ガンダムビルドダイバーズ ブルーブレイヴ   作:亀川ダイブ

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 ガンプラのアイデアばかりが閃いて、製作と執筆が追いつかない。そんな今日この頃ですが、第二話Cパートです。今回はDパートまでありますので、第二話はもう少しだけ続きます。どうかお付き合いください。



Episode.02-C『ウバイアイ ソラ ③』

「……〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟は便宜上、一位から十位までの順位付けがされている。けれど、その数字がそのままガンプラバトルの強さを表すわけではない」

 

 カツン。ショウカが慣れた手つきで置いた黒のビショップが、白のクイーンを倒した。

 

「んなっ……!?」

「ふふっ。次は先生の手番ですよ」

「ンなこたァわかってらァ!」

 

 一瞬、目を真ん丸に見開いて固まっていたナツキだが、気を取り直し、一秒も考えずにルークを走らせる。だがそのさらに一秒後には、ショウカのもう一体のビショップが、あっけなくルークの頭を押さえていた。

 

「ぐ、ぬ、ぬ……!」

 

 魔王城の最上階。フォースマスターの、つまりはヒビキ・ショウカの私室。そこはなぜか、十二畳ほどの和室だった。座布団に胡坐をかいて頭を掻くナツキと、すらりと背筋の伸びた正座で余裕の笑みを浮かべるショウカ。しかし、二人の間に置かれているのはチェス盤。形勢は、圧倒的にショウカが有利だ。

 

「貴女がいい例だぜ、アカツキ先生。かの〝黒色粒子事変(ブラックアウト・インシデント)〟の英雄であり、ボクと一対一(タイマン)を張れる数少ないダイバーでありながら……ボクが知る限り、貴女はずっと〝第八位(ミネバ・オブ・エイト)〟だ」

「べ、別にいいだろォが。気に入ってンだよ、その……〝第八位(エイト)〟って響きがよ」

 

 ナツキは言いながら頬を染め、目を逸らす。その理由をショウカは知らないが、学園きっての不良生徒すら震え上がらせるこの女教師が実はけっこうピュアな乙女だということは、学園中の公然の秘密だ。身の程知らずにも告白してきた男子生徒相手に大人の余裕であしらうようなことをせず本気で真面目に丁寧に断ったあげく遠回しに旦那とののろけ話を(ナツキ自身はそうと気づかずに、本当に男子生徒へのフォローのつもりで)聞かせて心を完全にへし折るという天然ぶりからも、それはよくわかる。

 ショウカは軽い微笑みを漏らし、何事もなかったかのように言葉を続けた。

 

「もちろん、獲得EP(エレメントポイント)によるランク付けではあるのだけれど――〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟同士の勝敗は、必ずしも順位によらない。ちょうどこのチェスのようなものなんだぜ、先生。要は、相性ですよ」

「わァーってるよ、ヒビキ。つまりアレだろォ? てめェは今、気になってるわけだ――例の転校生と、ヤマダの兄ちゃんの方との戦いが」

 

 ナツキは掌に顎を乗せて、長考の構え。ショウカは澄ました笑みを浮かべながら、本来なら床の間であるはずの壁面を占領する、大型モニターに目を向けた。画面の前では道化師の双子(アルル&ルルカ)がぺたんと畳に座り込み、お茶菓子をハロウィンパーティーの如く広げている。

 

「三年生、ヤマダ・アルベルト。〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟にして〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟……彼のジンクスⅣ・アガートラームは、防御・耐久力(タフネス)において〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟最強。このボクのダブルオーゼロですら、彼を一撃必殺とはいかないぜ。加えて、妹のことが絡んでくると、彼はもう手に負えない……ふふっ」

 

 ショウカは言いながら、目を細める。遠くを見るようなその表情は、見ようによっては陶酔しているようにも見える――強敵との激戦の思い出に、酔っているかのように。

 ちょうどその時、ようやく次の一手を思いついたらしいナツキが「これだ!」とさらにルークを走らせ、黒のクイーンを倒す。自慢げな表情を浮かべるナツキだったが、ショウカは盤面を見もせずにナイトを跳ねさせ、王手をかけた(チェックメイト)。ナツキはドヤ顔のまま顔色だけ青くなって固まってしまった。いつの間にか近寄ってきていたアルルとルルカが、けらけら笑いながら、「せんせー、ざんねーん♪」「よしよし、せんせー♪」とナツキの頭を撫でる。

 しかしショウカはそんなコメディなど一顧(いっこ)だにせず、戦場を映し出すモニターに――銀色の巨人(アガートラーム)と、四枚羽根の騎士(クァッドウィング)に、熱い視線を注いでいた。

 

「さあ、どんな戦いを見せてくれるんだい――〝正義の味方〟クン?」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

「なんだい、キミは。また邪魔者かな」

「通りすがりの、新入部員だ……イマ! ガトウ!」

「あいあい、マスター!」

「うぅ、撃ちまくりまぁすっ」

 

 ドヴァ、ドヴァァァァァァァァァッ! ドガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 凄まじい物量のビームと実弾が、コロセウムへと降り注いだ。闘技場の床面は一瞬にして耕されて土煙を巻き上げ、弾け飛ぶ土塊と炸裂する銃弾・ビーム弾が、誰も彼もの視界を奪う。

 

「……少し揺れるぞ、先輩」

 

 ライはエイハブストライクの襟首を掴み上げ、一方的に告げた。耳を(ろう)する銃声と爆音に掻き消され、それはコウタには届かなかったようで、返答はない。しかし構わず、ライはクァッドウィングの腕力に任せて、エイハブストライクをぶん投げた。

 

「え? あ、うわああああああっ!?」

 

 コウタは少しどころでなくコクピットの中で無茶苦茶にかき混ぜられ、コロセウムの観客席に頭から墜落。エイハブストライク頭部のV字アンテナは、四本すべてがぽっきりと折れてしまった。

 

『だだだ大丈夫ですか先輩っ!?』

「ああ、うん、平気だよシキナミさん……あの機体、転校生の、えっと、ヒムロ君……!?」

 

 珍しく取り乱した様子のシキナミに答えつつ、コウタはメインカメラを闘技場へと向けた。あの凄まじい弾幕は自分を離脱させるための目晦ましだったらしく、もう撃たれてはいない。闘技場の乾いた地面に立つのは、二機のガンプラ――ヤマダ・アルベルトのジンクスⅣ・アガートラームと、ヒムロ・ライのガンダム・クァッドウィングだけだ。

 

『そ、そうですか、平気ですか……じゃ、じゃあさっさと立ってください。いつまで寝ているんですか、本当に情けないですね』

「はは、手厳しいね……でも、エイハブストライクは足が限界だ。残念だけど……」

「お気になさらずですっ、先輩さん♪」

 

 何とか立ち上がろうともがくエイハブストライクの両脇に、二機のガンプラが着地した。イマのターミガンと、アンナのガトキャノン。両機とも、手に持った大型銃器の銃口から、細く白煙をたなびかせている。

 

「世のため人のため人助け、正義の味方の登場ですっ♪ あのデカ剣デカ盾シルバーやろーは、マスターとイマとアンナさんで、やっつけちゃいますから♪」

「せ、先輩には、あの時、助けてもらいましたから……恩返し、ですっ」

 

 一方的に送り付けた通信画面で、ばっちりウィンク横ピースをキメるイマ。アンナはポーズこそ決めたりはしないが、真剣な表情でコウタに告げる。コウタは素直に「ありがとう」と言いかけるが、それを遮るように、シキナミが通信に割り込んだ。

 

『何ですか、あなたたちは。バトルロイヤルで人助けなんて、とても正気とは思えません』

「し、シキナミさん、そこまで言わなくても……と言うか、僕のこともそう思っていたの……?」

『先輩は黙っていてください』

「は、はい……」

「ツンツンしたおねーさんですねー。イマ、悪いことなんてしませんよ?」

『ともかく、あなたたちをそう簡単に信用はできません。私の先輩に近づかないでください』

「ほうほう。私、()?」

『わわわ私()先輩に近づくなと言っているんです!』

 

 なんなの、この女子小学生は! なんで部活のバトルに小学生がいるの! なんでこんなのにペースを乱されなきゃならないの! 

 シキナミは内心の動揺を悟られないよう必死で鉄面皮を装いつつ、呼吸を整えた。ペースは乱れていても、口では刺々しくても、仕事はする。突然現れた三機に、敵対の意思はない。仮に、味方とマーキングしておく――そして、気付いた。レーダー画面に、アガートラーム以外の敵が出現していることに。

 

『先輩、敵増援です。九時上方、ミサイル来ます』

「迎撃は、私に任せてくださいっ」

 

 ガトキャノンのFCSが飛来するミサイルを捉え、肩口のマシンキャノンが猛然と火を噴いた。GBNはあくまでもゲームであり、ゲームバランス的な意味合いで、バルカン系の火器は自動照準補正(エイムアシスト)を大幅に高められている。アンナがばら撒いたマシンキャノンの弾幕は、的確にミサイルを射抜き、爆破。対艦クラスの大型弾頭だったミサイルは巨大な爆炎の花を咲かせ、コロセウムとコロニーの空を夕日のように照らしだす。

 

「お役に、立たなきゃ……お兄さまの、お役に……!」

 

 赤々と照らされた空の中を降りてくる、一機のガンプラ。芽吹いたばかりの新芽を思わせる、新緑色の艶やかな塗装。丸く盛り上がった肩に、すらりと伸びた長い脚部。曲線を主体とした優美なシルエットだが、その背部には太く長い対艦ミサイルが何本も並び、突き出している。煌く粒子を身にまとい宙に舞うその姿は、さながら降臨する女神のようだ。

 

「あの機体カラーに、対艦ミサイルの配置……パラス・アテネ……?」

『いいえ、先輩。敵機よりGN粒子反応を検出。OO(ダブルオー)劇中でイノベイターが使用したGNZシリーズ、ガッデスの疑似太陽炉です』

「何者であろうとも構いはしません! マスターとイマの間に割り込むような悪いガンプラはぁ――成敗ッ! なのです!」

 

 あまり似ていないライの声マネをしつつ、イマはターミガンの両手にクァッドバスターライフルを構える。アンナはガトキャノン背部のシールドブースターを外し、倒れて動けないエイハブストライクを守るように観客席へと突き立てた。

 

「サツキ先輩、これでなんとか耐えてください……恩返しになるよう、頑張りますからっ」

「ありがとう、ガトウさん……」

 

 その通信を最後に、エイハブストライクは全身のPS装甲が解除(ディアクティブ)された。撃墜判定こそされていないものの、右脚の損壊もあり、戦闘への参加はほぼ不可能だろう。

 

「お役に立つんだ……わたくしは、いつまでも……お兄さまのお荷物では、いられませんわ!」

 

 ターミガンとガトキャノンを見下ろす新緑色の女神は、一層激しくGN粒子を噴き出し、手に持った細長い槍のようなライフルを構えた。

 

「ヤマダ・フレデリカ……ガデス・アテネ! 参りますわ!」

 

 通信機越しに聞こえるフレデリカの声は、決意と、そしてどこか悲壮感に満ちていた。しかし、だからといって、戦いは止められない。イマとアンナはフットペダルを踏みこみ、それぞれの愛機を跳躍させた。

 

「ヒムロ・イマ! ガンダム・ターミガン! いっきまぁーすっ♪」

「ガトウ・アンナ。ガトキャノン・オーク……う、撃ちまくりますっ」

 

 

 

 

〔Gundam Build Divers BLUE BRAVE〕

 

 

 

 

 一撃必殺。それこそが、ライの流儀(スタイル)だ。

 超高推進力の四枚羽根が実現する、瞬間移動の如き稲妻機動。射程距離を犠牲に小型化し、威力と速射性に特化した超高出力ビーム兵器(バスターマグナム)。積極的に相手の懐に入り込み、零距離射撃を狙う戦法。全ては、一撃必殺のため。

 しかし、この戦いでライは、もう三度目となるバスターマグナムのトリガーを、引かざるを得なかった。

 

「……ッ!!」

 

 ドッ、ビュオォォンッ!

 アガートラームの側頭部を捉えた銃口から、圧倒的なエネルギー量が洪水の如く迸る――しかし、撃ち抜けない。さすがに無傷ではないが、有効打ともとても言えない。表面装甲が焼け焦げた程度の損傷だけで、アガートラームはまた大剣を振り上げた。

 

「良い攻撃だけれど、足りないね!!」

 

 大地ごと打ち砕く、豪快な叩きつけ。超重大剣は切っ先から柄頭まですべてが太く分厚く重く、一振りで絶大な破壊力を発揮する。それは単純な物理攻撃でしかないはずなのに、まるで爆発物でも仕込んでいるかのように闘技場の石畳が爆裂した。

 ライは稲妻機動で回避後退、無駄を承知で中距離からバスターマグナムを一射。しかし、拡散するビームの光を掻き分けるようにして、アガートラームはシールドを掲げ猪突猛進、突っ込んでくる。

 

「こんなものかい、転校生クン!」

「…………ッ!」

 

 叩きつけ、叩きつけ、薙ぎ払い、叩きつけ、直突き。軽量な片手剣でも振り回すかのような気軽さで、当たれば大破撃墜確定の超重大剣を繰り出してくる。左手の大型実体盾を反動制御(カウンターウェイト)に使い、まるで踊るような足さばきで、全身重装甲の巨人は暴れまわる。まるで一撃必殺のお株を奪われたような状況だが、ライは間一髪での回避を繰り返しながら、剣舞の隙を探り続ける。

 

「ははは! これではまた、愛する妹から尊敬されてしまうなあ! 兄冥利に尽きるというものだよ!」

「……そこッ!」

 

 横薙ぎの大剣を跳んで躱し、ウィングスラスターを四枚全開。慣性を無視したような常識外の鋭角で方向転換、そして突撃。銃口を突き付けるのは、先ほど一撃を加えた側頭部。しかし、

 

「甘いね!」

「くっ!」

 

 ガゴォォンッ!

 横薙ぎの反動を使い振り上げられた大型実体盾が、クァッドウィングの腹を突き上げた。文字通りの意味で腹の底から突き上げられる衝撃に、クァッドウィングは打ち上げられる。即座にスラスターを吹かして姿勢制御、追撃に斬り上げられた大剣の一撃を何とか躱し、距離をとって着地する。

 

(剣の方をカウンターウェイトにして、盾で攻撃……ッ! 見切られていた……ッ!?)

「ははは、良い攻撃だったがありきたりだね。一度当てた場所に重ねて攻撃――私の装甲を抜こうとした相手が、みな一度は試す手だ。重装甲相手の定石(セオリー)だけれど、常識(セオリー)過ぎて対策も簡単だよ。サカキたちを追い払ったと聞いていたから、どんなに刺激的な転校生かと思っていたのだけれど……意外と結構真面目なんだねぇ、転校生クン」

「…………」

 

 揶揄するようなアルベルトの言葉に、ライは無言でバスターマグナムを構えることで返す。

 

「そしてキミは本来、格闘型のガンプラ使いじゃあないかい? 挙動の端々に、きっと君自身もなんらかの格闘技の経験者であろうクセが感じられるね。ところで、そんなキミが次に狙ってくるのは、さっきと同じく側頭部か、右肩か、右脇腹だ。この三か所はすでにそのライフルを受けている。いくらこのアガートラームが鉄壁でも、その高出力のライフルをもう一度受ければ、確かにダメージは入るだろうからね」

「……よく舌が回ることだ」

「はは! すまない、楽しくてね! ようやく私と勝負の成り立つ相手が現れてくれて! なにせこの試合では〝最高位の十一人(ベストイレヴン)〟は先手厳禁、つまりは〝十一人〟同士では戦えないからね。キミのような新人が来てくれることを、望んでいた――の、さッ!!」

 

 アルベルトは涼し気な美貌に笑顔を浮かべ、フットペダルを蹴り込んだ。アガートラームは操作に応え、シールドを前面に掲げてホバー走行、土煙を蹴立てながら突っ込んできた。ライはアガートラームを真正面に見据えて腰を落とし、四枚のウィングスラスターを大きく左右に展開した。

 

(バスターマグナムですら抜けない重装甲。おそらく、GNフィールドも常時全面展開。二発目を同じ位置に当てさせてくれる相手でもない。ならば、狙うはやはり一撃必殺。装甲が甘く、GNフィールドの守りも薄い、一発で撃ち抜ける部位――バーニア・スラスターや太陽炉の開口部、そして関節。そこに、捻じ込めれば!)

「さあ、次はどうする! 転校生クン!」

「…………ッ!!」

 

 怒涛の勢いで迫りくるアガートラームに、ライはむしろ自分から突っ込んでいった。クァッドウィングは双両翼を広げて最大加速、大型実体盾に額を擦らんばかりの距離まで肉薄した。

 

(自暴自棄? 肉弾特攻? いや、違うな!)

 

 衝突寸前の刹那、アルベルトの視界から、クァッドウィングが消えた。そこに残るのは、鋭い稲妻を描く青いバーニア光の軌跡のみ。光の航跡は衝突直前の地点からアガートラームの側面を通り、背後へ伸びている。

 

(バックをとるか。本当に真面目だな!)

 

 アルベルトは多少の落胆を感じつつも、身体ごと豪快に反転しながら、シールドを横薙ぎに振り抜いた。ちょうど180度回転したところで、ガシャンと、シールドが何かを叩いた――しかし、軽い。軽すぎる。それもそのはず、大型実体盾に叩かれ砕け散ったのは、クァッドウィングではなく、バスターマグナムが一丁のみなのだから。

 

(囮っ!? 本体は……ッ!)

 

 青い光の航跡は、まだ続いている――アガートラームのさらに180度先まで、回り込んでいる!

 

「一周したのかあッ!?」

 

 アルベルトが背後からの一撃程度なら簡単に対応するであろうことを見越して、ライは振り向いたアガートラームの、さらに背後(・・・・・)にまで移動していた。クァッドウィングは石畳を蹴り砕いて踏み込み、まるで正拳突きを見舞うように、バスターマグナムを突き込んだ。狙うは、アガートラームの背面に特徴的な三角錐型を突出させる、疑似太陽炉のコーンスラスター部。

 

「……いただくッ!」

「まだだッ!」

 

 ドッ、ビュオォォンッ!

 迸る黄金色のビーム。しかしその奔流は、疑似太陽炉を直撃はしなかった。アガートラームはホバー走行でクァッドウィングから距離を取り、そして膝をつく。直撃こそしなかったものの、ほぼ零距離射撃に近い攻撃を受け、アガートラームの太陽炉は一部が黒く焼け焦げていた。GN粒子の出力は不安定になり、機体性能は全般的に低下。アルベルトの額には、今まで一筋たりとも流れていなかった冷汗が光っていた。

 

「はは……! ひやりとしたよ、転校せ……いや、ヒムロ・ライ君」

 

 シュルルルル、と硬質な金属音とともに、ワイヤーが巻き取られていく。超重大剣の柄に繋がるワイヤーの反対側の端には、オルフェンズ系のガンプラが装備するようなメイスが繋がっていた。

 

「この超重大剣(クラウソラス)仕込み武器(アンカーメイス)がなければ、今の一撃で終わっていたかもしれないね」

「くっ……!」

 

 バスターマグナム零距離射撃の瞬間、アガートラームはクァッドウィングに完全に背を向けており、剣も盾も間に合わない状態だった。しかし、大剣の柄(・・・・)は、クァッドウィングの方を向いていた。メイス型になった大仰な柄頭は、大剣の重量をいなす重り(カウンターウェイト)としてだけではなく、射出式アンカーとしても使えたのだ。

 射出されたアンカーメイスはクァッドウィングの左肘を直撃し、破壊。結果、乾坤一擲のバスターマグナムは狙いを外し、そして今、クァッドウィングの左腕はまるで意味をなさないプラスチックの塊となって、肩からぶら下がっているだけとなった。

 

「さて、状況を整理しよう――私のアガートラームは、疑似太陽炉を損傷し出力がダウン。機体性能は、二割減といったところだ。一方キミのガンプラは、片腕を失った。主武装も破壊されているとみるが、どうだね?」

「…………」

 

 バスターマグナムを二丁とも失い、さらに隻腕。状況は指摘されたとおりだ。ライは無言で唇を真一文字に引き締めつつ、アルベルトを睨み返した。

 

「……ふっ。キミは本当に素直だね、ヒムロ・ライ君。その無言が何より雄弁だよ」

「……だから、何だ。まだやれる」

 

 ライは静かに言い返し、コントロールパネルを何度かタッチして、部位破壊判定の下された左腕を排除(パージ)した。

 そして深く腰を落とし、右拳を固く握る。まるでGガンダムのような、徒手空拳の構えだ。バスターマグナムを失おうとも、ライにはまだ現実世界(リアル)で師匠から学んだ拳法があり、モビルファイター由来のフレームと関節構造を持つクァッドウィングは、ライの拳法に十分に応えてくれる機体だ。さらにクァッドウィングには、右腕さえ無事なら使える必殺技(ブライクニル・フィンガー)もある。

 

「はは、見立て通りだね。キミはやはり格闘家だったか」

「……もう一戦。手合わせ願いたい、先輩」

「ああ、喜んで。妹も見ているっていうのに、後輩に膝をつかされたままで終われないさ」

 

 アガートラームも立ち上がり、盾を捨て、クラウソラスを両手で構える。おそらく両手で剣を構えるその姿こそが、ヤマダ・アルベルト本来のスタイルなのだろう。GN粒子の出力は下がったなどと言いながら、その構えから感じる威圧感(プレッシャー)はむしろ強まった。

 

「あらためて、名乗らせてもらおう。〝第十位(ミネバ・オブ・テン)〟ヤマダ・アルベルト。〝重装番兵(パンツァーヴェヒター)〟ジンクスⅣ・アガートラーム」

「……ヒムロ・ライ。ガンダム・クァッドウィング」

 

 構える二者の間に流れる、束の間の静寂――しかしそれは、彼ら以外によって打ち破られた。

 

「きゃああああっ!」

 




 ブルーブレイヴ第二話Cパートでしたー!
 早くも長くなるが発症し、CまでのつもりがDパートへの突入が確定してしまいました。なるべく展開を早くしようとは努力しているのですが……どうか今後もお付き合いください。
 自分で書いておいてアレなんですが、シキナミさんがなかなかいいキャラを出せていると思うのですが、どうでしょうか。今後はイマあたりと絡ませて赤面からのコウタ先輩への照れ隠し罵り&お叱りとかのゴールデンごほうびコンボを決めまくりたいと思います。(笑)
 第二話が終わった後ぐらいで、ガンプラ紹介を載せようかと考えています。クァッドウィングはもう完成しているので、あとは記事を書くだけなのですが。どうぞご期待ください。
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