ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ   作:亀川ダイブ

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いろんな意味で長かった第七話も、あと2パートで終了です。
決着に向けて戦局の動いていく第七話Eパート、どうぞお楽しみください。


Episode.07-E『ソウキュウ ヲ マウ ⑤』

――核爆弾炸裂直後、トリントン基地周辺砂漠地帯――

 

 グビュウウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 長く尾を曳く独特な射撃音を響かせて、ビームバズーカの砲撃がターミガンのシールドに直撃した。高レベルの耐ビーム性能を持つはずのシールドが、その威力を殺しきれず、溶け落ち、爆散した。

 

「ふ、ふふん! シールドの一枚程度なんのその! イマには第二・第三のシールドが……」

『第二射、来ます。回避を!』

「この威力で連射なのですか!?」

「イマちゃんっ!」

 

 ガンッ! グビュウウゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!

 フルシティストライクがターミガンを思いっきり蹴り飛ばし、何とか直撃を避ける。しかし極太ビーム砲撃の熱と衝撃が容赦なく二機に襲い掛かり、大きく姿勢を崩される。

 砲撃の主――各部に高精度な改造の跡が見えるぺズン・ドワッジは、右肩に担ぎ持ったビームバズーカを投げ捨て、背中から新たなビームバズーカを担いだ。その背には未使用のビームバズーカが、さらに4本も背負われている。

 

「うっわー……イマよりたくさんビーム砲担いでいるヒト、初めて見たのですよー」

 

 超威力の連射に納得したイマは三発目のビームバズーカを回避しつつ、バスターライフルを撃ち返した。しかし、高速ホバー走行を生かした回避機動で簡単に躱されてしまう。続いてコウタも何発かロングライフルを撃ちこむが、それもひらりと身を躱され、反撃にビームバズーカを撃ち込まれる。計四発目の砲撃後、ペズン・ドワッジは機体を滑らせながら砲身の焼け付いたバズーカを捨て、新たなバズーカに持ち替える。

 機体の重量バランスなど無茶苦茶に崩れているだろう重装備のぺズン・ドワッジだが、それをこうも軽やかに操るダイバーの腕前は、相当なものだと見て取れる。コウタはきゅっと表情を引き締め、五発目のビームバズーカを回避した。

 

「シキナミさん。敵ビームバズーカの発射間隔は?」

『はい! バズーカ一本で二発砲撃、発射間隔は2.2秒、持ち替えは5.1秒です』

「ありがとう、シキナミさん。イマちゃん、持ち替えの5秒でケリをつけるよ!」

「あいあいさー♪ トドメはイマにおまかせですよっ、こーたセンパイっ♪」

 

 イマはバッチリキメ顔で瞳に星を散らして横ピース&ウィンク。ターミガンとフルシティストライクは、六発目のビームバズーカを左右に分かれて回避した。

 間を置かず、コウタはフットペダルを蹴り込み、鋭く切り返して前に出る。四丁ライフルを時間差で連射、ホバー走行による乱数回避を封じ込め、急速に距離を詰めた。その状況でもペズン・ドワッジはバズーカ持ち替えの手は止めず、胸部拡散ビームを放ち、コウタの目を眩ませてくる。しかし、

 

『それは対処済みです』

 

 くいっと眼鏡の位置を直すシオミ。その口元には、勝ち誇ったような笑みが隠しきれていない。相手がペズン・ドワッジとわかった時点で、オペレーター権限の情報支援として、コウタとイマの視覚には対閃光保護処置を施していたのだ。

 

「ヒムロ君の、お株を奪うようだけど!」

 

 ペズン・ドワッジの眼前にまで詰め寄ったコウタは、モノアイ、胸部ビーム砲、そして左右の肩関節にロングライフルを押し当てた。

 

「ゼロ距離! もらうよ!」

 

 ズガガガガンッ!

 ほぼ一発のように聞こえる砲声が鳴り響き、ペズン・ドワッジは全身から黒煙を吹きながら、ピンボールのように弾き飛ばされる――大きく回り込んで待ち構えていた、ターミガンの目の前へと。

 

「にひひっ♪ ビームシールドキィィィィック!!」

 

 悪戯っぽい笑みに似合わぬ強烈な飛び込み回し蹴り。鋭利な丸鋸と化した脚部ビームシールドがペズン・ドワッジを横一文字に両断した。

 爆発炎上、粒子化して消滅していくペズン・ドワッジが消え切らないうちに、コウタイマと背中合わせに立ち、イマも二枚のシールドを油断なく構えた。もしフォウ・オペレーションの誰かが仕掛けてくるならこのタイミングだと、コウタもイマも直感的に確信していた。

 二人は油断なく全周警戒、モニターの端から端まで視線を走らせるが……

 

「……静か……ですね、こーたセンパイ」

「うん、そうだね。そろそろ打ち止めであってほしいけど……シキナミさん?」

『はい、先輩。電波障害はまだキツイですが、撃墜数から考えて、同盟軍は今のペズン・ドワッジが最後です。ただし、核爆発を逃れたコウメイ先輩の部隊(フォウ・オペレーション)があと4機。コウメイ先輩の位置は不明、一機は上空でヒムロさんと交戦中――えっ?』

 

 忙しなく情報画面を操作するシキナミが、一瞬、眉間に険しいしわをよせ、そして信じられないというように目を見開いた。

 

『――フォウ・オペレーション機、一機撃墜。アンナさんのすぐ近くです』

「おおう! さすがはアンナさん、ガトリングさえあれば一騎当千なのです!」

『い、いえ、それが……撃墜したのは……ヤクト・ズール。サカキ……先輩、の機体です』

「ふぁっ!? あのサイテーヤロー先輩が!?」

「そうかぁ。サカキ君が……」

 

 目を真ん丸にするイマとは対照的に、コウタは深いため息を吐いて、苦笑した。アカツキ先生に更生させられたという噂。部室の隅っこの方でひっそりと部活に参加する姿。聞いて、見てはいたけれど……しかしコウタの思索は、突然の爆発音に遮られた。

 

「ひゃわっ!? けっこう近かったのですよ!?」

『南西1200mで爆発! これは、MSの――えっ? げ、撃墜されたのは、フォーミュラ・ジムです!』

「急にナニゴトなのですか!? そ、狙撃!?」

「いや、あの重量級ガンプラを一撃で落とせる射撃なら、ビームなり発砲炎なりがここからでも見えるはずだよ。たぶん、近接……ステルス機が、潜んでいる……?」

「それには自分も同意だ、サツキ・コウタ」

 

 突如、至近距離からの通信。画像の荒い通信ウィンドウにコウメイ・タカヒロが現れたかと思うと、砂丘の一部が突如として捲れ上がり、ABCマントを脱ぎ棄てたフォーミュラ・ジムが飛び出してきた。

 

「想定以上の予想外に! 自分は滾っているぞ、珍しくなあ!」

 

 陽炎が立つほどに灼熱化したヒートブレードの一撃に、コウタは反応が遅れサブアームを一本斬り飛ばされてしまう。間髪入れない切り返しの振り下ろしを、コウタはロングライフルを交差させ砲身で受け止める。

 

「部下を撃ったのは貴様たちかと思ったが、違うな。ならばヤマダの従者か。そのおかげで、自分がこうして切り結ぶことにもなる!」

「随分と、口が軽いじゃあないか。その話だと、頼れる仲間はもういないと聞こえるよ!」

「シキナミ・シオミが確認済みなのだろう? 優秀なオペレーターの前で、もはや隠すものでもない。最小戦闘単位(バディ)を組む目論見も潰されたのなら、せめて四枚羽根が合流しないうちに、自分個人の戦闘力を恃むまでだ!」

 

 ヒートブレードがロングライフルの砲身にじわじわと喰い込み、ついに武器損壊・使用不能の判定を下された。これでもはや、二丁のロングライフルはただの鉄塊だ。

 

「こ、こーたセンパイっ! んもうっ、このっ……!」

 

 イマは何とか助けに入ろうとするが、バスターライフルではコウタもろともに吹き飛ばしてしまう。ビームシールドキックで飛び込もうとするが、コウメイはヒートブレードの押し引きと足捌きで立ち位置を調整し、フルシティストライクを盾代わりにしてくる。

 

「ふん。戦闘指揮だけで〝第七位〟を得るほど、峰刃学園は安くないぞ。わかっていよう、ブルーブレイヴっ!」

 

 ズバァァンッ! 

 ついにヒートブレードがロングライフルを叩き切り、コウタは後退しながら残る一丁のロングライフルを構える。しかしそれもすでに準備されていたフォーミュラ・ジムのヴェスバーに先制され、最後のロングライフルは破壊された。続くヴェスバーの連射はナノラミネート装甲で何とか耐え、イマの援護射撃(バスターライフル)の光に紛れてさらに距離をとる。

 しかし、状況を見守るシオミの脳裏に違和感が閃く。なぜ、こんなに簡単に、下がらせる?

 

(距離が空けば、イマさんの援護射撃が来る……密着しているから2対1を防げていたのに、こうもあっさり離れさせた……コウタ先輩を追わない……? まさか!)

 

 同盟軍の攻撃開始から、行方不明だったコウメイ・マサヒロ。レギオンたちに戦闘を任せ、迷彩マントを被って砂漠に潜伏していた。単独隠密行動の時間はたっぷりあった。ならば、この〝軍師〟は何をしていた? 部隊の頭脳でありながら前線に出る野戦将校の極みたるこの男が、泥でも砂でも被るのを何とも思わないこの男が、何を。

 シオミはある可能性に思い至るが、ほんの一歩、遅かった。フルシティストライクの足元に、巧妙に偽装された金属製の円盤が―― 

 

『先輩、罠ですっ!』

「そうだ。貴様は自分に下がらされた(・・・・・・)

 

 ズドオオオオォォォォォォォォンッ!!

 猛り狂う轟音と爆炎、仕掛けられた対MS地雷が炸裂し、フルシティストライクの右脚を吹き飛ばし、右半身装甲表面のナノラミネート加工をほぼ全て削り散らした。砂地のクレーターに仰向けに倒れたコウタの視界を、狙い澄まして投射された大量のグレネードが埋め尽くす。

 

「シキナミさん、イマちゃんをお願」

 

 ズゴボボボボボボボボボボボボボボボボォォンッ!

 コウタの言葉は数えきれないほどの爆音に掻き消され、フルシティストライクには撃墜判定が下された。戦略マップ上からコウタのマーカーが消えていく。シオミは奥歯を噛み締めながら、コウタの最後の言葉に従って、全力で思考を回転させた。

 

(イマさんとコウメイ先輩の一対一普通に考えれば勝ち目はないバスターライフルでの一撃必殺に賭けるいや分が悪いその前に落とされるヒムロさんの合流を待つのも苦しい逃げ回るのもリスクが高い地雷は絶対に複数仕掛けているアンナさんの正面に誘導していやダメ武装がほぼ全滅アンナさんは生きてはいるけど戦力にはならないでもイマさん単独ではコウメイ先輩に及ばない戦力が必要もっと戦力が――ああ、そうだ!)

 

 シオミが結論にたどり着くのと同時、ターミガンが被弾しフレキシブル・シールド・バインダーが片方吹き飛んだが――武器(バスターライフル)は、無事だ。シオミはニヤリと似合わない笑みを浮かべ、インカムにかじりつくようにして叫んだ。

 

『イマさん、ローリングバスターライフル! 辺り一面ぶっ飛ばして!』

「わ、わかんないけどあいあいさー! うおりゃーっ!」

 

 イマは元気よく応えると、弾幕の隙間を縫ってなんとか距離を取り、両脚のホイールを全力で回転させながらバスターライフルを撃ち放った。当たりさえずればほぼ必殺の超高出力ビームの帯が砂漠の表面を舐め回し、散在するコロニー落としの残骸を、根こそぎ蒸発させていく。

 悪あがきにしか見えないその攻撃を、コウメイは余裕をもって跳躍して回避。大型バーニア・バインダーを左右に展開してホバリングする

 

(ふん。サツキを撃たれて、心乱れたか。シキナミ君も、参謀としてはまだまだ発展途上か……)

 

 多少落胆しつつも、手は緩めない。ローリングバスターライフルの終わりに合わせてロングライフルを撃ち込もうと、スコープを覗き込む――その時だった。

 

「スズ、危ないっ!」

「ふ、フレデリカ様っ!?」

 

 コウメイの斜め後方80メートルほどの地点で、激しい閃光。展開されたGNフィールドがバスターライフルを弾き、激しい火花を散らしていた。

GNフィールドを展開するのは、新緑の機体、ガデス・アテネ。その背後には、小型軽量の細身なガンプラが庇われている。

 シオミはぐっと拳を握り「ビンゴ!」と小さく呟いた。どう見ても状況はコウメイ先輩に有利、ならばステルス機は、漁夫の利狙いの暗殺者は、フォーミュラ・ジムの首を一手で刈れる位置に潜んでいるはず。それを、あぶり出せれば――!

 

「例のステルス機かっ!」

 

 流石のコウメイも、背後のこんな近距離に敵機を発見すれば、一瞬、そちらに意識が向く。しかし、その一瞬で十分だった。

 

『イマさん、ライザーソードの要領で!』

「はいです! ちぇえすとおぉぉぉぉっ!」

 

 ローリングバスターライフルの軌道を無理やり捻じ曲げ、振り下ろす。はるか上空まで伸びる長大なビームが、空間ごと断絶するような一撃が、巨大な斬撃となって天から降り注ぐ。縦回転ローリングバスターライフルの一撃は、寸前で直撃を回避したフォーミュラ・ジムのバインダーを片方切り落とし、そして、

 

「逃げて、スズ!」

 

 ガデス・アテネのGNフィールドと真正面からぶつかり合い、ほんの一瞬だけ拮抗したのちに、全てを呑み込み、根こそぎ焼き払った。

 

「あ、あぁ……っ! フレデリカ、様……っ!」

 

 GNフィールドが崩壊する直前に、攻撃範囲外へと突き飛ばされていた小柄なガンプラが、ゆらりと、幽鬼の如く立ち上がる。おそらくはGN粒子なのだろうが、それだけとは思えない、鬼火のような怪しげなオーラが、その全身から立ち昇る。

 

「お優しい……お優しすぎます、フレデリカ様。お守りするのは、私の方……なのにっ!」

 

 同時、砂漠に不時着したフォーミュラ・ジムが態勢を整え、ロングライフルとヴェスバーの銃口を、それぞれイマとスズとに向ける。

 

「ふっ……これで三つ巴というわけか」

「まだまだチャンスはアリアリのアリなのですよー! ふふんっ!」

 

 コウメイの言葉に反応するように、イマはバスターライフルを投げ捨て、ツインビームサーベルを抜刀する。シオミは自分が出そうと思った指示をイマが先回りしたことに軽く感心しつつも、油断なく思考を走らせる。

 ライフルを捨てたのは単純にエネルギー切れなのだろうが、近接格闘という選択は悪くない。コウメイの言うように三つ巴ではあるが、あのステルス機のダイバーに戦力差を考える頭があるのなら、ここはこちらと協力して2対1、フォーミュラ・ジムに対する疑似的な数的有利を確保すべきだ。コウメイもそれがわかっているから、剣ではなく銃を構えている。弾切れのターミガンと、明らかに近接格闘型のステルス機を、射撃で抑え込みたいのだ。

 

『イマさん、まずはコウメイ先輩に距離を詰めて、押して、押し込んで、押し切ってください。あちらのステルス機はとりあえず後回し、状況によっては共闘もあり得ます』

「りょーかいなのです! イマ、いっきまーーーーすっ!」 

 

 イマは元気いっぱいに叫びながら、ツインビームサーベルを振りかざして突進した。ターミガンの突撃を合図にしたかのように、後の二機も動き出す。

 

「ふっ……こんな状況はいつ以来かな、まったく!」

 

 フォーミュラ・ジムは牽制のバルカンをバラ撒きながらロングライフルを撃ち、

 

「……GNアサシン、目標を、狩る……!」

 

 細身で小柄なステルス機――GNアサシンは、黒い実体刃のナイフを、両手に構えて飛び出した。

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 ――核爆弾炸裂直後、トリントン基地上空4000m――

 

 青い空。白い雲。真夏を思わせるよく晴れた空を、航空機然としたバックパックを背負ったウィンダム二機編隊が、飛行機雲を引きながら旋回する。スプリッター迷彩に塗装された機体は中々の運動性能を発揮していたが、

 

「……遅いッ!」

 

 その旋回半径の内側をさらに小さく回り込んだクァッドウィングが、両腕のビームトンファーを閃かせた。一機は胸部をすっぱりと袈裟切りにされ爆発したが、もう一機は寸前で身を捻り、掲げたシールドごと左腕を切り落とされつつもなんとか撃墜は回避した。

 

『クソッ、てめぇが速すぎんだよ!』

 

 最後の意地とばかりに両翼に吊るしたミサイルを全弾発射するが、その時すでに、クァッドウィングはウィンダムの遥か頭上に舞い上がっていた。そしてそこから、落雷の勢いで急降下。すれ違いざまのビームトンファー一閃で、ウィンダムを両断した。

 

『間合いに入れさせるな! 射撃で何とかするのよ!』

『何とかって、それができりゃあ苦労は……!』

 

 高度を下げたクァッドウィングに対し、ティターンズカラーのΞガンダムがファンネルミサイルを雨霰と撃ちまくり、同じくティターンズカラーのVダッシュガンダムがオーバーハングキャノンを乱射する。全ガンダム中もっとも身長差がありそうな二機の取り合わせに、きっとイマだったらここぞとばかりにツッコミまくることだろうと考えながら、ライはクァッドウィングを鋭角反転、急上昇させる。

 

『うっわ、きたよ姉ちゃん! どうすんの!?』

『後退! とにかく格闘戦はダメよ!』

 

 ミノフスキーフライトの推進力はΞガンダムの巨体をなかなかのスピードで退避させたが、判断の遅れたVダッシュには、コンマ数秒の差でビームトンファーの刃が届いた。

 

『ごめん、姉ちゃ……!』

「……次、いただくぞ!」

 

 胴切りにしたVダッシュが爆散するのを尻目に、ライはクァッドウィングをさらに加速、させようとして急停止、四枚羽根スラスターを全て逆噴射して瞬間的に真後ろに飛び退く。その瞬間、野太いビームの光が、ライが飛び退いた空間を薙ぎ払った。

 

『ふむ。ニュータイプじみた反応速度だ』

「……地上に見当たらないわけだ」

 

 ライは小さく言い捨て、クァッドウィングに回避機動をとらせた。ランダムな稲妻機動でロックオンを外しつつ、視線はビーム砲の主を捉え続ける。

 グレーとオレンジの重装型ジム・タイプ、フォーミュラ・ジム――その、空戦仕様。上半身は以前戦った時と変わりないが、下半身は丸ごと超大型のバーニア・スラスター・ユニットに換装されている。全体的なボリューム感もあって、機影はまるでデンドロビウムかディープストライカーだ。

 空戦型フォーミュラ・ジムはヴェスバーやロングライフルを次々に撃ちながら、黒いΞガンダムとともに、意外なほどの高速でクァッドウィングを追ってくる。

 

『ちょっと、コウメイくんの副官くん! やられちゃったわよ、5対1だったのに!』

『だからこそ必中の瞬間を待ったのだが。奴の戦闘機動は天井知らずだな』

『そんな無責任な! サツキくんのチームを倒せるっていうから協力したのよ!』

『そうだな。倒せる。ファンネルミサイル全弾発射、同時にビームバリアー全開で体当たりをしてくれ。私も火力で攻める』

『あー、もう、はいはい! 行くわよ、行ってやるわよーっ!』

 

 黒いΞガンダムは全身のミサイルコンテナからファンネルミサイルを一斉射、同時にビームバリアーを最大出力で展開し、超音速飛行でクァッドウィングに突撃した。

 

「……っ!」

 

 超音速という速度こそ驚異的ではあるが、所詮は一直線の猪突猛進、ライは余裕をもって黒いΞガンダムの体当たりを回避。間を置かず四方八方から襲い来るファンネルミサイルを、バルカンとマシンキャノンで次々と撃ち落としていく。ファンネルミサイルの隙間を縫うようにフォーミュラ・ジムからのヴェスバーやロングライフルが差し込まれるが、クァッドウィングに躱せない射撃でもない。弾幕を迎え撃ち、突撃を二度三度と躱し――そして、

 

「……好機!」

 

 ライは弾幕の途切れた一瞬の隙を衝いて、稲妻機動でフォーミュラ・ジムに肉薄した。右手を大きく振り上げて、極低温の圧縮凍結粒子を解放。クァッドウィングの掌が白く凍り付き、氷結粒子が吹き荒れる。青白く煌く氷の掌が、一瞬にして顕現する。

 しかし、

 

『遅いな!』

 

 クァッドウィングの必殺技(フィニッシュ)は、近接格闘だ。距離を詰めてくることを確信していた彼は、速射モードのヴェスバーをすでに準備していた。トリガーに欠けた指に、力を込めて引き絞り――瞬間、クァッドウィングの姿が、消えた。

 

(ふん、得意の稲妻機動……なにッ!?)

 

 稲妻機動というだけなら、対策済みだった。フォーミュラ・ジムの腰に装備されたグレネードランチャーの銃口は、すでに背後に向けてある。彼とて、伊達に〝軍師〟の副官を務めているわけではない。そのぐらいの先読みはできて当然だ。しかし今、彼の目の前に広がる光景は完全に予想外だった。

 

『うわぁっ、どいてぇぇ――』

 

 ビームバリアー全開で突っ込んでくる、黒いΞガンダム!

 

『なんとぉぉっ!?』

 

 ドグワッシャアアアアアアアアアアアアッ!!

 咄嗟に撃ったヴェスバーもビームバリアーに掻き消され、超音速のΞガンダムがフォーミュラ・ジムに激突した。二機は装甲を激しく損壊し、絡まり合いながら落下。凄まじい砂煙を巻き上げ、砂丘を抉って墜落した。

 

『くっ……ダメージコントロール……!』

 

 歯を食いしばって衝撃をやり過ごし、コンソールを叩く。各部損傷甚大、動作不良部位多数。宇宙世紀系ガンダムタイプの中でも最重量級に位置するΞガンダムの体当たりを受けてこの程度なら、儲けものか。味方同士の衝突事故など、普段から連携訓練を繰り返しているチームメイト同士なら絶対にありえないミスだが、即席の部隊ではこんなものか。

 彼が内心で舌打ちしつつフォーミュラ・ジムを立ち上がらせようとした、その時。

 視界一杯に、氷の掌が広がった。

 

「ブライクニルッ! フィンガァァァァァァァァッ!」

 

 吹き荒れる寒風。舞い踊る雪風。叩きつけたブライクニルフィンガーを起点に大樹の如き氷柱が天を衝き、そして崩壊する。

 乾き切った砂漠の風が白い雪煙を吹き散らせば、そこに立つのはクァッドウィングただ一機のみ。氷柱とともに砕け散った空戦型フォーミュラ・ジム、そして黒いΞガンダムは、プラフスキ―粒子の欠片となって消滅(リタイア)していた。

 

「……シキナミ。フォウ・オペレーション機を一機撃破。他はどうなっている?」

『アンナさんが行動不能、コウタ先輩は落とされました。現在、イマさんがコウメイ先輩と交戦中。おそらくヤマダ先輩の僚機であろうガンプラと、事実上の共闘状態です』

 

 シオミの言葉の後を追うように、ライが空中戦にかかりきりになっている間の戦闘経過報告が、ディスプレイ上に表示されていく。

 今次トゥウェルヴ・トライヴスも、もう終局が近い。同盟軍に参加していたエレメントは、先ほどのΞガンダムの撃墜により、全滅。同盟軍を指揮していたフォウ・オペレーションは、残すところコウメイ・マサヒロただひとり。アカツキ先生が自分では戦場に出ず、サカキ・リョウをチームメイトとしていたことが、意外なようなよくわかるような……と言ったところか。

 ならば、残るは――

 

「やはりキミとは因縁があるようだね、ヒムロ・ライくん」

 

 一歩を踏み出すたけで、滑走路を踏み割る超重量。先ほど撃破したΞガンダムに勝るとも劣らない、人間であれば筋骨隆々と評されるべきであろう、頑強極まる銀色の巨躯。

 ――〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟ヤマダ・アルベルト。〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟ジンクスⅣ・アガートラーム。

 

「勝手に飛び出してしまった、お転婆な私のお姫さまを捜し歩いていたのだけれど……先ほど、辛い知らせが届いてね」

「…………」

 

 ライはビームトンファーを両腕に抜刀、腰を低く落とし、いつでも飛び出せるよう四枚羽根を展開する。しかしアルベルトはそんなことなど気に留めず、まるで散歩のような足取りで、距離を詰めてくる。

 

「キミの大切な電子生命(エルダイバー)のお嬢ちゃんが、私のリカを墜としたと。いやはや、護衛は何をしていたのだか……いや、違うな。愛する妹の身に起きたすべては、兄である私の責任だ。エルダイバーのマスターを務めるというのもきっと私と似たような心境だと思うのだけれど、どうかな? ヒムロ・ライくん」

「……理解は、できる」

「そうだろう、そうだろう! だったらわかってくれるはずだ。今から私が、キミを討つということも。渾身の怒りを込めて、この剣を振るうということも!」

 

 アガートラームは左手に構えた巨大な盾の裏から、超重大剣・クラウソラスを抜刀。その重量をものともせず、右手一本で振りかざし、分厚く鋭い切っ先をクァッドウィングに向けて突き出した。

 

「以前、リカを撃った罪! そして今また、キミのお嬢ちゃんがリカを撃った罪! 償わせてやるから感謝したまえよ! ヒムロ・ライィィィィッ!!」

 

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