捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編   作:ローリング・ビートル

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明日への扉 #11

 開演3分前。もうそろそろ幕が上がる……しかし……。

 

「……開演前なのに、お客さん少ないね」

 

 誰が呟いたかはわからないが、その一言が現状を物語っていた。

 客の数は10人いるかいないか……そして、誰かが入ってくる気配がまったくない。

 こりゃあ、体育館が埋まるかどうか以前の集客だな。いや、それでも無名のスクールアイドルのライブで、客が集まっただけマシだと思うべきなのか。

 ……果たして、幕が上がった瞬間に彼女達は何を思うのだろうか。

 考えているうちに、本当に幕が上がり始めた。

 そして、可愛らしいアイドルの衣装に身を包んだ3人の姿が現れた。

 

「…………」

 

 体育館内に目を向けた高海達の目が曇ったのがわかった。

 

「…………」

 

 何も声をかけることができずに、黙ってステージを見ていると、こちらを見た高海と目が合う。

 視線がはっきりとぶつかってから数秒、彼女は頭を振り、力強く頷いた。どうやら心が折れることはなかったようだ。

 ……よかった。

 素直にそんな感想が浮かんでくる。

 そして、彼女達の歌声と共にライブが始まる。

 穏やかで綺麗な旋律から、アップテンポなイントロが流れ、自然と体がリズムを刻み出す。

 最初は緊張気味だった彼女達も、次第に生き生きとした笑顔を見せ、軽やかなメロディーに前向きな言葉をのせていく。

 そして、曲が一段と盛り上がり始め……

 

「っ!?」

「きゃっ!?」

「な、何!?停電!?」

 

 突然鳴り響いた落雷とほぼ同時に、会場内が暗くなり、音楽が止まった。

 ステージ上の三人は、キョロキョロと辺りを見回し、状況を確認している。

 だがそれだけで状況が変わるはずもなく、ただ雨音だけが虚しく鳴り響いていた。

 ……さすがにもう続けられそうもないか。

 会場内にそんな空気が広がり始め、小さなどよめきが起こり始めた時、再び歌声が響き始めた。

 

「……高海」

 

 そう……マイクもBGMもない状況で、彼女は歌い始めた。

 何かを訴えかけるような目は……心からの想いをのせた声は……か細いながらも薄暗い体育館に、確かに響いていた。

 そして、その音を包み込むように渡辺と桜内も歌い出す。

 美しいハーモニーが、しっとりと体育館を穏やかに満たしていく。

 しかし、それも長くは続かなかった。

 高海は俯き、肩を震わせた。

 その姿に、柄にもなく何かできる事はないのかと思ってしまった、その時……

 

「バカ千歌ー!アンタ何開始時刻間違ってんのー!?」

「美渡姉!?」

 

 高海次女がグッとサムズアップしながら登場した。ていうか、時間間違えてたのかよ……。

 さらに、入り口の方がやたらざわめいていると思ったら、同年代くらいの女子や、まだ小学生くらいの子供や、子連れの主婦や、お年寄りなどがぞろぞろと薄暗い体育館に入ってきた。

 あっという間に体育館は人で満たされ、入り口には入りきれなかった人達が、必死に覗き込もうとしているのが見えた。

 そして、どういうわけかスポットライトに再び明かりが灯り、ステージを照らし始めた。

 そして、再び勢いづいた彼女達は顔を見合せ、観客達に笑顔を向けた。

 再び音楽が始まり、三人は全身全霊のパフォーマンスを見せる。

 最後は弾けるような素敵な笑顔で曲を締めた。

 

 やがて、パチパチとどこからか手を叩く音が聞こえてくる。

 まばらな拍手は、やがて大きな音の洪水となり、体育館内を満たしていく。

 俺もいつの間にか拍手をしている自分に気づいた。

 賑やかな音の波に当てられたのかもしれない。

 ただ……素直にすごいと思った。

 こうしてAqoursの記念すべきファーストライブは、これ以上ないくらいの大成功を収めた。

 

 *******

 

 人がいなくなるまでしばらく待ち、やっと体育館を出ると、バタバタと誰かの足音が聞こえてきた。

 

「比企谷さん!!」

 

 彼女は息を弾ませながら、あっという間に距離を詰めてきた。

 ……一応、労いの言葉をかけておくか。

 

「……お疲れ」

「はいっ、今日は来てくれてありがとうございました!嬉しかったです!」

 

 そう言って笑う彼女は、雨雲なんかかき消してしまいそうなくらい綺麗に見えた。

 今年高校に入ったばかりの後輩に、そんな気持ちを抱いたことを悟られたくなくて、つい視線を逸らしてしまう。

 

「どうかしたんですか?」

「いや、別に……それよか黒澤姉から色々言われてたけど、大丈夫なのか?」

 

 そう。黒澤姉は、ライブが終わった後にはっきり言った。

 今回、ライブが成功したのは、これまでのスクールアイドルの実績と、町の人の善意によるものだと。

 そして、それは確かな事実のように思えた。

 しかし、彼女の瞳はまったく揺らがなかった。

 

「わかってます。私達はまだまだなことくらい。それでも、またライブしてみたいって心から思えたんです。その気持ちに嘘はつけません」

「そっか……なら、応援する」

「は、はいっ、ありがとうございます!次も絶対に来てくださいね!」

「……まあ、行けたら行くわ。一応、多分、気が向けばそのうち」

「それ来ない人の反応じゃないですか~!」

「ばっか、お前。来れない可能性だってあんだろうが」

「今から予防線張らないでくださいよっ。ぜっったいに最高のライブにしますから!」

「……楽しみにしとく」

「はいっ」

 

 高海はこちらに小指を突き出してきた。

 それを見ていると、彼女はさらに距離を詰めてきた。

 

「……どした?」

「約束です!!」

「あ、ああ……約束ね」

 

 ここまでストレートにこられると、誤魔化せそうもない。

 観念して小指を出すと、高海は何の躊躇もなく、自分の小指を絡めてきた。

 

「ゆ~びき~りげ~んま~んう~そつ~いた~らは~りせ~んぼ~んの~ますっ!ゆ~びきった!」

 

 ほんのり温かな感触が離れると、彼女はすぐに背を向けた。

 そして、振り向き様に告げた。

 

「それじゃあ、約束しましたからね!絶対ですからね!」

「……まあ、一応な」

 

 彼女は俺の返事など聞かず、さっさと走り去っていった。

 微かに柑橘系の香りを残し、それは胸を高鳴らせた。

 

 *******

 

「千歌ちゃ~ん、どこ行ってたの?」

「あっ、曜ちゃん。ごめ~ん、ちょっとだけ……」

「千歌ちゃん、顔紅くない?」

「えっ、そうかな?そんなことないと思うけど……あれ?ちょっと、ほっぺた熱いや……何でかなぁ?」

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