BLOOD THE LAST VAMPIRE Warriors 作:ケーヒツ
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
無断転載禁止です。
こちらは、「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の二次創作の小説です。同人要素が含まれているので、苦手な人は閲覧ご遠慮ください。
版権元および製作者様各位とは全く関係ございません。私個人の自己満足の産物であることをあらかじめご注意下さい。
また作品に関しまして、嫌悪感や不快感等を覚える方の入室はご遠慮ください。
中傷といったマナーに反する行為に関しては一切受け付けませんのでご理解よろしくお願い致します。
「BLOOD-C」や「BLOOD+」の世界観は用いておりません。いわゆる、「無印版BLOOD」になります。
劇場版とゲーム(やるどら)版に準拠していますが、独自設定もあります。また、他の派生作品(実写版など)は準拠しておりません。
また物語の性質上、過激的且つ暴力的な表現を含んでおります。したがって、R15とさせていただきます。
以上の事柄をご理解の上で、ご理解頂ける方はどうぞ楽しんでいって下さい。
序章
2009年7月8日。午後9時過ぎ。
京都府京都市左京区にある、寺院。
夏至を過ぎたとはいえ、昼の長い季節である。しかしながらこの時間となれば、暗闇を照らすのはネオンと街頭などの照明が、灯となる刻である。
この日の天気は、あまりはっきりしない空模様だった。雨、というのが降っていないのに、何故か先が見えにくい空気。
『曇り』とだけ伝えれば十分かもしれない大気は、夏の暑さには珍しく、地上に舞っているようだった。
「自我得仏来
所経諸劫数
無量百千万
億載阿僧祇」
本堂から聞こえてくる経典。文字だけ見れば異質であっても、それはこの場所では日常の『風景』だった。
「常説法教化
無数億衆生
令入於仏道
爾来無量劫」
本堂は、それほど広い類ではない。有り体に言えば、「小ぶり」と言われるだろう。
「為衆生度故
方便現涅槃
而実不滅度
常住此説法」
宗派としての都合か、本堂の内陣には前机、脇間は空いており、礼盤や経机等は外陣に配置されている。
「我常住於此
以諸神通力
令顛倒衆生
雖近而不見」
礼盤の前で住職が経典を唱え、その背後には修行僧だろうか、5人の僧侶が手を合わせて目を閉じ、住職の念仏を聞き入るように沈黙している。
「衆見我滅度」
ふと、送料の一人が背後に目線を向けた。
「広供養舎利」
と、幾秒間かの後にすっくと立ちあがる。
「咸皆懐恋慕」
体の向いた方向は、背後の本堂正面扉だ。
「而生渇仰心」
数歩歩いて、扉を右にスライドして開く。
僧侶達が居る本堂は、決して高い位置にはない。階段にして5段くらい、でしかない。
ただ暗闇という時間は、人の視界をも不明瞭で不明確なものにしてしまうのだろうか。
まるでかの下人が、朱雀大路に消え去った、決して計りはできない空間のみであった。
そこに、人影があるというのに。
「衆生既信伏
質直意柔軟
一心欲見仏
不自惜身命」
本堂から聞こえる念仏は、変化なく続く。
しかしながら、時代なのだろうか、念仏の中にある橙の灯は、実に近代的な、電球からのものだった。
暗順応、とでもいうのだろう。僧侶には、その人影が見え始めた。
まず見えたのは、下の辺りだ。
一見すれば、漆黒にも思えるが、背後の暗黒と相まって褐色と分かるローファー。
白色のクルーソックス。次に見えたのは、「透き通った白」と表現しそうな、肌色の素足。
女性、か。
そう確信させたのは、スカートだ。
紺…。いや、多分紺色なのだろう。
何故か、一気に上半身まで見える。
暗闇に溶けそうな、制服なのだが。
制服、か。
しかしながら、今時珍しい恰好だ。
左右の髪を編んで垂している髪型。
三つ編みの、俗にいう「おさげ」。
紺色の制服は、珍しくもない、が。
セーラー服は流石に珍しいだろう。
しかも、長袖だ。暑い季節なのに。
肩には茶色のアジャスターケース。
おさげの合間から見える、太い唇。
蠟燭色した肌が深い闇夜を照らす。
両脚は肩幅に開き、綺麗な立ち姿。
ただ、その眼は闇に隠れて見えず。
仁王立ち。
「時我及衆僧
倶出霊鷲山
我時語衆生
常在此不滅」
暫くか。
或いは一瞬か。
此処に流れる音が経典のみとなっている。
「以方便力故
現有滅不滅」
「おや、これは珍しいですね」
先に声を発したのは、修行僧の方だった。草鞋に足を入れて、階段に向かって歩く。と同時に、右手で背後の扉を閉じた。
「余国有衆生
恭敬信楽者」
本堂からの経典を伝えている音が、少し小さくなる。
だが、セーラー服の少女は、微動だにしない。
「こんな夜更けに、客人とは」
彼は慣れているのだろう、足は確実に階段のある場所へと辿り着いた。
「以方便力故」
少女のアジャスターケースが、肩の位置で傾く。
両足の膝が関節を動かし、地面に音を発生させた。
「しかも、若い方が寺院に…」
「現有滅不滅」
修行僧が階段を降り始めた時、少女の足が、浮いた。
低く周囲に響く音が、本堂の扉を打ち付け、三宝尊が揺れ動いた。
「何だ?」
振動の様に広がる動揺。無論、4人残った修行僧達である。
「余国有衆生
恭敬信楽者」
経典が切れ目なく続いている中で、修行僧四人は、立ち上がって扉へ向かう。
「我復於彼中」
四人も同時に行動すると、一介の僧侶とは思えぬ図体に思える。そのうちの一人の修行僧が、勢い良く扉を開けた。
見えたのは、暗闇の地面に砂音を立てた足を、地面に着けた少女の姿。
「為説無上法」
見えたのは、縁側に横たわる体を上下二つに斬られた、修行僧の遺体。
「汝等不聞此」
「な!?」
四人の中の一人の修行僧が、その光景を目の当たりにして唸る。
「但謂我滅度」
暗闇と鮮血に塗れ、苦悶の表情のまま絶命している男性の死体。
「我見諸衆生」
乾いた音と共に、地面に彷徨う、円筒型のアジャスターケース。
「没在於苦海」
少女の手元の黒い棒が、漆黒に反して輝きが消え金属音が響く。
「故不為身現」
「日本刀か!」
先程とは別の修行僧が、目前で刀を構え始めた少女へと吼える。
「令其生渇仰」
「貴様ぁっ!」
憤怒の声は、人数で示すにも憚られるまでに周囲に轟き亘った。
その勢いは本堂の扉を閉める程であったが、経典は続いている。
「因其心恋慕
乃出為説法」
だがその忿恚の声は、あまりにも異質な音へと変容していった。
「あ゛あ゛あ゛っ!!」
声だけではない。
修行僧が握りしめた拳が、みるみる大きくなっていく。いや、拳だけではない。彼らの着ている襦袢や霜降が、雨水に溶けていく和紙の如く、粉々に内側から砕けていく。彼らの身長は元々五尺弱と大柄であるが、それが六尺を越えたのだ。
内側から露出するのは、必然の理と言える。
「神通力如是」
露出しだした肌も、それらを覆う骨格も、先鋭的に且つ硬化的に変質していく。
「於阿僧祇劫」
眉間の皺が張っていくと同時に、眼球は白色を失眼と耳はその形を尖らせ、顎から上は剥き出しになった口が、獣と見紛うまで変形する。
「ぐ・が・が・が」
変形した口角のせいか、普通の人が出す声ではなくなっている。
立ち向かおうとすれば、その強靭な腕に圧し折られ、抗う事すら叶わずに、誰もが喰い殺されると思えるだろう。
それはまさしく字の如く、「化物」と言うべき姿だった。
「常在霊鷲山」
だが、現状は違っていた。
「ぐはっ!」
化物となって強化されている筈の4体のうち、2体の身体が上下に切り離されていた。
セーラー服の少女は、本堂への入口付近まで歩む事無く、一間を浮き上がって中央の二体の懐に飛び込み、腰に収めていた日本刀を右に一閃、薙ぎ払われていたのだ。
「及余諸住処」
ローファーが、一体目の死体から噴き出た鮮血に塗れた縁側に、着く。
「クソッ!!」
化物となっても詞は発せるのか、両側に残った2体は悪態を吐き、それぞれのサイドへと跳び跳ねた。
間合いを取る為だったのか、あるいは逃げる為だったのか。
彼等は化物だ。その跳んで稼いだ距離は、常人の倍はあったし、更には助走無しで移動したのだから、それは流石とでも言えるのだろう。
「衆生見劫尽」
ただどちらにせよ、それは化物に達には「無駄な足掻き」になってしまった。
「な⁉」
セーラー服の少女は、上下を裂いた化物を踏台に、本堂向かって左側の高い位置に跳んでいた。
その高さ、凡そ十尺程度。
そして、次の瞬間だった。
「グハァ!」
縦に降りてくる刹那、化物の身体は左右に分かたれた。
「大火所焼時」
残るは一体。
「くっ!」
果たしてこの残党は、次なる行動をどのように考えていたのだろうか。
これだけ圧倒されながらも、反撃を試みたか。
それとも敵わないと見て、逃亡しただろうか。
仲間がいたなら、助けを求めるのもありえる。
しかし。
「!?」
それらを不可能にさせる物が、目前にあった。
どの分か解らないが、化物の死体が飛んできた。
「ガハッ!」
顔面に当たる。
上腿が仰け反る。
胴体に隙が出来る。
そして、左に一閃。
「ば、化物…」
皮肉にも、化物が放った最後の言葉である。
隙だらけの胴体は、日本刀の薙に斬られていった。
本堂から引き続く経典の音。
化物の塊が地面に墜ちる音。
各々の肉片から出る血の音。
日本刀が黒い鞘に収まる音。
「我此土安穏
天人常充満
園林諸堂閣
種種宝荘厳」
決して無音ではない空間に、日本刀を携えた少女は無言で静寂を奏でている。
その眼は、本堂へと向きを変えていた。
*************
「宝樹多華果
衆生所遊楽
諸天撃天鼓
常作衆妓楽」
薄墨色の袈裟衣を纏い経典を唱え続ける僧侶。
年の頃、その容姿からは、三十代にも見え、その落ち着きからは五十代にも見える。
綺麗に丸刈りとなっている彼からは、その齢も推測できない。
「雨曼陀羅華
散仏及大衆」
昨今、檀家の数が寺院の殆どで減りつつある。テクノロジーの恩恵に縋りたいのか、ホームページを開設したり、動画配信を試みたりと、寺の存続に悪戦苦闘している時代だ。
そんな中にあって、ここの僧侶は地味、という以上に目立たなく過ごしていた。檀家は数える程度で、祭りやイベントを開く事も無く、近所の住人ですらこの寺院の存在を気にしていない状態である。
にも関わらず、弟子が何人かいて、どうやって運営しているのか不思議な寺院であった。
「我浄土不毀
而衆見焼尽」
僧侶は念仏を唱える際、経本の頁を経典の内容に合わせて捲っている。だがその目は一切開いてはいない。
その閉じていた眼が、左側だけ開いた。
前机の周囲に、何本か置いている蠟燭。
だが燭の光は今の時代らしく、電球だ。
「憂怖諸苦悩」
燭を模した電球から、焦げる様な音が出てくる。
幾秒も経たず消滅した音と同時に、光も消えた。
それはまるで、本物の蠟燭の炎が潰えるように。
「如是悉充満」
鳳凰が嘶く声に似た音が、風となって聞こえる。
「是諸―――」
ここまで続いていた僧侶の経典が、遂に止まる。
ゆっくりと振り返った、十尺程先にあったのだ。
日本刀を携えた、人影が。
セーラー服におさげ、そして日本刀。
まさしく、先程まで起きていた表の騒ぎの中心人物である。
日本刀は、鞘に収まっていない。寧ろ、今は持っていない、と言う可きか。
素手の左手とは対照的に、右手は柄を、親指は棟側の鐔に掛けて握っている。
下を向いていた顔が、少しだけ上がる。その目は鋭くつり上がっており、目線は僧侶に向いていた。
一方の僧侶は、正座のまま少女へと向きを変えた。経典を読んでいた時は閉じていた眼は、少女とは対照的に、微笑むような柔らかい表情だった。
「仕事柄、人から感謝される事がよくありましてね」
穏やかな表情の侭、僧侶は他愛のない内容の話を始めた。
一方の少女は、無言の儘下に向いた日本刀を持ち上げた。
「『和尚さんのお陰で優しい気持ちになりました』とか、」
刀身は地面からの距離を離し、その地面と平行に並んだ。
「『慈悲の心の大切さが分かりました』とかですね」
左手の指は棟側の鋒に添えられて、反りを沿う様に擦る。
「ですが、それも全ては己の体裁であったり、自己満足でしかないのですよ」
棟から鎺、切羽、鐔へとその手は流れ、柄で両手が揃う。
「人の性と云うのでしょう。いや、エゴイストなのですよ、人というのは」
刀身は身体より後方へ、且つ下方と位置を変えていく。
「仏も神も情愛ですらも、単に醜く憐れすら覚えてしまいがちでして、ね」
同時に少女の左足は後方、右足は前方へ、体位は下がる。
「ですが、貴女にもそれに私達にも、興味ない話題なのでしょうな」
空気と同時に、本堂の畳が軋み、少女は突進していった。
「お互い、『人』ではないのだから」
本堂両側の襖が開く。
右側から化物が四体。
左側にも化物が四体。
少女は突進を緩めた。
前面の僧侶は化物に。
「殺れぇ!」
雄叫びの様な唸り声。
僧侶だった化物から。
少女は左右を見渡す。
突進の速度は落ちた。
右側から化物が一体。
その少女は格好の的。
速度が落ちたからだ。
だが動きは止めない。
少し飛んで体を回す。
日本刀も同様に回る。
化物は咄嗟に避ける。
この時、本堂に居た化物達は、少女の攻撃を避けられた事から、楽観的に次の攻撃への移行を考えていた。
だが、少し畳から上に離れたセーラー服の少女から、下に落ちた物体に、一同、周章狼狽する事になる。
「手榴弾?」
手榴弾。
MK3A2。
米軍が採用している攻撃手榴弾である。
安全ピンを抜いてからの発火時間は4秒。
だが、手榴弾から垂直に距離を離した直後、渇いた音と同時に、MK3A2は爆音と共に炸裂した。
MK3A2は、マークII手榴弾等の破片手榴弾とは違い、トリニトロトルエンの爆発によって発生したショックウェーブによって攻撃する武器だ。故に、攻撃力は破片手榴弾より劣ってしまう。
とは言え、危害半径は約2メートル。その範囲内に居れば、命の存続に関わる筈だ。
だが日本刀を携えた少女は、まるで爆風を利用したかのように舞い上がり、ヒラリと本堂入り口辺りに降り立ったのである。
「グハァ…」
一方、殆どの化物達は、爆心点から六尺程は離れていた。謂わば危害半径の間際だ。また一体は、少女に飛び掛かろうとしていた為、更に近くに居た。それだけを考えれば、無傷とはいかないだろう。
だが、彼等に傷らしい傷は見当たらない。近くに来ていた一体も、だ。流石は化物、と言ったところか。
「な、何故…?」
絞り出す様な、化物の謐き。何やら動揺しているのか。
と、ここまで一切喋らなかった少女が、放つように声をあげる。
「Fire(撃て)!!」
言うが早いか、或いは。
体を低く、床に伏せる。
背後から、銃弾の絨毯が迫っていた。
銃弾は意外と小さい。SS109、5.56x45mmNATO弾。だが、30cm以上の貫通力はある。
一発でも、結構な殺傷能力がある弾丸が、飛んでいるのは見ている分だけでも百発以上。
少女のお下げ髪を通過して、向かうは化物達へ。しかも、弾丸の数はこれで終わらない。
初弾こそ手榴弾の影響で発射音が掻き消されたが、次からは違う。1秒間に10発以上は発射しているであろうその武器は、M4カービンか。
それも、単独での発砲ではない。恐らく7,8人程の狙撃の銃弾は、空間を埋め尽くし、化物達に襲い掛かった。
「グワァ!」
先程述べた通り、一発の弾でも威力はある。普通の人間ならその弾丸に吹き飛ばされ、少ない弾丸でも死に至るだろう。
だが、数多の銃弾を喰らった筈の化物達は、全てその場の位置に留まっていた。しかも、どうやら死したのは一体も無いようだ。
やはり、化物と言ったところか。
とはいえ、大量の弾圧を受けて、化物達の動きは止まったに等しくなった。
多分、それは数秒間だけの話。
その秒が過ぎる間も無く、彼女は次の行動に移していた。
体勢を低く保ったまま、先程の銃弾の様な突進。一番手前の化物に近付くと、立ち上がると同時に刀を振り上げた。
化物の右肩から左胴にかけて斬りつける逆袈裟。
続いて奥の化物に、下から斬り上げる左切上。
刀を横に角度を変え胴体を真っ二つに右薙。
更に奥の化物には返す刀で逆方向に左薙。
反動を利用して横へ飛び下方から逆風。
割れた化物の影から降り下ろし唐竹。
体を回転させて次の化物には袈裟。
柄を素早く持ち変え次は左切上。
最後は刀を真直ぐにし、刺突。
刺した刀の位置を変える。
右へ、上へ、そして抜く。
同時に彼女は踵を返す。
一歩、二歩、と歩く。
化物から血飛沫が。
何かを囁く化物。
が、聞こえず。
体勢を崩す。
膝を折る。
倒れる。
絶命。
転がっている、元は九体の化物だった、今や十七の肉塊から、紅い血液が止め処無く流れ出し、若草色の畳の色が変化していった。
その血溜まりの上を、長袖のセーラー服を纏い、頭からお下げ髪を揺らし、鞘が無い日本刀を携えた、少女に見える女性が、ローファーで踏みしめながら本堂を後にした。
*************
本堂から降りる階段を、丁寧に下る少女。その表情は、俯きまるで周りを見ていない様子に窺える。
「Saya(小夜)!」
駆け付けた、と言わんばかりに現れたのは、黒人の男性だった。
「Saya,Did you take it down?(仕留めたのか)」
彼は、英語で少女に話しかけた。一方「小夜」と呼ばれた少女は、一度男性の顔を見て、無言で本堂を見た。
「よし、回収しろ!」
彼の号令と共に、暗闇から黒のスーツに身を纏い、サングラスをかけた男達が、拳銃もしくは自動小銃を片手に小夜の横を通り過ぎ、本堂の方へと走っていった。その様を眺めているみたいに、小夜は本堂の方角に顔を向けている。
「小夜」
呼ばれた彼女は、応じる形で振り向いた。
「新しい刀だ」
この男、身長が高い。手に持っている日本刀。昨今の流行なのか、柄をあわせて100cm位はある。
それがどうだろう。
まるで彼が持つと、リレー競争で使用するバトンみたいに見える。齢は六十位には見えるが髪型がアフロヘア―であるが故に、更に高く見える。
空いた手で、小夜は刀を受け取ると、庭園へと歩く。
「しかしよぉ、今時の技術ってのは、大したもんだよなあ、小夜?」
特徴的な髪型を掻きながら話す、刀を渡した男性とは対称的に、小夜は無言で、転がっていた茶色のアジャスターケースを回収していた。
「今日は10体くらい、斬り斃したんだろ?昔の刀だったら、すぐに刃毀れしていたぜ」
アジャスターケースに、渡された方の日本刀を収納する。どうやら、これは刀を隠す為の物らしい。
「技術の進歩、ってヤツだよな。ウチでも人気なんだぜ、ソイツはよ」
また、地面に落ちていた鞘を拾い、使用していた日本刀をそれを差し込む。
「アニメとかゲームやらで、日本刀は大活躍だからな、今の時代」
甲高い音で刀が収まると、背が高い男に向かって行った。
「ルイス」
小夜が名で呼んだ先に居た長身の男性は、「何だ?」と返した。どうやら、ルイスとは彼の名前らしい。
「この刀を、アイツに渡して欲しい」
右手に掴まれた鞘に収まった日本刀が、地面と平行になる。
「おい、ソレって…」
ルイスは怪訝な面持ちで、刀と小夜を交互に見る。一方の小夜は微動だにせず、話を続ける。
「お前が言うように、これはまだ斬れる。アイツの力になるだろう」
あまりに淡々としていた小夜に逆上したのだろうか。
「冗談じゃねえぞ⁉今日仕留めた数はハンパなかったぜ!十体くらいは…」
ルイスは身振り手振りを大きくして、小夜に訴える。
が。
「十四体だ」
とだけ返されただけだった。
冷静な返答に、ルイスは鼻から抜けるため息と、その特徴的な髪型を掻き毟っていたが、一拍して左手をスラックスのポケットに収めると、右手を小夜に差し出した。
「まだ、この近くに『翼手』共が居やがるんだな?」
「そうだ」
答え終わると同時に、小夜の手から日本刀が離れた。すかさず受け取ったルイスは、幾度かその手を軽く握り締める。
小夜が踵を返すと、その視界には経典が流れなくなった本堂と、肉片の塊と成り果てた化物を、恐る恐る処理しようとしているスーツ姿の男達が入ってくる。
「それとルイス、予備の刀はまだあるのか?」
「ん?ソイツに関しちゃあ、心配いらないぜ?『昔』の一件があったからよ、幾らでも用意できるさ。でも、それ程、なのかよ?」
「足りないかもしれない。だが、無いよりはましだ」
ほんの少しだけの間に、ルイスは考えたのだろう。
「だったら『俺達』にだって、コイツがあるぜ?」
彼は胸ポケットから、徐に銃を出した。
FN-P90だ。
全長500 mmの、シンプル・ブローバック方式のサブマシンガンだ。1997年の在ペルー日本大使公邸占拠事件のチャビン・デ・ワンタル作戦で使用され、有名になった銃だ。
「そんなもの、何の役に立たない。奴等には通用しないんだ。何度言ったらわかるんだ」
「分かってるさ!『一度に大量に出血させないと死なない』、だろ?」
軽く振り向いた小夜に否定され、ルイスはその小さいとは言い難い銃を胸ポケットに収めると、後は戯ける他に無かった。
「ただよ、」
また、ルイスは髪の毛の間に指を差し込む。
「ロックの奴に会うのが面倒でよ」
「『ロック』?」
聞き返した小夜の顔は、まるで初めて聞く名前に眉をひそめる様だった。
それに対して、ルイスは何時の間にか腰に差し込んでいた日本刀を叩いて応える。
「『今はそう呼んでくれ』だとさ。全く、前々からアイツが苦手なんだよな、俺は」
またも深い溜息を吐くルイスに、小夜は時計回りに身体の向きを変えて向き合った。
何かを言い出そうと、彼女が口を開いたその時だった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
その叫びは、本堂前に居たスーツ姿の男性で、ルイスと共に来ていた一人だった。
「何だよ、全く」
面倒臭さしか感じない態度を出し、ルイスは小夜の横を通り過ぎる。
口を閉じた少女は、アジャスターケースを掛け直して歩みを進める。
「小夜!」
二人の距離が幾分か開いた辺りで、ルイスは振り返って呼び止めた。
「コイツを持っていけ!」
同じく振り向いた小夜に、何処からか出した小さい物を放り投げた。
彼女は左手で受け取って、それを確認するには長い程に、見つめる。
「今度のは、解りやすいぜ」
投げた方の手で軽くジェスチャーしたルイスは、本堂へと向かった。
受け取った左手にある物をポケットへ収めると、小夜は踵を返した。
「何の騒ぎだ?」
先程叫んだ男性の所へ向かうルイス。他のスーツ姿の男達も、気になったのか数人程そこに居た。
「こ、コイツは翼手とは違うんじゃ…」
震える男性の身体の横から、「ん?」と覗き込むルイス。
そこには、真っ二つに分断し更に大量の出血で解りにくいが、修行僧だった男の遺体があった。
小夜が小夜が此処に来て、最初に斬り倒した男だ。
こう見ると、確かに男性の遺体にしか、見えない。
ルイスは右手を振り上げて、そのまま振り下ろす。
「がはぁっ!」
鈍い殴られた音と共に、スーツ姿の男は転がった。
「…っつ!な、何で、また殴るんですか⁉」
彼の訴えに対し、胸倉を掴んでルイスは言い放つ。
「お前、名前は何だ?」
「ジョ…ジョセフです」
「ヨーシ、いいだろう。お前の名前は覚えといてやる。だがいいか?これから俺が言う言葉を、耳を掻っ穿って聞きやがれ、新米‼」
今度は、両手でジョセフの胸倉を掴み直すルイス。
「彼女は、俺達が知っている唯一のオリジナルだ!」
「お、オリジナル…?」
ジョセフの呆けた顔を見て、ルイスは突き放した。
「それと、この刀はお前がロックに渡しとけ、新米」
倒れたジョセフの胸元に、今度は日本刀が当たる。
「お、俺が、ですか?」
戸惑う彼の姿を見たルイスは、目線を門へ向けた。
「これでいいんだよな、小夜?」
様々な事を成したその両手を、スラックスのポケットに収めるルイス。その表情は年相応の皺が解る微笑だが、その目線の先には誰一人存在しない。
ただ、漆黒の京の街が広がるだけである。
初めまして。
読んでくださった人に感謝します。
実は、久々にペンをとりました。つたない文章過ぎて、恥ずかしい次第です。
一日一行のペースで執筆していますので、かなりの亀速度ですが、お付き合いいただければ幸いです。