捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編   作:ローリング・ビートル

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明日への扉 #16

 帰り道、海側からの優しい風を目を細め、穏やかな陽射しを浴びていると、それだけで勉強疲れが癒されていく。

 すると、どこかから女子達の賑やかな話し声が聞こえてくる。

 ていうか、何人かは聞き覚えのある声だ。

 砂浜の方から聞こえてきたので、ちらりと視線を落とすと、普段とは違うテイストの衣装を着たAqoursがいた。

 さらに、高海と目が合う。

 さりげなく逃げようとしたが、どうやら手遅れだったようで、彼女はこちらに向かって、ぶんぶん手を振っていた。

 

「比企谷さーん!おーい!」

 

 いや、そんな大声で名前呼ばなくても聞こえてるから。

 とりあえず軽く手を挙げ、その場を去ろうとすると、今度は手招きをしてきた。

 ……大丈夫。俺は気づいてない。

 

「おーい、比企谷さーん!聞こえてますよねー!こっちこっちー!」

「…………」

 

 どうやら逃げられないらしい。

 仕方なしに砂浜に続く階段を降りていくと、高海の傍にいた渡辺と、その隣にいる桜内が数秒間ジト目を向けてきた。何でだよ。さらに……

 

「あ、あの方は!我が主……サタン!」

 

 見覚えのない女の子から何故か魔王扱いされた。だから何でだよ。

 とはいえ、ツッコんでたらキリがないので、俺は高海に話しかけた。

 

「それで……なんか用か?」

「はいっ、実は……これで私達を撮影して欲しくて」

 

 そう言って、高海はカメラを差し出してきた。

 

「……まあ、それぐらいなら構わんけど」

「やった♪ありがとうございます!今、新メンバー候補の子がいまして、さらにイメージチェンジして、堕天使を取り入れてるんですよ」

「ほーん、そりゃ大胆なイメージチェンジだな。なんかイロモノっぽいけど」

 

 不意に千葉にいる中二病を思い出してしまう。まあ、あいつは今も特に変わらんだろ。てか、いきなり頭の中に出てくんな、うざい。

 材木座の姿を振り払い、高海から受け取ったカメラを構えると、センターにいる黒髪の新メンバーの女子は、あわあわと慌てだした。

 

「あわわわ……マ、マスターが私を見つめて……い、いけないわ!そのような熱い眼差しで見つめられたら……!」

 

 呼び方がサタンからマスターに変わっているんだが……ちなみにどちらも嫌だ。恥ずかしすぎる。

 

「……比企谷さん、善子ちゃんに何かしたんですか?」

「いや、してねえよ……」

「むむっ、怪しい……」

 

 そんなジト~っと見られても、思い当たる節などないから勘弁して欲しい。

 結局、堕天使さんが落ち着くのを待ってたら、映像を撮るのに、一時間くらいかかってしまった。

 

 *******

 

 二日後。

 

「え?叱られた?」

「はい……生徒会長から、本当にファンを獲得したいなら、もっとしっかり考えろって」

 

 帰り道、ばったり出くわした高海から、先日の動画の反応を聞くと、どうやら黒澤姉の反応はイマイチだったらしい。

 加えて、イメージチェンジで起こった反響も、半日も経てば完全に萎んでしまったようだ。おそらく物珍しさだけに釣られたのだろう。

 

「はあ……やっぱり難しいですね。個性を出すのって」

「……別に、いつも出てるからいいんじゃね?」

「え?」

 

 ぽつりと呟いた一言に、高海が意外なくらい反応した。

 こちらも黙るわけにはいかなくなり、じっとこちらを見つめる視線に気恥ずかしさを覚えながら、思いつくままに言葉を並べた。

 

「まあ、その、なんつーか……初めて3人の時のライブ見た時、それぞれ個性的だったというか……別に奇を衒わなくても、そのままのAqoursが観れれば楽しい、と思う」

「…………」

 

 高海は先程と変わらず、くりくりした瞳をこちらに向けていた。せめて何か言って欲しいんだが……気まずいし、恥ずかしいし。

 

「ありがとうございます!」

「うおっ、びっくりしたぁ……」

 

 いきなりの大声に、つい後退りしてしまう。

 だが、彼女はそれにも構わず、こちらに笑顔を向けていた。

 

「そうですよね!私達は私達らしくやればいい!きっと善子ちゃんだって……!」

 

 そう言って、高海は俺の両手を握りしめた。え、何?イミワカンナイ……あと顔近い。

 

「比企谷さん、本当にありがとうございます!私、行ってきますね!」

「お、おう、よくわからんけど、気をつけてな」

 

 そう言って駆け出した彼女の背中は、照らす夕陽のせいか、いつもより輝いて見えた

 

 *******

 

 私はAqoursのメンバーをすぐに集め、思っていることを全て話した。

 

「それで……善子ちゃんに、善子ちゃんのままAqoursに来て欲しい」

 

 私が言い終えると、皆は笑顔で頷いてくれた。

 

「いいと思うっ」

「じゃあ、明日善子ちゃんに会いに行かなきゃね」

「うゆっ」

「マル達はマル達らしく、ずら」

「皆、ありがとうっ!話してよかったよ~」

「ところで千歌ちゃん。なんか顔赤いよ?もしかして、具合悪い、とか?」

「そうね、たしかに……」

 

 二人から言われて、頬に手を当ててみると、普段よりほんのり温かかった。

 

「あれ?どうしたんだろ?別に元気なんだけど……」

 

 顔をぺたぺた触っているうちに、さっき勢いで比企谷さんの手を握ったことを思い出した。

 ……比企谷さんの手、意外とおっきかったなぁ。

 

「千歌ちゃん?」

「な、なんでもない、なんでもないよ!さ、明日は早いから、今日はもう解散!」 

 

 

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