ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ   作:亀川ダイブ

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どうもお久しぶりです。
しばらく更新が止まっている間に、ダイバーズ新作が始まりましたね。ネット配信とか今後どんどん増えていくんだろうなあ……と思いつつ、毎週楽しみにしています。

兎も角。お待たせしまして申し訳ありません。第七話、スタートです。



Episode.07-A『ソウキュウ ヲ マウ ①』

 ――六月下旬。ライたちが峰刃学園高校ガンプラバトル部に入部して、約二か月。今期のエレメント・ウォーは、シーズンの半分以上が過ぎたことになる。

 

「一学期の終了と同時に、今期のエレメント・ウォーは終わりです。そして夏休みに入ればすぐに、GBNの甲子園と名高い〝ハイアー・ザン・ザ・サン〟が始まります」

 

 アナウンサーのように聞き取りやすい声が、フォースネストの一室に響く。

 300名からの部員を抱える峰刃学園ガンプラバトル部のフォースネストは、〝魔王城〟とも呼ばれる欧州風の古城だ。その荘厳なつくりに相応しく、城の内部には各エレメントが作戦会議などに使える小部屋がいくつも用意されている。

 ライたち〝ブルーブレイヴ〟のメンバーが今集まっているのは、そんなフォースネスト内の小部屋の一つ。銀の燭台や年季の入った木製の椅子とテーブルが並ぶ食堂に、壁一面の巨大な戦術予報スクリーンが設置されている談話室(ミーティングルーム)だ。

 

「ライさん、イマさんが離脱している間も、なんとかEPの収支はプラスでした。先輩とアンナさんの努力のおかげですね。私たちのエレメント評価値は2000の大台も目前、フォース内順位は上位30%以内を維持しています」

 

 戦術予報スクリーンに表示されたカレンダーを教師のように指揮棒でなぞりながら、シオミは軽く眼鏡の位置を直した。新入生であるアンナは可愛らしいピンク色の手帳に丸っこい字で必死にメモを取り、その横でライは仏頂面で腕を組んで頷いていた。さらにその隣では大きなタブレットに落書きアプリを起動させたイマが、「にひひっ♪」と笑いながら仮想クレヨンで

 

「イ・マ・さ・んっ!!」

「きゃんっ!?」

 

 クレヨンを持った手を、指揮棒がぴしゃりと叩く。イマは叩かれた右手をふーふーしつつ、涙目でシオミに抗議する。

 

「ななな、なんなのですかーっ!? 体罰はんたーいっ!」

「これが体罰ならあなたが私の胃に穴をあけようとしているのだって体罰です!」

「ほへ? 胃に穴……って、どうやったら開けられるのですか、マスター?」

「……すまん、シキナミ」

 

 ライはイマの頭を掴んでぐいっと下げさせ、自分も軽く頭を下げた。

 深いため息を吐くシオミの肩を、コウタがぽんぽんと軽く叩く。

 

「ありがとう、シキナミさん。僕もあまり部活には来られなかったから……負担をかけちゃったね。ごめんよ」

「い、いえ、先輩。負担なんて……せ、先輩はリーダーなんですから、もっと堂々としていてください! 情けないっ!」

 

 シオミは頬を赤くしつつコウタの手を払うと、気合を入れ直すかのように指揮棒でスクリーンを叩いた。

 

「と、兎も角、です。今シーズンも終盤戦、残り少ない部内試合では、今まで以上に勝ちにこだわっていきたい、という話です――明日の、トゥウェルヴ・トライブスでも」

 

 第七回部内試合〝トゥウェルヴ・トライブス〟。共闘、裏切り、何でもありの、全12チームによるバトルロイヤル。GBNでも最もポピュラーな形式の多人数同時参加型バトルだ。週一で行われる部内試合の第一回目にもこのルールが採用されており、その時は〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟コウメイ・マサヒロ率いる〝精密兵団(レギオン)〟との戦いになったのだった。

 エレメント〝ブルーブレイヴ〟としては、ライとイマのいなかった先週、そして〝悪喰竜狩り作戦〟の準備に忙しかった週の二回を除いて、部内試合には計4回参加している。これまでの戦績は、一位1回、二位2回、三位1回。なかなかの好成績だ。EPの収支も、部内試合だけで3000近いプラス。ここでもう一勝を挙げておけば、今期エレメント・ウォー上位入賞の目が見えてくる。

 

「今回の作戦領域は、オーストラリア・トリントン基地周辺です。スターダストメモリー序盤、パワードジムで演習をしていたあの砂漠、と言えば伝わるでしょうか」

「検索……ヒット……取り込み中……チン! マップのラーニング完了なのです! これで迷子にならないですよ、マスター♪ ほめてほめてー、なのですっ♪」

 

 仔犬のようにライの胸元にすり寄るイマだが、ライは無表情で無反応。また眉間をピクピクさせかけているシオミをなだめるように、コウタは愛想笑いを浮かべながら言った。

 

「ひ、ヒムロ君の新型は高機動型だろう? あの砂漠なら存分に飛び回れそうだね。コロニー落としの残骸もかなりあるから、盾代わりにしてガトウさんの弾幕で牽制、なんて作戦もよさそうだ」

「は、はい……でも……私、大丈夫でしょうか……」

 

 アンナは眉をハの字にして俯き、力なく呟いた。コウタはその様子が気になって声をかけようとしたが、

 

「はいはーいっ! イマも、イマもがんばりまーすっ。イマは何をしたらいいのですか?」

 

 まるで入学したての小学生のように、ピーンと手を上げたイマが目をキラキラさせながらぴょーんと飛び出してきたので、声をかけることができなかった。

 

「イマのターミガンは特に改造などしていませんが、清掃と整備はバッチリなのでぐふぇっ!?」

 

 ぴょんぴょん跳ね踊るイマの身体がくの字に折れ、ぎゅんと後ろに引っ張られた。ほとんど水着のようなホットパンツのベルトの部分をライが引っ掴み、引っ張って自分の膝の上に座らせたのだ。なかなかの乱暴さだったが、イマはその特別席ポジションに満足げに頬を緩めて「ンもう、マスターってばぁ……♪」などと、もじもじくねくねしている。もちろん、ライは無言の仏頂面である。

 

「あ、あはは……じゃあ、シキナミさん。続けてくれるかい」

「はい、先輩。それでは――明日の対戦相手は、こちらの方々です」

 

 シオミは指揮棒を片手に、もう片方の手で仮想キーボードを叩く。戦術予報画面に映し出されたトリントン基地周辺の鳥瞰図に重ねて、自分たちを含め12チームのエレメント名と、リーダーの名前が、次々と表示されていく。

 

「…………ッ!?」

「あちゃー……」

「えっ……うそ……」

「これは……」

 

 列挙された参加チームを見た、ライ、イマ、アンナ、コウタの反応。シキナミも最初にこのメンバー表が部長から公表・配信されたときには同じようなリアクションだったが、決まってしまったものは仕方がない。黙っていれば美人なはずの部長の、楽しみでたまらなといった悪戯っぽい微笑み(ニヤつき)は今思えばこの対戦表を知っていたからなのかもしれないが、何なら楽しそうだからと仕組んでいるのかもしれないが、あの部長ならそのぐらいのことは平気でやりそうだが、それも今更どうしようもない。

 この対戦表の中で、勝利をもぎ取るにはどうするべきか。それを考えるためにこそ、チームミーティングを開いているのだ。

 第七回部内試合〝トゥウェルヴ・トライブス〟Fブロック参加、全12チームの一番上の枠には『ブルーブレイヴ』『サツキ・コウタ/エイハブストライク』という見慣れた文字がある。そしてその下にも――その名を知らぬ者のない、見慣れた文字が並んでいた。

 

 

 エレメント〝ヤマダ近衛騎士団〟、〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟ヤマダ・アルベルト/ジンクスⅣアガートラーム

 エレメント〝モルゲンロート〟、〝第八位(ミネバ・オブ・エイト)〟〝自走する爆心地(ブラストウォーカー)〟アカツキ・ナツキ/グフリート改八型

 エレメント〝精密兵団(レギオン)〟、〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟〝軍師〟コウメイ・マサヒロ/フォーミュラ・ジム一号機

 

 

「ご覧の通り、私たちのブロックには〝最高位の十一人(ミネバイレヴン)〟級の実力者が三人もいます。この中でどう勝利をもぎ取るのか――」

 

 〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟ヤマダ・アルベルト。〝第七位(ミネバ・オブ・セヴン)〟コウメイ・マサヒロ。奇しくも、今までに戦ってきた強敵たちである。さらには、〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟の英雄、アカツキ先生。その実力が〝第八位(ミネバ・オブ・エイト)〟程度に収まらないことは、火を見るよりも明らかだ。顧問の教師が一体誰とエレメントを組んで部内試合に出るのか、という疑問はあるが、あの先生はそのあたりは力技で何とでもしてくるに決まっている。

 

「ヤマダ先輩とは、シーズン開幕のミネバ・バトルロイヤルで対戦……ルール上、直接対決というわけではありませんでしたが、限りなく敗北に近い引き分けでした」

 

 生存が勝利条件の椅子取りゲームというミネバ・バトルロイヤルのルールにより、アルベルトと直接対峙したライは撃墜されずに試合終了を迎えた。しかし、バスターマグナムもブライクニルフィンガーも通用しなかった以上、あの時のライにアガートラームの鉄壁を打ち破る術はなかった。シオミの言う「限りなく敗北に近い引き分け」という言葉にも、素直に頷く以外にない。

 

「コウメイ先輩とは、第一回の部内試合で対戦。エレメントの半数を撃墜しましたが……こちらは、全滅。完敗でした」

 

 ブルーブレイヴの、エレメントとしての初戦。連携訓練も最低限だったにしては非常にいい動きができた試合だったが、〝軍師〟マサヒロが指揮する熟練の連携には及ばなかった。

 

「アカツキ先生は……まあ、アカツキ先生ですから。生徒とか顧問とか関係なく、絶対にガンプラバトルで手を抜いたりはしないでしょう。大人気はないですが、間違いなく、強敵です。だから――」

 

 シオミはゆっくりとチームメイトたちの顔を見回し、そして最後に、眼鏡の位置を軽く直して、ライに視線を向けた。

 

「ヒムロさん。新しいクァッドウィングには、重要な役割をお任せします。やっていただけますね?」

 

 シオミの言葉に、一同の視線がライへと集まる。ライは特に表情を変えるでもなく――いや、僅かにその目に、決意の色を滲ませて、頷いた。

 

「任せろ。――ここで退いては、俺の正義が廃る」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「――って、せっかくカッコよくキメてもねぇ? お膝に幼女なんて乗せたままじゃあ、ただのロリコン野郎だぜ? あっはっはっはっはっは!」

 

 視界の端から端までを畳で埋め尽くされ、金銀の細工で龍と虎との大喧嘩が描かれた襖で仕切られた、広すぎる和室。部屋の隅には文化財級の刀剣や鎧兜まで飾られたその大部屋に、まったく不似合いなGBNの空中モニターがいくつもホログラフ表示されていた。

 

「転校生君、キミに目を付けたのは本当に正解だったぜ! あーっはっは!」

 

 夏服セーラーに素足という軽装のショウカは、制服のスカートが派手に乱れるのも構わず、腹を抱えて転げまわった。そのままの勢いで何重畳あるのかという広大な畳をゴロゴロ横断し、これまた何十メートルあるのかという長い板張りの縁側に転がり出る。

 珍しくすっきりとした梅雨の晴れ間に照らされた日本庭園が目の前に広がり、脚立に上って庭木の手入れをしていた顔なじみの職人が、はしたなくスカートのまくり上がったショウカの姿に「ま~たお嬢は……」と苦笑する。部屋の前で待機していた若い黒服の男は、黙っていれば超絶美少女であるショウカの白い太ももを直視してしまい、さっと目を逸らして直立不動の姿勢をとる。

 

「ああ、いや、すまないね。ボクとしたことが、随分とはしゃぎすぎちまったぜ。失敬、失敬」

 

 言いつつショウカは、スカートを整える気など全くない。すらりとした素足ではしたなく胡坐をかき、手に持ったダイバーギアを操作して部屋の中に何枚もホログラフ表示されていたモニターを一斉に消した。

 

「ハイアー・ザン・ザ・サン前、最後のトゥウェルヴ・トライブス……すこぉしばかり悪戯してみたけれど、どうやら面白くなりそうだぜ♪ あーっはっはっはっは!」

「あ、あの……お嬢……す、裾が乱れておりますが……」

 

 満面の笑みで高笑いするショウカに、黒服が遠慮がちに注意する。しかしショウカは意に介さないどころか、白磁のような素足を高々と掲げ、滑らかな太ももの上にスカートを滑らせて見せた。

 

「お、お嬢っ!?」

「おやおや何だい、そんなに慌てて。まあボクも黙っていれば美少女だし、美脚にはちょっとした自信があるんだぜ。夏服セーラーで素足の黒髪ロング女子高生なんて全国の妄想男子の夢の結晶、そうそう見れるもんじゃあないんだし。見る分にはタダだなんぜー? ほれほれー♪」

「わ、私が大旦那様に殺されますっ。お止めくださいっ」

「おーい、お嬢。若ェのをからかうなよぉ! お嬢は外面だきゃあべっぴんさんなんだからよぉ、勘違いしたバカに襲われても知らねーぞ!」

「おやおや、お爺はボクの美脚に興味ないのかい?」

「ケッ! ワシが何回おしめを変えてやったと思ってる! 足なんぞ、どーでもいいわい! その貧相なおっぱい、三倍に育ててから出直してこい! がっはっは!」

「あはは、それを言われると弱いぜ。ご期待に沿えなくてすまないねぇ、お爺」

 

 まだ年若い黒服の男には、ショウカとご老体のやり取りについていく胆力はなく、直立不動を貫くしかなかった――と、その時。黒服の懐で、セットしていたアラームがピリピリと鳴った。

 

「お嬢、時間です」

「ああ、ありがとう。まったく、毎度毎度、この時間が待ち遠しくてたまらないぜ……」

 

 ショウカは猫のように軽やかに、跳ねるように立ち上がって、ある一枚の襖を開いた。その部屋もやはり冗談のように広い和室だったが、ガンガンに冷房を聞かせた部屋のど真ん中には、大型のコンピュータが鎮座し、唸りを上げて毎秒何億何兆の計算を繰り返していた。そのコンピュータは、大仰な台座にセットされた二基のダイバーギアに繋がれており――その上には、二体のHGサイズの人形が、載せられていた。

 

「専用デバイスでも、全人格データの転送に約12分か……まったく、焦らしてくれるぜ。ねえ、アルル? ルルカ?」

「……くふふ♪」「……きゃはは♪」

 

 ショウカの呼び掛けに、二体の人形が悪戯っぽい笑みで応えた。

 〝拡張実体実装(サラ・プロトコル)〟――電子生命体(エルダイバー)であるアルルとルルカの存在は今、ガンプラと同じ材質で作り上げられたボディに宿り、現実世界に実在していた。

 

「しょうがないよ、ショウカ」

「いくら僕たち(エルダイバー)でも、こればっかりはね」

 

 全長15センチに満たない、夏服セーラー&ハーフパンツ姿のアルルとルルカが、サーカスのようにショウカの肩へと跳び乗った。

 

「ニンゲンのダイバーとは違って、僕たちは」

「全人格データを、いちいち転送しているからね」

「わかっているよ。そうでもしなきゃあ、同一個体が無限に複製されてしまうものね。ガンプラならともかく、固有の人格を持つエルダイバーの複製量産なんて……ぞっとしないぜ」

 

 技術的には可能でも、倫理的に禁忌。エルダイバーにも人権が認められて始めた昨今では、当然のことだ。しかし、それはそれとして――ショウカは両肩のアルルとルルカの頭を指の腹で撫でまわしつつ、表情をゆるゆるに緩めまくる。

 

「こんなに愛しいアルルとルルカに出会うのに、十分以上も待たされるなんて拷問だぜ~♪ 何というかこう、一瞬でGBNと現実世界を行き来できる方法とか、ないものかねぇ~♪」

「きゃはは♪ もしそんな事ができるのなら……」

「……それはもう、エルダイバーを超えたなにか(・・・)だよ?」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「――へっくち!」

「……どうした、イマ」

「いえ、なんだか急におはながムズムズ……きっと、イマとマスターのラブラブっぷりが誰かに噂されていたのですよー♪」

「……エルダイバーも風邪をひくのか。熱があるようだな」

「ちょっとマスター、誰の思考回路が熱暴走なのですか! 失礼なのです! ぷんすこ!」

「……ふっ。明日の試合、後衛は任せたぞ」

「ふふん、イマにお任せなのです! アンナさんばりに撃ちまくってやるのです!」

「……もう、寝るぞ」

「あっ、マスター、一緒に寝ましょうよぅ♪ 二秒で現実世界(そっち)に行きますからっ♪」

「…………」

「あっ、ちょっ、ダイバーギアをスリープモードに! スリープモードにしないでくださぁいっ! ンもう、マスターってばぁぁぁぁっ!!」

 




以上、第七話でしたー。
今回はバトルなしでしたが、伏線マシマシでお送りしました。
次回からは”最高位の十一人”だらけのチームバトルロイヤルがスタートです。ライの新型も暴れさせる予定です。またお付き合いいただければ幸いです!
感想・批評もお待ちしています!

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