オルガブレイド   作:シン・ファリド

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ギリギリ8月中に間に合いました そろそろペース上がる...といいなぁ......


第4話 天の聖杯 第4節 「帝国首都」

「...どうする?奴らそこそこの数、それにブレイドもいるよ?」

 

野盗のアジト、その手前までやってきた俺達。

物陰に隠れながら観察してみると、敵は3人みてぇだ。

しかも全員ドライバー...やっぱり油断は出来ねぇ。

だが、だからといって回りくどい事やってる場合でもねぇ。

レックスの提案で、ここにはいずれ衛兵が来る。そうなりゃ俺達もじっとはしてられなくなる。

そうなる前に、奴らを片づけるには...一つしかねぇ。

 

「関係ねぇよ。例え罠があったとしても、罠ごと食い破ってやるだけだ...だろ、レックス」

「うん。小細工してる時間も無いし...それに、今のオレ達なら勝てるさ」

「そう言うと思った...ま、嫌いじゃないけどね」

 

こんな所で止まってるようじゃ、楽園になんて到底辿り着けねぇしな。

俺達はこんな所じゃ終われねぇ...その想いは全員同じ筈だ。

 

「あと、殺すことが目的じゃないから...やり過ぎないよう注意ね。...特に、ミカ」

「分かったけど...別に、あいつら死んでいい奴でしょ」

「殺さなくたって、街を守る方法はある...だろ?」

「...そっか、その為に...」

 

...ぶっちゃけ、ああいう連中は改心なんてしねぇと俺は思う。

けどまぁ、レックスはこういう時頭の回る男だ。何か考えがあるのは間違いねぇし、今はその通りにするとしようか。

 

「んじゃあ、行くぜお前ら。あいつらの野望、ぶっ潰すぞ!」

 

号令と共に、俺は物陰から飛び出す。

 

「お前ら、武器を置け!街には行かせない!」

「!?何だぁてめぇらは...ガキ共が何の用だ!」

「一つしかねぇだろ...お前らの相手は俺達鉄華団だ!」

「こいつら、どうやって計画を...まぁいい!ガキ共はぶち殺せ...街への見せしめにするんだ!」

 

当然、奴らも素直に従いやしねぇ。

んな事は分かってる。だから...俺達は、それぞれの武器を構えた。

 

「まずは態勢を崩すよ!オルガ!」

「任せろ!うぉぉぉらぁぁっ!」

 

まずは俺とニアが先陣を切る。

俺の手にしたメイスとニアのツインリングが、ほぼ同時に敵に迫る。

それは直撃とはいかなかったが、それぞれが狙った相手の態勢を崩すことには成功していた。

 

「『アンカーショット』!」

 

すかさずレックスが、アンカーを敵の足元に放つ。

ヴァンダムさんから教わった方法で、野盗どもを容易くダウンさせてみせた。

 

 

「スザク!」

「任せろ!」

「サンキュー!行くよ、『サイクロンスマッシュ』!」

 

続けてレックスは武器を持ち替え、ツインサイスを振るってアーツを放つ。

そのアーツは転倒した二人の野盗に直撃し、二人とも起き上がらなくなる。

だが、ブレイドはコアに戻らない...ドライバーはちゃんと生きてるな。

...何だよ...同調して初の戦闘だってのに、ちゃんと連携できてるじゃねぇか。

すげぇよレックスは...俺達も負けてられねぇなぁっ!

 

「ミカ、滑空砲をあいつの足下に撃て!」

「分かった」

「あぁ?そんな事したって無駄...っ!?」

 

俺の指示の直後に、爆音が鳴り響く。

それは敵には当たってない。だが、爆発による煙がその視界を覆い隠す。

へへっ...思うように動けねぇだろ!

 

「...ちょっとオルガ、これじゃこっちからもアイツの場所分かんないよ!」

「ニア...いーや心配要らねぇ。なぁ...そうだろ、ミカァ!」

 

俺の言葉に応えるように、煙の中を鉄塊が駆ける。

獲物の場所は、あいつには分かり切ってる。

そして...やがて、鈍い打撃音が鳴る。

一回、二回...ん?

待て待て、二回?

 

「...あれ、ハナ?」

「ハナは人工ブレイドも。煙幕なんかで敵を見失ったりしないも!」

「そういう事か...まあ何にせよ、これで片付いたな」

 

二度目の打撃を喰らわせたのは、ハナの鉄拳だった。

ぶっちゃけ過剰かもしれねぇが...殺さない分には問題ねぇ。

これで目的達成だ。...んでレックス、結局どうして衛兵なんか呼んだんだ...正直ピンと来ねぇぞ。

 

「──おいでなすったの」

「どうしたじーさん...お、ありゃ呼んだ衛兵じゃねぇか」

 

噂をすれば影というやつか。衛兵が四人、こっちに向かってくるのが見えた。

しかしこのまま居座ってたら、俺達も捕ま...

 

「...そうか。このために知らせに行かせたのか」

「え?そりゃどういう事だニア」

「レックスは、最初から野盗を衛兵に捕まえさせるつもりだったんだ」

「こいつらを罰するのはオレ達じゃない。だろ?」

「......マジかよ。なるほどな、やっと理解出来たぞ」

 

理解するのは遅れたが、すぐに納得できた。

この世界は私的な理由での人殺しが許される世界じゃないみたいだしな。ずっと殺し合い続きだった俺達ならまだしも...こんな世界で育ったレックスにとっては、当たり前の選択なのかもな。

 

「となれば、長居は禁物ですね。この人達のことは軍に任せて、退散しましょう」

「そうだな。んじゃ...一旦アヴァリティアに帰るか!」

 

さぁ、今度こそスペルビア目指して出発だ。

もう何も起きねぇといいが...ま、旅ってもんは大抵上手く行かねぇ。

気ぃ引き締めていかねぇと、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて...どうするかな」

「どうするって...オルガ、何を悩んでるの?」

「いや...あいつら、この先どうしていくんだろうなってな。敵を討っても住む場所は勿論戻ってこねぇからよ」

「あー...そうだなぁ。オレ達が連れて行く訳にもいかないし」

 

帰りの船に戻るまでの道を歩いている途中...俺が言葉を零すと、レックスが聞いてくる。

鉄華団をあいつらの居場所にする...それも考えはしたが、昔と今じゃ色々事情が違ってくる。

天の聖杯を狙う奴らや、イーラとかいうテロリスト...そんな連中との戦いに、戦う術を持たないあいつらを巻き込む訳にはいかねぇ。

 

「...いや。一つ、方法があったな...悪いレックス、こっからインヴィディアまで船動かせるか?」

「え?まぁ、位置は把握してるから問題ないけど...なんで?」

「後で話すから、今の内に他の奴を集めて準備しといてくれ。俺は先に、こいつを使って話をしてくるからよ」

「...!あぁ、分かったよ!」

 

俺が取り出した物を見たレックスは、笑って駆け出していく。

それが何を意味するのか...レックスには、どうやら伝わったらしい。

まあ、当然だよな。だって、俺が取り出したのは...名瀬の兄貴から受け取った、通信機なんだからよ。

 

────────────────────────

「──では、お願いします...兄貴」

「おう。後は俺達に任せておけ」

 

俺が兄貴に頼んだのは、あの子供達の衣食住についてだ。

名瀬さんとそのブレイド達はすげぇ強いし、他にも傭兵が沢山いた。あの村なら、きっと安全だと思ったからな。

兄貴も、行くあてが無いグーラ人の子供がいるって話をしたら、すぐに聞き入れてくれた。これで、あいつらも大丈夫だ。

 

「自分はニューツであります!皆さん、ここに来たからにはもう安心ですよー!」

「私はウカです。こっちはスケタンで、こっちはカクタン!よろしくお願いしまーす!」

「...どうだ。上手くやっていけそうか?」

「オルガ...うん」

 

既に、名瀬さんのブレイド達が子供達と仲良くなろうとしていた。リリオもこう言ってるし、心配なんて要らなさそうだな!

 

「よし...んじゃ、今度こそ本当にスペルビア目指して出発だ。お前ら、早速準備して──」

「「スペルビア!?」」

「...ん?どうしたんだ二人とも...」

 

俺が皆に号令をかけようとした瞬間、二人のブレイドが反応する。

よく見ると...ニューツは目を輝かせていて、一方ウカは...怒ってねぇか?これ。

 

「スペルビアなんて...あんな、巨神獣(アルス)を改造して兵器にするような国!私許せません!」

「聞き捨てなりませんねウカ殿!巨神獣(アルス)兵器は、特にスペルビア帝国の技術は素晴らしいものでありますよ!そもそもあれは──」

 

 

 

 

「...悪いオルガ。無視してくれ」

「あ...はい...」

 

突如、スペルビアに関する考えの違いで喧嘩が始まった。

 

「あいつら、スペルビアの話題が出るといつもこうなんだよ。まさか巨神獣(アルス)兵器好きと巨神獣(アルス)兵器嫌いの両方と同時に同調しちまうとは、俺も思わなかったね」

「......兄貴も大変ですね」

「ま、手の掛かる奴の面倒を見るのも大人ってもんだ...それに。これもこれで退屈しねぇし、悪くないもんだぜ」

 

まあ、それは同感だ。沢山の仲間と一緒にわいわいやれれば、それだけで楽しくなるしな。

それに、兄貴もこの世界にすっかり馴染んでる...前から分かっちゃいたけど、それでも嬉しいもんだ。

 

「今のお前は...楽園を目指してるんだったな。必ず辿り着けよ、オルガ。今度は...全員でな」

「...はい。皆は、俺が守り抜きます」

「いい眼だ。...さ、行ってこい」

 

全員で、辿り着くべき場所に辿り着く。

かつては出来なかったそれを、あいつらと成し遂げる為に。

俺は一言誓いを口にして、船に向かう。

勿論、あいつらと一緒にな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし...到着したな。ここがスペルビアか...」

「やっと着いたね...船旅も長かったけど、今日は色々あったし」

「本当にね...無事に着いて良かったよ」

 

インヴィディアを出発した俺達は、まずアヴァリティアに戻った。

俺達はそこで借りた船を返し、その後乗船券を持って飛行甲板まで向かう。

声をかけてくれれば、それに合わせて出発する...そういう事になってたお陰で、無事に船に乗ることも出来た。

そっから長い船旅を経て、俺達はスペルビアに着いたって訳だ。

 

「それにしても...意外と何もないところですも」

「ここが街から外れた所にある港だからではないでしょうか」

「そうじゃろうな。まずは帝国首都を目指さんとな」

「船の中で聞いたけど...港を右手の方に抜けて一本道らしいよ、オルガ」

「そうか...よし分かった。んじゃ、早速行くか!」

 

ミカはほんとにしっかりしてるな。いつも助かるぜ。

早速俺達は、帝国首都の方角に向かって一直線に走り出した。

 

────────────────────────

 

「ここが帝国首都かぁ...」

「流石に首都って言うだけあるな。相当広いじゃねぇか...」

 

目的地についた俺達を出迎えたのは、巨大な建物が幾つも並ぶ景色だった。

今まで訪れてきたグーラやインヴィディアは自然が豊かな国だったが...ここは機械技術が相当発達してるらしい。街の外は荒野だし、正反対って感じだ。

まあ...俺やミカは、こういう風景の方が馴染み深いけどな。

 

「...もしもし...あなたはトラさんですかも?」

「ん?誰だあんた...トラ、知り合いか?」

 

さてどうするか...と考えていると、眼鏡を掛けた水色のノポンに後ろから話しかけられた。

なーんか胡散臭い見た目だが...見た目で判断するのも良くねえな。トラの知り合いかもしれねぇし。

 

「えーっとー...おっちゃん、トラのこと知ってるのかも?」

「あぁ...覚えていただけてないですも...ムイムイですも、あなたのお爺さま、センゾー博士の助手だったムイムイですも!」

「......あぁーっ!おっちゃん、あのムイムイかも?そっかー、おっちゃん影が薄っぺらいからすっかり忘れてたも」

「...トラ、お前なぁ」

「いえいえ、とんでもないですも。あの頃、トラさんはまだ幼かったからムリないですも」

 

目の前の胡散臭かったノポンの正体ははっきりした。偽物って訳でも無い...よな?

そういや、レックスから聞いた話だが...トラのじーさんと父親はハナを最初に作り始めた二人だったな。んで、その時の助手がこいつって事か...トラは忘れてたみたいだが。

 

「それにご主人の頭の中は、ハナをパワーアップさせることでいっぱいいっぱいだったですも」

「...!何と、これは...人工ブレイドじゃないですかも!」

「そうだも。じいちゃんと父ちゃんが残した設計図をもとに、トラが完成させたんだも」

「おぉ、素晴らしいですも...センゾー博士が生きていたら、きっと喜ばれたにちがいないですも」

 

...そういや、トラのじーさんは既に死んじまってて、父親は行方不明だったか。二人が途中で終わってしまった事を、最後までやり遂げた...やっぱりトラもすげぇよな。

...待てよ?あくまで行方不明...もしかしたら、こいつなら居場所を知ってるんじゃねぇのか?

 

「ムイムイ、父ちゃんがどこへ行ったか知らないかも?」

「......研究所が襲われたあの日、私はおつかいに出ていて...戻ってきたら、センゾー博士のご遺体を見つけたんですも。けど、タテゾー博士のお姿はどこにも──」

 

...そうか...流石に知らねぇか。

肝心な時に離れちまってたんだな...そりゃ辛い話だ。

 

「...おつかいって、何の?」

「え...?それは勿論、必要なパーツや博士たちのご飯を...」

「...そっか」

「ミカ...?」

 

何か、気になることでもあったか...?

鋭いミカの事だ、何か思うところがあったのかもしれねぇが...まぁ、今はひとまず置いておくか。

 

「...そっか、ムイムイも知らないんだも...」

「がっかりするなですも、ご主人。きっと会える日が来ますも。根拠は全くないですけども」

「あぁ、そうだぜトラ。旅を続けてりゃ、何処かでばったり会えるかもしれねぇし...それに、ハナも立派にやってるんだ。いつか噂を聞いた向こうの方から会いに来るかもしれねぇぜ?」

「ハナ、ダンチョー...ありがとうも。トラ、落ち込むのはやめるも!」

 

あぁ、前向いて進み続けるのが一番だ。

根拠は全くねぇけど...ずっと止まらなければ、何とかなる事だってあるんだぜ。

 

「あぁ皆さん、この街についたはかりのご様子なのに、お引き留めしてしまいましたも!この先に知り合いの宿がありますも。温泉が有名な所で、よければお安く泊まれるように口をきいておきますも」

「本当か?そりゃ助かる」

 

...やっぱり、いい奴で間違いなさそうだな。

お金に余裕がある訳でもねぇし、俺達はその言葉に甘えて宿に泊まる事にした。


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