英雄が嫌いな英雄がベルを支えていく物語   作:ジャッジメント

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サポーターと拉致

怪物祭から約一週間後...

 

「ベル!そっちは任せたぞ!」

 

「はい!せえや!!」

 

ベルは素早い連撃で目の前にいた複数のモンスターを蹴散らしていく。

 

「ほいほいっと!」

 

悠斗も軽い身のこなしでモンスターを全て刈り取った。

 

 

 

「よーし、10階層のモンスターも余裕になってきたな!」

 

悠斗は魔石とドロップアイテムを拾いながら言う。

 

「はい!エイナさんにプレゼントしてもらえたこの"グリーン・サポーター"もありますし、もう少ししたら中層にまで手が届きそうです!」

 

「まあそう焦るな。中層はレベル2に上がってからだ。じゃないとエイナさんが今度は魔神と化してしまいそうで...」

 

「あはは!悠斗さんこの間エイナさんにたんまり怒られてましたからね」

 

そう。悠斗は怪物祭の時に負った怪我をエイナに見られて本気で怒られ、しかもそれがオッタルとの戦闘で受けた傷とは言えるはずもなく、結局エイナの地獄の講義6時間スペシャルを受ける羽目になってしまった。

 

「ああ...思い返すだけでもあれは地獄でしかなかった...生きた心地がしなかったぜ...(終始目だけ笑ってない笑顔でたんたんと講義してんだもんなあ...正直【猛者】との戦闘よりもダメージでかかったわある意味...)」

 

悠斗は青ざめながら、トラウマを語った...

 

 

「とりあえずエイナさんにも10階層までしか許可出てないですし、帰りましょう?」

 

「だな...はあ、オラリオの女ってみんな怖い...」

 

 

 

 

 

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「すっかり遅くなっちまったなあ...」

 

「そうですね、こっちの裏道を通った方が近いので行きましょう」

 

「おう!」

 

 

そのままベルは悠斗と話をしながら通りを歩いていると、路地裏との交差点に差し掛かったところで

 

 

ドン!

 

「あうっ!」 

 

路地裏から走ってきた誰かとぶつかって、走ってきた人は転んでしまう。

ベルは慌てて転んだ人に近寄り

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

と声をかける。

 

「ん?この子やけに体格が小さいなあ...子供か?」

 

その子はヘスティアよりも小さな身長で、見た目では7、8歳児程度という特別な体格をしていた。

ベルはとある一つの種族を思い浮かべた。

 

「...小人族?」

 

身を捩ってその小人族パルゥムが身体を起こす。

ボサボサの栗色の髪をしており、大きく円な瞳が印象に残る女の子である。

 

 

ベルがその子に手を差し伸べようとした時、

 

「やっと追いついたぞ!このクソ小人族が!!」

 

路地裏から抜き身の剣を持ったヒューマンの男が走ってきて、そのまま剣を振りかぶった。

ベルは反射的にその小人族の女の子の前に立ちはだかって、迫りくる剣をナイフで軽々と受け止めた。

 

「んなっ!?何なんだてめえは!もしかしてそのクソ小人族の仲間か!?」

 

剣を止められた事に驚いた後、ベルと悠斗を睨みながら聞いてくるチンピラ男。

 

「いや、初対面ですが...」

 

「じゃあ何でそいつを庇ってんだ!?」

 

「おいおい、目の前で女の子がピンチになってたらそら助けるだろうよ」

 

悠斗はあきれながらそう言った。

 

「てめえふざけてんのか!?」

 

「はあ...なんか典型的小物って感じだなあんた...」

 

「な!?上等だ!ならまずはてめえらから殺してやるよ!」

 

男は憤慨しながらベルに向かって剣を振り下ろす。

ベルは即座に反応してナイフで剣を受け止め、

パキィンっと剣を軽々と折った。

 

「お、俺様の剣が!?」

 

「(見るからにレベル1の冒険者だな。剣もかなりのなまくらだ。おまけに技術もろくに磨いてないド素人の動き、それじゃあ同じレベル1でもベルには傷一つつけられねえよ)」

 

「こ、このガキよくも!!」

 

今度は殴りかかってくる冒険者。ベルは呆れながら反撃に移ろうとしたとき

 

 

 

 

「やめなさい」

 

「!?」

 

突然した声に全員が振り向く。

 

「次から次へと...今度は何だあ!!」

 

「「リュ、リューさん!?」」

 

突然目の前に豊穣の女主人の店員、リュー・シオンが現れたことに驚く二人。

リューは構わず続ける。

 

「あなたが危害を加えようとしているその少年は将来、私の同僚の伴侶となられる方です。手を出すのは私が許しません」

 

「ええ!?」

 

「ベル...お、お前はもうそこまで進んでいたのか...」

 

悠斗はそこまで進んでいたと思い込んで、若干ショックを受けていた。

 

「クソが!どいつもこいつも意味のわからねえ事を...てめえもぶっ殺されてえのか!?」

 

「吠えるな」

 

「!?」

 

「(この威圧感は...やっぱリューさんは只者じゃねえな...)」 

 

突如出された威圧、冒険者の男は圧倒され固まっている。

 

「手荒なことはしたくありません。私はいつもやり過ぎてしまう......」

 

その言葉に冒険者の男は冷や汗をかきながら後ずさる。

更にリューは最終通告と言わんばかりに威圧を強めた。

 

「ち、ちくしょう!」

 

さすがの男も確実に勝てないと分かったのか、吐き捨てるように言うと一目散に逃げていった。

 

 

 

「ありがとうございますリューさん、助かりました」

 

「いえ、差し出がましい真似をしてしまったようで...悠斗さんもいましたしあの程度の輩ならどうという事はないでしょう...」

 

「いえいえ。俺もベルもあのまま続けば叩き潰すことしかできなかったんで。まったく手を出さずに威圧だけで追い払う戦法、見事でした」

 

「い、いえ...そのようなことは...」

 

突然悠斗から褒め称えられてリューは顔を赤くしながらしどろもどろになった。

 

「と、ところでクラネルさんと悠斗さんはこんなところで何をされていたんですか?」

 

リューは慌てて話題を切り替え質問した。

 

「何ってさっき女の子が襲われて...てあれ?」

 

さっきまでいた女の子がいない。どうやら今の騒動の隙に逃げたようだ。

 

「い、いなくなってる!?」

 

「逃げたのか?ったく、いくら怖がってたとはいえ礼儀知らずなガキだな...」

 

礼の一言も言えない非常識な少女の行動にやや憤りを感じる悠斗。

 

 

「まあいいか。ん?リューさんはひょっとして買い出しの帰りですか?」

 

「え、ええ。その通りですが...」

 

リューの手には買い物袋をいくつか持っていた。

悠斗の思った通り店の買い出しの帰りだったようである。

 

「そうだリューさん。助けてくれたお礼にその荷物を持ちますよ」

 

「えっ!? そんな、悠斗さんとクラネルさんの手を煩わせるようなことでは...」

 

「俺らのことは気になさらずに!ほらベル、お前も持て」

 

悠斗はそう言いながらリューの持っている荷物に手を伸ばす。

 

 

リューは強情で少し抵抗気味に悠斗の手を掴んでしまった。

 

「あ.......」

 

「ん?」 

 

突然リューの抵抗が弱くなり、悠斗はその隙に荷物をひょいと取り上げた。

 

「どうしました?」

 

「あ...い、いえ何でも...それではお願いします」

 

「はいよ!行き先はお店でいいんですよね?」

 

「は、はい...すみません...」

 

リューが急にしおらしくなった様子を見て悠斗はおかしいと思ったが気にせずに店の方へと歩いていった。

外は薄暗かったので2人は気付かなかったが、リューはしばらく顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

 

 

「あの人なら...」

 

先ほどの少女が陰からこっそりと覗いて呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、リューおかえりってベルさんと悠斗さん!?」

 

「あはは、どうもシルさん」

 

リューとともに帰ってきたベルと悠斗に驚きを隠せないシル。

 

「ええまあちょっと色々ありまして」

 

「そうだったんですか。...リューどうしたの?」

 

先ほどから一言もしゃべらずもじもじしてるリュー。

 

「何でもないです。それでは荷物を運びますんで私はこれで...あっ!」

 

普段のリューなら絶対しないであろう油断。それによって床の出っ張りに足を引っかけてしまった。

 

「危ない!!」

 

倒れる瞬間、間一髪で悠斗がリューを抱きかかえた。

 

「リューさん大丈夫ですか?」

 

悠斗が心配そうにリューに声をかけた。

 

「.........!!?」

 

何かに気づいたようでリューは顔を真っ赤にして慌てて悠斗から離れる。

 

「あ、ありがとうございます悠斗さん!私は荷物を運びますのでこれで失礼します!!」

 

リューは大慌てで店の中に入っていった。

 

「...俺何か悪いことしちゃったのかな...」

 

恋愛に鈍感な悠斗は完全にショックを受けてしまっていた。

 

「(悠斗さんも鈍いんですね...)大丈夫ですよ悠斗さん。リューはちょっと照れてるだけですから」

 

「そうですかねえ...」

 

シルの慰めに微妙に納得のいってない悠斗であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日...

 

「じゃあ神様、悠斗さん。行ってきます!」

 

「う~ん...いってらっしゃいベルく~ん...」

 

「ほいほい、まあ今日は1人でどの程度行けるか試してきてみな。間違っても中層には足を踏み入れるなよ?」

 

「はい!」

 

ベルはそう返事すると、勢いよく飛び出していった。

ここ数日は鍛錬と探索で悠斗が付きっきりだったので、今日はベルがどの程度行けるか試してきてもらうことにしたのだった。

 

「さあて、俺も街の地理を覚えるために買い物がてら探索に出るか」

 

正直、ほとんどダンジョン探索と鍛錬ばかりであまり歩く機会が少なかったために今回は一日街中を歩いてみることにした。

 

 

 

 

 

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朝日が昇り、バベルの塔の前の中央広場には今日もたくさんの冒険者が行き交っていた。

パーティを組む者、サポーターを連れてる者、しかしソロはほぼほぼいなかった。それほどにダンジョンにおいてソロ探索は危険ということである。

 

「サポーターかあ...どうしようかなあ...」

 

などと悩みこんでいた。知り合いもいないのでそうそう見つかるものではない。

 

「悩んでてもしょうがない。今度エイナさんに少し相談してみよう」

 

そう言ってダンジョンに入ろうとしたとき

 

「お兄さんお兄さん。そこの白い髪のお兄さん」

 

背後から呼びかけられた声に足を止めた。

後ろを振り向くと、身長1mほどの小さな身体に似合わぬ大きなバックパックを背負い、クリーム色のフード付きローブを身につけた少女が立っていた。

 

「あれ...君は...」

 

ベルはこの少女が昨日いた小人族の少女に似ているように感じていた。 

 

「えっと状況を把握できませんか?簡単な話ですよ。冒険者さんのおこぼれに預かりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんです」

 

「いや状況はもちろん分かってるけど...君は昨日の小人族の女の子だよね?」

 

「小人族?何のことですか?リリは犬人なんですが...」

 

女の子はそう言いながらフードを外すと、栗色の髪の頭にぴょこんと犬耳が付いており、ローブの下から尻尾も生えていた。

 

「えっ犬人なの?」

 

ベルは思わず確認する。

だ体型や雰囲気そして瞳がそっくりだった。

自然に手が伸び、少女の耳に触れる。

手触りは本物......作り物じゃない。

 

「んんっ...お、お兄さあん...」

 

ベルは喘ぎ声を上げた少女に我に返り、慌てて手を離す。

 

「あ!ご、ごめん!人違いだったみたい!」

 

ベルは素直に謝り、詳しく話を聞くことにした。

 

 

噴水の淵に腰掛け、少女に話を聞いた。

彼女はソーマ・ファミリア所属のリリルカ・アーデという名前だ。

 

「それでどうですか? サポーターは要りませんか?」

 

リリは人懐っこそうな笑みを浮かべ、元気よくアピールをしている。

そんな彼女にベルは

 

「じゃあ、今日一日お願いするよ」

 

「はい!よろしくお願いしますねベル様!」

 

 

リリは笑顔で言った。その笑顔に裏には別の目的を持ち合わせていたことにこの時のベルは気付くはずもなかった...。

 

 

 

 

 

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「さーてどこから行こうかなあっと!」

 

まだ見ぬ地でウキウキ気分になってる悠斗であった。

 

「食べ歩き、服、食料品、でもいいな。まあ欲を言えばゲーセンで太鼓の達人でもしたかったがな...」

 

この世界にはゲームという概念は無い。ゲームセンターも無ければ当然ながら太鼓の達人も無い。

 

「今なら幽玄ノ乱やカオスタイムを全良できる勢いがあるってのに...ってそう言えばポーションが切れたんだったな。いつもならミアハ・ファミリアに買いに行くんだが、こっからだとディアンケト・ファミリアの方が近いか...しゃあねえ買いに行くか」

 

 

 

忘れる前にポーションを買いにディアンケト・ファミリアの店に訪れた悠斗。

 

「いらっしゃいませ」

 

女性の店員が出てきた。アミッド・テアサナーレ。ディアンケト・ファミリアの団員のレベル2で【戦場の聖女】の二つ名を持つ。

 

「あ、すいません!ポーション×10お願いしたいんですが?」

 

「畏まりました。全部で4万ヴァリスになります」

 

ここの世界の回復アイテムは非常に高く、一番安いポーションでも4000ヴァリス(本作の設定)、エリクサー(万能薬)に至っては50万ヴァリスもする。

悠斗は回復魔法が使える+魔力枯渇無効というチート性能を持っているためそこまで回復アイテムはいらないが、本来の貧乏ファミリアならば回復薬1本買うのにもかなりの出費となる。

 

 

 

「ポーションバカたけーよったく...。さて、ポーションも買ったことだし次は食料品でも見てこようかなあ!」

 

ルンルン気分で外を出ようとしたその時

 

「やっほーアミッド!」

 

「あ、ティオナさん。それに皆さんも」

 

「(ゲッ!あれはロキ・ファミリア!?)」

 

何とタイミング悪くロキ・ファミリアのヒリュテ姉妹、アイズ、レフィーヤが来店してきた。

 

「今日はどのようなご要件で?」

 

「えーっとこの紙に書かれてる素材を取り寄せたいんだけど?」

 

「はい、これはまた...随分と大量ですね?」

 

「まあ、遠征でだいぶ資材も使っちゃったしねえ...それに昨日なんか...」

 

ティオネたちは談笑中していた。

どうやらロキ・ファミリアはこの店の常連客であり、アミッドとも交流が深いようだ。

 

「(お、これはもしかしてチャンスじゃね?今あいつらが話してる隙にこっそり外に出れば...)」

 

音を立てないようにこっそりロキ・ファミリアの後ろを抜け、外に出ようとしたとき

 

 

 

 

「どこに行こうとしてるのかなあ??」

 

悠斗の肩をガシッと背後からティオネが掴んで言った。

 

「逃げようたってそうはいかない」

 

「やっほー!また会えたね!」

 

「あ、えーっとこれは...」

 

「(ば、バカな!俺の隠密スキルが効かないだと!?)」

 

いつの間にか三人に囲まれていた。

どうやらレフィーヤ以外にはとうに気付かれていたようだ。

三人の目がどことなく怖い。

 

「い、いやあ君たちが楽しそうに話してるのを見て邪魔しちゃ悪いと思ったんだ!」

 

「お気遣いなく~こっちは君にも用事があるから!」

 

「ティオネさん。一体どういうことですか?」

 

「それは後で説明するわ。あんたちょっと付き合いなさい」

 

「断る!!お、俺はこれから街中を探索するという大事な...」

 

「ああん!?てめえ女の子の誘いを断る気かゴルァ!!!」

 

今度は悠斗の胸倉を掴み上げる。

これは明らかに誘いではなく脅迫である。

それを突っ込むと本気で殴られそうなので

 

「(む、無茶苦茶な女だなこいつ!)わ、分かりました分かりましたから!」

 

「ふん!最初から素直にそう言えばいいのよ」

 

「やったー!よろしくねー!」

 

「今日こそは...!」

 

「あわわ...」

 

「はあ...不幸だ...(さらば俺の平穏な1日よ...)」

 

悠斗の今日1日街中を探索できるという有意義な時間はあっけなく幕を閉じたのだった。

 

 

 

 


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