捻くれた少年と海色に輝く少女達 CYaRon編 作:ローリング・ビートル
帰り道、海側からの優しい風を目を細め、穏やかな陽射しを浴びていると、それだけで勉強疲れが癒されていく。
すると、どこかから女子達の賑やかな話し声が聞こえてくる。
ていうか、何人かは聞き覚えのある声だ。
砂浜の方から聞こえてきたので、ちらりと視線を落とすと、普段とは違うテイストの衣装を着たAqoursがいた。
さらに、高海と目が合う。
さりげなく逃げようとしたが、どうやら手遅れだったようで、彼女はこちらに向かって、ぶんぶん手を振っていた。
「比企谷さーん!おーい!」
いや、そんな大声で名前呼ばなくても聞こえてるから。
とりあえず軽く手を挙げ、その場を去ろうとすると、今度は手招きをしてきた。
……大丈夫。俺は気づいてない。
「おーい、比企谷さーん!聞こえてますよねー!こっちこっちー!」
「…………」
どうやら逃げられないらしい。
仕方なしに砂浜に続く階段を降りていくと、高海の傍にいた渡辺と、その隣にいる桜内が数秒間ジト目を向けてきた。何でだよ。さらに……
「あ、あの方は!我が主……サタン!」
見覚えのない女の子から何故か魔王扱いされた。だから何でだよ。
とはいえ、ツッコんでたらキリがないので、俺は高海に話しかけた。
「それで……なんか用か?」
「はいっ、実は……これで私達を撮影して欲しくて」
そう言って、高海はカメラを差し出してきた。
「……まあ、それぐらいなら構わんけど」
「やった♪ありがとうございます!今、新メンバー候補の子がいまして、さらにイメージチェンジして、堕天使を取り入れてるんですよ」
「ほーん、そりゃ大胆なイメージチェンジだな。なんかイロモノっぽいけど」
不意に千葉にいる中二病を思い出してしまう。まあ、あいつは今も特に変わらんだろ。てか、いきなり頭の中に出てくんな、うざい。
材木座の姿を振り払い、高海から受け取ったカメラを構えると、センターにいる黒髪の新メンバーの女子は、あわあわと慌てだした。
「あわわわ……マ、マスターが私を見つめて……い、いけないわ!そのような熱い眼差しで見つめられたら……!」
呼び方がサタンからマスターに変わっているんだが……ちなみにどちらも嫌だ。恥ずかしすぎる。
「……比企谷さん、善子ちゃんに何かしたんですか?」
「いや、してねえよ……」
「むむっ、怪しい……」
そんなジト~っと見られても、思い当たる節などないから勘弁して欲しい。
結局、堕天使さんが落ち着くのを待ってたら、映像を撮るのに、一時間くらいかかってしまった。
*******
二日後。
「え?叱られた?」
「はい……生徒会長から、本当にファンを獲得したいなら、もっとしっかり考えろって」
帰り道、ばったり出くわした高海から、先日の動画の反応を聞くと、どうやら黒澤姉の反応はイマイチだったらしい。
加えて、イメージチェンジで起こった反響も、半日も経てば完全に萎んでしまったようだ。おそらく物珍しさだけに釣られたのだろう。
「はあ……やっぱり難しいですね。個性を出すのって」
「……別に、いつも出てるからいいんじゃね?」
「え?」
ぽつりと呟いた一言に、高海が意外なくらい反応した。
こちらも黙るわけにはいかなくなり、じっとこちらを見つめる視線に気恥ずかしさを覚えながら、思いつくままに言葉を並べた。
「まあ、その、なんつーか……初めて3人の時のライブ見た時、それぞれ個性的だったというか……別に奇を衒わなくても、そのままのAqoursが観れれば楽しい、と思う」
「…………」
高海は先程と変わらず、くりくりした瞳をこちらに向けていた。せめて何か言って欲しいんだが……気まずいし、恥ずかしいし。
「ありがとうございます!」
「うおっ、びっくりしたぁ……」
いきなりの大声に、つい後退りしてしまう。
だが、彼女はそれにも構わず、こちらに笑顔を向けていた。
「そうですよね!私達は私達らしくやればいい!きっと善子ちゃんだって……!」
そう言って、高海は俺の両手を握りしめた。え、何?イミワカンナイ……あと顔近い。
「比企谷さん、本当にありがとうございます!私、行ってきますね!」
「お、おう、よくわからんけど、気をつけてな」
そう言って駆け出した彼女の背中は、照らす夕陽のせいか、いつもより輝いて見えた
*******
私はAqoursのメンバーをすぐに集め、思っていることを全て話した。
「それで……善子ちゃんに、善子ちゃんのままAqoursに来て欲しい」
私が言い終えると、皆は笑顔で頷いてくれた。
「いいと思うっ」
「じゃあ、明日善子ちゃんに会いに行かなきゃね」
「うゆっ」
「マル達はマル達らしく、ずら」
「皆、ありがとうっ!話してよかったよ~」
「ところで千歌ちゃん。なんか顔赤いよ?もしかして、具合悪い、とか?」
「そうね、たしかに……」
二人から言われて、頬に手を当ててみると、普段よりほんのり温かかった。
「あれ?どうしたんだろ?別に元気なんだけど……」
顔をぺたぺた触っているうちに、さっき勢いで比企谷さんの手を握ったことを思い出した。
……比企谷さんの手、意外とおっきかったなぁ。
「千歌ちゃん?」
「な、なんでもない、なんでもないよ!さ、明日は早いから、今日はもう解散!」