「はぁっ!」
「ニア!?くそ、じっとしてろって言っただろ!」
少しずつ追い詰められていく俺達。ブレイドからのエネルギーの供給が断たれた今、武器に残っている分が切れれば俺達は終わりだ。
そんな状況で、レックスとヨシツネの間に二アが飛び込んできた。今の状況じゃ、満足に回復のアーツも使えねぇだろ...!?
「じっとしてられるかよ!本当にシンが言ったの?人間は全て抹殺するって...!」
「今さらだね!わかっていたはずだ、君には!人間の本当の姿が!」
ツインリングと双剣の応酬になったが、ニアの方が圧倒的に不利だ。次第に押されていく。
「あ...」
「バカ野郎!止まるな!」
トドメを刺そうとするヨシツネ。俺達が守りにいくより早く、聞き覚えのある声がする。
「ヴァンダムさん!スザク!」
ヴァンダムさんが戻ってきた。ニアを引っ張り攻撃の当たらない場所へ移動させ、すかさずスザクがヨシツネの前に立って臨戦態勢を取る。
「見ただろう?王都を。スペルビアに攻め入るための船、武器、兵士...他を踏み台にしてでも生きようと精一杯な連中を。実に滑稽な姿じゃないか。今じゃ世界のどこにも、あんなものがうじゃうじゃある」
「今だけじゃねぇぜ。500年前からちっとも変わってねぇ」
ヨシツネはそのままスザクと戦い、一方メツはレックスに狙いを変えて攻撃する。
「そりゃあ
レックスも無抵抗ではやられず、今度はメツを押し返す。だが、息はもう上がってきている。
「いいえ、変わってないのはあなた。
「なら俺達はなぜ存在する?おかしいだろ?俺達は“こいつらを消し去るためにこの世界に降誕”したんだからなぁ...はぁっ!」
次の瞬間、メツが力を解放する。紫と、黒の...今までのあいつの攻撃とは、明らかに違う。
「この力...あいつ自身から出てる」
「やっぱりか!?あいつ、何者なんだよ...!」
ミカも、異変に気づいている。俺の直感は正しいみたいだ。
「メンドクセェから終わりにするぞ!ヨシツネ、ヴィダール!」
「同感です!」
「あぁ」
真っ直ぐにレックスとホムラへと攻撃を仕掛けるメツ。ホムラがエーテルバリアを作り出すも、呆気なく破壊され、2人は吹き飛ばされる。
直後、ハナがトラを持って飛んでくる。
トラがドリルを展開したハナシールドを持ち、ハナがそれを運んでぶつけるという戦い方。恐らくトラが傷のせいで動きが鈍ってると判断したんだろう。しかし。
「させねぇぜ」
「「うわぁぁっ!」」
ザンテツがそれを容易く弾く。そのまま追撃を浴びて吹き飛ばされ、壁に激突する。
「トラ!ハナァッ!ちっ、これ以上させるかぁぁっ!」
「無駄だ」
「ぐっ...ヴゥァァァァァァッ!!」
「オルガッ!」
俺はメイスを持ってメツに向かっていくが、ヴィダールが間に現れ、俺の攻撃をレイピアで受け止める。
こうしている間にも、どんどんエネルギーは減っていく。やはり押し返せず、俺はヴィダールの蹴りを浴びてぶっ飛ばされた。
「いい加減しつこいよ、君も」
「ぐぉぉっ!」
「ビャッコ!」
ヴァンダムの相手をカムイに任せたヨシツネが、ニアを追い詰め、剣を振るうが、ビャッコが飛び込み、二アを庇う。
「貴様ぁっ!」
「遅い」
「はっ...うわぁっ!」
怒りを露わにしたニアだったが、俺を吹っ飛ばして手の空いたヴィダールの蹴りを食らい、倒れてしまう。
「ニア!トラ!オルガ!...くっそぉっ!」
「やめろレックス!今は無理じゃ!」
じーさんの制止も聞かず走り出すレックスも、もう殆どエネルギーが剣に残っていないのか、簡単にザンテツに弾かれる。
「レックス!」
「これ以上、皆はやらせな...!?」
ホムラとミカが、同時に動くも...メツの攻撃が、防ぐ間もなく入ってしまう。
「ふん。この小僧は兎も角...女を殴るのはいい気はしねぇな」
「切り刻んでおいてよく言うよ」
まずい、ホムラがやられた...あいつの目的は、ホムラの力...!
「渡さねえぞぉっ!」
「ヴァンダムさん...!スザク...!」
賺さずスザクが上空から無数の弾丸で攻撃する。良かった、けどこのまま続ければ結局...!
「くっ、領域外からの攻撃か」
「チッ、あの大男!」
「面倒だな...だが、そんな位置からの豆鉄砲、いくら撃とうが当たることはない」
どうやら今ヴァンダムさん達がいる場所はヨシツネの力の範囲外のようだ。それは安心だが...それだけ距離が離れてるせいで威力も相当弱まってる。結局状況はひっくり返らねぇ!
「そんなこたぁ...百も承知だぁぁぁぁっ!」
「ヴァンダムさん...何やって...!?」
スザクからツインサイスを受け取ったヴァンダムさんは、力強く叫んだ後、そのツインサイスを...自らの身体に突き刺した。
「貴様...まさか...!」
「武器に残ったエネルギーを直接体内に送り込むために...無茶苦茶な男だ」
「へっ...こうすりゃエーテルの流れなんかは関係ねぇってわけだ!どぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
武器を身体に刺したヴァンダムさんは、ブレイドの如くエーテルを放つ。くそぉっ...!ヴァンダムさんはあんなことしてまで戦ってくれてんのに、俺が地面に転がってる場合かよ...!
レックスの方を見ると、あいつも立ち上がろうとしてる。あいつも気持ちは俺と同じ筈...!
「ヴァンダムさん!俺達も...!」
「逃げろ!ホムラを連れてさっさと逃げやがれ!」
「はぁっ!?何言ってんですかヴァンダムさん!」
「そんな...そんなこと、出来るわけないだろ!」
「オルガぁっ!お前は団長やってる男なんだろ!皆と一緒に行きてぇ場所があるんだろ!?時には逃げることも忘れんな!レックス!お前だって...死なないんだろ!?死ねないんだろ!?だったらこんなところで止まるんじゃねぇ!」
2対3の戦いを続けながら、ヴァンダムさんは叫ぶ。
確かにその通りかもしれねぇけど...だからって...!
「生きて、生き延びて!楽園にいくんだぁぁぁっ!」
「...っ!!」
かつて、仲間を庇って初めての死を迎え、仲間たちに止まるなと命じたことが頭によぎる。
きっとヴァンダムさんもこのままやれば負けて死ぬのは分かってる。
ここから逃げて前に進めって俺達に言ってるんだ。
言われた方は、こんなにも苦しいのか?
けど、ここにいたって全員死ぬのは変わりない。
だったら...!?
「いかせねーよ」
「ぐぅっ!」
そうこうしてる間にも、ヴァンダムさんは追い詰められていく。限界を迎えようとしてる!
そしてメツが、旋棍を振るい...
「いいかぁレックス、オルガ...!お前の戦を、戦え──!」
その言葉を最期に、ヴァンダムさんはメツの攻撃を受け、地に伏した。そしてスザクも、コアクリスタルに戻る。それはドライバーの死を意味する。永遠に、目覚めることはない...。
「ヴァンダムさぁぁぁぁぁぁんっ!」
レックスが悲しみと怒りを込めて叫ぶ。ふらついた動きで剣を構えながら突進する。だがそれじゃ意味が...!
「待てレックス!下がれぇっ!」
「よくもヴァンダムさんを!ヴァンダムさんをぉっ!」
俺の言葉はレックスには届いてなかった。
俺だってそうしてぇよ...!仇を討ちにいきてぇよ!でもそれじゃぁ俺達が守ってもらった意味がねぇだろ...!
「鬱陶しいぞ小僧!」
「ぐぁぁっ!」
当然、そんな攻撃が届くわけがない。メツの回し蹴りで呆気なく吹っ飛ばされる。
「くそぉっ...こんなところで...!こんなところでぇっ...!」
「消し飛べ」
メツがレックスにトドメを刺そうとした瞬間。俺の目の前で、二つ目の命が奪われようとした瞬間。同じ夢を見た団員を失いそうになったその瞬間...。
「レックス───!」
ホムラの声と共に、凄まじい光が放たれ、辺りを包んだ。
その光が消えたとき、ホムラは──────
──────姿を変えていた。
「ホムラ?これは...」
「何が起きてんだ...?」
赤い短髪の少女とも言うべき姿のホムラはいなくなり、そこには金色の長髪の、大人びた姿があった。
変化はそれだけでは止まらず、レックスが持つ剣も形を変えていく。
「...そ、そんなものになったからって、何だってんだーっ!」
「...待て!止まれヨシツネ!」
ヨシツネが双剣を構えて突撃してくる。だがそれを、ヴィダールが止めようとする。
ヨシツネは聞く耳も持たない様子だが、わざわざ止める程の何かがあるのか...?
「...」
「馬鹿野郎、上だっ!」
「なっ!?」
ヨシツネの方を向いたホムラ(?)の額の水晶が、突然輝き出す。
それを見たメツが上を見上げながら叫ぶ。そして、次の瞬間...
モビルアーマーのビーム兵器にも似た光線が、天から降り注いだ。
「がぁぁっ!?」
「ヨシツネ!」
しかも、一発じゃない。
何発も何発も、続けて発射され、地を灼き払っていく。
「...やっとお目覚めか!ヒカリィッ!」
「ヒカリ、だって?ホムラ、その姿は...」
「私はホムラじゃない」
「はぁ?お前何言って...」
「私はヒカリ。ホムラは私が作り出したもう一つの人格」
ヒカリ?もう一つの人格?本当に何言ってんだよ...!?さっぱりわかんねぇ...!
「人格って...」
「よそ見しない!」
「あ、あぁっ!」
「集中して!君が集中してくれないと私から力を渡せない」
力を渡す...そういや、ヨシツネの力はまだ消えてない筈なのに、今のレックスはメツとも打ち合えている。こいつは一体...?
「馬鹿なぁっ!僕の力がまるで役に立たない!どこからあれだけの力を...!」
「だから止まれと言ったんだ...あいつの力の源はエーテルではない」
「エーテルじゃ、ないっ!?」
「その姿...いいぜヒカリ、高鳴ってきたぁ!」
メツが武器を構え、突っ込んでくる。一直線ではなく、攪乱するように右に左に曲がりながら。
ヴィダールもそれに合わせ、メツとは反対に位置取りながら向かってくる。
「まずいぞレックス、あれを防ぐのは...」
「オルガは黙ってて。レックス、いくわよ」
「なっ...」
ヒカリ、こいつ結構言葉がきついぞ...?ってか何をやる気で...
そう考える俺を余所に、ヒカリは再び力を放出した。
─────────────────
「これは...」
メツとヴィダールの動きが、急に遅くなった。
それどころか、動きの軌跡が見えるようになった。
何をしたんだ、ホムラ...じゃなくてヒカリ。
「因果律予測」
「いんがりつ?」
「未来に起こる出来事を視覚化してるの。彼らの動きの軌跡、その先を読んで...反撃して」
「わかった!」
難しいことはよくわかんないけど、つまり...敵の未来の動きが分かるってことか!
どう来るかさえ分かれば、こっちの物!
「ここだぁっ!」
メツとヴィダールの交差する連携攻撃の、メツの一撃目を交わし、続けて向かってくるヴィダールに剣をぶつけて押し返す。
「...今のを防ぐか...!」
「気を逸らすな!続けてくるぞ!」
メツの言葉通り、ヒカリは再び光線による攻撃を始めた。
但し次は範囲と数を重視した、不可避の物量攻撃。
防御の姿勢を取るのが遅れたヨシツネに対し、オレは畳み掛けた。
「な、何なんだ!こいつらの連携は...これじゃあ対処のしようがないっ!」
「コレが、天の聖杯の本当の力だ!懐かしいぜ...待ってたんだよ、この時をずっと!」
メツが、まるで昔のライバルにでも出逢ったかのような笑みを浮かべ、叫ぶ。
「なぁ、ヒカリィィィィッ!!」
「ヨシツネー!あんなのが出てくるなんて、カムイは聞いてないよーっ!」
「全くですよ!僕の力が通じないなんて...!」
ヨシツネがいる限りは他の皆は動けないまま...まずはヨシツネを何とかしなきゃいけない!
「『ダブルスピンエッジ』!」
「ぐっ...この脇役がぁっ!」
よし、ヒカリの力のお陰でこっちが押してる!
このまま行けば、勝て...
「させるものか」
「っ!!」
すぐさまヴィダールが飛んできて、蹴りを入れようとしてくる。
ヒカリがエーテルバリアを作りだして防いでくれたから何とかなったけど、危なかった...強くなったからって油断するなってことだな!
「俺が相手になるぜ、小僧!」
「メツ...!お前に構ってる暇はない!」
「ツレねぇこと言うなよ...500年待った分、目一杯楽しませてもらうぜ!」
「くっそぉ...!」
今のこの力なら、メツが相手でも互角以上に戦える。けど、相手は3人。対してこっちはヒカリ以外のブレイドは戦えない...オレがメツで手一杯な隙に狙われたらまずい!どうすれば...あれ、そういえば...
────────────────
「オルガのその銃で撃つやつ、凄い威力だよな!前から思ってたんだけど、あれもアーツなのか?」
「アーツ...まあここじゃそういうことになってんのかもな。異世界を渡り初めてから手に入れた力なんだが、受けた攻撃の威力を銃弾に込めて撃ち出すんだ。受けた傷が深いほど威力も上がるぜ」
「へぇ...攻撃はどんなものでもいいの?」
「あぁ。基本的に俺は死んでも死ねねぇからな。因みに狙いも外したことは...殆ど無いぜ」
────────────────
...いやこの方法はいくら何でもオルガに悪い!じゃあどうすれば...
「レックス!」
「え、オルガ?」
「さっきからこっち見やがって、分かってんだよ!何か作戦があるならやってみやがれってんだ!合わせてやるからなぁ!」
どうやらバレバレみたいだ...だったら、やってやる!
「ヒカリ!オルガにさっきの攻撃、出来る!?」
「可能だけど...正気!?」
「正気だ!オルガも行ける?」
「...なるほど、お前の作戦分かったぜ!来やがれヒカリ!」
「はぁ...無事は保障できないわよ!?」
ヒカリはオレの指示通り、空から光を降らせる。
それはオルガに直撃し、その余波で地を割った。しかし...
「...へっ、いい攻撃だヒカリ!」
オルガはそれでも、立っていた。
その手に持った銃は、さっき降り注いだそれと同じ輝きを纏っていた。
「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇっ!!『カウンターアタック』!」
雄叫びと共に放たれた銃弾は、メツ達の合間を縫う様に進み、そして...
...ヨシツネのブレイド、カムイのコアクリスタルに直撃した。
「何だよ、結構当たんじゃねぇか...」
「よーし!作戦成功!」
コアクリスタルが壊された時、ブレイドは消える。
そしてカムイが消えるということは...その力の影響も、無くなる!
「力が...送れる」
「アーツも使える...!こっから反撃だーっ!」
アーツが再び使えるようになったことで、二アが皆の傷を回復させ、戦いに復帰する。
一気に状況が、こっちに傾いた!
「あ、あれ...?」
「なっ...カムイ?」
「ヨ、ヨシツネ...」
「カムイ...カムイィィィーッ!!」
「チッ...こいつは不味いな」
ヨシツネの慟哭が聞こえた。
きっとあいつも、ドライバーとしてブレイドとの絆があったんだろう。
...でもあいつは世界中の人を殺そうとするようなヤツだ。悪いけど...倒すしかない!
─────────────────
「今までのお返しはたっぷりするぜ!『レイジオブダスト』ォッ!」
俺は力の漲ったメイスを握り、まずメツに向かっていく。
その一撃に合わせて向こうもエーテルバリアを張ってくるが、賺さずミカにメイスを投げ渡し、入れ替わる。
今まで何も出来なかった鬱憤と怒りを晴らすかの如きミカの連撃は、バリアを容易く打ち砕く。
そして、一瞬よろけたその身体に、ミカから返してもらったそのメイスを叩きつける。
「ぐあぁぁぁっ...!」
メツは後ろに控えていたザンテツごと吹き飛ばされ、瓦礫に激突する。
「好き勝手してくれる...!」
「ヴィダール!」
ヴィダールが飛び上がって蹴りの構えを取る。
...が、それを喰らうことはなかった。
「好き勝手やってるのはどっちだも!」
「させませんも」
トラとハナが、攻撃を防いでいた。
その目にはやはり、怒りが宿っていた。
「ハナ、決めるも!」
「りょーかいですも、ご主人!...『ハナドリル』!」
トラから武器を受け取ったハナは、ドリルを展開しヴィダールに突撃。蹴りを弾かれた直後で回避も取れない状態の奴に、強烈な一撃が炸裂した。
「敵は2人とも倒れて動けない...ここで決めるわよ、レックス」
「...あぁ、分かった!」
ヒカリとレックスが横に並び立って、1つの剣を共に掲げ、力を高めていく。
「「『セイクリッドアロー』!!」」
天から、無数の光線が降り注ぐ。
最早ブレイドの力によるバリアなんて意味をなさない。
全てを砕いて、灼き尽くす無茶苦茶な攻撃。
そして遂には...ザンテツのコアクリスタルを、破壊した。
「チッ...退くぞ!」
「あぁ」
メツが地面を殴り、ヴィダールが地面を踏みしめて、それぞれのエーテルを放って土煙を巻き起こす。
それが消えたときには...もう、逃げられていた。
「ヴァンダム、さん...」
敵の逃走。即ち、俺達の勝ちだった。
だが素直に喜べる程図太い奴なんて、この場には存在しなかった。
「うぅぅ...うわぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっ!!ううっ...あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっっ!!」
夜が明け、晴れた空の下、レックスの慟哭が、辺りに虚しく響いていた。
第
三
話
戦