捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編   作:ローリング・ビートル

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明日への扉 #12

 日曜日。

 翌日からの学校生活に備えるべく、しっかりと睡眠を取ろうと思っていたのだが、予定よりだいぶ早い時間に起きてしまった。しかも、やたら寝起きがすっきりしていて、二度寝できそうもないのが残念極まりない。

 仕方ないので部屋を出て、リビングまで行くと、人の気配がした。

 

「あっ、おはよ~お兄ちゃん」

「おはようございます、比企谷さん!」

「ああ、おはよう……」

 

 ソファーには小町と高海が並んで座って、楽しげに笑顔を向けてきた……は?

 念のため目をこすり、何度かまばたきしてから、もう一度確認してみる。

 

「…………」

 

 間違いない。そこにいるのは、浦の星女学院2年・高海千歌だ。浦の星の制服を着用しているし、朝からやたらテンション高そうな笑顔を見せている。

 彼女は不思議そうに首を傾げた。

 

「どうかしました?」

「……それはこっちのセリフなんだけど。なんでお前が朝からいんの?小町をスクールアイドルに勧誘しに来たのか?」

「小町ちゃんには断られてるんですよ~。もう生徒会のお手伝いをしているらしくて」

 

 なるほど、小町に目をつけるとは見る目があるようだ。

 まあ、お前にはやらんがな。

 

「お兄ちゃん、なんかアホなこと考えてる顔してるよ?自重して」

「ぐっ……ていうか、それなら何で朝からウチに?」

「いい歌詞が思い浮かばなくて、砂浜を歩いてたら、偶然小町ちゃんに会ったんで。それでお呼ばれして。もしかしてうるさかったですか?」

「いや、全然。それじゃあ俺はもうひと眠り……」

「はいはい。何バカな事言ってんの、お兄ちゃん。せっかく千歌さんが来てるんだから、さっさと顔洗ってきて」

 

 どうやら二度寝はできないらしい。

 諦めの溜め息を吐きながら、俺は洗面所へと向かった。

 

 *******

 

 比企谷さん、すごい眠そうだったなぁ。遅くまで何してたんだろ?勉強かなぁ?受験生だし。

 そこで私は、一つのある事実に気づいた。

 そういえば、男の子がいる家に上がるのって、小学生以来だなぁ。中学からは曜ちゃんや、むっちゃん達とばかり遊んでたし。

 今日は小町ちゃんに誘われて来たけど、なんだか少しだけ緊張しちゃうかも。

 

「千歌さん、ごめんなさい~。お見苦しい兄をお見せして。休日はいっつもこうなんです」

「あっ、ううん。大丈夫だよ。私が朝早くからお邪魔しちゃっただけだし」

 

 それに、何だか貴重なものを見た気分だし……。

 比企谷さんは欠伸をしながら、のろのろとリビングに戻ってきた。

 

「よしっ、じゃあ行こっか」

「……行くってどこに?」

「せっかくだし3人で朝御飯食べに行こうよ!軍資金ならさっきお母さんが出かける前にくれたから」

「えっ?わ、私もいいの?」

「あっ、もしかしてもう朝御飯食べちゃってました?」

「まだだよ。でも、なんか悪いよ……」

 

 さすがに申し訳ないと思っていたら、小町ちゃんが切なそうな目を向けてきた。

 

「お願いします!毎日兄と二人きりの朝食はもうしんどいんです……!味の感想聞いても無愛想に「美味い」って言うだけだし、会話しようとしても「ああ」とか「うん」だけで、会話にならないし!小町はいつも寂しいんです!」

「あはは……わ、わかったよ。うん」

 

 なんだか熟年夫婦みたい。比企谷さんは「なんかごめんね?」と呟いていた。確かにあんまり喋らなそうだなぁ、ウチのお父さんみたい。

 例えば、私と比企谷さんが二人で食事してたら……って、何考えてるの、私!?

 

「千歌さん?」

「あわわっ、な、何かな?」

「千歌さん、この辺りにオススメの場所ありますか?」

「この辺かぁ……あっ、そうだ!」

 

 *******

 

 そこは家から割と近い場所にあった。

 

「いらっしゃいませ~……って千歌ちゃん?そっちの玄関は使っちゃダメって言ってるでしょ?」

「ふふん、今日はお客さんをつれてきたんだよ!」

「お客さん?あら、比企谷君じゃない。そっちの女の子は、もしかして妹さん?」

「比企谷小町といいます。兄がいつもお世話になってます」

「いや、この前会ったばかりなんだけど……」

「あら、可愛らしい妹さんね。ふふっ、千歌ちゃんの姉の志摩です。よろしくね」

「ふむふむ、意外と内浦にもお姉ちゃん候補がいる……よろしくお願いしま~す♪」

 

 挨拶の前になんかブツブツ言ってたけど、それに関してはツッコまないでおこう。

 

「じゃあ志摩姉、モーニング三人分お願い!」

「はいはい。ちょっと待っててね」

 

 優しい微笑みを残し、高海長女は厨房に引っ込んだ。

 

「おっはよ~!」

「っ!?」

 

 いきなり背後から何かが覆い被さる感覚。

 聞き覚えのある声が、その正体を教えてくれた。

 

「み、美渡姉!いきなり出てこないでよ、びっくりするじゃん!」

「さっきからいたけどアンタ達が気づかなかっただけでしょー。それよか、朝からどったの?」

「朝飯食いに来たんですよ。ていうか、その……」

 

 さっきから背中に柔らかいものが当たってるんですが、少しくらい気にしたほうがいいんじゃないですかねえ、思春期男子のメンタルのためにも!

 

「へえ、照れるとか可愛いとこあんじゃん。あっ、もしかして惚れた?」

「いや、別に」

「即答!?こいつめ!うりゃうりゃ!」

「っ!」

 

 そのまま首を絞められるが、首より背中の方が気になって仕方がない。

 

「あわわわ……さらにお姉ちゃん候補が!小町は嬉しいよ……」

 

 喜んでないで助けてほしいんだが……。

 

「美渡姉っ、比企谷さんが困ってるでしょ!いい加減離れてっ」

「はいはい。それじゃ、私は仕事に行ってくるから。比企谷君と……」

「妹の小町です!よろしくお願いしま~す」

「小町ちゃんね。よし、覚えた!じゃ、行ってきま~す」

「いってらっしゃ~い」

「いってらっしゃ~い♪」

 

 小町に見送られ、あっという間に高海次女は去っていった。相変わらず賑やかな人だ。

 肩にわずかに残る感触にまだどぎまぎしていると、高海から視線を感じた。

 

「…………」

「どした?」

「顔赤いですよ」

 

 心なしかジト目で見られてる気がするんだが……いや、俺から抱きついたわけじゃないからね?

 そうこうしているうちに、注文したモーニングが運ばれてきた。

 俺達は、旅館の窓から見える海を眺めながら、あっという間に朝食を平らげた。

 休日の朝に気づいたこと。

 十千万のモーニングは美味しい。

 高海次女は着痩せするタイプである。

 朝起きて後輩女子が家にいたら、やっぱり驚く。そして、少しだけときめく。

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