ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ   作:亀川ダイブ

4 / 44
 続編を書くにあたって、前作キャラをどこまで絡ませるかというのは常に考えているところです。賛否両論はあるでしょうが、私的にはΖのときのアムロぐらいがベストなのかな、と思います。グラサンノースリーブ大尉は主人公じゃないのでセーフ。
 そんなこんなでブルーブレイヴ第一話Cパートです。どうぞご覧ください!



Episode.01-C『セイギ ノ ミカタ ③』

『……先輩、この場に三年生は貴方だけだ。だから、頼みがある』

 

 口調が、態度が。何より、射殺すようなその視線が。およそ、後輩から先輩へとものを頼むような態度ではなかった。しかし確かに部室に集まっていたメンバーの中で三年生は自分だけだったし、何か言い返す前にもうバトルは始まっていた。

 だから、仕方ない。

 サツキ・コウタは自分自身をそう納得させて、ある相手(・・・・)へと電話していたスマートフォンをポケットにしまい、半開きになっていた旧校舎の扉へと飛び込んだ。痩せ型のコウタが足を乗せてさえ激しく軋む階段を一段飛ばしに駆け上がり、二階へ。階段を上がり切って右手に並んだ、一番奥の教室。もう使われていないはずなのになぜか電気もネット回線も通っているために、旧パソコン教室は例の彼らのたまり場となっている――そのドアの前に立って、コウタは大量の手汗を握り潰し、決して階段を駆け上がったためだけではない異常な心拍数を、何とか収めようとした。

 

(落ち着け、落ち着け、落ち着け、僕。大丈夫だ、保険はかけた(・・・・・・)。三年生だろ、僕! こんな新入生狩りなんて、もう止めさせるんだ……!)

 

『……GBNでは、俺が奴らを止める。でも、現実(リアル)までは手が回らない。頼む、先輩』

 

 ごくりと、唾を呑む。相手は三人、しかも毎年落第寸前で、ある先生(・・・・)の温情と休み返上の補習でなんとか進級を認めてもらっているという、峰刃学園には珍しい典型的な不良生徒だ。

 しかし、それでも、三年間、ガンプラバトル部で過ごしてきた仲間だと、コウタは思っていた。ここ数か月で戦績が極端に低迷し、後輩いじめや新入生狩りに手を染めていても。部長と顧問から、部室への出入り禁止を申し渡されていても。自ら退部届を、出しはしなかった三人。一度はコウタと、「もうしない」と約束してくれた三人。

 後輩たちからは「甘すぎですよ」「もっとしっかりしてください」と叱責されることもあったが、それでもコウタはあの三人を切り捨てることはできなかった――だが、彼らは。また、約束を、破った。

 

『――ここで退いては、俺の正義が廃る』

 

 ヒムロ・ライ、突然現れた転校生。その言葉には、コウタにはない力強さがあった。

 今ここで、彼らを止めなければ。GBNでの戦いは、きっと彼が何とかしてくれるのだろうが……可哀そうな新入生の女の子は、人気のない旧校舎で男子の上級生三人に囲まれている状態だ。バトルに負け、逆上した彼らが何をするか、わかったものじゃない。

 

(だから、今度こそ……やるんだ、僕!)

 

 そう自分を鼓舞して、コウタはドアを引き開けた。

 

「やや、やめろよ! おまえら!」

「あァッ!? ンだテメェ!!」

「邪魔すんなコラァッ!!」

 

 叩きつけられる罵声に反射的に腰が引けてしまうが、それでもコウタは踏みとどまり、パソコン室へと足を踏み入れた。

 見れば、アンナは涙目になってガタガタ震えながら、部屋の隅っこで縮こまっている。それも当然だ、GBNでは勝利を収めても、目の前の粗暴な男たちは消えていなくなったりしないのだから。現実は、ゲームとは違う。

 

「……いよぉーう、サツキちゃん。ひっさしぶりじゃあねぇか」

 

 いきり立つ二人も、半泣きの女の子も、まったく気にしてないかのような声色で呼びかけながら、ヤクト・ズールのダイバーだった男子生徒は、コウタの首に手を回した。まるで旧知の友のように破顔しつつ、ぐいぐいとコウタを揺さぶる。

 

「いつぶりだ、オイ。俺らが出禁くらって以来か? ちょっと見ないうちに随分と生意気になったじゃねえか。なあサツキちゃんよぉ?」

「……さ、サカキ……くん。や、約束が、違うじゃないか。もう新入生狩りなんてしないって」

「そうだ、約束だ。テメェはセンコーにチクらねぇ、代わりに俺はお前を殴らねぇ。そうだったよなあ?」

 

 最後の一言は、他の二人に向けて投げかけた。二人は(いや)らしく笑いながら頷き返す。

 

「つまり、まだ約束は破ってねえ。俺はお前を殴ってねぇからな。じゃあお前も約束を守って、センコーにはチクるなよ? トモダチだったら約束は守るよな? なあ?」

「……し、新入生をいじめるような真似は、やめるんだ……!」

「あぁ? 文句か? サツキちゃんが、俺に? オイオイ、あんまり調子のってっと……ッ!」

 

 サカキは語気を強め、コウタの首を絞めにかかった。アンナは怯えつつも何かを言おうとしたが、サカキの一睨みで「ひっ」と小さく悲鳴を上げて、さらに体を縮めてしまった。

 ――その時だった。

 

「サァァァァカキィィィィッ!!」

 

 ドッゴォォォンッ!

 大音声、そして大音響。一階のどこかから、明らかに扉が「開けられた」のではなく「ブチ壊された」音がした。その瞬間、サカキの動きがピタリと止まる。あとの二人も、厭らしい薄ら笑いがぴたりと顔面に張り付いたまま、凍り付いた。

 そしてサカキは、ギチギチと油の切れたモビルワーカーのような動きでコウタを解放し、三歩ほど後退した。

 

「……おい、サツキちゃんよ。てめぇ、まさか……!」

 

 ドッゴォォォォンッ!

 扉をブチ壊す音が、さっきよりも近い。

 コウタはゲホゲホとむせながらも、強く真っ直ぐな目で、サカキを見返した。

 

「……それが約束だと、言うのなら。僕を殴ってもいいよ、サカキくん。僕はもう(・・・・)約束を破っているから(・・・・・・・・・・)

 

 ドッゴォォォォンッ!

 爆音は、もう二階に上がってきていた。その音の主は次々と、手当たり次第に扉をブチ破って、サカキたちを探しているようだった。一つ、また一つと扉を爆砕しながら近づいてくるその様子は、さながら爆心地が近づいてくる(・・・・・・・・・・)かのよう――サカキたちの顔面から、さぁーっと血の気が引いていった。

 

「ささ、サカキさんっ! やべぇ、やべぇよ!!」

「あいつが来やが……い、いや! あ、あの人がいらっしゃっられなさったら、俺らなんて一瞬で!」

「ににに、逃げるぞてめぇら! ここは二階だ、なんとか窓から……!」

 

「こォォこかァァァァッ!!」

 

 ドッゴォォォォォォォォォォォォォンッ!

 旧校舎の古い木製扉が、ド派手にブチ壊れた。いや、レールから外れ真っ二つになり吹っ飛んでいくその様は、もはやブチ撒けられた(・・・・・・・)と表現したほうが正しいかもしれない。教室の隅で縮こまっていたアンナの涙を別の意味で完全に止めてしまいつつ、その破壊の主は旧パソコン教室へと入ってきた。

 180㎝の長身、モデル顔負けの抜群のスタイル。勢いよく外ハネした赤髪。口元から覗く、野性味あふれる八重歯。真っ赤なジャージに真っ赤なブランドのスニーカー。どこからどう見ても体育科の教師にしかみえない女性。

 彼女は右手の竹刀をびしっとサカキの鼻の頭3ミリ前に突き付け、獣のように楽し気に笑った。

 

「……よォ。久しぶりだなァ、サカキと愉快な仲間たち。てめェらにしばらく部活出禁だっつー指導をしたとき以来かァ?」

「は、はは……そ、そうっすかね、ナツキちゃん。ひ、ひさしぶりっす……」

 

 答えるサカキの目は、目標を見失ったファンネル並みに泳いでいる。後の二人は何も言われていないにもかかわらず自主的に正座をして顔を伏せており、何なら今この瞬間にでも土下座に突入できる構えだ。

 

「てめェらにそう名前で呼ばれるのも、悪ィ気はしねェけどよ。一応、センセーと生徒なんだから、礼儀ってもモンがあるだろ? 苗字+先生だ。やり直しィッ!」

 

 先のサカキたちの恫喝がお遊戯会に思えるほどの、声量と音圧。怒られているわけではないはずのコウタまで、ピンと背筋が伸びてしまった。

 そのプレッシャーを真正面からぶつけられたサカキは背中に定規でもぶち込まれたかのような気を付けからの最敬礼で腰を折り、後の二人も自主的な土下座に突入。半ばヤケクソ気味に、三人声を揃えて叫んだ。

 

「「「はいっ! スンマセンでした、アカツキ先生(・・・・・・)!!」」」

 

 ナツキちゃん、あるいはアカツキ先生。

 アカツキ・ナツキ、25歳。既婚。

 峰刃学園高校教師にして、ガンプラバトル部顧問。学園きっての不良生徒であるサカキたちをコントロールできる――彼らに地獄の補習を喰らわせて退学から救った、唯一の教師。

 

「よし、テメェらにまた地獄を見せてやらァ! 職員室で担任に報告して頭下げて、自習室で自分用の墓穴用意してこいッ!! 五分でやれ、いけッ!」

「「「はいっ! ご指導、ありがとうございますっ!!」」」

 

 まるで軍の新兵訓練のような全力ダッシュで部屋を飛び出す三人を見送り、コウタはほっと胸を撫で下ろした。

 コウタは放心状態でぺたりと座り込んでいるアンナの肩を軽く叩き、声をかけた。

 

「大丈夫……ですか」

「え……あ、は、はい……」

 

 アンナはぱちぱちと瞬きをして我を取り戻し、よろよろと立ち上がった。緊張に凝り固まっていた全身が、ようやく少し弛緩したようだ。コウタもまた、肩の力を抜いてタメ息を一つ吐いてから、表情を引き締めアンナに頭を下げた。

 

「申し訳ない。バトル部の人間が、こんな迷惑を……怖かったよね」

「あ、い、いえ、顔を上げてください。こ、怖かったですけど、でも……あの、助けてくれて、ありがとうございます。GBNでも、正義の味方さんが来てくれて……」

 

 現れたタイミング的に、コウタが例の正義の味方ではないことは察したのだろう。アンナはきょろきょろと、部屋の中を見回した。

 

(はは、そうだよなあ。彼ならGBNだけじゃなくてリアルでも……もっとかっこよく、サカキくんたちの相手ができたんだろうなあ)

「よく頑張ったなァ、サツキ・コウタ!」

 

 内心で自嘲するコウタの背中を、バンと勢いよく叩く掌。満足げな笑顔を浮かべたナツキは、よろけるコウタの首に手を回し、先のサカキのそれとは違う意味で圧迫感のあるヘッドロックをかけ、ぐりぐりと頭を撫でまわした。

 

「入部からずっと優しいだけのへなちょこだったテメェが、漢を上げたじゃあねェか! センセーはうれしいぜェ、こん畜生め! あはは!」

「せ、先生、苦し……いや、その、あ、あたって……!」

 

 ――アカツキ先生の水泳の授業は、男子の欠席率がゼロ%だが、なぜかみんな前屈みである。健全な男子であるところのコウタもまた、その圧倒的な胸の膨らみに目を奪われたことがないとは言えないために、ジャージ越しの柔らかさに戸惑いを隠しきれない。

 しかしそんなコウタを撫でまわすことに数秒で飽きたナツキはぽんとコウタを放り出し、ぐいっと腰を折ってアンナの顔を覗き込んだ。急に目の前に現れたナツキの顔に、アンナは子犬のようにびくんと体を跳ねさせてしまった。

 

(うわあ、すっごい美人……!)

「大丈夫か、新入生。ウチの部のバカが迷惑かけたな」

 

 ナツキはぽんぽんとアンナの頭を撫で、そしてまるでそれが当然かのように、ひょいっとお姫様だっこで抱え上げた。女性同士でのことではあるが、アンナは一瞬にして赤面沸騰。

 

「え、あ、ええっ!?」

「何かされる前にサツキが入ってくれたみてェだけどよ、精神的にも疲れただろ? 保健室、連れてってやらァ」

「あ、いや、そんな! せせ、せんせ、はははは、恥ずかしいです……!」

 

 どうやらアンナは、恥ずかし過ぎたり感情の処理限界を超えたりすると、動けなくなるタイプらしい。顔を耳まで真っ赤にしてあたふたしつつも、ナツキにお姫様だっこをされたまま、旧パソコン室から出ていった――連れ出されていった。

 そして後に残るのは、コウタと扉の残骸のみ。

 コウタは改めて、複雑な思いを込めたタメ息をひとつ。

 

「すごいなあ、先生は……転校生くんも……」

 

 とりあえずコウタは、旧パソコン教室の掃除用具ロッカーから、箒とちりとりを取り出した。ナツキがブチ撒けたドアだったモノの破片を、申し訳程度に掃き集める。

 

(先生は、褒めてくれたけど。僕には、何もできなかった……)

 

 GBNの中で、三対一の戦況を覆して勝利を収めたのは、突然現れた転校生くん。現実に新入生ちゃんを助けてサカキくんたちを追い払ったのは、アカツキ先生。自分がやったことなんて、小学生にだってできる「先生に言いつける」という、たったそれだけ。

 

(正義の味方、か。僕も、いつか……そんな風に……)

 

 箒で床を履く手を止め、コウタは旧校舎の窓から覗く放課後のグラウンドを見下ろした。傾きかけた夕日が、走り回るサッカー部たちの足元に細く長く影を落としていた。いつもなら気にもかけない夕暮れのオレンジ色が、コウタの目にはいつもより眩しく映ったのだった。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 GBN、私立峰刃学園フォースネスト――通称〝魔王城〟。

 

「ねえ、ショウカ。知ってる?」

「知ってる、ショウカ?」

 

「……何だい、アルル。ルルカ。上機嫌じゃあないか」

 

「部活でね、またやらかしたらしいよ。サカキおにーちゃんと、取り巻きおにーちゃんたちがさ」

「またやらかしちゃったんだよ、不良のおにーちゃんたちがさ」

 

「ふぅ、まったく――ボクとしては、彼らはもう退部でいいのだけれど、顧問様が許してはくれないのだろうね。しかしまあ、ボクがほんの数日生徒会に専念しているだけで、そうも好き勝手をされるとはね。ボクの求心力も、衰えたものだぜ」

 

「そんなことないよ、ショウカ!」

「ショウカ、そんなことないって!」

 

「キミたちはいつもボクに甘いなあ……だけど、そんなところも大好きだぜ。ありがとう。アルル、ルルカ」

 

「きゃはは♪」

「くふふっ♪」

 

「けれど、本題はそんなことじゃあないだろう。ボクはキミたちを愛しているれど、同じぐらい警戒もしているんだぜ。わかっているだろ〝双道化師(ハイパージャマ―)〟?」

 

「……きゃはは♪ 流石はショウカだよ♪」

「……くふふっ♪ ショウカ、流石だね♪」

 

「さあ、教えておくれよ、ボクの盟友。次はどこで、なにと、どんなふうに! ボクは戦えばいいんだい? このボクとダブルオーゼロの、血を沸かせ、肉を躍らせ、勝ったり負けたり壊したり壊されたりする舞台(ゲーム)を、戦場(ゲーム)を、遊び場(ゲーム)を! どう整えてくれるんだい? 教えておくれよ、アルル! ルルカ!」

 

 旧アーティスティックガンプラコンテスト・U12、六年連続最優秀賞受賞。

 旧ガンプラバトル選手権・小学生の部、六年連続優勝。

 旧GBOVer.2.0ワールドランキング、四期連続第一位。

 GBNガンプラビルドコンテスト・シャフリヤール杯、五年連続最優秀賞受賞。

 GBNガンプラバトルトーナメント・中学生の部、三年連続優勝。

 GBNガンプラバトルトーナメント・高校生の部、二年連続優勝。

 

 控えめに言って、最強。

 謙遜したところで、無敗。

 彼女はそのガンプラ人生において、ただの一度の敗北も知らない。

 峰刃学園ガンプラバトル部部長にして、〝魔王城〟の主――ヒビキ・ショウカ。

 

「――ボクは、死闘(ゲーム)に飢えているんだ!」




 と、言うことで。第一話Cパートでしたー!
 これで第一話は終了です。次は第二話Aパートということになります。
 ガンプラバトル部の顧問の先生が登場しましたが、前作を読んでいただくと「アカツキ・ナツキ」という名前の持つ意味はご理解いただけるかと思います。(ダイレクトマーケティング)
 今作ではガンプラ作例紹介をどんな形でしようか、迷っています。すでに主人公機は完成しているので、お見せしたいのですが……
 兎も角。これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。感想・批評もお待ちしております!


12/23 追記
都合により、クァッドウィングのガンプラ紹介を第二話終了後から、第一話終了後に移動しました。ご了承ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。