「世界樹を?本当に?」
「うむ。その男ならアレのことを...世界樹への渡り方を、知っているかもしれん」
世界樹を登った男。その話が本当なら、そいつに聞けば渡り方だって分かる筈だ。
だったら...!
「そいつは誰だ?どんな名前だ!?」
「っ!うむ...」
「コールさん、教えてくれ!オレはどうしても楽園に行きたいんだ!」
「俺からも頼む!あんたの知ってること、俺達に教えてくれ!」
「教えても良いが...その前に、二人だけで話をさせてくれないか。そこの、天の聖杯と」
「ホムラと?」
ホムラと話...?聖杯と二人で話すようなことなんて...この前メレフが言ってたり、さっきやってた演目にもある大戦の話か...?
...いや、歴史で語られてる事と本人の体験は違うだろうし、もしどっちもその場に居たってんならあのじーさんは500歳になるし...意味分かんねえな本当。
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「...コールさんなんでしょう?あの物語を書いたのは」
「すまなかったな。思い出させてしまったか」
「いいえ。とても──懐かしかった」
「ふ、無理せんでいい。本当にすまなかった。...残したかったんだ、あの時のことを。誰かに伝えたかった...あの時のわしらの姿を」
コールさんはそこで言葉を切った。そして、私に問い掛けてくる。
「再び使うのか?あの力を」
"あの力"。
かつて、目の前の総てを灼き、滅ぼし、沈めた力。
使いたい訳が無い。
けれど、もし"彼"が力を取り戻し、再び現れるならその時は...
「...わかりません」
私は、心のままに答えた。
「この世界、二度は耐えられんぞ」
「わかっています。できれば使わないでいたい。そう願っています...でも」
「世界樹への行き方を知っているのは"あの男"だけだ。会えるのか?あの男に。それを確かめたかった」
「会います。それが私の運命ならば」
「そうか...」
「さっきの少年...」
「レックスって言います。とっても元気で、優しい人です」
「どことなく似ているな」
「えぇ」
誰に、とは言わなかった。
お互い、それが誰か分かっていたから。
...きっと、あの日から予感していたのだろう。あの子は、彼に似ていると。
だから、あの日...
「わかった、力を貸そう」
「ありがとう、ミノチさん」
「ミノチか──その名、忘れていたよ」
遠い昔、共に戦った者の名前を呼んで、私達は話を終えた。
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「さぁて、どこにしまったかな...」
話が終わったらしく、コールのじーさんは俺達を呼ぶと、物を探し始めた。
何でも、渡しておく物があるそうだが...
「うっ!」
ゴホゴホ、ゴホッゴホッ!
「おじいちゃん!」
「大丈夫か、じいさん!」
「だ、大丈夫だ...すぐ、治まる...心配ない...心配ない」
そうは言ってもじーさん、あんたまだ咳き込んで...!
「話なんてしてる場合じゃ無さそうだよ、オルガ」
「みてぇだな...お前ら、今日は引き上げるぞ」
「悪かったな、じいさん」
「ヴァンダムさんが謝ることはねぇ、俺が無理に話そうとしたから...」
「いや、いい...良ければ明日、また来てくれ」
「...!すまねぇじーさん、感謝するぞ」
俺達はそのまま劇場を出て、この街をよく知るヴァンダムさんに連れられ宿に向かった。
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「本当に、今日は懐かしいことばかりだ...」
レックス達に渡すつもりだった物を取り出し終えたコールが、背後の招かれざる客の気配に気付き、振り向く。
「言っとくが、同窓会をしたくて来たわけじゃねぇぜ?」
そう語る大男...名は、メツ。その横には...仮面の男、ヴィダールがいた。
「天の聖杯ならもう旅立ったよ。同じ根を持つ者よ...」
「フッ、抜け抜けと...」
「随分身体の具合が悪いみたいだな。この街には高性能な医療器具も、優秀なブレイドもいないらしい。俺の仲間とそのブレイドなら、その身体に滞ったエーテルの流れを元に戻せるだろう」
仮面によりくぐもった声で、ヴィダールが語る。これから取引を持ち掛けると言わんばかりに。
「だから力を貸せ、と?フッ、己の生に固執することなど、もうあり得んよ。わしは充分に生きた」
「いいのか?引き取った子供らが悲しむぞ」
「子供達は皆、強い子だ」
「そうか...ならば、500年前の事に囚われる俺は、弱く見えるか?」
「...」
取引の破綻を理解したヴィダールは、メツと共にその場を去っていった。
「取引はどうでしたか?」
「この通り、だ」
「なるほど、失敗...ですが」
二人は、外で待っていたヨシツネと合流する。
更なる命を、という条件を持ってしても断られたことにヨシツネは驚きを隠せなかったが...
「どうやら別の獲物は釣れたようです。出てきてください。彼らの話...聞いていたのでしょう?」
柱に向かって呼び掛ける。その陰からは...イオンが現れた。
「あなたたちなら、おじいちゃんを助けられる?」
「助かるよ。そう、ほんのちょっとだけ、力を貸してくれるだけでいいんだ」
優しい笑みを貼り付けたまま、ヨシツネはイオンに近づき、そして...
「起きてオルガ、客だよ」
「起きろレックス!」
「ぐっ!ん...?」
「ふわぁ...こんな朝からどうしたんだ?」
「じいさんが呼んでる!急ぎの用だ!」
コールのじーさんが...!?
かなりの一大事なのは間違いない。俺達はすぐに飛び起き、宿を出た。
「どうしたんだ、じいさん!」
「イオンが...いなくなった!恐らく、奴らだ!」
「奴らって?」
「お前達が帰った後、メツと...もう一人の男がわしのところに」
「メツだって!?」
嘘だろ...!あいつらが、じーさんのとこに!?
やっぱこのじーさん、タダ者じゃ...ってそんなことより、だ!
「もう一人...それ、誰?」
「名は知らん、顔全体を覆うような仮面をした男だ!」
「ヴィダール...!でも何が目的であいつら、イオンを?」
もう片方もイーラか...しかし、ニアも言ってるけど、なんでイオンを狙って...?
「...待ってニア、ホムラは?」
「ミカ...?アタシが起きたときにはいなかったけど」
「...ってことは、誰も今日ホムラに会ってない!ホムラ、もしかしてイオンのこと知ってたんじゃ?」
「あり得る話だ、あの二人ならば」
「バッカヤロウ、一人で助けにいったのか?」
「すぐ追いかけないと、何処に行ったんだろ?」
そうだ、追いかけたくても何処にいるのか分からないんじゃ意味がねぇ!あいつ、俺達に何にも言わねえで...!
「場所は...わかる...恐らくは、カラムの遺跡...」
「カラムの遺跡、だと?」
「500年前、英雄アデルが率いた抵抗軍決起の地。天の聖杯が、目覚めた場所だ...!」
「なるほどな、ホムラを目覚めた場所に誘い出して、捕まえるって訳か!」
レックスと出会って間もない頃、メツとも少しだけ一緒にいた。だからあいつの性格も何となくわかるが...確かにあいつなら、そういうことしそうだな!
「コールさん、カラムの遺跡はどこ!」
「大階段を登った先だ!」
「...よし、聞いたな?お前らぁ!相手はメツにこの前のヴィダールだ!気ぃ引き締めて行くぞぉっ!」
宿の主人にコールさんを任せて、俺達はカラムの遺跡に向かって走り出した。