捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編 作:ローリング・ビートル
日曜日。
翌日からの学校生活に備えるべく、しっかりと睡眠を取ろうと思っていたのだが、予定よりだいぶ早い時間に起きてしまった。しかも、やたら寝起きがすっきりしていて、二度寝できそうもないのが残念極まりない。
仕方ないので部屋を出て、リビングまで行くと、人の気配がした。
「あっ、おはよ~お兄ちゃん」
「おはようございます、比企谷さん!」
「ああ、おはよう……」
ソファーには小町と高海が並んで座って、楽しげに笑顔を向けてきた……は?
念のため目をこすり、何度かまばたきしてから、もう一度確認してみる。
「…………」
間違いない。そこにいるのは、浦の星女学院2年・高海千歌だ。浦の星の制服を着用しているし、朝からやたらテンション高そうな笑顔を見せている。
彼女は不思議そうに首を傾げた。
「どうかしました?」
「……それはこっちのセリフなんだけど。なんでお前が朝からいんの?小町をスクールアイドルに勧誘しに来たのか?」
「小町ちゃんには断られてるんですよ~。もう生徒会のお手伝いをしているらしくて」
なるほど、小町に目をつけるとは見る目があるようだ。
まあ、お前にはやらんがな。
「お兄ちゃん、なんかアホなこと考えてる顔してるよ?自重して」
「ぐっ……ていうか、それなら何で朝からウチに?」
「いい歌詞が思い浮かばなくて、砂浜を歩いてたら、偶然小町ちゃんに会ったんで。それでお呼ばれして。もしかしてうるさかったですか?」
「いや、全然。それじゃあ俺はもうひと眠り……」
「はいはい。何バカな事言ってんの、お兄ちゃん。せっかく千歌さんが来てるんだから、さっさと顔洗ってきて」
どうやら二度寝はできないらしい。
諦めの溜め息を吐きながら、俺は洗面所へと向かった。
*******
比企谷さん、すごい眠そうだったなぁ。遅くまで何してたんだろ?勉強かなぁ?受験生だし。
そこで私は、一つのある事実に気づいた。
そういえば、男の子がいる家に上がるのって、小学生以来だなぁ。中学からは曜ちゃんや、むっちゃん達とばかり遊んでたし。
今日は小町ちゃんに誘われて来たけど、なんだか少しだけ緊張しちゃうかも。
「千歌さん、ごめんなさい~。お見苦しい兄をお見せして。休日はいっつもこうなんです」
「あっ、ううん。大丈夫だよ。私が朝早くからお邪魔しちゃっただけだし」
それに、何だか貴重なものを見た気分だし……。
比企谷さんは欠伸をしながら、のろのろとリビングに戻ってきた。
「よしっ、じゃあ行こっか」
「……行くってどこに?」
「せっかくだし3人で朝御飯食べに行こうよ!軍資金ならさっきお母さんが出かける前にくれたから」
「えっ?わ、私もいいの?」
「あっ、もしかしてもう朝御飯食べちゃってました?」
「まだだよ。でも、なんか悪いよ……」
さすがに申し訳ないと思っていたら、小町ちゃんが切なそうな目を向けてきた。
「お願いします!毎日兄と二人きりの朝食はもうしんどいんです……!味の感想聞いても無愛想に「美味い」って言うだけだし、会話しようとしても「ああ」とか「うん」だけで、会話にならないし!小町はいつも寂しいんです!」
「あはは……わ、わかったよ。うん」
なんだか熟年夫婦みたい。比企谷さんは「なんかごめんね?」と呟いていた。確かにあんまり喋らなそうだなぁ、ウチのお父さんみたい。
例えば、私と比企谷さんが二人で食事してたら……って、何考えてるの、私!?
「千歌さん?」
「あわわっ、な、何かな?」
「千歌さん、この辺りにオススメの場所ありますか?」
「この辺かぁ……あっ、そうだ!」
*******
そこは家から割と近い場所にあった。
「いらっしゃいませ~……って千歌ちゃん?そっちの玄関は使っちゃダメって言ってるでしょ?」
「ふふん、今日はお客さんをつれてきたんだよ!」
「お客さん?あら、比企谷君じゃない。そっちの女の子は、もしかして妹さん?」
「比企谷小町といいます。兄がいつもお世話になってます」
「いや、この前会ったばかりなんだけど……」
「あら、可愛らしい妹さんね。ふふっ、千歌ちゃんの姉の志摩です。よろしくね」
「ふむふむ、意外と内浦にもお姉ちゃん候補がいる……よろしくお願いしま~す♪」
挨拶の前になんかブツブツ言ってたけど、それに関してはツッコまないでおこう。
「じゃあ志摩姉、モーニング三人分お願い!」
「はいはい。ちょっと待っててね」
優しい微笑みを残し、高海長女は厨房に引っ込んだ。
「おっはよ~!」
「っ!?」
いきなり背後から何かが覆い被さる感覚。
聞き覚えのある声が、その正体を教えてくれた。
「み、美渡姉!いきなり出てこないでよ、びっくりするじゃん!」
「さっきからいたけどアンタ達が気づかなかっただけでしょー。それよか、朝からどったの?」
「朝飯食いに来たんですよ。ていうか、その……」
さっきから背中に柔らかいものが当たってるんですが、少しくらい気にしたほうがいいんじゃないですかねえ、思春期男子のメンタルのためにも!
「へえ、照れるとか可愛いとこあんじゃん。あっ、もしかして惚れた?」
「いや、別に」
「即答!?こいつめ!うりゃうりゃ!」
「っ!」
そのまま首を絞められるが、首より背中の方が気になって仕方がない。
「あわわわ……さらにお姉ちゃん候補が!小町は嬉しいよ……」
喜んでないで助けてほしいんだが……。
「美渡姉っ、比企谷さんが困ってるでしょ!いい加減離れてっ」
「はいはい。それじゃ、私は仕事に行ってくるから。比企谷君と……」
「妹の小町です!よろしくお願いしま~す」
「小町ちゃんね。よし、覚えた!じゃ、行ってきま~す」
「いってらっしゃ~い」
「いってらっしゃ~い♪」
小町に見送られ、あっという間に高海次女は去っていった。相変わらず賑やかな人だ。
肩にわずかに残る感触にまだどぎまぎしていると、高海から視線を感じた。
「…………」
「どした?」
「顔赤いですよ」
心なしかジト目で見られてる気がするんだが……いや、俺から抱きついたわけじゃないからね?
そうこうしているうちに、注文したモーニングが運ばれてきた。
俺達は、旅館の窓から見える海を眺めながら、あっという間に朝食を平らげた。
休日の朝に気づいたこと。
十千万のモーニングは美味しい。
高海次女は着痩せするタイプである。
朝起きて後輩女子が家にいたら、やっぱり驚く。そして、少しだけときめく。