。通常の、二本脚のガンプラであれば、十分に拘束できていたはずのトリモチ・トラップだったが、異形の四本足を絡め取るには足りなかったのだ。

 

『ななな、なんですのイサミっ!?』

『ごめん、ユリちゃん……はめられた……!』

 

 イサミは狙撃の弾道から狙撃手の位置を直感的に割り出し、左手のザクマシンガンを撃ち込んだ。遠くせり上がった地平線へと吸いこまれていった銃弾が、樹海を炸裂させる。

 

「う、嘘でしょう……ッ!?」

 

 強運か、それとも実力か、弾幕の内の一発がビームスマートガンのEパックを直撃した。爆発するスマートガンを投げ捨てつつ、シオミは機体を走らせるしかなかった。

 シオミのS2アストレイ・グレイズフレームは、SEED系と鉄血系という装甲に特徴のあるガンプラのミキシングだが、身軽さを優先しフレームが剥き出しになった機体構造ゆえに、防御面はそれほど強固ではない。

 

「し、シキナミ先輩っ!」

「アンナさん、攻撃を! その距離なら、ビームサーベルが速いはずです!」

 

 シオミは逃げながらも情報共有するアンナの画面を確認し、指示を出す。トリモチ・トラップによって、ドドムム・バインのホバー走行は死んでいる。シオミに気を取られ、アンナに背を向けている今なら、一撃で勝負を決めることができる。

 

「は、はいっ」

 

 アンナは視界の揺れを何とか抑え、武装スロットを選択。ガトキャノンにビームサーベルを抜刀させた。フライトユニットは左の一基しか残っていないが、短距離のブーストジャンプ程度ならできるはずだ。こちらに背を向けている今が、強襲のチャンスだ。

 

『……見えてる……よ!』

「えっ、ひあっ!?」

 

 飛び出そうとしたガトキャノンの顔面に、野太いビームが叩きこまれる。ガトキャノンは頭部と胸部の上半分ほどが蒸発し、糸の切れた人形のようにどさりと地面に落ちた。撃墜判定を下されたガトキャノンは粒子の欠片となって砕け散り、アンナは一瞬の視界の暗転ののち、待機エリアへと転送された。

 

「し、シキナミ先輩っ」

 

 味気ない真っ白な空間に、ソファが一つと、巨大な空中モニターのみ。味気ない待機エリアに放り出されたアンナは、ソファから跳ねるように立ち上がり、モニターへと駆け寄った。

 モニターを縦横に分割して、全体マップ、撃墜タグの付いた自機の残骸と、額に汗を浮かべるシオミ、弾幕から逃げ続けるアストレイ・グレイズの姿が表示されている。アンナがガトキャノンの撃墜タグに軽く指で触れると、撃たれる数秒前からの映像が再生された。

 ガトキャノンに背中を向けたまま、まるで背中に目がついているかのような砲撃。ドドムム・バインが背負った大型ビーム砲がぐるりと一八〇度旋回し、ガトキャノンを撃ち抜いていた。

 

「こ、こんなの……本当に、ニュータイプじゃないですか……」

 

 高笑いに忙しい金髪チビ先輩が後方警戒していたわけでもないと考えると、あの無表情なおっきい先輩の技量は、アムロ・レイのセリフではないが、本当に後ろにも目をつけているとしか思えない。

試合中には当然見ることはできなかったが、観戦者たちのコメントや実況も、先ほどの見事な背面撃ちに大いに盛り上がっているようだ。

 

(金髪チビ先輩はともかく、おっきな先輩は強い……! 普段はガンプラに乗らないシキナミ先輩が、一騎打ちなんて……!)

 

 NT-1杯(アレックスカップ)優勝まで、あと一機。しかしその一機が、強い。アンナは静かに胸の前で両手を組み、上目遣いにモニターを見上げつつ、祈ることしかできなかった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 峰刃学園エレメント・ウォーもシーズンの半ばが過ぎ、現状、チームの順位は上の下といったところ。コウタと二人きりで挑んでいた前シーズンまでの低迷ぶりとは大違いだ。だから、本来なら計算にも計画にも入れていなかったこの大会で優勝できなくても、気に病むことはない。準優勝分のエレメントポイントを得られるだけで、収支はプラスなのだから。

 でも。だからといって。

 

「あの子には、負けたくないわね」

『おーっほっほっほっほっほ!』

 

 テンションの上がり切った高笑いとともに、ビームが、銃弾が、ミサイルが、降り注いでくる。シオミは最後の一発となったスモークグレネードを足元で炸裂させ、煙幕に紛れて離脱を図るが、

 

『なんとなく……ここ……っ!』

 

 シオミが灰色の煙幕から飛び出す、まさにその瞬間を狙い澄ました砲撃。野太いビームがアストレイ・グレイズの右脚を、その膝から下を、根こそぎ蒸発させた。バランスを失ったアストレイ・グレイズは先ほどのガトキャノンのように頭から地面に突っ込み、シオミはコクピット内で激しく揺さぶられた。

 

(な、なんて先読み! スナバラさん、こんなに成長して……っ!?)

『おーっほっほ! 観念したかしらぁっ、シキナミ・シオミぃぃっ!』

「くっ!」

 

 前脚に絡みついたトリモチを力づくで引き千切ったドドムム・バインが、ホバーの熱風を吹き散らしながら迫りくる。シオミはアストレイ・グレイズを起こそうとするが、片脚を失ってはそれもかなわない。腰のビームピストルを手に取るが、構える間もなくドドムム・バインの太い前脚に蹴られ、ビームピストルを遠くに弾き飛ばされてしまう。

 それでも諦めず、シオミはアーマーシュナイダーを引き抜こうとするが、

 

『お客さん、終点ですよー』

 

 ジャキッ……眼前に突き付けられる、マシンガンの銃口。この距離で、重装甲のガトキャノンにも有効だったあの炸裂弾を喰らえば、間違いなく撃墜判定を下されるだろう。

 勝利を確信したサユリの高笑いはさらにもう一段テンションが上がり、ついでにドドムム・バインのコクピットハッチも跳ね上がって、中から傲然と胸を反らしまくったサユリが現れた。

 

『えっ……ユリちゃん、バカなの? 死ぬの? バルカン撃たれたら、終わりだよ……?』

『バカとは何ですのバカとは! ちゃんとリサーチ済みですわ、シキナミ・シオミのガンプラにバルカンはない! そのあたりが超絶天才ビルダーたるこのわたくしと、シキナミ・シオミの差ということですわね! そして勝者は! 高みから敗者を見下ろすものですわーっ! おーっほっほっほ!』

 

 機体をガンダムタイプにしなかったことを、今日ほど後悔したことはない。キンキンと耳障りなサユリの高笑いを我慢しつつ、シオミは眼鏡を外して眉間を指で軽く揉み、気を落ち着かせて眼鏡をかけ直した――その、瞬間だった。

 

『『ねえ、お姉さん』』

 

 ぞわり、と悪寒が背筋を駆け抜ける。世界の明度が微妙に落ちて、彩度は微妙に上がったような、妙な感覚。無視しようとすれば無視できなくもない、でも確かに、何かがずれた世界。

 時間は、止まっている。サユリの高笑いが、聞こえない。コクピットハッチから身を乗り出して、バカみたいにふんぞり返ったまま、静止している。

 そんな異常な世界の中で、二人だけ――幼く小さな双子のダイバーの、亡霊のようなフードとマントだけが、風もないのにひらひらと蠢いていた。

 

『負けるわけにはいかないよね』『思い知らせてやりたいよね』

 

 シオミの頬を、冷たい汗が一筋流れる。しかし、指一本も動かせず、声も出ない。自由にできるのは視線のみ。シオミはフードの奥の顔を見ようとするが、まるでそのフードの奥にはダイバールックそのものが存在してないかのように、どこまでも深い闇があるのみだった。

 

『見ちゃったよ』『聞いちゃったよ』

『ひどいよね、あの子』『つらかったよね、あなた』

「……っ!?」

 

 シオミの頬に触れる、温度のない掌。瞬間、シオミの脳内に動画データが流れ込んできた。それは二年前、シオミがサツキ・コウタの専属オペレーターとなって、最初のエレメント・ウォーでのこと。

 

 ――お、オペレーター……ですのっ!?

 ――ええ。私は、サツキ先輩と一緒に戦うわ。

 

 峰刃学園フォースネストのロビー。あくまでも冷静な自分と、拳を握り締めるサユリ。同期の新入生たちが何事かと遠巻きにする中、豪奢なシャンデリアが照らずホールに、サユリの怒声が響き渡った。

 

 ――逃げましたわね! 戦いは苦手でも、フィールドで決着をと、約束しましたのにっ!

 ――だ、だから私は、オペレーターとして、チームに貢献……

 ――そんなもの、ただの逃げですわ! 後ろから口出しするだけでっ!

 ――あ、あなただってファイターの後ろに乗っているだけ。複座式なんて言い訳でしょう。

 ――わたくしはビルダーとして戦場に出ますわ、卑怯な口だけ女とは違いますわよ!

 ――口だけじゃないわ。私だって、考えがあって……

 

 ぱん、という乾いた音。シオミは、すぐに理解することができなかった。ただのゲームなのに。電脳遊戯空間(ディメンジョン)なのに。現実(リアル)では、ないのに。友達に叩かれた頬は、こんなにも痛むのだということが。

 

 ――うるさいっ! 裏切り者っ!

 

 結局あの後、話をすることもできずにエレメント・ウォーに入り、サユリとイサミのチームはそれなりにいい成績を収めた。一方の私たちは、下から数えた方が速いぐらいの低迷ぶり。順位に差がありすぎたためか、それとも運か、部内試合でチーム同士がマッチングすることすらほぼなかった。その様を見てサユリは、さぞ胸のすく思いだっただろう。

 でも、だから――私がサユリと話をする機会は、戦場ですら、与えられなかった。

 

『つらかったよね』『かなしかったよね』

『聞いてくれなくて』『わかってくれなくて』

 

 しかしそれから、同じ部活動内でまったく接触しないということも不可能で、だから少しずつ会話が生まれて、お互いに喧嘩したままバトルすることもあって――そんなこんなで、二年という時が過ぎて。喧嘩の理由は心の中ではほぼ風化して、なんだか腐れ縁みたいになって。サユリは私を目の敵にしてテンションを上げ、私はやれやれと言いながら付き合う、謎の敵対関係が出来上がって。

 

『でも、あなたは悪くない』『そう、悪いのはあの子だ』

「……そう、かしら……?」

 

 気づけば、身体の自由は戻っていた。相変わらず、時は止まっている。サユリはバカみたいに大口を開けて笑った姿勢のままだ。

 

『『だから、勝たなきゃ……どんな手を、使ってでも』』

 

 鈴の鳴る様な、幼くも心地よい声色。双子の亡霊は呼吸すらぴたりと揃えて言いながら、左右からゆっくりと、掌を差し出した。双子の小さな掌の間に、淡い光が渦巻く。粒子の欠片が輝きながら形を成していき、それは一枚のカードとなった。濃淡の紅色が美しい、半透明のカード。その中にまるで墨を流したように、一筋。一切の光を拒絶したような真っ黒な粒子(・・・・・・)が、緩やかなS字の紋様をなしていた。

 

「……これ、は……?」

『『さあ、手に取って』』

 

 同時、シオミの頭に新たな動画データが流れ込んできた。機体の損傷は瞬時に修復され、アストレイ・グレイズの最後の武器であるアーマーシュナイダーはとてつもない切れ味でドドムム・バインを両断する。そんな映像が、実感を伴って脳内再生された。そして浮かぶのは、サユリの悔しそうな顔と、鳴り響く勝利のファンファーレ。

 

『さあ』『さあ!』

 

『『さあっ!』』

 

 双子の亡霊の声にせかされ、シオミはゆっくりと手を伸ばした。淡い紅色の光が眼鏡のレンズに反射して、シオミの表情は読めない。微かに震えているようにも見えるシオミの指先が、誘うようにきらめくカードに触れ――

 

「……お断りよ」

 

 ――触れずに、コンソールに表示された真っ赤なボタンを、軽く押し込んだ。

 瞬間、メインモニターに表示される〝GHOST〟の部隊章、モニター右上に表示されるRECマークと、「緊急通報」の文字。

 

「あなたたち、何者です!?」

『『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』』

 

 双子の亡霊は透き通ったソプラノで怨嗟の絶叫、その次の瞬間には嘘のように跡形もなく消え去っていた。シオミは額から汗を散らして周囲を見回すが、そこにあるのは何の変哲もない、デフォルト設定のGBNのコクピットのみ。

 

『とどめですわっ! イサミ、お撃ちなさいっ!』

『また、遊んであげてね……えいっ!』

 

 ズドッ、ゴバァァン!

 銃火、衝撃、炸裂弾の閃光がメインモニター一杯に広がる。シオミは目の前が真っ白になり、思わず目を閉じて両手で顔をかばった。そして一瞬後、ぽすんという軽い音とともに、シオミは待機エリアに転送されていた。

 

「し、シキナミ先輩っ。大丈夫ですか」

「……アンナ、さん……」

 

 心配そうな声に目を開くと、目の前には眉をハの字にしたアンナの顔が。ただひたすらに真っ白な待機エリアに、いつもと違うところは何もない。メインモニターには「第二位! おめでとうございます!」の文字と試合のハイライト映像が映し出され、観戦者たちのコメントが画面上を右から左に流れている。

 

「終わった……?」

「は、はいっ。でもシキナミ先輩、最後に急に通報ボタンなんて押すからびっくりしましたよぅ。あの金髪チビが何か……あ、金髪チビ先輩が何か違反行為でもしていたのかと思って」

「急に……?」

「あ、はいっ。先輩が撃たれて、倒れて、銃を突き付けられて……それから、急に」

 

 あの双子の亡霊とのやり取りは、体感的には数分はあったはずだ。シオミは頭と気持ちを整理しようと、眼鏡を外して眉間を軽く揉んだ。

 ちょうどその時、シオミとアンナの間にウィンドウが開かれた。突然のウィンドウ展開におどろいたアンナは「はわっ!?」と可愛らしい悲鳴を上げてしりもちをつく。開いた画面の中央には、GHOSTの部隊章と緊急通報の文字。通報内容を入力するメールフォームが強制的に開かれたのだ。

 

「あっ、通報用の……ホントに、何があったんですか、先輩?」

「……私も、それが知りたいわ」

 

 シオミはふぅと細く息を吐いて眼鏡をかけ直すと、ウィンドウに手をかざして仮想キーボードを引き出し、ゆっくりとキーを叩き始めた。

 ――プラフスキー粒子は、時にヒトの想定を超えた奇跡を起こす。現実世界にア・バオア・クーを召喚する。ニールセン・ラボに大量の粒子結晶を出現させる。思い込みの力(アシムレイト)によってガンプラと一体化する。六年前の〝黒色粒子事変〟では、変質させられた粒子が人体に様々な悪影響を及ぼした。GBNにおいても、電子生命体(エルダイバー)の誕生にプラフスキー粒子が関わっているという仮説が有力視されている。

 先の双子の亡霊も、そのような存在なのか。サユリに負けたくないという自分の意地がプラフスキー粒子に作用して生み出した、幻覚のようなものなのか。

 

(いや、違う。あれは……)

 

 損傷の瞬間的な回復。武器の異常な強化。双子の亡霊に見せられたイメージに、シオミは心当たりがあった。

 

(まるで、ヘイロンデカール……違法ツールの出どころは、もしかして……)

 

 シオミは授賞式の呼び出しも無視して、ひたすらにGHOSTへのメールを打ち続けるのだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――翌日。峰刃学園高校ガンプラバトル部フォースネスト〝魔王城〟メインホール。

 

「おーっほっほっほ! 皆の者、お聞きなさい! ついにこのわたくし、絶対無敵元気爆発熱血最強ビルダーたるユリネ・サユリ様のガンプラが、あのシキナミ・シオミに一泡吹かせてやりましたわーっ!」

「いぇーい。どんどんぱふぱふー」

「イサミ、花吹雪が足りませんわよ。もっとじゃんじゃか降らせなさいな。おーっほっほ!」

「なぁーんだ、サユリちゃんか。久しぶりじゃん、シキナミさんといちゃつくの」

「ゆりりん、一年生の時は毎週毎週忙しそうだったよねー。二年なってからは久しぶりね」

「ねーねー、まだケンカしてる設定なの? 素直になりなよー、ゆりっぺ」

「せせせ、設定とはなんですの!? わわ、わたくしとシキナミ・シオミは永遠の……」

「親友だよね~? お熱いお熱い、ひゅ~ひゅ~!」

「どうせまたユリネちゃん、来週ぐらいにはサツキ先輩にコテンパンにされてヘコんでるから、その時また話聞いてやりゃいいでしょ。バトル行こうぜ」

「え、あ、ちょお! お待ちなさいな、愚民どもぉぉ! むきぃぃぃぃっ!」

「いぇーい。どんどんぱふぱふー」

 

 椅子の上に立って地団太を踏むサユリ。その頭の上に、無表情で花吹雪を散らすイサミ。そんなサユリを見る部員たちの視線は、まるでかわいい親戚の駄々っ子でも見るかのようだった。

 

「……はぁー」「はぁ……」

 

 アルルとルルカは、そんな平和な光景を見ながら、深い深いため息を吐いた。二人はいつもの道化師の衣装ではなく、セーラー服タイプの峰刃学園初等部の制服を着ている。

 

「どうしたんだい、アルル、ルルカ。君たちがそんな調子だと、ボクは悲しくなっちゃうぜ?」

 

 ショウカはそんな二人のアンニュイな表情を、バズーカ砲のようなとんでもないレンズが付いた超高級カメラで激写に次ぐ激写、床に寝そべって超ローアングルからの一枚を狙いつつ言った。

 

「あ、でもそのまま。うん、かわいいぜー最高だぜーもう持ち帰って神棚に飾っちゃいたいぐらいだぜー♪」

「ねぇショウカ。ニンゲンって、難しいね」

「よくわからないわ、ニンゲンの考えることって」

「おやおや、どうしたんだい。もしかして、アルルにスカートを、ルルカにズボンを履かせたことかい? かわいければ性別なんて、ボクには関係がないぜ? むしろ男女の双子ちゃんにあえて女装男装させるという背徳感溢れるこの組み合わせが」

「くふふ♪ ショウカ、ちょっと黙ろうか」

「きゃはは♪ 流石にドン引きだわ、ショウカ」

 

 アルルとルルカはお互いに向き合って両手を恋人つなぎ、ショウカに視線を送る。言葉とは真逆の態度にショウカはシャッターを切る指をトランザム、〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟のファンが聞いたら絶望のあまり失神するような奇声を上げてゴロゴロと床を転がりまわり撮影しまくった。

 その間中、アルルとルルカは天使のようなほほえみを浮かべながら、考え続けていた。

 

「「ニンゲンは、不可解だ」」

 

 ……と。




【悲報】ショウカ、ついにドン引きされる。<NEW!

 ……と、いうことで。少し長めになってしまった第六話Dパートでしたー。
 正体不明(?)の双子の亡霊、ヘイロンデカール、黒い粒子、六年前の黒色粒子事変など、本作のキーワードをちりばめてみた第六話でしたが、どうでしたでしょうか。A・Bパートののサカキ&ナツキ編では“王”もちょこっと登場しましたが、そのあたりも含めてこの第六話は、主人公は出ないけど伏線的な意味では作者的に結構頑張ったお話でした。
 第七話からはいよいよお待ちかね、主人公機パワーアップです。どうぞご期待ください! そのまえにカスタムキャストによるキャラ紹介とガンプラ作例紹介が入りますが、こちらもご期待ください!
 
 感想・批評お待ちしております。どうぞよろしくお願いします。
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