ジークを倒した俺達はそのまま道を進んでいき、「セースロア水田」って場所にたどり着いた。
奥にはとにかく大きな街が待っていて、その手前に巨大な...飛行船?が停まっている。
「おぉ、着いたな。ここが首都、フォンス・マイムだ」
「なんだよ...思ってたよりだいぶでかいじゃねぇか...」
どうやら目的の場所に着いたみたいだ。ようやく休めるか...?
「スペルビアとの開戦の噂、いよいよ本当かもしれませんね」
「ここんところ軍備を拡張してたからな。戦艦の数も増えている」
その飛行船を見上げて、ビャッコが口を開く。
開戦...そういや前にアヴァリティアでそんな話を聞いたっけか。まあ、そのスペルビアには喧嘩売っちまって逃亡中も同然な訳だが。
「それにしても、ヘンテコな形の船ですも」
「むやみに
「商会でも沢山のインヴィディア船を見たけど、スペルビアとは運用思想が真逆なんだよね」
「だからこそ争いも起こりやすいというわけですね」
「昔から犬猿の仲じゃったからのぉ」
なるほどな。同じ
「傍目にはスペルビアの方が印象悪いよね。ゴテゴテ機械をくっつけちゃってさ」
「...いや、俺は結構好きだぞ?あれ。最高にカッコいいじゃねぇか」
「...オルガ、少しは
「...すみませんでした」
すかさずミカが冷たい視線を刺してくる。
そうだよな...あんな大量に付けられたらいくら何でも気分が...
「いやぁ、そういうもんでもないぞ?当の本人は意に介しておらんじゃろう」
「えー?あんだけ痛そうな改造されても?」
「
「ふーん」
そういうもんなのか、
「ワシなんて背中に小屋を建てられたり、尻にクレーンを刺されたり、七輪を焚かれたりしても文句一つ言ったことがないぞぉ?」
「七輪は喜んでたじゃないか」
「うぅむ、あれは気持ちが良かったのぉー!...またやってくれんかの?」
「...今やったら
「確かに」
つい、笑みの零れてしまいそうな話を交わしながら、俺達は正門を潜り、街中へと入っていった。
「...ねぇ、あれ何?」
「どうしたミカ?...何だ、人が並んで...物を受け取ってる、のか?」
「配給所だ。少ない物資を国の管理下で分け与えているんだが...ほとんど早い者勝ちってのが実情さ」
そうか...前まで戦争してた上に、今もまた開戦準備中ともなれば、物資も限られたものになっちまうか。
「よし、今日はこれで最後だ」
兵士がそう言いながら女の子に物資を渡そうとしたその瞬間だった。
「きゃぁっ」
その女の子が、誰かに押しのけられる。女の子はその勢いのまま倒れてしまい、そこにその何者かが割り込んでくる。
「お、俺は国のために働いた兵士だぞ!優先的に配給を受け取る、け、権利があるはずだ!」
割り込んできた兵士が叫んでいると、その女の子は起き上がって困ったような表情で兵士を見上げる。
「な、何だよその目は?子供は大人の言うことを聞いてればいいんだ...ぐぇぇっ!?」
直ぐにでも怒鳴り散らしそうな勢いだったその兵士の懐に、小さな影が潜り込み、そしてその手首を掴み、捻る。
...隣には、さっきまで居た筈の相棒がいなかった。
「ねぇ。この腕...何?」
「ぐぁぁぁっ...!」
「ほらその物資、返しなよ」
やっぱお前か、ミカ...
顔は特に怒ってる訳じゃない。が...その淡々とただ獲物を潰していくかのような様子は、殺気立った獣なんぞより余程恐怖を覚える。
「大丈夫?...何てことするんですか!こんな小さな子に!」
「あ、あぁ?何だお前らぁっ...ぐぅぅっ...!」
女の子の方にはホムラが駆け寄ってあげている。他の皆も、続々とその周りに走ってくる。
ホムラが怒りを露わにしている間も、やはりミカはその腕を止めない。ほんと、怖ぇよミカは...
「ミカ、取りあえず落ち着きなって!」
「......」
「あーダメだ、聞いてない」
二アが宥めてみるも、聞く気配はまるでない。
「シショー、流石に可哀想だも。離してあげた方がいいも」
「...え?あーごめん、今気づいた。うーん...まあ、いいか」
「く、くそっ...バカにしやがって!」
放り投げる様にその兵士を解放すると、あろうことか武器を取り出して攻撃しようとしてきやがった!
そっちがそう来るなら...ん?来ないな?
「そ、そのコアクリスタルの色...まさか...ひぃぃぃぃっ!」
ホムラを見ると、どうやら天の聖杯の特徴を知っていたらしく、尻尾を巻いて逃げて行きやがった。
「あんな一介の兵士まで知ってるとは。こりゃ相当ホムラの噂が広まってるな」
「...ごめんなさい。ローブ、羽織っておくべきでした」
「誰が広めてるですも?」
「俺が聞いた話じゃ、どっかのノポンの豪商だって話だが」
...ノポンの豪商といやぁ...1人知ってるような気がするんだが...あいつの名前、なんて言ったっけか...?
「ヴァンダムのおじちゃん?」
「ん?お、お前!もしかしてイオンか?」
さっきの女の子がヴァンダムに話しかける。どうやら2人は顔見知りらしい。
「見違えたぞ!コールのじいさんは元気か?」
「...」
「そうか...あまり良くないか」
「ヴァンダムさん?」
「ん?あぁ、この子はイオン。俺の知り合いんとこの子だ」
「へぇ...よろしくな、イオン」
イオンに挨拶を済ませると、さっきの兵士が仲間を連れてくる前に俺達は移動することにした。
「...おや?ここは劇場のようですが」
いくつもある階段を登って上へ上へと進んでいくと、大きなホールの様な建物が見えてくる。
「あぁ。俺の知り合いな、ここの劇団で座長をやってるんだ」
「へぇ...劇団か」
「今の時間は...そろそろ公演開始か。ついでだ、劇を覗いていこうや」
「題名は何だ?えーっと...『鉄血の...』?」
「それは一個前のだよオルガ。今からやるのはこっちの『英雄アデルの生涯』ってやつ」
おっと、そっちだったか。
あの題名を見た瞬間、一瞬一度も転生していない時のあの世界のことを唐突に思い出したんだが...まあどうでもいいよな、そんなこと。
「おおそうか、悪いなミカ。...にしても、英雄の話か。これがアグニカだったらマクギリスが飛びつきそうなもんだが」
「いえ、『私の思い描くそれとは違う』なんて言って、抗議しにいくかもしれませんよ?」
「確かに、それもあるかもしれねぇな!...ん?ちょっと待て。何でホムラがマクギリスを知って...?」
「...い、いえ!そういう訳ではなく...ただ、英雄に抱くイメージというのは人それぞれですから、そういう人もいるかもなぁ、と...」
「...?そ、そうか。まあいい、とにかく今は思いっきり楽しむとしようかぁ!」
「おー!」
「ももー!」
「楽しむのはいいが、他にも客はいる。中では静かにしてるんだぞ?」
「「「はーい」」」
静かに楽しむことを約束して、俺達は中へ入り、席について開演を待つのだった。
「───その時私は見た!暗黒の力が全てを飲み込むさまを!人も!
大きな身振りと共によく響く声で男が語る。どうも、その英雄アデルの弟子役みたいだ。
「だがその時、満身創痍の身を起こし!我が師、英雄アデルは決断したのだった!」
その声の直後、独特な鎧に身を包んだ男が舞台上の船の甲板に現れる。
「神よ!我に力を!暗黒を灼き払い、世界を照らす光の力を!」
そう叫んで船の上から飛び降り、敵(役の人達)の前に立って剣を構えていると、白い服や羽に身を包んだ女の人形が吊るされる。
「おお、そなたは天の聖杯!神の僕!どうか、我に力を!この世界に光を...!」
男が叫ぶと人形も動き出し、赤く輝く粉を振り撒いた。
すると見る見るうちに敵は倒れていき、戦いが終わった。
「こうして暗黒は払われた。しかし!その代償は大きかった。多くの大陸が、雲海の底へと沈んでいったのだ...」
場面は移り変わり、倒れた聖杯とそれを見る英雄が舞台に立つ。
「神の僕よ...そなたのおかげで世界は救われた。その命の代償、我が償おう。我は語り継ぐ!そなたの伝説を...!我の名と共に、永遠に...」
幕が降り、観客が拍手する。どうやら、終わったみたいだ。
勿論俺達も拍手は忘れない。いいもん見せてもらったし...ん?ホムラ、ボーッとしてどうしたんだ...?
「おじいちゃんなら廊下の奥の部屋にいます。ヴァンダムのおじちゃんに会えたらきっと喜ぶと思うな」
「そうか。サンキューな」
公演が終わって外に出た俺達は、ここへ来た本来の目的でもあるイオンのじいさんのコールって人に会いに行く事にする。
イオンに言われた通り、廊下を通って部屋に向かうことにした途中、ミカとニアが後ろからレックスに話しかけてきた。
「ねぇ、レックス。ちょっとまずくない?」
「まずいって、何が?」
「今のあれ、天の聖杯って事はホムラのことでしょ?
「...あー、確かに」
「何でよりによって演目がアレなのさ...アンタ、ちゃんとフォローしときなよ?」
二アは最後にそう言うと、先に廊下を歩いていこうとする。
「フォローって...どうやって?」
「そんなの...自分で考えなよ」
「えー何だよそれ...オルガ」
「悪い、その手の事は俺に聞くな。何ならミカの方が得意だ」
「ミカ」
「駄目だよレックス。これはレックスがやらなきゃいけないことだ」
「...ダメかぁ...」
ニアが呼び止められるもバッサリと切り捨て、俺は正直に答える。頼みの綱だったミカも、やはりと言うかアドバイス無し。ま、ドライバーたるもの、ブレイドのフォローくらい自分で出来るようになっておこうっていうミカなりの...優しさ...なのか...?
「...おっと。悪いが俺は先に行くぜ」
「待っ...あ、ホムラ」
チラッと後ろを見たら、もうホムラが近くまで来てたからな。邪魔する前に退場しとくべきだよな。うん。
どうにもどもった様子の我が団員を見て少し気の毒になりつつも、俺は廊下を進んでいった。
...数分後、合流した時にセイリュウのじーさんから「てんでダメじゃった」と報告を受け、何やってんだレックスと叫んだのは言うまでもない。
「入るぜ、じいさん。...おいおい、また増えたんじゃないか?」
「何だ、ヴァンダムか。人の趣味にケチをつけるな」
「戦友相手に何だはねぇだろ」
「戦友?」
「あぁ。傭兵団を作る前はフリーでな。若さに任せて、コールのじいさんとあちこちの戦場を駆け巡ったもんさ」
なるほど...道理で強い訳だ。
それにしてもこのコールってじいさん、中々変わった雰囲気の人だ。フードで顔を覆った、年寄りの男。だがその風貌や聞いていた話の割には、意外と元気そうにさえ見える。
「情に絆されてすぐロハにする誰かのおかげで、金にはならんかったがな」
「ハァッハッハッハッハッ!そりゃお互い様だろ。劇団なんか始めやがって」
「ふん。で、今日は何の用だ?」
「じいさん、無駄に長く生きちゃいないだろ?知ら...」「頼む!知ってることがあるんなら何でもいいから教えてくれ!俺はこいつらを楽園へ連れて行ってやりてぇんだ!首ハネてそこらに晒してくれても構わねぇから!たの...」
バンバンバンッ!
「...いきなり詰め寄ったら驚いちゃうでしょ。駄目だよオルガ」
「それは悪かったけどよ...いきなり発砲もだいぶ驚くだろミカ...」
相棒の制裁により、俺は正気に戻る。
楽園について知ることが出来るかもと思うとつい、止まらなくなっちまった。悪いことしたな、全く...
「...楽園だと?行ってどうする?あそこには...」
!?
このじいさん、まさか楽園を本当に知ってんのか...!?
...いや落ち着け俺。早とちりはよくねぇ。落ち着いて話を聞くぞ...
「!...そのコアクリスタル、あんたは...あんたが目覚めたってことは、ドライバーは...」
「オレさ」
「お前が...まさか、子供とは...ふーむ...」
じいさんは考えるような声を出すと、改めてもう一度話し始める。
「世界樹への渡り方を聞きに来たということは、一度は行ってみたんだな?」
「うん。でもダメだった」
「だろうな。アレがいる限り誰一人として世界樹には渡れん。アレは世界樹を守っている」
サーペントのことまで知ってんのか...ほんと何者だよこのじいさん。
「だが...かつてただ一人だけ、世界樹を登り神に会いに行った者がいる」
...は?
あれを...あの高さの樹を、登ったってのか...!?
突如として知らされるその話は、俺達を驚かせるには十分過ぎる物だった...。