ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ   作:亀川ダイブ

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このぐらいの文字数で、週一ペースでの更新を続けたいな、と思っております。
第二話Aパート、どうぞご覧ください!


Episode.02-A『ウバイアイ ソラ ①』

 欧州の古都を模した、石造りの城下町。遠く霞む地平線は地球上のそれとは違い、左右が急激にせり上がり、天井にあるもう一つの大地を経由して一回転、またこちら側に戻ってくる。

 葉巻型スペースコロニー特有の、円環状の大地。そのほぼ中央に(そび)え立つのは、私立峰刃学園のフォースネスト、通称〝魔王城〟。荘厳な石造りの城塞も緑の多いこの城下町も、魔王の城や町というには美しく整っている。こんな場所で巨大人型兵器による戦闘を行うなど、現実世界(リアル)でなら文化財に対する重大な冒涜と言えただろう――たとえそれが、スペースコロニー内に再現された、偽りの歴史的建造物だとしても。

 しかしここは、GBN。「世界を丸ごと再現した」とまで称される、広大無辺な電脳遊戯空間(ディメンジョン)。フォースネストたる魔王城からこの城下町まで含めたこのスペースコロニーは全て、峰刃学園ガンプラバトル部の所有物。ならば、美しい街並みを遮蔽物にしてビームやマシンガンを撃ち合っても――そして、土砂降りの豪雨が如くガトリング砲を撃ちまくっても、良心の呵責は少ないと言えた。

 

「ぅう撃ちまくりまぁすっ」

 

 アンナの小さな掌にはやや大きい操縦桿が、リコイルの振動でガクガクと暴れまわる。ガトキャノンが両手に一門ずつ構えたハンドビームガトリングからは、毎分九五〇発×二門の連射力でビーム弾が吐き出され、分厚い弾幕を形成していた。

 城下町の石造りの家々はゲーム的に「遮蔽物」という属性を与えられており、見た目以上に頑丈だ。連射力重視、バラ撒き弾幕用のビーム弾が一発で貫通してしまうようなことはない。しかし、確実に、削れてはいく。

 

「ええええええええええええいっ」

 

 猛然と回るガトリング、吐き出されるビーム弾が石垣を穿ち、煉瓦を壊し、街並みに無数の弾痕を刻んでいく――と、削り落とされていく遮蔽物に耐え切れなくなったのか、大きな教会の陰に身を隠していた敵のガンプラが、ビーム・トマホークを片手に飛び出してきた。

 全身にゴールドキャンディ塗装を施したシナンジュ・スタイン。趣味的だが、やりたいことはわからないでもない。

 

「らら、ライ先輩っ。で、出てきましたっ」

「……ああ!」

 

 ライはそのガンプラの趣味に一定の理解を示しつつも、クァッドウィングを飛び立たせた。得意の稲妻機動でアンナのガトリング弾幕を掻い潜りつつ、二丁の専用ビームライフル〝バスターマグナム〟を構えた。射程距離を犠牲に小型化した、一撃必殺の高出力ビーム兵器(バスターライフル)。その真価は、至近距離での格闘戦でこそ発揮される。

 接触するまでのほんの数秒の間にも、シナンジュ・スタインにはビームガトリングの弾が突き刺さり、すでに機体は小破状態。しかし敵のダイバーも意地を見せ、ビーム・トマホークを振り上げてクァッドウィングへと突っ込んでくる。

 

(……相打ち覚悟か……いや、違う!)

 

 シナンジュ・スタインは突如、逆噴射(バックブースト)を吹かして強引に足を止めた。同時、ライの側面の民家の壁が吹き飛んだ。弾け飛ぶ瓦礫とともに飛び出してくるのは、全身シルバーキャンディ塗装のサザビー、その手にはエメラルド色の刃を噴き上げるビーム・トマホーク!

 

「……良い奇襲だがッ!」

 

 ライは即座にシルバーサザビーに攻撃対象を変更。モビルファイター由来の柔軟性でぐるりと腰を捻りビーム・トマホークを蹴り上げ、回転の勢いのまま回し蹴りを顔面に叩きこむ。突撃の勢いを殺されたシルバーサザビーは割れ砕けたモノアイの欠片をまき散らしながらのけぞり、無防備な喉元をライに晒した。

 機を逃さず、太いパイプの覗く喉元にバスターマグナムの銃口を捻じ込む。間を置かず零距離射撃、シルバーサザビーの上半身は焼け溶けたプラスチック片となって吹き飛んだ。

 仲間の弔い合戦とばかりにシナンジュ・スタインが飛び掛かってくるが、ライは稲妻機動でその背後をとる――と、シナンジュ・スタインの反応も早い。振り向きざまに薙ぎ払うようなシールド打突(バッシュ)、さらに横薙ぎのビーム・トマホーク。ライはバスターマグナムの銃口からビーム刃を噴出、ビーム・セイバーを起動して斬り結んだ。

 

「あ、あわわ……ち、近すぎて撃てません……っ」

 

 アンナの動揺が伝わったかのように、ガトキャノンの照準表示(レティクル)は画面上を右往左往。ただでさえ精密射撃には向かないガトリング砲では、確実にクァッドウィングを巻き込んでしまう。

 しかし、そんな迷いや躊躇いなど一切感じさせないお気楽すぎる声が、通信機から響いた。

 

「マスター、撃ちますよー! さーん、にー、いーち!」

「…………」

 

 ライはため息を飲み込みつつ、目の前のシナンジュ・スタインを蹴り飛ばして急上昇。上空へと距離をとりつつも、頭部バルカンで敵の足元の石畳を崩落させ、姿勢を崩す。

 

「にひひっ、引き際も流石ですマスター! ヒムロ・イマ、ガンダム・ターミガン! クァッドバスターライフル、撃ちまーすっ!」

 

 ビュゴッ……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 膝をついたシナンジュを呑み込み押し流す、圧倒的な光の奔流。おそらくはABC(アンチビームコーティング)効果を狙っていたであろうゴールドキャンディ塗装も、そのエネルギー量の前では気休めにもならない。クァッドバスターライフルの閃光はシナンジュ・スタインを一瞬で蒸発させ、石造りの街並みを消し去り、そしてコロニー外壁までも融解・突破。モビルアーマーですら楽に通り抜けられそうな大穴が空きコロニー内の大気が猛烈な勢いで吸い出されるが、即座に巨大な警告ホログラムが表示され修復が始まり、大気の流出も止まる。

 ライは無表情で、しかし内心でもう何度目かのため息をつきながら、通常のガンダム作品内でなら大量虐殺犯になるところだったイマの隣に降り立った。

 

「……助かった、が。コロニー内だぞ」

「マスターをお助けできて、イマは今とても満足しています! えっへん!」

「……加減を、だな」

「イマのざゆーのめー(座右の銘)は、〝大は小を兼ねる〟なのです! にひひひひ♪」

 

 イマは最大出力で砲撃したクァッドバスターライフル――ツインバスターライフルをさらに二連装した、バスターライフル四門同時運用という超火力兵器――を両手と両肩に分割して装備し直しつつ、笑顔で答えた。呆れるライとは対照的な、「ほめて! ほめて!」と言わんばかりの満面の笑み。もしイマに耳と尻尾があったなら、仔犬の如く振り回しまくっていることだろう。

 そんなわんこ系エルダイバーであるイマだが、乗っているガンプラは単騎で宇宙要塞でも攻め落とす気かというような高火力仕様だった。

 ガンダム・ターミガン。〝雷鳥(ターミガン)〟の名が示す通り、ベース機はライと同じウイングガンダム。しかしカスタマイズの方向性は、完全に火力に振り切っている。先の砲撃でコロニー外壁をぶち抜いた、クァッドバスターライフル。両肩と両脚のミサイルポッド群。頭部と胸部のバルカン、マシンキャノン。その他にも大小さまざまなギミックが、機動性を損なわないギリギリのラインで満載されている。

 

「マスターに快適な部活動環境を手に入れてもらうためです。イマ、張り切っちゃいますよーっ♪」

 

 おそらくイマがコクピットでそうしているのだろう、ターミガンはテンションの上がり切ったイマがよくやっているように、ぶんぶん手足を振り回して謎のダンスを始めた。イマが踊り出すのは日常茶飯事だが、渋いアーミーグリーンで塗装されたターミガンでそれをやられると、かなりシュールだ。

 

「…………」

「……ぷ、ぷくく……ぷぷ……」

 

 踊るターミガンを渋い顔で見るライの耳に、必死で声を堪えるアンナの忍び笑いが聞こえた。出会ってまだ数日の付き合いでしかないが、ライはこの大人しい一年生の女子は笑いのツボがいまいちズレている上に非常に浅く、かつイマの奇矯(ききょう)な言動はかなりの高確率でツボに入ってしまうことを悟っていた。

 ライは唯でさえ不機嫌そうに見える眉間のしわをさらに深めつつ、コロニーの天窓にでかでかと表示された、生存ダイバー数表示を見上げた。数字は開戦時から約三割を減じており、残り209人となっていた。

 

(……ガトウのガトキャノン、イマのターミガン……そして俺のクァッドウィング。やや後衛が重いが、総合的には悪くはない、か……)

 

 ――峰刃学園高校ガンプラバトル部、本年度最初の一大イベント。全学年・全部員による〝バトルロイヤル〟。最後の一人になるまで、ではなく。残り120人になるまで続くこの戦いも、もう半分ほどが過ぎたことになる。

 

(……峰刃学園ガンプラバトル部部長、ヒビキ・ショウカ。遊び好きな女傑とは聞いていたが……聞いていた以上だな)

 

 ライは今また一人減った人数表示を睨みつつ、三日前の事を思い返した――

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「新入生諸君、初にお目にかかる――なーんていうのも、実にもどかしいものだぜ。なにせボクたちは未だに、現実(リアル)では顔も合わせていないのだから」

 

 私立峰刃学園高等部、ガンプラバトル部部長、ヒビキ・ショウカ。今、魔王城の最上階、玉座の間に集められた一年生を前にして微笑む彼女を語るに相応しい言葉は、星の数ほどもある。

 〝常勝無敗の冷血姫(ゼロ・トレランス)〟にして〝魔王城の主(ラスボス)〟、そして〝黒髪の戦女神(ヴァルキリー)〟。

 烏の濡れ羽色、という黒の最上級を表す言葉は彼女の髪色を表すためにあったのではないかと思うほどに、その流れるような黒髪は美しい。対して、その肌はどこまでも白く透き通っている。切れ長の流し目も、妖艶な微笑みも、絶世の美()女と言って――そう、少女だ。大人になり切れない幼さゆえの魅力というものを、彼女は僅かに残している――言い切って、差し支えない。

 GBN上の姿(ダイバールック)が本人の生き写しなのは周知の事実だが、だとすればGBNの読み取り能力(スキャニング)再現能力(モデリング)は称賛に値するだろう。

 ……しかし、

 

(人をダメにするソファだ……)(寝ぼけた仔猫並みの軟体だ……)(どんな角度で寝てるんだ、あの人……)(くつろいでるってレベルじゃねーぞ……)(ほぼソファに埋まってるじゃねーか……)(すっごい気持ちよさそう、あのソファ……)(部長さん、だらしなカワイイ……)

 

「まずは、自己紹介をしておくことにするぜ――ボクが部長のヒビキ・ショウカだ。よっろしくぅ♪」

 

 茶目っ気たっぷりにウィンク、そして横ピース。顔だけは何かキメ顔のようなものを作っていたが、ショウカは人をダメにするソファにだらしなく寝そべっていた。

 最強だと、無敗だと、伝説ばかりに期待を膨らませていた新入生たちは、みな一様になんとも形容しがたい表情で固まっている。

 不良三年生・サカキらによるひと悶着から小一時間。彼らへの熱血指導を終えた顧問が戻ってきたことを受けて、ガンプラバトル部新入生への入部説明会が始まった。数名いた二・三年生は新入生の案内と交通整理が済むと、そそくさと退出してしまった。部室に残された百名を超える新入生は、顧問が命じるままにPCを起動。このご時世にガンプラバトル部に入部しようという高校生がGBNアカウントを持っていないはずもなく、全員が全員、何の問題もなくGBNへとダイブ。峰刃学園のフォースネストに招かれ――今に至る、というわけだ。

 

「な、なんだか……噂に聞いていたのとは、違いますね、部長さん……」

「…………」

「あ、いや、その……ご、ごめんなさい……」

 

 ライはただ無言で頷いただけのつもりだったが、アンナはびくっと肩を震わせて俯き、怒られた仔犬のように縮こまってしまった。

 不良三年生たちから助け出されたアンナはコウタの案内で部室に無事戻ってきており、ライに何とかお礼を言おうともじもじしているうちに説明会が始まり、その流れで隣同士のPCを使うことになり、そしてそのまま何となく行動を共にしている状態だ。

 アンナは何とか会話を続けようと口を開きかけたり指先でくねくね宙をなぞったりしているのだが、声が出ない。ライはそれに気づきつつも何も言わない。

 そんな様子を見かねて、イマはどーんと全身でアンナに飛び掛かり抱き着いて、ほっぺをぎゅーっと伸ばしたり回したりした。

 

「んもー、何なんですかアンナさん! 言いたいことがあるちゃっちゃとなら言っちゃわないと、うちの無愛想むっつりマスターには伝わらないのですよー! この恥ずかしい白タイツは飾りですか! うりうりうりぃ~♪」

「ひ、ひまひゃん! にゃにゃ、にゃにしゅるにょ……ひゃ、ひゃめてくらはい……!」

 

 水着にロングブーツとロンググローブをつけたぐらいにしか見えないサイバーパンクな衣装のイマが、地球連邦軍の女性士官用制服をぴっちり着こなすアンナに絡みつき悪戯の限りを尽くす。

 

「おおっ、これは! アンナさん着やせするタイプなのですね! なんてウラヤマシイ! むきーっ!」

「ひゃん!? ちょっと、イマちゃん……だ、だめぇっ……や、やめてくださぁい……っ」

 

 おろおろしながら涙目で懇願するアンナ。調子にノってまさぐりまくるイマ。

 健全な男子ダイバーたちはその光景に目を奪われかけるが、ライからの凄まじい眼力とプレッシャーを感じ、そそくさと目を逸らす。

 

「……イマ、やめろ」

「にひひっ♪ いくらマスターといえど、今のイマの恥的、いや知的好奇心は」

「……リアルボディのバッテリーを」

「ンのおぉぉぉぉっ! オールハイルマイマスタぁぁぁぁっ!」

 

 イマはゲルマン忍法の如く大回転ジャンプ(シュツルム・ウント・ドランク)、ライの足元に片膝をついて頭を垂れた。ほぼ水着の女子小学生(にしか見えないエルダイバー)を足元に侍らせる軍服の男子高校生というそれはそれでヤバイ図式が出来上がるが、ライにそれを気にする様子は欠片もない。とりあえず窮地を脱したアンナは口の中でもごもごとライに「あ、ありがとう……ございます……」と言い、イマに乱された着衣を整えた。

 

「――とまあ、歓迎の挨拶はこのぐらいにさせてもらうぜ。そろそろ本題に入らなきゃあ、間延びしてしまってどうしようもないだろう?」

 

 ライたちが……というより主にイマがアンナに余計なことをしている間に、意外と話は進んでいなかったらしい。

 気持ち良すぎるソファからようやくショウカは立ち上がり、指を鳴らした。すると、魔王の玉座の下手側から、会議室にも普通によくある庶民的なホワイトボードがカラカラと運ばれてきた。

 ボードを運んできたのは、ほとんどイマと変わらないぐらいの体格しかない、小柄な二人の黒子。しかしその二人は、黒子と呼ぶには派手すぎた。ほとんど道化師のような恰好をして、道化師のような化粧をした、同じ顔の――しかし男女の二人組だった。

 

「持ってきたよ、ショウカ」

「ショウカ、持ってきたよ」

「ありがとう、アルル。ルルカ。まったくキミたちは本当によく働いてくれるぜ」

 

 ショウカはにこやかに双子の頭を撫でながら、どこから取り出したのか細いアンダーリムのメガネをかけた。そしてホワイトボード用マーカーのキャップを、きゅぽんと外す。その姿は、きっちり着こなしたネオジオンの士官服とも相まって、まるで童顔の女教師のようにも見える。

 

「それでは、説明させてもらうぜ新入生諸君――キミたちの最初の部活動だ」

 

 きゅきゅっ、きゅ。リズムよく、マーカーがホワイトボードの上を走る。

 白い板面に赤い筆跡で描き出されたのは――

 

「……ミネバ・バトルロイヤル?」

 

 ぽつりとつぶやいたアンナの声が、聞こえたかのように。ショウカはにやりと口の端を吊り上げ、好戦的に笑った。

 

「――さあ、新入生諸君。奪い合い(ゲーム)の時間だぜ?」




 ――と、いうことで。ブルーブレイヴ、第二話のAパートでした。

 イマが早くも作者の思惑を外れて暴走し始めております。そのおかげでまあストーリー進行の遅いこと遅いこと……ショウカの「間延びして」発言は、作者の自虐でもあります(笑)
 自虐と言えば、前作とのつながりアピールをしすぎたかな……と反省しております。前作とのつながりの多い拙作ではありますが、この作品単体でも読んでもらえるよう頑張ろうと思います。
 今後もどうぞよろしくおねがいします。感想・批評お待ちしています。お気軽にどうぞ!
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