オルガブレイド   作:シン・ファリド

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第3話 戦 第6節 「極と書いて、アルティメット」

「おうお前ら。どうした、こんな朝っぱらから」

 

ヨシツネの襲撃から、一夜が明けた。

俺達は、ヴァンダムさんと兄貴のとこに来ていた。

というのもニアが、「ヨシツネ達との事を話しておきたい」と言い出したことから始まり、ミカが「じゃあ俺もついてく」と言い、俺も俺もって感じで最終的には全員ついてくことになったって訳だ。

 

「昨日は助かったよ、アンタ達がいてくれて。それでね、あのヨシツネって奴、あいつのことなんだけどさ...アタシさ...」

 

そこまで言って、ニアが俯く。

昨日聞いた話じゃ、傭兵団もイーラの連中に襲われたことが何度もあるらしい。そんな奴らと元仲間とか、そりゃあ少しは感じるところもあるよなぁ。

 

「実はあいつと、なか...」

「傭兵をやってるとな、色んな事情を持った奴と出会うんだ」

 

でもしっかりと向き直って、二アが正直に言おうとしたその時、ヴァンダムさんがそれを遮って言った。

 

「国のため、家族のため、金のため...様々な理由で戦ってる奴らとな。中には、女と男なら女を取るだろ?なーんて言って女のブレイドをたくさん連れてる奴もいるし、後はそうだな...胸に妙なクリスタルこさえて、彼女のためだー...なんて変わった奴までいる」

 

前者は兄貴か。で、後者は...

 

「オ、オレ?い、いや、オレはただ...」

 

照れくさそうにレックスが頭をかく。

 

「ニア、お前は今、こいつらと共にいる。ならそれでいいじゃねぇか」

「ヴァンダム...アンタは...」

 

なんだよ...いい話じゃねぇか...

 

「それより、レックス、オルガ。楽園に行きたいって言ってたよな?」

「あ、はい...」

「でも、世界樹にあんなのがいたんじゃ、誰も近づけないよ。商会の飛行船で渡ろうとしても墜とされちゃうだろうし...」

 

サーペント...あいつがいる限りこっちに勝算はねぇ。どうにかして退いてもらうか、気づかれないように行くか...

 

「インヴィディア王都に俺の古い知り合いがいる。そいつなら、行き方を知ってるかもしれん」

「ほんとに!?」

「ああ、ちょうど王都に行く用事がある。ついでに紹介してやるよ」

「ありがとう、ヴァンダムさん!」

「なぁに、これも何かの縁だ。気にするな。...じゃ、準備が出来たら村の正門に来い」

 

 

俺達は準備をする為に一度その場を去る。

...ん?兄貴、ニアを呼び止めて...

 

「ニア。お前、好きだって思う誰かはいるか?」

「はぁっ!?何聞いてんのさ急に!」

「落ち着けっての。...いいか?女ってのは、太陽なんだ。太陽がいつも輝いてなきゃ、男って花は萎びちまう。だからもし、そういう人がいるんなら...そいつの太陽になってやれよ」

「...ま、まぁ...覚えとく」

 

...よく聞こえねぇが...まあ、盗み聞きの趣味もねぇし、いいか。

んじゃ、さっさと準備して、王都に向かうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、出発するか。名瀬、留守中頼むぜ」

「任せとけ。にしても...ヴァンダム、生き生きしてるな?」

「へへ、まぁな。頼んだぜ」

 

俺達一行は村を出て、首都「フォンス・マイム」を目指して歩き始めた。

そして...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーケディアへと向かう定期便...此処には多くのコアクリスタルがある。

だがこの船を向かわせる訳にはいかない...これ以上奴に勝手させない為にも。

 

向かってくる兵士達。俺は黄金に輝く双剣を引き抜き、すれ違いざまに斬る。

所詮はその程度...個人の持つ唯一絶対の力の前では、只の兵士など無力と化す。

 

船内を歩き、角を曲がると...ブレイドを従えた兵士が待っていた。

 

実力差も理解できないドライバーと共に戦わなければならないブレイド...

哀れなものだな。せめてこの手で...終わらせてやろう。

目の前のドライバーを雷のエーテルで一掃する。ブレイド達は、皆クリスタルへと戻っていく。

 

そして最後の扉を、文字通り切り開くと、予想通り大量のコアクリスタルがあった。

 

これでまた、俺達の理想へと近づけた...

 

...さあ、新しい時代の夜明けは目前だ...!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構歩いたんじゃねぇか...?」

「いや、まだフォンス・マイムまでは遠いな。どうしたオルガ、もう限界か?」

「なっ...そんなこと!」

「ハハッ、元気そうで何よりだ」

 

村を出てからだいぶ歩いた。道中にはモンスターもうじやうじゃいるし、ここまで来るのにも時間がかかったが...どうやらまだまだらしい。こりゃあ骨が折れるな...

 

「天の聖杯の噂、ほんまもんみたいやなぁ」

「誰だ!?」

 

どこからともなく聞こえてくる声。その直後、俺達の前にフードを被った男と女の二人組が現れる。

 

「ガキのくせにいっちょまえにしよってからに、ボンには荷が重いわ。ワイが天の聖杯のドライバーになったるさかい」

 

そこまで男の方が言い終わると、二人組は全く同じ動きでこっちを指差し、男が言った。

 

「その娘、今すぐ渡しぃや」

「...え?何?ヴァンダムさん、またあのくだりやるの?」

 

確かに兄貴もフード被ってたが...こんな胡散臭くは無かっただろ...

 

「俺はあんな奴知らんぞ」

「ふぅん」

 

やっぱそうだよなぁ...ほんとにあいつ何者だよ...?

と、思ってると、その二人組はフードを上げて顔を見せる。...やっぱり知らねぇ顔だけどな。

 

「まさか、お前は...!...誰?」

「知らねぇのかよ!いや俺も知らねぇけど!」

 

ついツッコミをいれる俺。一方向こうは...ズコーッて音が似合いそうなよろけ方をした後、体制を立て直した。

 

「ワイのことを知らんやと...?おんどれどこのドライバーや!」

 

上に腕を振り上げたりこっちを指差したり。いちいち動きが大袈裟だなこいつ!

 

「ワイの名は...ジーク!B!(アルティメット)!玄武!極と書いてアルティメットと読む!アルスト最凶のドライバーや!」

 

またしても大袈裟な動きと共に名乗る男。っていうか名前長いな!

しかし、それでもまだ満足しないのか、男...ジークは喋り続ける。

 

「ワイのブレイド、サイカが剣!紫電参式轟の!サビになりたいんやったら...かかってこんかぁい!」

 

背中の大剣を引き抜き、構えるジーク。

...ん?ちょっと待て?

 

「獅電...?まさかMS!?」

「多分字が違う。オルガ、ちょっと黙ってて」

「...すみませんでした」

 

相変わらずミカは厳しいな...しかしミカが文字の違いを分かるようになってるのも、嬉しいもんだな。教えて貰っといてよかったな、ミカ。

 

「...いや、いい」

 

そんな俺の小さな感動の余所で、レックスはジークを無視して通り過ぎようとしていた。しかもホムラ達も行っちまうもんだから少し可哀想になってくる。

 

「い、いいって...あー、ちょ、ちょ...おんどれ、ちょっと待ていや!」

「何っだよ!めんどくさい奴だね!」

 

凄まじいスピードで回り込んでくるジーク。

...少なくとも足の速さは最強、ってことか?

 

「ぐっ...お前ら、ワイら三人をなめとんのか?」

「三人って...二人じゃん。あと一人は?」

「あぁ?決まってるやんけ。ワイらのアイドル、このカメキチがみえへんのか......てあれ?カメキチ?カメキチどこいった?」

 

服の中を探り始めるジーク。が、どうやら目当てのものは見つからなかったらしい。

 

「カメキチィィィィィッ!」

「...何これ」

 

あぁ、ミカが飽きてきてるな...銃は出すなよ...?

で、そのカメキチっての、折角だし少し探してやるか...

 

「...あっ?かわいい...!どうしたの?こんなところに君一人で」

 

ホムラがしゃがみ込んで手を出す。立ち上がったところでホムラの手元を見ると、亀がいた。まさかカメキチってこいつか...?

 

「あーっ!カメキチ!何勝手に触っとんねん!」

 

やっぱりそうらしい。絶妙に気持ち悪さを感じる走り方でこっちまで来ると、ホムラから亀を奪い取って帰って行く。

 

「...あいつ、ホムラごと連れてけばいいのに、何でワザワザ亀だけもってったんだ?」

「さぁ...バカなんだろ」

「...!!...ま、まぁええわ」

 

亀をブレイドのサイカと一緒に愛でていたジークが、バカと呼ばれたのに気づき、ショックを受けたような顔でこっちを向く。

 

「とにかくそいつはワイのもんや!いややったら実力で、このワイを倒してみぃや!」

 

再び大剣を構えるジーク。その顔は...心なしか、カッコつけてるように見え...

 

「うわっ!こいつマジモンだ!」

 

ニアには見事、やばい奴として認定されてしまったようだ。とにかく、倒さなきゃ進めねぇなら、やるしかねぇな!

 

「ミカ!援護頼むぜ!」

「分かってる」

 

ミカから力が送られてくる。俺はメイスを握り締めジークに向かっていき、振り下ろす。

...が。

 

「『破天剛勇爆雷昇(スカイハイブレイブサンダー)』!」

 

ジークは雷を纏った大剣をアッパーするように振るい、俺の攻撃を迎え撃つ。っていうか技名まで長ぇなぁ!?

 

「じゃあ次はオレが!『ソードバッシュ』!」

「甘いで!『超絶迅雷閃光斬(ダイナミックスパーキングソード)』!!」

 

レックスが剣を構えて突っ込むも、ジークの一撃で弾かれ、そのまま二撃、三撃と喰らってしまう。

 

「うわぁっ!」

「レックス!『ヒーリングハイロー』!」

「っとと...サンキューニア!」

 

すかさずニアが回復のアーツ。ほんと、頼りになるなあの力!

 

「トラとハナで引きつけるも!こっち向くもー!」

 

トラがいつぞやのゴズ戦で使用した仮面を装備する。何でも、「ノポンの仮面」って代物で、モンスターの注意を逸らすことができるらしい。けど...

 

「待って、あいつはドライバーだから通じないんじゃ」

「もっ!?確かにも!」

 

やっぱそうなるか!やっぱり駄目か...?

 

「...なんや、無性にあのノポン族攻撃したくなってきたわ」

「...なんで通じてんだよ」

「さぁ...バカなんだろ」

 

ひっでぇ言われようだなぁ...まあこっちとしてはありがてぇが。

 

「言ってる内に背中向けたぞ!アレやるぞアレ!レックス、ニア!」

「あ、昨日やったやつか!分かった!」

「なら、まずはアタシが...!崩れろぉっ!」

 

ツインリングを手にしたニアが、隙を見せたジークの背中を斬る。

 

「おっととと...やってくれるやんけ、こっちも反撃させてもらうで...っ!?」

「させない、よっ!」

 

続けてジークの足下に向かってレックスがアンカーショット。そのまま足に巻き付け、引っ張って転ばせる。

 

「『ブレイク』からの『ダウン』...上出来だな!折角だ、続きも見せてやる!...『マッスルスマッシュ』!」

 

ヴァンダムさんがツインサイスを手にダウンしたジークに近づくと、上に打ち上げるように武器を振るう。

 

「なんやなんや!?降ろしぃや!」

「トドメだオルガ!やっちまえ!」

 

風のエーテルの力か、ジークは宙に打ち上げられたまま滞空している。

...じゃあ望み通り、地面に叩きつけてやるよ!

 

「うおらぁぁぁぁぁっ!」

 

気合いを込めて、一撃。メイスを思いっきり喰らわせ、ジークは地面へと落ちる。だが自称最凶は伊達ではないのか、即座に受け身を取り後ろへ下がる。

 

「な、なかなかやりよるな...けどなぁ、ワイの究極アルティメット技を見たら、その薄ら笑いも凍りつくで」

「...別に笑ってないけど」

「しかも、究極とアルティメットかぶってるし」

「...いくでぇ...うぅりやぁっ!」

 

ミカとニアのツッコミも無視して剣を振るい構えるジーク。

その瞬間、凄まじい量の雷のエーテルが溢れ出す。

こいつ、まさか本当に強いんじゃねぇか...!?

 

「轟力降臨!『極・雷斬光剣(アルティメット・ライジングスラッシュ)』やぁっ!」

 

ジークは跳び上がり、降下の勢いを乗せて大剣を地面に叩き込む。

雷はジークを中心として「極」の文字を大きく地面に刻む み、傷跡を残す。

 

...だが、どうやら攻撃範囲はその文字の届くところまでのようで、ちょうど俺達にはあと少し届かなかった。

 

「ふっ...」

 

最も、向こうは最初から当てる気が無かったのか、「どうや?凄いやろ?」とでも言いたそうな顔をしている。

 

...が。しかし。

 

バキバキッ...

 

「あ...」

 

ホムラが声を漏らす。それもその筈だ。...なんせ、地面がさっきの技の衝撃で割れ始めてるんだからな。

 

「うおぉっ!?」

「きゃぁっ!」

 

地面はそのまま崩れ落ち、奇妙なドライバーとそのブレイドは下へ下へと落ちていく。

 

「おんどれぇぇぇぇぇぇっ!」

 

辺りに響く叫び声を、残して。

 

「な、何だったんだ、あいつら...」

「さぁ...バカなんだろ」

「希に見る、な」

「いこいこ、時間が勿体ないよ」

「...です、ね」

 

まるでさっぱり訳が分からないままだが、俺達は首都へ向かって再び歩き始めた。


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