私はこの学校ですごい物を見た気がする…………。おそらく人生で初めての……。
それはちょうど昨日の朝……学校の靴箱で……まあ今日も見れると思うわ……。
どうして私かこんなに落ち着いていないのかって言うと、鹿目さんと暁美さんの異常な関係について……。
(鹿目さん、今日も来たのね……)
早朝、ほとんどの生徒はまだ登校しない。でも私は学校の二年部の靴箱に来ていた。そして少しの間、影で隠れていると鹿目さんが一人でやって来る。
コソコソと隠れながら靴箱の方を見ていると鹿目さんが何か靴箱の前でキョロキョロと辺りを見回し怪しい動きを取り、靴箱の中から自分のじゃない他の誰かの上靴を取り出した。
「む……ちゃ……ん……」
遠くからで声まではハッキリ聞こえないけど、鹿目さんはその取り出した上靴の匂いを必死に嗅ぎはじめる。
その上靴が入っていたのは一番端、つまり出席番号が一番早いあ行の人の物。私の考えられる限り、今鹿目さんが嗅いでいるのは暁美さんの上靴としか思えない。
(あんなに悦楽な表情を浮かべている鹿目さんなんて見たことない……)
別に鹿目さんに限ったことじゃなくて人間のあんな表情は今までに見たことが無かった。今の鹿目さんの表情は楽しいとか嬉しいとかの感情を遥かに超えている。
「ゃん…………き……あい……て……る…………」
その光景を遠くから見ているため何を言っているのかは分からないけど、口の動きを読んでみると「ほむらちゃん、好き、愛してる」と鹿目さんは言っていた。
(好きな人の靴の匂いってそんなに良いのかしら?)
私はあまり恋とか分からないから、今鹿目さんのやっていることに理解が出来ない。
世の中には同性愛とか靴の匂いとかが好きな人もいるし、恋人が出来たら私も嗅ぎたいって思うのかしら?
こうして考えている間も鹿目さんは幸せそうに暁美さんの上靴を嗅いでいる。
別に理解は出来なくても引くことはないし二人が同性愛で付き合っていることにも引くことはない。むしろ応援しているわ。
(まさか今日もするのかしら……)
本当に私が驚いているのはこの後の行動。
しばらく見ていると鹿目さんは上靴を元に戻し、代わりに靴箱の中から可愛らしく包装されている手紙や白いシンプルな手紙を数枚取り出した。
「しの…………ち……に……ちか……ない…………で……」
口の動きからして「私のほむらちゃんに近づかないで」と言っている。鹿目さんはそれらの手紙を一気に破っていき、跡形もないようにグシャグシャに丸めていった。
さっきまでの悦楽な表情から一変して今度は憎しみを込めた、鬼のように恐ろしい表情で私も少し寒気がする。
(またやったわ……あれって暁美さん宛のラブレター?)
その手紙が何なのかは分からないけれど学校中で人気のある暁美さんだから、きっとラブレター……あるいはその人気を妬む嫌がらせの手紙かのどっちかだと思う。
実は昨日の朝も同じように暁美さんの上靴の匂いを嗅ぐと鹿目さんは手紙を破いていた。その時の表情も今のように恐ろしい、普段の鹿目さんからは考えられないような表情だった。
「……」
全ての手紙をグシャグシャにすると鹿目さんは原型をとどめない手紙をゴミ箱に荒っぽく入れて帰っていく。
(えっ、まさかこれから待ち合わせ場所に!?)
いつも暁美さんと一緒に登校していると聞くけど、今鹿目さん一人しかいない。
(本当にこれから……)
私の予想が正しければ、鹿目さんはこれから待ち合わせ場所に行って何事もないように暁美さんと登校する。仮に毎朝じゃなくても昨日に引き続きするなら疲れて授業どころではないんじゃないかしら……。
「ほむらちゃん、おはよう!!」
「おはよう、まどか」
あれから少し鹿目さんの後をコソコソと追いかけていたら暁美さん、美樹さん、あと……志筑さんだったかしら?あの三人組が待ち合わせの場所に集まっていた。
鹿目さんは暁美さんを見ると可愛らしい笑顔で元気いっぱいに挨拶をして、恋人らしく腕を組んだ。
「朝からお熱いことで」
「あらさやかさん、微笑ましいことですわ」
そんな二人を目の前にして微笑んでいる美樹さんと志筑さん。あの様子だったら、二人がああやって腕を組むのは今日が初めてじゃないみたいね。
「ねえほむら、今日の宿題を教えてよ」
「別にいいわよ」
美樹さんは前に出て来ると両手を合わせて暁美さんにお願いする。
「もうさやかちゃん……ほむらちゃんは私だけの人なんだから……」
「ま、まどかの後ろに黒い何かが……」
ずっと腕を組んでいた鹿目さんは笑いながら冗談っぽく言っていたけど、その雰囲気は凍りついたように暗くて重い。
「これぞ愛ですわ……」
鹿目さんは笑っているし志筑さんは何故か微笑んでいるし暁美さんは相変わらずの無表情だけど、鹿目さんの雰囲気はどこかおかしい。
怒ってもいないし睨んでいるわけでもないのに、何故か今の鹿目さんはおかしいとコソコソ見ていた私にも分かった。
「もうこれから暁美まどかって名乗りなさい」
「別に鹿目ほむらでもいいわよ」
「ええーい!わけわからんわ!このバカップル!」
暁美さんの言う冗談?に半ば呆れ顔で美樹さんは言った。
ここまでの様子を見る限り鹿目さんは暁美さんを愛しているわね。でも……さっき一瞬だけ雰囲気が冷たくて重くなった。
おそらく美樹さんだけは鹿目さんの雰囲気を悟ったらしい。
(も、もしかして……あれがヤンデレっていうのかしら?)
私はヤンデレについて考えてみる。
確かヤンデレは病みとデレが合体したとか何とかってクラスの子が言っていた。でもデレは分かるけれど、鹿目さんの病みは何かしら……?
ーーーーーワルプルギスの夜。
魔法少女の中で最強の魔女と言われる存在で、数日前にこの見滝原市を襲った。
暁美さんには誰にも言えない、辛くて悲しい秘密がある。
暁美さんの正体……それは鹿目さんを残酷な運命から救うために未来から来た時間遡行者。
話しによると、未来で私や鹿目さんはワルプルギスの夜と戦って死んだらしい。暁美さんはその結末を変えるために契約して過去に戻った。
だけど運命は残酷で暁美さんには味方しなかった……。
何度同じ時間を繰り返しても鹿目さんを救えずに…………それどころか自分が繰り返す度に鹿目さんの素質は強まり、仮に契約して魔女なれば世界は10日もかからず滅ぶらしい。
だから魔女になるのを阻止するためにソウルジェムを撃って殺したり、鹿目さんを救うために私たちと敵対することになったりなど、暁美さんには酷すぎる現実が次々と襲いかかった。
中でも鹿目さんとはある約束をしたらしい「キュゥべえに騙される前のバカな私を助けてあげてくれないかな……」と。
だから引くに引けない状況になった暁美さんはただ一人で孤独に絶望と戦い続けた。
どれだけ私たちと良い関係を築き上げても結局はリセットされ、昨日までは友達だったのに、その関係すらもリセットされたから殺し合うようなことにもなったりして……さらに、しょうがないとはいえ大切な人を何度も殺すことになったり……考えただけでも恐ろしい……。
そんな中、暁美さんは遂に他人と関わることを諦めた。
(鹿目さんは暁美さんに何度も拒絶されたから次第に病んでいったのかしら……)
私は今、昼休みに学校の屋上で鹿目さんのことを考えていた。やっぱり鹿目さんと暁美さんの恋愛?が気になってしまう。
そもそも私は恋愛なんて良く知らない。だから好きな人をどう想うのかなんて分からないし、そもそもヤンデレ自体あまり知らない。
「あれ、マミさん?」
背後から声をかけられて振り返って見ると美樹さんがいた。
「一人でどうしたの美樹さん?」
いつもは鹿目さんたちと一緒にいるのに今日に限って一人なんて珍しいわね。
「実は今日ほむらが告られるんですよ。ほらあれ」
美樹さんが振り向く方向には鹿目さんと暁美さんが、今朝みたいに腕を組んで待っていた。どうやら暁美さんは告白されるらしい。
「えーと……相手は鹿目さんかしら?」
「あいつらはもう付き合ってますよ。ただ数日前から猛烈にアタックしてくる男子がいるみたいで」
サラッと言ったところを見ると、ずいぶん前から二人は付き合っているらしい。でも暁美さんは美人だから男子からのアタックも……。
「それでまどかがすごい怒って……今日その男子に文句を言うんですよ」
美樹さんはやれやれと言った表情になる。あの鹿目さんが怒るなんて少し考えにくかった。
「お?来た来た」
美樹さんの言う先には男子学生がいる。
「ねえ……ほむらちゃんに付きまとうのやめてくれないかな……」
私たちが二人を影から見ていると、バシンと大きな音が鳴り響いた。男子学生に対して鹿目さんは思いっきりビンタをしたからだ。
「私たちは愛し合っているの…………それを引き裂こうとしないで……」
バシン!バシン!と二回大きな音が鳴る。今度は連続で鹿目さんがビンタ。隣で美樹さんが初めてみる幻の「まどビンタ」と声を押し殺して笑って言っていた。
(鹿目さんがすごく怖い……)
今の鹿目さんは鬼のように恐ろしい邪悪なオーラを纏っている。いつもとは真逆な雰囲気で近づく者、全てを圧倒するような重苦しくて恐ろしい雰囲気。
やがて男子学生は半泣きになりながら、その場を逃げた。
「ほむらちゃん……これでやっと私たちの愛を邪魔する人はいなくなったね……」
今朝よりも数十倍、おかしな雰囲気が増した鹿目さんは暁美さんに抱きついた。
「ほむらちゃんは私だけを見てて……あんな人は見なくていいんだよ……」
「ほむらちゃん……大好き……」
そう鹿目さんは言うと暁美さんと深いキスをした。
「ねえ美樹さん……あれってヤンデレって言うのかしら?」
その光景をずっと影から見ていた私は隣で笑っている美樹さんに今の鹿目さんのことを聞いてみる。
「うーん、まどかは何か微妙かな……でもほむらはヤバいですよ」
「暁美さん?」
鹿目さんは微妙らしいけど暁美さんは何かヤバいらしい。
「今は言われるがままの状態ですけどほむらはめちゃくちゃ危ない……マジでヤバいヤンデレです……」
何か、とてつもなく恐ろしい物を見たかのように美樹さんは青ざめた顔をしているわ。
「何か見たの……?」
あまりにも青ざめているので私は恐る恐る聞いてみる。きっと何か恐ろしい事があるに違いない。
「まどかから聞いた話しなんですけど……どうやら24時間ほむらに監視されているらしくて」
「か、監視……それも24時間……」
私は驚いた、そんなスパイ映画みたいなことを実際にする人がいるなんて思ってもみなかった。
「当の本人は嫌がるどころか喜んでて……あと噂ではほむらに脅されたって人が大勢いるらしいんですよ」
「お、脅された……!?」
監視の次は脅し、何だかどんどん壮大になっていく。
「まどかと親しくしようとする女子とか男子や告白しようとする男子などを主に脅しているらしく、私たち以外の人はまどかに近づかなくて……」
「鹿目さん……学校で孤立しないかしら?」
「ほむらさえ一緒ならいいって感じですから、孤立しても平気なんじゃないですかね」
少しやりすぎのような……というか聞いていて恐ろしくなる。孤立しても暁美さんのそばに居たいって、本当にあの二人は愛し合ってるのね。
「暁美さんが鹿目さんを独占したいって気持ちは分かるわ。でも、鹿目さんはどうして暁美さんをああまで独占したいのかしら?」
暁美さんにとっての鹿目さんは何度も時間を繰り返す理由だし、自分の全てを賭けてまで救ったのだから分かる。でも鹿目さんは?
「元々ほむらへの気持ちが徐々に強くなっていたけど中々伝えられず、ほむらはまどかを遠ざけていたから……そこにワルプルギスにトドメを刺して、ほむらが死にかけたのが決め手になったんじゃないですかね?」
私たちだけじゃなくて鹿目さんすらも遠ざけられていた。決して笑顔も見せずに、いつまでも一人で戦って……。
そしてワルプルギスの夜と戦った時に暁美さんは自爆した。その結果、ワルプルギスの夜は倒せたんだけど暁美さんは酷い大怪我をして……鹿目さん以外は死ぬだろうって諦めていた。
「……あの二人には今度こそ一緒にいてほしいわね」
「そうですね」
今度こそ離れないように一緒にいてほしい。もう二度と暁美さんや鹿目さんが悲しむ事の無いように私たちも強くならないといけない。
やっと暁美さんは幸せな未来に辿り着けたのだから、だからこそ幸せな未来で鹿目さんと一緒に生きていてほしい。
…………ちょっと怖いけど。
ーENDー
いやヤンデレってなによ…………?
ツッコまないで……