「これで休めそうだな」
俺達は、野宿できそうな場所を見つけたんで、今日はそこで留まることにした。
火はどうすんだって思ってたが、ホムラが火を操れるブレイドだったんで無事解決だ。助かったぜ。
「...そういえば、あの時助けてくれたでっかい
ニアが、あのじーさんが無事なのかを聞いてくる。驚く顔が楽しみってもんだ。何せその見慣れない奴が...
「あーその
「ええっ、ウソ!何で!?」
じーさん本人なんだもんな。期待通りの反応、いい仕事だぜニア!
「...ねぇオルガ。楽しそうなとこ悪いけど、そろそろ何があったのか、話聞かせてよ」
「おぉ、忘れてた。んじゃ話すか、レックス」
「だね」
俺とレックスは、ニアやビャッコ、そして先にメツ達を追いかけてったミカに何があったのかって話をする。
「...なるほど、その子と楽園にね。...そういえば、まだちゃんとお礼を言ってなかったね。助けてくれてありがとう」
「あのぐらいどうってことねえぞぉ!」
まあ、俺は正直最後の方は的になってただけな気もするがな...
「ビャッコから聞いた。アンタがここまで運んでくれたって...」
「
「そういや俺達も礼言ってなかったな...ありがとよ、じーさん」
「助かった」
ビャッコがじーさんの方を向いて一礼する。ほんと礼儀正しい虎だな...んでもって、俺達もちゃんと礼を言っておく。こういうとこの筋はちゃんと通しておかねえとな!
「礼には及ばん、お前さん達もレックスを助けてくれたんじゃからの」
「いいよ別に...しかし便利なもんだね、
「全ての
じーさんがどうだと言わんばかりに喋り出したその瞬間、レックスとミカが遮る。そろそろ許してやれミカ...
「いいよもう...って!何じゃその言いぐさは!そもそもお前がそんな訳の分からん仕事を引き受けおったのが原因じゃろがい!じっちゃんはここでのんびりしててよ!とか言って飛び出していきおって...」
「ああはいはいわかりました。オレがぜーんぶ悪いんです。すみませんでしたごめんなさい!」
「テキトーに謝りおってからに、全く、反省の色が見えん!」
反省、か。だがホムラの事を考えると...
「そりゃできるわけねえよなぁ、レックス?」
「うん。だってオレがあの場所にいなかったら、ホムラはあいつらの言いなりに...そんなの絶対にだめだ。あんな奴らにホムラは渡せない」
「レックス...」
レックスが考えてることはやっぱり俺と同じだったみてえだ。その話を聞いてたホムラも嬉しそうで何よりだ。
「もうそろそろ夜だな。明日に備えて、そろそろ寝とくぞお前らぁ!」
「おっ、どっかの団長だけあって仕切るのが上手だね!」
俺が号令をかけると、レックスが褒めてくれた。ま、鉄華団の団長たるもの、こんぐらいできねえとな!
「ん...なんか眠れないな」
まだ夜なのに、目が覚めてしまった。
レックス達は寝てる。オルガは...
「止まるんじゃねえぞぉ...」
寝言で団長命令してる。言われなくたって、俺はこんな所で止まる気はないよ。
二アは...ビャッコの上に乗っかって仰向けで寝てる。豪快な寝方だな...
「えーっと、確かこの辺にしまったはず...あった。」
俺はウズシオでの見張りの時に使った毛布と自分のコートを、それぞれレックスとニアにかける。オルガの分は...まあ、いいか。
そういえば、ホムラとあのじーさんはいない...起きてるっぽいな。
少し見渡してみると、湖の近くで話をしてるのが見えた。少し聞いてみようかな。
「...お久しぶりですね、セイリュウさん」
「うむ。昔とは随分と印象が変わったのぉ?」
「色々、ありましたから」
あのじーさん、セイリュウって名前だったんだ...それに、昔とは随分印象が変わった...か。幼生体から大人になるまでに300年も必要な動物が昔って言うなんて、どれだけ前のことなんだろ。
「レックスに命を分け与えてくれたこと、礼を言おう。その上で聞きたい。レックスにした話、あれは本意か?」
「...はい。私の、本当の気持ちです」
楽園に行くって話か...オルガもそれを目指してるみたいだし、俺も頑張らなくちゃ。
「そうか...ならば信じよう。他の誰でもない、お前さんの言葉を」
「でも...もう一つ目的ができました」
「シンと...メツか。あやつらがおると言うことは、きっとあの男もいるのじゃろうな。」
「恐らくは。彼等を今のままにしておくことはできない」
あの男...?誰だろそいつ。まさかチョコレートの人...いや、無いか。よくよく考えてもみたら、もし本当にそうなら会えて嬉しいよとか言いながら出てきても可笑しくないし。
「宿命じゃな、天の聖杯の...巻き込むのか?レックスを。」
「...」
「責めとるわけじゃない。あのオルガという男は分からんが、お前さんが望まんでもレックスは首を突っ込むじゃろう。そういう子じゃ」
オルガは...頼まれたら間違いなくやるし、頼まれなくても困ってる人を助けようとしてきたことは何度もある。そして、オルガがそれを望むなら...俺もその道を進む。
「...レックスを頼んだぞ」
「はい...」
そう言うと、話が終わったのかセイリュウが戻ってくる。そしてようやく俺に気づく。
「なんじゃ三日月、盗み聞きとは趣味が悪いのぉ」
「ごめん」
「いいんじゃよ別に。聞かれてまずい話ではないしの。ところで、三日月に聞きたいことがあったんじゃ。」
聞きたいこと?俺なんかよりよっぽど色々と詳しそうなのに、何を聞こうって言うんだろ。
「ん、何?」
「あの暴力的とも言っていい程の桁違いのパワー、並のブレイドが出せるものではないわい。その力...どうやって得た?」
「...別に?普通でしょ。俺はただ、仲間のために全力で出来ることをやってるだけだ。邪魔する奴は全部敵...だから、全員潰すんだ。」
「なるほどのう...その覚悟が、おぬしに力を与えておるのかもな。じゃが...その覚悟は時として、焦りになるかもしれん。くれぐれも...強大な力の使い方を誤るなよ」
言われなくても、そのつもりだ。
そうは思ったけど...アドバイスとして素直に受け止め、頷いておいた。
「ふあぁぁぁぁ...おはよう、皆...ん?毛布?」
「おはよぉございます」
「おはよー...ってあれ?このコートって確か...」
俺、レックス、ニアがほぼ同時ぐらいのタイミングで起きる。そして気づいた。ミカの奴、自分のコートや毛布を人にかけてたんだな...ほんと、お前は優しくてかっこいいな。
「さてと...取りあえず近くの街か村にでも...と思ったけどここどこだ?」
「お前...」
「グーラだよ。スペルビア帝国グーラ領。」
スペルビア...確かインヴィディアってとこと戦争してるっていう国だったな。今は休戦中らしいが。
「今はグーラの
「そうかぁ、ここがグーラなんだ」
「グーラ?お腹辺り??全然わかんねぇぞぉ!」
「ちょっと黙ってて」
「すいませんでした」
話は黙って聞けとばかりに怒るミカ。いやまあ当たり前か。当たり前だな。当たり前じゃねえか...
「ま、まぁまぁ三日月、落ち着いて...ん?そういえばニアのその耳、もしかしてグーラ人?」
「遅いよ、今頃気づいたのか?」
「グーラはお嬢様の故郷なのです」
「へぇ...それは心強いや」
グーラ人ってのはどうやら皆耳が生えてるらしい。ニアを見る限り獣人...とはちょっと違うみたいだがな。
「街に行きたいんなら、まずはこの森を抜けないとね。道なりに登っていけば平原に出るはずさ。街はその先」
「よし、まずはそこに向かおう」
「よーしお前らぁ!またモンスターが出てこないとも限らねぇ。気ぃ引き締めて行くぞぉ!」
そんなわけで、俺達一行は街を目指して走り出した。
「うわぁ...!ものすごく広い平原!」
「壮観じゃの」
「すげえよ、グーラは...」
「景色...凄く、綺麗だ」
平原があるって話は確かについさっき聞いたがよ...こんな広いとはな...目的を忘れて駆け回りたくなってくるぜ。
「あぁ、こいつは感動もんだよ。じっちゃんの狭い背中とは大違いだ」
「むむっ、一言余計じゃわい」
狭い背中って...ま、この平原に比べたら狭く感じるわな。正直、これに比べたらイサリビもハンマーヘッドも小さく見えるぞ。
「向こうに見えるのがグーラで一番大きな街、トリゴ。とりあえず街までは送ってく。着いたら、そこでアタシ達の役目は終わり」
「?待ってくれ。そりゃどういう意味だ?」
「どういうって、アタシはアンタらと一緒にいることはできないからね」
「それって、あいつらのことがあるからか?」
「出会ってから日が浅いとはいえ、一応...仲間だからね」
仲間か...仲間と離れたくないって思うのは当然のことだよな。だがあいつらは...
「あいつらが仲間?二アを殺そうとしたんだぞ?」
「それでも...アタシの居場所はあそこにしかないんだ...」
居場所...こりゃ複雑な事情がありそうだな。
ニアも色んなもん抱え込んでるんだな...ここは鉄華団をあいつの居場所にしてやりたいところだが...提案する前にあいつが先に進み始めちまった。
「足を止めるなぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「言われなくてもそのつもりだよ!!!ていうかアンタのせいだろ!!!!」
「喧嘩してる場合じゃないって!!くるよ!!!」
「あ”っ...ヴァァァァァァァァ!!!!」
「オルガッ!」
「止まるんじゃねぇぞ...」
「だから!!!言われなくてもそうするよ!!!!!」
...なんでこんな事になったのか、説明する必要があるよな。
というのもだな...どうやらこのアルストって世界は地域ごとに敵の強さにある程度纏まりがあるわけじゃねえみたいでな?とんでもねえデカさのゴリラが歩いてるのを見かけたんだ。だがそん時の俺らはここらのモンスターを相手にうまく戦えていた。だから体がでかい奴相手でもいけると思ったんだ。
二アが
「いやあいつはダメだ!この辺りじゃ有名なユニークモンスターなんだぞ!?」
とか言ってたのも無視してな。攻撃したんだ。そしたら次の瞬間...そのゴリラの腕の一振りで俺はぶっ飛ばされ、死んじまったってわけだ。そしてゴリラはその後もしつこく追いかけ回してきて、この有様だ。
「こ、これ以上走るのは流石に体力が...!ってあれ?追いかけてこない?」
「バルバロッサの奴...オルガに死体蹴りしてないかあれ?」
「怒らせたのはオルガだし、まあいっか。」
「ええっ!?」
「あいつの気が済むまで、アタシらはここで見守ってよう...」
「二アまで!?でもまあ...それが一番か」
聞こえてんぞお前らぁ!ほんとすみませんでした!
しかしそろそろ許してくれてもいいんじゃねえのかゴリラさnヴァァァァァァァ!!!!
「...あんだけ殴られても原形とどめてるの、凄いなアンタ」
「こんぐらいどうってことねぇぞぉ...」
「いや、流石に痩せ我慢が過ぎるだろ...」
結局、あのゴリラが帰って行ったから俺は無事解放された。じゃあ今度こそトリゴに行くか...