捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編 作:ローリング・ビートル
休日の朝。ひっそりと静まり返った町の中を、たまに通り過ぎる車の音や、鳥の鳴き声が微かに空気を揺らす穏やかな時間。俺は、ここに来てから日課になりつつある朝の砂浜でぼーっとする時間を堪能しようとしたその時……
「あー、いたー!!」
「…………」
誰かの呼ぶ声が静寂を切り裂いた。
もちろん返事はしない。ただのしかばねのように。
「無視すんな、比企谷はちまーん!!」
「……はあ」
大声で呼ぶんじゃねえよと思いながら振り向くと、高海次女がものすごい勢いで駆け寄ってきた。
「よっしゃ、かくほー!」
「…………」
うわぁ……嫌な予感しかしねえ。しかも傍に高海長女がスタンバってるし、これは逃げるの難しそうですね。てか逃がす気ないよね。
休日の穏やかさを雲散霧消させながら、二人はずいっと迫ってきた。
「あのー、比企谷くぅん。お姉さん達、ちょっとお願いがあるんだけど~」
「今から時間ある~?」
そう言いながら、するりと腕を絡ませてくる高海姉妹(三女抜き)。控えめな柔らかさと意外と豊満な柔らかさ、爽やかな香りと甘い香りが、クロスオーバーコンボで脳を刺激してくるが……。
だが断る!
「すいません。手伝いのはやまやまだし何なら今すぐ手伝いたい気分なんですが今から大事な用があるので失礼しますごめんなさい」
いろはすじみた断り方をして立ち去ろうとすると、肩をがしっと掴まれた。
「大丈夫。お姉さん達は知ってるから。比企谷君が朝、そこの砂浜で物思いに耽っていること」
「……は?」
「いや、ほら……そこの砂浜って、私や千歌の部屋から丸見えだから。それで比企谷君が休日の朝はそこでぼーっとしてるのを見てたわけよ」
「…………」
何それ恥ずかしい……俺、変な事してないよな……。
「それで、声かけようとしたら、比企谷君、意外と大きな声で歌ってたから……」
「……それ、本当ですか?」
だとしたらかなり恥ずかしい。いや、歌ってはいなかったと思うんだが……これが思春期解放したようなオリジナルソングだったら恥ずかしすぎる。八幡、穴掘って埋まります!
「ま、それはさておき……とにかくここにいるってことはヒマなんでしょ?手伝ってよ、ね?ほらほら、手伝ってくれたら、あとでほっぺにチューくらいしてあげるから」
「いや、いらないんで」
「即答!?」
「いや、まあ手伝うのは別に構わないんですけど、高海はどうしたんですか?」
「私、高海だけど」
「私も高海よ~」
「…………」
うわ、めんどくせえ……とはいえ、たしかに名字だけではわかりづらいだろう。今のは確信犯だろうけど。
「あー……高海千歌さんに思いきり手伝わせればいいんじゃないですかね……」
「千歌に興味津々みたい」
「フルネーム呼びで逃げたわね」
「…………」
さらにめんどくせえ…。
「千歌ちゃんはスクールアイドルの練習があって、朝早くから出てるの」
「ああ、なるほど」
「千歌に会いたかった?」
「いや、そういうんじゃなくて……てか、何かやるなら、さっさと終わらせたほうがいいんじゃないですか?」
「えっ?本当に手伝ってくれるの?」
「……少しだけなら」
こうして未来の休日出勤に備えているあたり、奉仕部で鍛えられた社畜力の高さを改めて思い知るのであった。
……それと、色々気になるんで、そろそろ離れてほしい。
*******
休日の朝練。
私達は、朝からジョギングに励んでいた。最近、少しずつだけど、体力はついてきてる。でもまだ頑張らないと!
そして、私の家の旅館の近くまで来た時、砂浜に見覚えのある人達がいた。
あれ?お姉ちゃん達……と比企谷さんだ。なんで朝から一緒にいるんだろ……ていうか、なんであんなくっついてるんだろ?
「千歌ちゃん、どうしたの?」
「え?あ、何でもない!」
……何だろ、こう、胸の辺りがモヤモヤしたような……朝ごはん食べ過ぎたかな。
*******
高海家……というか十千万旅館は、ちらほら客の姿があり、従業員が忙しなく動いていた。
その様子を横目に、俺はてくてくと高海姉妹の後をついていった。
「それで……何をすれば」
「ああ、倉庫整理なんだけどね?まあ、けっこう力仕事あるから、男手が欲しかったのよ。でもお父さん達は忙しくて……」
「…………」
それならもっと適任がいたのではなかろうか。
力仕事あんま得意でもないんだが……。
とはいえ、一度引き受けた以上、このまま回れ右して帰るわけにもいかない……ああ、帰りてえ。
「どうしたどうした?始める前から「ああ、帰りてえ」みたいな顔して」
高海次女は察しがいいようだ。あまり表情にでないように善処しよう。
「はい、これ」
高海長女からマスクを渡され、俺はそっと溜め息を吐き、倉庫へと足を踏み入れた。
*******
年上のお姉さん二人から薄暗い倉庫に連れ込まれるという考えようによっちゃアレなシチュエーションだが、実際はただの雑用をこなすこと約一時間。
高海次女が、「あっ」と何か思い出したように、ぽんと手を叩く。
目を向けると、何か企んでいるような笑顔がこちらを向いていた。
「そういやさ、比企谷君……」
「……はい」
「千歌の胸の話この前したじゃん?多分あれは83くらいだね」
「っ!」
あ、危ねえ……、マジで落としそうになったってばよ……。
「驚かさないでくださいよ……てかいきなりなんですか、その情報……」
「いやぁ、手伝ってくれてる比企谷君に、有益な情報をと思って」
使い道がこない情報を渡されても困るんですが……。
すると、今度は高海長女が耳元でぽそぽそと囁いてきた。てか近い近いいい匂い柔らかい近い!
「実はね……千歌ちゃんはみかんが好きよ」
「……そ、そうですか」
だから何故それを俺に……あと勿体ぶった割に案外普通じゃねえか。
そもそも、何故この二人は俺に妹の情報を流すのだろうか……とはいえ、せっかくもらった情報を捨てるのも勿体ないし?てか無理だし?一応復唱しておこう。
……高海千歌はみかんが好き。あと……83センチくらい。