2016年 〇×月〇×日
この世界に訪れて数日が経った。柄ではないが今日から日記をつけることにする。わざわざノートに書いているのは、きっと誰かにこれを読んでもらうことを望んでいるからだろう。
さて。
ここでの俺の立場とてもいいとは言えない。素性が分からない上に未知の部分が多すぎるからだ。けどそれは、俺から見ても彼らはそう見えるし、まあお互い様としておこう。
ここはどうやら〈カルデア〉と言うらしい。聞いたことがない名だが、施設内の一部はほぼ同様だと思う。違うのは構成されている人間とあの〈カルデアス〉というでっかい地球儀。他にもあるだろうが立場もあるためほいほい出歩けない。
なのでまずはここでの居場所を確保しなければならない。
そのために先日、マリーとダ・ヴィンチ、ロマンの三人とある契約を結んだ。それは藤丸少年とマシュのお嬢ちゃんらと共に特異点の調査および修正に同行し協力すること。その見返りが〈カルデア〉での滞在と衣食住の提供を認めること。それに文句を言える立場ではないし、契約内容としては十分だろう。まあ不満があるとすれば、最終的にすべての問題が解決した際の金銭報酬がないことと、商売道具でもある銃と弾薬の補給がきかないことだ。武器はあるが弾薬が心もとない。最悪愛刀のこいつがあればなんとなるが、今後を見据えると現地調達も必要になってくる。
そのためには仲魔を増やす必要がある。
幸運なのはモッさんが居てくれたことだ。彼女が居れば、俺とモッさんで大抵の状況はなんとかなる。それでも戦力増加は必須。幸いにもまず一体は先の戦いで仲魔にすることができた。レベルは低いが戦い中で成長するのは実証済み。さらに悪魔合体プログラムも無事に残っているので、新たな悪魔が生まれる可能性もある。そこは実に楽しみだ。
即戦力にはサーヴァントが最適であると考える。ただ交渉はできても、はたして仲魔にできるのかが問題だ。俺からすればサーヴァントも悪魔だし、COMPも以前と同じような反応をしている。デミ・サーヴァントであるお嬢ちゃんもそれは例外ではなく、交渉次第では仲魔にできるだろうがそれは現状する必要ない、したら殺さるだろう。それにお嬢ちゃんも訳ありそうだ。なんていうか混じってる。元は人間だったのだろうか? モッさんが彼女を気に入っているのも関係がありそうだが、どうでいいので聞かないことにした。
とにかく、現地で戦力を補充。可能ならサーヴァントも仲魔にできれば上々といったところか。
それと、まだ状況が完全に把握しきれてないので多くの不安材料がある。
それは、この世界には聖杯があることだ。それもロマンたちの口ぶりからすると、この原因を生み出しているのが聖杯が関わっている、つまり特異点の数だけ聖杯が存在することになる。危険だ、一つだけでも脅威だというのにそれが複数となると余計に。
そしてここの所長であり、いまは仲魔になったオルガマリーことマリー。もしあの子が彼女ならこれはたぶん、罪悪感と贖罪から助けたのだ。
護らなくては。いくらあれに本来の力がなくとも、十分に危険なモノであることには変わりはない。無責任だが助けるにはこれしか方法がなかった。でも、うまくいった。
完全に人間とは言えないことに彼女は納得はしないだろうけど、生きているだけでも良かった、そう思っていることを祈る。
マリーだけは何があろうと護る。敵からも、そして彼女の仲間からも。
いまモッさんが言ってきた。どうやら新しい特異点が見つかったらしい。
なので続きは帰ってきたからだ。日付はたぶん、ちょっと飛ぶことになるだろう。
さあ、お仕事の時間だ。
追記。
マリーの胸とお尻の感触は相変わらずよかった。ほんと現実は非常である。あの子と交わした約束のもっこりが出来なかったことは、とても残念だ。
青い空と白い雲が広がる大平原。
そこに立つマリーは悟ったように空を見上げ、瞳を閉じる。
正直に言えば、次からのレイシフトは外れる予定だった。せっかく生き返ったのだから、しばらくは前線ではなく管制塔という安全な場所で指揮と取りたかったから。もちろん藤丸とマシュだけでは心もとないでの、自分達と協力するよう始と契約を結んだことで戦力については問題は解決。モードレッドもいるし、平気だろうと思っていたのだ。
ところがその始が言うのだ。
(お前も来い)
(なんでよ?)
(言っただろうが。お前は俺の仲魔なの。それにお前弱いから、鍛えないとまたすぐに死ぬぞ)
結論からすれば言い返せなかった。そのことについては何度も口論を繰り広げたし、なにより自分は弱いと自覚しているからだ。
それに強くなれるならそれに越したことはない。レフを殺すためには強くならなくてはならないからだ。
と、それらしい理由を自分に言い聞かせたマリーは何やかんだで新たな特異点である1431年のオルレアンのどこかへ降り立った。
いまは現在地と周辺の安全を確認しており、双眼鏡を持っていた始がその報告をした。
「はぇー。見渡す限りの大平原」
「見れば分かるわよ」
「なんかマリーってばピリピリ過ぎ? 胸、揉もっか?」
「ふん!」
「アッ!」
早業と呼ぶにはそれを超えた業前である。すでにマリーの身体は始のセクハラに即反応し、その手に魔力で作り出した木製の10tハンマーを彼が避けられぬスピードで母なる大地へと振ることで、当然始はよくある漫画のごとく足だけくをぴくぴくとさせながら大地にめり込んでいた。
マリーは手を叩きながら何事もなかったように言う。
「さて。まずはどう動こうかしら。無難に情報収集……偵察からしら? ロマンの方でなにか分からないの?」
『そうだね。この1431年がぼくたちの知る1431年とは限らない。そのためにも所長の言うようにまずは情報収集の案には賛成。ただ、ぼくが分かるのはそちらからの映像をこちらで解析したことでしか伝えれないし、一応レーダーのような役割は多少ながら果たせるはずだ。ちょうど生命反応が……魔力反応はないのでおそらくフランス兵かな?』
「でしたら、接触をして情報を聞き出しましょう。わたしが行ってきます」
「え、マシュってフランス語喋れるの?」
「ボンジュール、トレビアーン。ほら、言えます!」
「ねえマシュ。それ、意味分かってないでしょ?」
「……」
マリーに指摘されて顔を背けたマシュを見て話は振り出しに戻り「とりあえず私が――」と、言おうとした時にいつの間にか五体満足で立っていた始が口を出した。
「いや、俺が行こう」
「あんたフランス語喋れるの?」
「Bien sûr.それに、お前たちの服装だと余計に相手を混乱させるだろう?」
「それは……たしかに」
藤丸が自分たちの服装を見回しながら肯定した。どれも1431年の服装には見えず、この時代の人間から見れば貴族だと間違われても不思議ではない。
それに比べ始の姿はレイシフトした時の服装と違っていた。着ている上着の上に黒いコートを着ていたのが、今はボロボロのマントを装備していた。たしかにそれだけ見れば旅人と思われるとマリーらは判断し、彼の提案を受け入れた。
「じゃあ、ここで待ってろ」
言うと始は素早くかつ自然な流れでフランス兵と接触に成功したらしく、こちらに来いと手を振ってマリーらを呼んだ。
兵士たちが砦に戻るのでそれに同行させてもらいながらマリー達は始から説明を受けていた。
「シャルル王が死んだ?」
「らしいな。俺は歴史には詳しくないんでよくわからないけど」
「本来はシャルル七世が休戦協定を結んでいるはずなんです。なので、ここの砦を含めて兵士達がおかしいのも納得かと」
「なるほど。始さんそれで王様はなんで死んだですか?」
「あ、そうだったな。なんでも、魔女の炎によって焼き殺されたんだと」
「魔女? それって誰なの?」
マリーが首を傾げながら訊いた。
「ジャンヌ・ダルクだってよ」
「僕でも知ってますよ。フランスの英雄ですよね」
「はい。彼女はわずか17才でフランスを救うために立ち上がり、わずか一年でオルレアンを奪回。後にイングランド軍に捕縛、異端審問の末に火刑に処せらてしまった人です」
「あとあれだっけ。神の声が聞こえたとかないとか」
「そうね。ジャンヌの逸話としてよく上がるのがそれ。彼女は神の啓示を受けてフランス軍に従軍し、戦に勝利して、シャルル七世の戴冠に貢献した。でもそれが同時に彼女が異端審問にかけられる原因ともなったの」
「どうしてですか?」
「当時は悪魔や魔女といった存在がとても根強くあったからじゃないかしら。ジャンヌの生まれは農夫であるし、そんな小娘が神の声を聞いたと信じようはしないでしょ? まあ宗教的な思惑もあるだろうけど、裁判ではジャンヌの口から言わせたかったのよ。私が聞いた声は神ではなく、悪魔でしたってね」
その生涯は19才と若さでこの世を去った。自分と左程変わらない年だというのに、比べ物にならない人生を送っている。後悔や恨みなどあったかもしれないが後に復権裁判が行われ、現代は名実ともにオルレアンの聖女となっている。
もし仮にジャンヌが王を殺したのが本当だとしても、後の時代を知る自分達からすれば簡単に受け入れられてしまうのが悲しい。
そこで始が下らなそうに口を出した。
「俺からすれば、神なんて下らないものを信じたアホな女だけどな」
「あんた、よくそんなことを堂々と言えるわね。信者の前で言ってみなさい、殺されるわよ」
「だって、本当のことじゃんか。世の中の男の頭部が禿げるのも神のせいだぞ。アレもハゲだったし」
「なにそれ。まるで本物の神様でも見てきたって感じ」
「いやそれは――敵だ」
『え?』
彼が言うのと同時にフランス兵の号令とロマンの報告が重なる。
『敵襲ーーーーー!!』
『魔力反応あり! これは……骸骨兵だな。いや、あと……』
「上だ。あれは……ドラゴン?」
始が敵の正体を告げながらも、周りの兵士は防衛体制に移っていた。彼は冷静に戦況を把握しているのか、マリー達に指示を言い渡す。
「とりあえずお嬢ちゃん少年は骸骨の相手だ。そこまで強い奴はいないから、戦いの中でそれの使い方を学んでこい」
「それって、これでしょうか?」
マシュは手に持つ盾を構えた。
「そうだ。ハッキリ言って、戦い方がなってない。経験も少ないのもあるが、まずそいつの使い方が下手くそ。ていうかさ、デカけりゃ良いってもんじゃないだろう。キャップを見習って、どうぞ」
「きゃ、キャップ? 誰ですか?」
「ふぁ⁉ 俺達のキャプテンアメリカを知らない⁉ たまげたなぁ……。ま、とにかくお嬢ちゃんは前衛で戦いつつ守れ。少年はお嬢ちゃんのサポートだ」
「わかりました」
「で、私は?」
「マリーは……少年よりマシってだけで糞雑魚ナメクジだから、今は魔法で援護してろ」
「鍛えるんじゃなかったの⁉」
「相手が悪い。骸骨だけだったらあいつらのど真ん中に放り投げるんだが、空にも敵がいるし危ない」
「そもそも、モードレッドはどうしたのよ? 彼女が居ればあいつらなんて楽勝でしょ!」
「モッさんを出すほどでもない。代わりにお前の護衛にスケさん付けとく」
『すけさん?』
三人とおまけにロマンの声がはもった。彼は左手を構え、叫ぶ。
「コール!」
謎の光と共に突如彼の前にこちらに向かってくる骸骨兵が一体現れた。姿形はこちらに向かってくる骸骨兵とうり二つでなんら違いが見当たらない
「ちょ、ちょっとこれあいつらと同じやつじゃないですか!」
「だ、大丈夫なんですか!?」
盾を構えるマシュの後ろに隠れながら藤丸は叫んだ。さりげなく腰のあたりを触って。
「大丈夫だって安心しろよ。少なくとも、マリーよりは強いから」
「は? 私、これより弱いっていうの?」
「当たり前だよなぁ」
「納得いかない」
ぐぬぬと現れた助さんを睨みつけるマリーであるが当のスケルトンはただ立っているだけで、骨らしく頭がちょっとぶるぶると震えている。
「ていうか、始はどうするのよ? 」
「俺? スケさん、槍」
手に持っていたのは剣のはずなのに、気づけば槍を持ちそれを彼に渡す。始は見てろと言わんばかりに槍を構え、投げた。槍は真っ直ぐ人間が投げたとは思えない速度でワイバーンの群れへ向かっていく。
上空にいるワイバーンとの距離はざっと数百メートル。その一体のワイバーンの首に槍が突き刺さり、そのまま地上へと落下していく。
「こういう事。じゃあ行動開――」
『火の玉が来るぞーーーー!!』
フランス兵の迫真の声に始の声はかき消されてしまった。どうじに空からワイバーンによる無数の火球が放たれる。場所はマリーらいる周辺に着弾し、城壁やフランス兵が設置していたテントなどを吹き飛ばす。しかしそれは物だけには終わらず、不運にも兵士にも火球が直撃あるいはその火を浴びてしまい体が燃え始めてしまっている兵士もいた。
もがき苦しみながら何とか地面を転がりながら火を消そうとするも消さない。周りの兵士はそれを助けようとはしない、目の前のことで精一杯だからだ。そんな時、一人の女が大きな樽を片手で持ちその中に入っていた水をぶちまけた。
「ぶはっ! はぁはぁはぁ……あれ、火が消えてた⁉ ……あなたは!」
兵士は自分を助けた人物を見て声をあげた。フランス兵なら誰もが知っていて、本来ならいないはずの人間が。
「兵たちよ! 水を被りなさい。そうすれば、少しは火の玉を和らげることができるでしょう! 武器を持てる者は武器を持て! 全員――私に続きなさい!」
突然現れた女は兵たちを奮い立たせ、前線へと走っていく。どういう訳か兵士たちはそれに賛同して共に戦場を駆けていく。
女はその手に旗を掲げながら。
それを見ていたマリーは思わず惚けていた。あまりにも急な流れでついていけなかったらしい。しかしそれも隣にいる男が現実に引き戻させくれた。
「おお! 素晴らしき金髪もっこりちゃん! まさかこんな場所で、あんなもっこり美人に出会えるなんて……。あのふくよかな胸、なんと言ってもちらりと見える太ももがセクシー! 何としてでもお近づきにならなければ……!」
これはもう病気だ、いや、そうに違いない。風邪を引いて咳をするように、こいつは美人を見ればもっこりと叫ぶ病気なのだ。
どうすればこいつを治療できるだろうかと考えるも、答えは一つしか思い浮かばなかった。
「このもっこり魔人――!」
その手に10tハンマーを持って始に振りかざそうとしようとした時、負傷していた兵士がある言葉を漏らした。
「あ、あれは……ジャンヌ・ダルク⁉ そんな、
「……」
するとどうだろう。恐らく彼女に格好いい所を見せようと戦場に駆け出そうとしていた男がなんと、その場に止まりこちらに引き返してきた。がっくしと頭を下げ、背中に重い荷物を背負っているかのようにその足取りは重い。
「ちょ、ちょっとどうしたのよ。いつものアンタなら問答無用でいくのに……」
マリーは初めて彼を心配した。自分でも驚くぐらいに。
「ああそうだよ、でも彼女はダメだ」
「ど、どうして」
「俺、宗教関係の人とは付き合わない主義なの。ていうか懲りた」
「何よ。なんか嫌なことでもあったわけ? その……勧誘とか」
宗教関係と言ってすぐに思い当たるのがそれだけだった。我ながら人生経験が足りないと思う。しかし彼は首を横に振った。
「シスターといい雰囲気までいってホテルまで行ったら、実は潜入してたサキュバスで逆レイプされた」
「……は?」
「天使以外を連れていたら冷たい視線をもらうし、仲間というか最初は利害の一致で旅してたけど、最終的にはいい感じでこのままゴールイン~みたい流れだったけど、最後には裏切られて、けどあなたのことを愛しているわ、でも穢れているから殺して私が新生させてあげるとか言われる始末……。そういえばあいつも聖女だったわ。ファック!」
「なんか凄く需要な単語がちらほら出て気がするけど、それ以上に呆れて心配した自分がアホらしくなってきた……」
「だからマリー」
始はコロッと表情を変えた。今度はすごく真面目で、知らぬ女が見たら『きゃーカッコイイ!』なんて声をあげそうな感じ。
だがそんなものは通じない。
「なによ」
「俺を慰めてーーー!!」
「ふん!」
「アッ!」
10tハンマーは綺麗な弧を描きながら再び始を地面とキスさせた。隣でそれを見ていた兵士が指を指しながらたずねてきた。
「だ、大丈夫なのか?」
「あ、いいの。こいつ死なないから。さて、私も行きましょうか。スケさんだっけ? 護衛よろしくね」
最後まで一部始終を見ていたスケルトンは彼女の問いにコクコクと頭を震わせて答えた。それを確認したマリーは、すでに前線で戦っているマシュらと合流するために駆け出した。
残された兵士は未だにハンマーに押しつぶされている始に恐る恐る声をかける。
「あ、あんた生きてるのか……?」
それに応えるかのように地面から右手が出てくると、彼はグッと親指を立てた。