オルガブレイド   作:シン・ファリド

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今日クリスマスイブやぞ 予定なんてねぇよ


第2話 機械仕掛けの人形[ブレイド] 第6節 「鉄の華、起動」

「ニアとビャッコさん、それにオルガさんが処刑されるなんて...」

 

耳のついた変なパーカーで姿を隠しながら情報収集して、捕まった皆は近日中に処刑されるってことがわかった。

あと、ニアって名前が十数年前のエチェル?ってとこの領主と何か関係があるみたいな話をしてる人もいたけど、そこはまあどうでもいいや。

 

「入港した軍艦の中というのがまたやっかいじゃな、どうやって助け出したもんか」

「軍港はケーカイゲンジューだも」

 

机の上にトリゴの街の地図を広げて、作戦を考える。

 

「やっぱりここは男らしく正面突っ...」

「だめです!皆が危険な目にあっちゃいます」

「そうだよレックス。それはダメだ」

「まぁ...そうだよね」

 

まあ、もし正面突破しか方法がないなら、俺が全部の敵を片付けるけどね。仲間を守るために、出来ることをやるのが俺の役目だ。

 

「...ここ、これ大樹の根っこですよね?この図が正確なら、岸壁から伸びた根が船底まで続いてるみたいです。そしてこれが、船底の物資搬入口。ここから入れないかしら?」

「なるほど、根を伝って船底の搬入口からか」

「そこなら警備も手薄だも。おまけに、夜は物資の搬入やってないも」

「決まりみたいだね」

「じゃな」

 

どうやらもっと安全に入れそうな場所があったみたいだ。だけどどちらにせよ戦闘は起きるだろうし、準備はしておかないと。

 

「もっふっふー」

「トラ?」

「皆に見せたいものがあるも」

 

トラ、一体どうしたんだろ。もしかして、さっき言ってたある作業ってやつのことかな?

 

「これが、誰にも見せたことのないトラだけの秘密...人工ブレイドなんだも!」

 

トラがカーテンを捲ると、そこにいたのは俺達とそんな変わらないくらいの大きさの女の子...いや、人型の機械だった。

 

「人工ブレイド?」

「トラは、ドライバーに憧れてたも。でもトラには...トラにはドライバー適性がなかったんだも...」

「何でそんなこと決めつけるんだよ。そんなのやってみなけりゃ...やっちゃったのか?」

「トラは一年前、ドライバースカウトに志願したんだも...」

「ダメだったんだ...」

 

俺達全員の頭の中に、さっきのドライバーになろうとした人が失敗して全身から血を吹き出した光景が浮かぶ。

 

「トラくんもあんな目に...」

「そうだも...三日三晩、鼻血が止まらなくてたいへんだったも」

「そ、それだけ...?」

「それだけじゃすまないも!鼻血だって、出血多量で死ぬこともあるも!」

「聞いたことないなぁ...」

「ま、それは置いといても」

「置いとくんだ...」

 

鼻血で死ぬ...

...オルガじゃん。

 

「とにかくこの人工ブレイドが完成すれば、適性がないトラでもドライバーになれるも」

「しかしすごいもんじゃの、トラ。お主が一から作ったのか?」

「作り始めたのは、じいちゃんと父ちゃんだも。でも、じいちゃんは死んじゃって、父ちゃんもどっかへ行っちゃったも...だからトラは、こいつを完成させて、ドライバーになって大活躍するも!そしたら、噂を聞きつけた父ちゃんも帰ってきてくれるも」

「トラくん...」

 

じーさんの質問に答えるトラ。トラも親がいなくなって1人か...この世界にもそういう人って多いのかな?

 

「ところでトラ...この人工ブレイド、見たところほとんど完成しているようじゃが、後はどうすればいいんじゃ?」

「もっふっふー、後は足りないパーツをいくつか買ってくればいいも。でもトラ、お金ぜんぜん持ってないも」

「えーっ、マジで!?ぜんぜん?1ゴールドも?」

「すっからかんも」

「...レックス、ニア達は俺達で助けにいこっか」

「待ってくれも!!完成したらとてつもなくすんばらしい戦力になれるも!!」

「...つまりお金を貸してくれってことだよね。でも俺はこの世界のお金なんて持ってないし...レックスは?」

「金額によるなぁ...」

「あ、貸すんじゃなくて出してくれたらもっと嬉しいも」

 

...ちゃっかりしてるな。ノポンって、お金にがめつい種族なのかな...?

 

「...で、いくらいるの?」

「だいたい6万ゴールドも」

「ろくまんっ!?さすがにそれは...」

「ねぇ、レックス。トラくんにも手伝ってもらいましょう。お金だったら、私が何とかするから」

「何とかするって、どうするの?」

「まっ、まさか身体を売っ...」

 

ピギュッ

 

「ちょっと...黙ってろ...!」

「冗談だったんじゃ...」

「ったく...いい加減にしろ、クソジジイ!」

「ふ、2人とも落ち着いてください。気にしてませんから...それよりも、これを」

 

じーさんの胸ぐら...は小さすぎて掴みにくいから、頭を掴んで怒ってた俺と、同じ怒っていたレックスを抑えつつ、ホムラが右耳のピアスを外す。

 

「天然物だから、売れば6万くらいにはなると思う」

「だめ、そんなの受け取れないよ」

「でも...」

「ええい、オレも男だ!わかった!パーツ代、全額オレが持つ!」

 

皆の反応からして大金なのは間違いないんだろうけど...レックスのそういうとこ、なんかオルガみたいだな。

 

「ももーっ!アニキは男の中の男もーっ!」

「その代わり、ヘンテコなブレイドだったら承知しないぞ」

「それは任せても」

「よし、じゃあ行くぞ!」

「もーっ!」

 

俺とホムラは、正体を隠すのに使ったパーカーをもう一度着て、レックス達を追いかけた。

 

「...勢いに任せて外に出たのはいいけど、人工ブレイドの完成には何が必要なんだ?」

「かんぺき測距センサ一個と、ビヨンコネクタが三個必要も」

「聞き慣れない単語ですね」

「かんぺき測距センサは人工ブレイドの目の役割の補助に使うも。これが中々高価な素材なんだも。で、ビヨンコネクタは色々用途はあるけども、主に帽子が落下するのを防ぐも」

「...その辺の紐でいいでしょ、それ」

 

つい本音が出ちゃった。他にまともな用途があるんならいいんだけど...

 

「それで、どこのお店で売っているんですか?」

「雑貨屋マージャも!トリゴの街に入って少し左手に入った所にあるも」

「そこなら前を通ったことがありそうじゃな」

「よし、出発だ!」

 

 

 

 

 

「...で、どうする?」

「ビヨンコネクタはサルベージするとして...問題はかんぺき測距センサじゃな」

 

雑貨屋マージャに向かった俺達は、店員のサレスって人から話を聞いた。

どうやら、ビヨンコネクタはサルベージで取れる上に、今は取れやすい時期らしい。

けど、かんぺき測距センサ...長いなぁこの名前。センサでいいや。

で、センサの方は、在庫が無いみたいで、レックス曰くサルベージで取れるっていう話も聞かないみたいだ。

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

広場でどうするか考えてると、後ろからグーラ人の大男が話しかけてくる。

 

「俺はチェパーン、植物学者でな」

「植物学者!?人は見かけによらないも!」

「トラ、失礼だ...」

「もっ!?ごめんなさいも」

「いいさ、よく言われるからな...実はラスカム離島へフィールドワークに行きたかったんだが、モンスターがいて引き返してきたんだ。そこで帝国軍に依頼したが、忙しいらしく取り合ってもくれねぇ。それで、腕の立ちそうなアンタ達に依頼すれば容易い仕事じゃないかと思ったんだ。頼みを聞いてくれたら、倉庫に眠ってるかんぺき測距センサをくれてやるが...どうだ?」

「渡りに船ですね」

 

モンスター退治ぐらいならいくらでもやってやれる。となれば、決まりだ。

 

「じゃあレックス、サルベージの方は任せる」

「あぁ!三日月、そっちは頼んだよ!」

「トラもついていくも!」

「では私はレックスの方に」

 

そして俺達は、俺、トラと、レックス、ホムラ、じーさんの二組に別れ、出発した。

 

 

 

 

 

「あれがチェパーンって人の言ってたモンスター?」

「そうだも。トラも一緒に戦いたいけど、囮かエサになるくらいしかできないも...」

「いや、トラはそこで見ててくれればいいよ。俺が倒す」

 

それだけ言って、まずはメイスを投げつける。

敢えてモンスターの手前に落として、砂煙を起こす。それが目くらましとして機能している内に飛び込み、地面に刺さったメイスを引き抜きながら跳び上がる。

そして、落下の勢いを乗せてメイスを叩きつけると、モンスターは倒れていた。

 

「で、俺の弟子になるんだっけ。なんか参考になった?」

「...一瞬すぎて参考にできないも」

「え?あー...ごめんな?」

 

 

 

 

「お...戻ってきたか。無事ジュペン・クライブを倒してくれたようだな。俺の見る目は間違ってなかったってこった。これが約束のかんぺき測距センサだ」

「うん。ありがとね」

 

で、あとはレックス達が戻って来たら...って行ってたら来たみたいだ。じゃ、トラの家に戻るとしよう。

 

 

 

 

「よし、終わったも!後はエネルギーチャージして起動すればいいも」

 

手に入れた部品を取り付ける作業が完了したみたいだ。いよいよ人工ブレイドが動き出すみたいだ。

 

「ニア達が処刑されてしまうまでもう時間がない。急ぐんじゃ、トラ」

「うん、わかったも。人工ブレイド、お前が目覚める時がき...」

 

そう言いながらトラが手...に見えなくもない羽?を起動の為のレバーに手をかけたその瞬間。

 

「ダメよトラくん」

「え、な、何でだも?」

「人工ブレイドなんて呼んでたら、かわいそう。ちゃんと名前をつけてあげて。トラくんが考えた名前を...」

 

なんで止めるのかと思ったけど、そういうことか。

名前は大事だもんね。人工ブレイドなんて呼び方、確かに駄目だ。

 

「そ、そうかも...実はトラ、もう考えてあるも。こいつの名前...」

「そっか。じゃあ迷うこともないな」

「だね。じゃあトラ、始めて」

「わ、わかったも!」

 

気を取り直して、今度こそ本当に起動するみたいだ。

 

「さぁ、目覚めろも...トラだけの人工ブレイド、ハナッ!」

 

トラがレバーを引くと、目の前の少女を模したロボットが動き出す。

 

「...おはようございますっ!ご主人さまっミ☆」

 

...何これ。いや、ほんとに...何これ?

レックス達も唖然って感じだ。そりゃそうだよね。

 

「ちょちょちょ、ちょっとまったもー!!い、今のはナシも!せ、設定を間違ったもー!!」

 

慌ててトラが機械を弄り、人工ブレイド...ハナを一旦停止させる。

 

「こ、こんどこそ大丈夫も!そ、それでは気を取り直して、スイッチオンだも!」

 

トラが再びレバーを引き、ハナも再び動き出す。

 

「おはようございますも、ご主人」

「せ、成功だも!これがトラの自信作!セカイ初の人工ブレイド、『ハナ』だもっ!」

「おおーっ」

「すごい!」

「こりゃたまげたわい」

「うん。こんなこと、オルガにだってできない」

 

今度こそ成功みたいだ。さっきとは別人みたいだけどね。なんであんな設定にしてたんだろ...

 

「どうだもー?感心したもー?トラ、すんごいもー?」

「ああ、ホントすごいやトラ!いやぁ、さっきはびっくりしたよ。てっきりそういう趣味なのかと...」

「ト、トラにそんな趣味があるわけないも!ア、アレは...そう!センゾーじいちゃんの趣味も!きっとそれが残ってたんだも!」

「ほんとーですか?」

 

ホムラが凄い疑うような目でトラをじーっと見る。

 

「ほ、ほんとー...も...ももっ!?」

 

トラは必死で誤魔化そうとしてたんだけど...急に叫んで別の方向を見るから何かと思ってそっちを見た。そしたら...タンスから人間用の...確か前行った世界じゃ『メイド服』って呼ばれてた奴が転がり落ちてきていた。

...って、やっぱりそういう趣味じゃん。

 

「...ということだそうなので。レックス、三日月さん。行きましょう、ニア達を助けに」

「ああ、急ごう」

「だね」

 

いよいよ救出開始だ。ちょうど今は夜だし、行くしかない。

 

「というわけで、ハナですも。今後とも、よろしくなのですも」

 

ハナがこっちを向いて、礼儀正しく一礼する。

うん、こっちこそよろしく。


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